月夜の太陽 〜人と人ならざる者達の幻想曲〜
第45話 夜の思い出 8
ロキは夢を見ていた。
幼い頃、まだ妹が母のお腹にいた頃。
母の寝床に潜り込み、眠れないロキに歌を歌ってくれたことを…
それは遥か昔のおとぎ話が歌となり、口伝として村の一族に受け継がれてきたもの。
蒼い大地を駆けて〜♩
あなたのもとへ〜♩
済んだ星空見上げ〜♩
あなたのもとへ〜♩ 
銀の御霊をその身に宿し〜♩
どうかおやすみ〜♩
目覚める日まで〜♩
どうかおやすみ〜♩
その時まで〜♩
母の優しい声が意識に溶けていく。
その歌の意味はわからないけれど、いつも歌を聴き終わる頃には眠りについていた。
母とロキがともに暮らした時の思い出が、儚い夢となり遠ざかる。
「母さん!」
甘く切ない夢から覚めたロキ。
目には一筋の涙の跡が残っていた。
「お母上の夢を見たのかい?」
いつのまにか、ロキの傍にはマグナスが本を片手に座っていた。
「……」
「ふむ…」
マグナスはパタリと本を閉じると、ロキに向き直った。
「君の…君が何故ここにいるのか話しておこう。」
横目でマグナスを見るロキ。
母との夢の余韻がまだ残る中、現実を聞かなければならないことに、ロキの胸は締め付けられた。
「君をここに運んだのは私だ。仕事の帰り道の途中、山の方で煙が上がっているのを見てね。最初は、山火事か何かと思ったが、近づいてみると沢山の人達が倒れていた。おそらく、野党か魔獣の仕業かと思うが……」
「違う!」
マグナスの言葉をロキは遮った。
「……どういうことだ?」
「あれは野党じゃない、魔獣でもない。
兵士だ、それも武器や鎧を身に付けた沢山の……そいつらが村のみんなを…父さんや母さんを…フェルを……、うう…」
目から涙が溢れてくる。
「そうか……だが兵士となると、君の村人は罪人なのか?」
「違う!俺たちは、月詠の民だ!罪人なんかじゃない!」
「月詠の民?」
「……そう、父さんが教えてくれた。月詠の民は、家族を誇りとして、力は一族のためにあるのだと。」
「誇り…力……、そうか……、君の、君達の一族は誇り高く、誠実な人達なのだろうね。」
マグナスはロキの頭を優しく撫でる。
その行為に、当初ロキは戸惑っていたが、不思議とすぐに落ち着いた。
「君の名前はなんというんだい?」
村での陰惨な出来事は、今でもロキの胸を締め付けるが、歳を重ねるにつれて、だんだんとその痛みも和らいできた。
マグナスとの初めての出会いのことをアンナマリーに話し終える頃には、ハーブティは冷めきっていた。
「それから俺は、マグナス様と一緒にお屋敷で働くことになったのさ…、て、おいおいアンナマリー、なんで泣いてるんだ?」
アンナマリーの方を見ると、彼女は涙と鼻水で顔をグシャグシャにしていた。
「えぐっ!ロ、ロキさんも、大変悲しい想いをされていたんですね。グスッ…」
ロキは半分呆れていたが、アンナマリーの持つ心の優しさは彼の胸の締め付けをほんの少し和らげた。
「でも、なんでお屋敷勤めをお辞めになったんですか?」
「………」
「ロキさん?」
「今夜はこのくらいにしておこう。また、機会があったら話すよ、アンナマリー。」
「…そう…ですね。すみません色々夜も遅いですし、私もそろそろ休ませて頂きますね。」
「……ロキで構わないよ。」
「そうですか、ロ、ロ、ロキ…さん。」
アンナマリーは、すこし恥ずかしそうにしていた。
「まあ、いきなりは難しいだろうし、徐々にで良いさ。」
「が、頑張ります…」
何を頑張るのかわからないロキだったが、拳を握るアンナマリーの姿が少し可愛く見えた。
「じゃあ…お休みマリー。」
そう呼ばれて、アンナマリーは少し頬を赤く染めた。
「はい、おやすみなさい……ロキ…さん。」
明るく優しい笑顔を見せたアンナマリーは、一礼すると部屋を後にした。
その笑顔が遠い夢の中の母と、ほんの少しだけ似ていた気がした。
 アンナマリーが退室すると、ロキは残ったハーブティをカップに注ぐ。
ロキは、窓の外の暗闇を見つめると、自然と拳をギュッと握っていた。
ハーブの残り香が、陰惨で悲しいことを思い起こさせる。
