月夜の太陽 〜人と人ならざる者達の幻想曲〜
第62話 傷跡その2
傷の包帯をテキパキと交換していくアンナマリー。
「それにしても……」
「ん?なんか言ったか?」
「あ、いえ。私、ロキさんのお仕事の事はよくわかってないんですが、雑貨屋さんて、こんなに危険な仕事なのかなって。」
本来、ロキの仕事は雑貨や素材などを仕入れるという商人要素の高い仕事である。
「まあ…そう言われると、雑貨屋をらしい仕事を最近してないな。」
「別のお仕事もされているんですか?」
「雑貨屋だけだと身入りが少なくてね…。
遠方への配達、素材集め…時には今みたいに護衛なんかもするかな。」
「だから危険な事も請負われるんですか?
それなら、いっそのことオーネスト家で働いたら良いのでは?」
「……」
「ロキさんが望めば、カサンドラ様もイヤと仰いませんよ……多分。」
「……あいつは……雇わないよ。」
「???……まあ良いです。はい、包帯の交換、終わりましたよ。」
「ありがとう…」
包帯の交換が済み、ロキがガウンを羽織る。
アンナマリーは、ロキのその深い傷跡が見えなくなるのを横目で見ていた。
(きっと、何か大きな事があったんだろうな……。いけない、いけない、誰でも過去はあるんだから、詮索禁止!)
「そろそろ、雑貨屋の方が気になってきたな…」
話題が逸れた事で、アンナマリーはロキの言葉に安堵した。
「そう言えば、ロキさんの手先は器用だとカサンドラ様から聞きましたよ。」
「あいつが?」
「はい。先日のワイン店で……あ!」
「??」
突然何かを思い出したかのように、アンナマリーは、ロキを睨んできた。
「な、なに?」
「そう言えばロキさん!ロキさんが急に居なくなった時、ホントーーーに大変だったんですよ!」
ロキがラカサンドラに無断で、ラムズの仕事を請け負った際、カサンドラが酷く荒れたことを、アンナマリーが早口で捲し立ててくる。
「それでその時、ロキさんのことを話し始めて、最初は文句や愚痴なんかをおっしゃってましたけど、途中から急にシオらしくなられて、ロキさんの雑貨屋を始めた時のことや、手先の器用なところなどを話されて、まるで…」
ロキは得意げに話すアンナマリーの後ろから、赤く長い髪が逆立つかの如く、ゆらゆらと揺らしながら、ゆっくりと近づいてくる影を見上げていた。
「あれ?ロキさん、どうかしまし……はぐっ!!」
ロキの視線の方へ振り向いたアンナマリーは血の気が引くのを感じた。
「まるで?何かしら?」
「あ、あの、その!」
「アンナマリー……、それ以上何か口にする様なら、その可愛らしい口を縫ってしまうわよ。」
「ひ、ひぃーー!!ご、ごめんなさいカサンドラ様ーー!!」
(魔女だ…)
ロキは深く冷たい藍い視線を向けるカサンドラに、心の中で呟いていた。
「まったくあの子は……」
「……」
「何か言いたそうねロキ?」
「その……リーがオレのことを褒めるなんて珍しいなと…」
「!!、アンナマリーーー!」
カサンドラが振り返ると、アンナマリーは病室から逃げ出す様に走り去っていった。
「………」
「………」
お互いに何を言えばいいのか、しばし無言の会話が続く。
ふと、ロキはカサンドラの顔を見る。
余程恥ずかしいのか、顔を赤らめている彼女の表情は、普段の凛々しさや、冷静さで満たしたものではなく、幼い頃に見た少女の面影を感じさせた。
「……何?さっきから人の顔をジロジロ見て。」
そう言う彼女の言葉には、いつも刺々しさは無く、少しか弱く見えた。
「……すまない…」
ロキは頭を下げ、絞り出すかのような謝罪をカサンドラへ述べた。
少しして、ロキの手にそっと、彼女のか細い指が触れる。
ロキはカサンドラに視線を向ける。
「…………もう…、勝手に居なくならないで。」
彼女は俯向き、キラリと光る一筋が流れ、手のひらに落ちる。
それを見てロキは胸の奥が締め付けられるのを感じた。
(なんだこの感じ…、オレは…)
「私には……もう……」
「…………」
しばしの静寂。
窓から一筋の風が吹き、彼女の紅い髪が揺れる。
ロキは痛むもう片方の手を引出し、カサンドラの手に重ねる。
「ロキ?」
「アシュレイ…オレは…」
「大変です!!カサンドラ様!」
アンナマリーが大声を上げて、部屋にはいってくる。
「お楽しみの中、失礼します!」
その言葉にとっさに2人は手を引き距離を作る。
「な、何事なのアンナマリー!?」
「郊外でラムズ卿のご遺体が!」
「!?」
「!!」
アンナマリーの知らせは、ラムズがアルヘイム近郊の川で死体となって発見された、との急報であった。
「それにしても……」
「ん?なんか言ったか?」
「あ、いえ。私、ロキさんのお仕事の事はよくわかってないんですが、雑貨屋さんて、こんなに危険な仕事なのかなって。」
本来、ロキの仕事は雑貨や素材などを仕入れるという商人要素の高い仕事である。
「まあ…そう言われると、雑貨屋をらしい仕事を最近してないな。」
「別のお仕事もされているんですか?」
「雑貨屋だけだと身入りが少なくてね…。
遠方への配達、素材集め…時には今みたいに護衛なんかもするかな。」
「だから危険な事も請負われるんですか?
