月夜の太陽 〜人と人ならざる者達の幻想曲〜

古民家

第43話 夜の思い出 6


更に深まった夜の帳の中、カサンドラの過去の話を、ティファナはじっと聞いていた。

「…………」

「それから…どうなったのですか?」

しばらくの沈黙の後、カサンドラは小さくため息をつくと、目を静かに閉じてティファナに言った。

「……今夜はこのくらいにしておきましょう。明日は……もう少し……話して……」

静かに眠りにつくカサンドラを見て、ティファナは小さく「ごめんなさい」と呟き、ランプの火を落とした。
 
カサンドラ達が眠りについた同じ頃、隣の部屋ではロキが一人で起きていた。

ロキはカサンドラの提案で、今夜だけ寝ずの番をしてほしいと頼まれていた。

白い円テーブルの上で1枚の銀貨をクルクルと回しては止め、回しては止めを繰り返し1人暇を持て余していた。

トントン……カチャ

小さくノックがして、扉が開くとアンナマリーがティーセットを銀製のボード運んできた。

「ロキさん、大丈夫ですか?」

「ああ、まだ平気さ。それよりアンナマリーも休んだらどうだい?寝ずの番は俺だけで良い。」

「お気遣いありがとうございます。でも、もう少しだけ起きていようと思うので、お構いなく。」

アンナマリーは運んできたお茶をカップに注ぐと、ロキに差し出した。

「ありがとう。」

「どういたしまして。カサンドラ様が夜更けまでお仕事をされる際に、よくお飲みになるハーブティです。名前は……」
「ラビアンローズ…」

答えるより先に、ロキが答えを言い当てたことに、アンナマリーは少しびっくりした。

「驚きました。ロキさん、金細工以外にも薬草学にも詳しいんですね。」

「いや、このお茶はイリーナ様が……」

ロキはイリーナの名前を出すが、すぐに口籠った。

「確か、カサンドラ様のお母上様ですよね。メイド見習いの時に何度かお目にかかったことがありました……。でもどうして、ロキさんがイリーナ様のことを知っているんですか?」

「そういえば、まだ言ってなかったかな?俺は元々オーネスト家で働いていたんだよ。」

「ええ!そうなんですか!?」

ロキは口に人差し指を添えて、静かにのジェスチャーをした。

「ご、ごめんなさい。でも、驚きました。」

「もう、10年以上も前の話しだよ。」

アンナマリーは少し考える仕草をすると、改めてロキの方を見た。

「……もし、良かったらその時のこと聞いても良いですか?」

「………」

「ほら、寝ずの番の暇つぶしだと思って。」

明らかに強い好奇心を持つアンナマリーは、一人でワクワクしていた。

朝まではまだ時間がある。

一晩中、銀貨と戯れるもの気が滅入る。
ロキは半分諦めのため息をついた。

◇20年前◇

冬の寒さが和らぎ、草木から新しい芽が出て来る頃、山間にある人口は100人程の小さな村落でロキは家族と共に暮らしていた。

村一番の狩人の父と、美人で人気者の母、そして明るく聡明な妹の4人。

狩りの手伝いで、その技術や薬草の事などを父から…、母からは村の歴史や人としての在り方を、そして妹からは守ることの大切さを学んだ。

ロキは、この暮らしがずっと続くことが当たり前だと思っていた……あの夜が来るまでは。

その前日の昼間、父との狩が終わり、村に帰ってきた時に村中の人が長老の家に集まっていた。

街から来た貴族の大使と名乗る男と長老達に何かの話をしていたが、言い争う声が聞こえると、大使の男がみんなから追いやられるように村から出て行ったのを、ロキは小さいながら覚えていた。

次の日、長老が村の男達を集めると何かを相談していた。

父もその集会に出ており、帰って来ると母に子供達と一緒に、村のみんなと洞窟に避難するように言うと、再び出て行った。

洞窟に避難する途中、村の方を見るといくつも煙が上がっているのをロキはみた。

ロキは急に胸が締め付けられる感覚に襲われ、母が止めるのも聞かず1人村に戻った。

父から教わった沢を越え、近道をいくつも使い村へと急いだ。

それは地獄のようだった。
村に戻ると、家々は燃えて、至る所で沢山の人が倒れていた。

その中に父の姿を見つけ駆け寄ったが、胸に矢が刺さっており、既に息は無かった。

父の亡骸周りを見ると、ロキは青ざめすぐに立ち上がり元来た道を走り出した。

地面にはロキの小さな足跡以外に、無数の人と馬の蹄の跡があり、それが全て山の洞窟の方に続いていた。  

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