幼い頃、まだ妹が母のお腹にいた頃。
母の寝床に潜り込み、眠れないロキに歌を歌ってくれたことを…
それは遥か昔のおとぎ話が歌となり、口伝として村の一族に受け継がれてきたもの。
蒼い大地を駆けて〜♩
あなたのもとへ〜♩
済んだ星空見上げ〜♩
あなたのもとへ〜♩ 
銀の御霊をその身に宿し〜♩
どうかおやすみ〜♩
目覚める日まで〜♩
どうかおやすみ〜♩
その時まで〜♩
母の優しい声が意識に溶けていく。
その歌の意味はわからないけれど、いつも歌を聴き終わる頃には眠りについていた。
母とロキがともに暮らした時の思い出が、儚い夢となり遠ざかる。
「母さん!」
甘く切ない夢から覚めたロキ。
目には一筋の涙の跡が残っていた。
「お母上の夢を見たのかい?」
いつのまにか、ロキの傍にはマグナスが本を片手に座っていた。
「……」
「ふむ…」
マグナスはパタリと本を閉じると、ロキに向き直った。
「君の…君が何故ここにいるのか話しておこう。」
横目でマグナスを見るロキ。
母との夢の余韻がまだ残る中、現実を聞かなければならないことに、ロキの胸は締め付けられた。
「君をここに運んだのは私だ。仕事の帰り道の途中、山の方で煙が上がっているのを見てね。最初は、山火事か何かと思ったが、近づいてみると沢山の人達が倒れていた。おそらく、野党か魔獣の仕業かと思うが……」
「違う!」
マグナスの言葉をロキは遮った。
「……どういうことだ?」
「あれは野党じゃない、魔獣でもない。
兵士だ、それも武器や鎧を身に付けた沢山の……そいつらが村のみんなを…父さんや母さんを…フェルを……、うう…」
目から涙が溢れてくる。
「そうか……だが兵士となると、君の村人は罪人なのか?」
「違う!俺たちは、月詠の民だ!罪人なんかじゃない!」
「月詠の民?」
「……そう、父さんが教えてくれた。月詠の民は、家族を誇りとして、力は一族のためにあるのだと。」
「誇り…力……、そうか……、君の、君達の一族は誇り高く、誠実な人達なのだろうね。」
マグナスはロキの頭を優しく撫でる。
その行為に、当初ロキは戸惑っていたが、不思議とすぐに落ち着いた。
「君の名前はなんというんだい?」
村での陰惨な出来事は、今でもロキの胸を締め付けるが、歳を重ねるにつれて、だんだんとその痛みも和らいできた。
マグナスとの初めての出会いのことをアンナマリーに話し終える頃には、ハーブティは冷めきっていた。
「それから俺は、マグナス様と一緒にお屋敷で働くことになったのさ…、て、おいおいアンナマリー、なんで泣いてるんだ?」
アンナマリーの方を見ると、彼女は涙と鼻水で顔をグシャグシャにしていた。
「えぐっ!ロ、ロキさんも、大変悲しい想いをされていたんですね。グスッ…」
ロキは半分呆れていたが、アンナマリーの持つ心の優しさは彼の胸の締め付けをほんの少し和らげた。
「でも、なんでお屋敷勤めをお辞めになったんですか?」
「………」
「ロキさん?」
「今夜はこのくらいにしておこう。また、機会があったら話すよ、アンナマリー。」
「…そう…ですね。すみません色々夜も遅いですし、私もそろそろ休ませて頂きますね。」
「……ロキで構わないよ。」
「そうですか、ロ、ロ、ロキ…さん。」
アンナマリーは、すこし恥ずかしそうにしていた。
「まあ、いきなりは難しいだろうし、徐々にで良いさ。」
「が、頑張ります…」
何を頑張るのかわからないロキだったが、拳を握るアンナマリーの姿が少し可愛く見えた。
「じゃあ…お休みマリー。」
そう呼ばれて、アンナマリーは少し頬を赤く染めた。
「はい、おやすみなさい……ロキ…さん。」
明るく優しい笑顔を見せたアンナマリーは、一礼すると部屋を後にした。
その笑顔が遠い夢の中の母と、ほんの少しだけ似ていた気がした。
 アンナマリーが退室すると、ロキは残ったハーブティをカップに注ぐ。
ロキは、窓の外の暗闇を見つめると、自然と拳をギュッと握っていた。
ハーブの残り香が、陰惨で悲しいことを思い起こさせる。
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