それなら、いっそのことオーネスト家で働いたら良いのでは?」
「……」
「ロキさんが望めば、カサンドラ様もイヤと仰いませんよ……多分。」
「……あいつは……雇わないよ。」
「???……まあ良いです。はい、包帯の交換、終わりましたよ。」
「ありがとう…」
包帯の交換が済み、ロキがガウンを羽織る。
アンナマリーは、ロキのその深い傷跡が見えなくなるのを横目で見ていた。
(きっと、何か大きな事があったんだろうな……。いけない、いけない、誰でも過去はあるんだから、詮索禁止!)
「そろそろ、雑貨屋の方が気になってきたな…」
話題が逸れた事で、アンナマリーはロキの言葉に安堵した。
「そう言えば、ロキさんの手先は器用だとカサンドラ様から聞きましたよ。」
「あいつが?」
「はい。先日のワイン店で……あ!」
「??」
突然何かを思い出したかのように、アンナマリーは、ロキを睨んできた。
「な、なに?」
「そう言えばロキさん!ロキさんが急に居なくなった時、ホントーーーに大変だったんですよ!」
ロキがラカサンドラに無断で、ラムズの仕事を請け負った際、カサンドラが酷く荒れたことを、アンナマリーが早口で捲し立ててくる。
「それでその時、ロキさんのことを話し始めて、最初は文句や愚痴なんかをおっしゃってましたけど、途中から急にシオらしくなられて、ロキさんの雑貨屋を始めた時のことや、手先の器用なところなどを話されて、まるで…」
ロキは得意げに話すアンナマリーの後ろから、赤く長い髪が逆立つかの如く、ゆらゆらと揺らしながら、ゆっくりと近づいてくる影を見上げていた。
「あれ?ロキさん、どうかしまし……はぐっ!!」
ロキの視線の方へ振り向いたアンナマリーは血の気が引くのを感じた。
「まるで?何かしら?」
「あ、あの、その!」
「アンナマリー……、それ以上何か口にする様なら、その可愛らしい口を縫ってしまうわよ。」
「ひ、ひぃーー!!ご、ごめんなさいカサンドラ様ーー!!」
(魔女だ…)
ロキは深く冷たい藍い視線を向けるカサンドラに、心の中で呟いていた。
「まったくあの子は……」
「……」
「何か言いたそうねロキ?」
「その……リーがオレのことを褒めるなんて珍しいなと…」
「!!、アンナマリーーー!」
カサンドラが振り返ると、アンナマリーは病室から逃げ出す様に走り去っていった。
「………」
「………」
お互いに何を言えばいいのか、しばし無言の会話が続く。
ふと、ロキはカサンドラの顔を見る。
余程恥ずかしいのか、顔を赤らめている彼女の表情は、普段の凛々しさや、冷静さで満たしたものではなく、幼い頃に見た少女の面影を感じさせた。
「……何?さっきから人の顔をジロジロ見て。」
そう言う彼女の言葉には、いつも刺々しさは無く、少しか弱く見えた。
「……すまない…」
ロキは頭を下げ、絞り出すかのような謝罪をカサンドラへ述べた。
少しして、ロキの手にそっと、彼女のか細い指が触れる。
ロキはカサンドラに視線を向ける。
「…………もう…、勝手に居なくならないで。」
彼女は俯向き、キラリと光る一筋が流れ、手のひらに落ちる。
それを見てロキは胸の奥が締め付けられるのを感じた。
(なんだこの感じ…、オレは…)
「私には……もう……」
「…………」
しばしの静寂。
窓から一筋の風が吹き、彼女の紅い髪が揺れる。
ロキは痛むもう片方の手を引出し、カサンドラの手に重ねる。
「ロキ?」
「アシュレイ…オレは…」
「大変です!!カサンドラ様!」
アンナマリーが大声を上げて、部屋にはいってくる。
「お楽しみの中、失礼します!」
その言葉にとっさに2人は手を引き距離を作る。
「な、何事なのアンナマリー!?」
「郊外でラムズ卿のご遺体が!」
「!?」
「!!」
アンナマリーの知らせは、ラムズがアルヘイム近郊の川で死体となって発見された、との急報であった。
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