月夜の太陽 〜人と人ならざる者達の幻想曲〜

古民家

第37話 黒い悪意


国王の暗殺未遂については、瞬く間に城中を巡り、バラムはその場で取り押さえられ投獄された。

◆◇ティファナ姫の自室にて◇◆

部屋には、ティファナ、カサンドラ、そしてアンナマリーとセリがそれぞれの後ろに控えていた。

「ごめんなさい、ティファ。陛下を危険から守れなくて…」

ティファナは目を伏せたまま、首を横に振った。

「いいえ、あなたのせいでは無いわ。ましてや、お父様を刺したのは、交流のあるバラム侯爵本人。まさかあのような暴挙に出るなんて…」

カサンドラはお茶を一口。それから、カップに視線を落とし、ティファナに国王とバラム侯爵との関係を聞いた。

ティファナの話では、バラム侯爵家は古くから王族に使えてきた家系の一つであり、
意見の対立はあれど、暴挙に出るような短絡さはなかったとのこと。

「おそらくバラム侯爵は、尋問を受けていると思います。父上との因果関係などが分かるといいのですが…」

長い沈黙の中、時計の針がカチカチと音を立てている。

「………そういえば、ロキさんは?」

トントン、トントン…

カサンドラが答える前に扉をノックする音がし、セリがゆっくりと扉を開けるとロキが姿を見せた。

ロキはカサンドラの横に座ると、向かい側のティファナとカサンドラを交互に見て、自分が見聞きしたことを話し出した。


バラムは投獄されるとすぐに、尋問が開始された。

バラム自身も混乱している様子で、要領を得ない状態だったが、まとめると次のことがわかった。

なぜ国王刺したのかわからず、国王を目の前にした時に急に憎しみが溢れて、衝動的に国王を刺してしまった。

しかも、刺した凶器は短剣やナイフではなく万年筆であり、バラム家の家宝として代々受け継がれてきた大切なものだという。

「聞けば聞くほどおかしな話だわ。計画性もなく、衝動的に陛下を襲ったということはわかるけれど、でもどうして…」

「……」

「ロキ?」

ロキは、言葉を切ると硬い表情のまま、なにかを考えているようだった。

「バラムの持ち物の中に、黒い布があった。」

それを聞いて、カサンドラの表情も固くなった。

「ロキさん?カサンドラ?」

「ロキ、それって例の…」

ロキは頷き、事情のわからないティファナにシュトルゲンでの経緯を話し出した。

シュトルゲンの街で狂人に襲われた際、全身を黒い布で覆っていたことや、身につけた者の身体能力を飛躍的に上げる黒い布について、ロキもカサンドラも調べていることを話した。

「そんな…身につけたものを狂気に駆り立てるなんて、まるで呪いだわ。」

ティファナは父親に起こった不運が抗い難い事に歯痒さを感じていた。

「バラムが持っていたモノも同じものだとすると、恐らくはその呪いの影響で国王を刺したというわけか…」

「呪い…というか悪意にも感じられるわね。」

「どういう事だカサンドラ?」

ロキもティファナも、考え込むカサンドラの方を見た。

「呪物について詳しいというわけではないけれど、…シュトルゲンと今回のことは似ているようだけど、対象が全く違うわ。」

「と、いうと?」

「シュトルゲンではロキが、今回は陛下が狙われた。使われたのは恐らく同じ呪物だけど、明らかに目的が違う。」

「……オレは実験?」

「と、いうより偶然に近いかもね。そして今回こそが呪物を作った者の本当の狙いでしょうね。ティファ、黒い布は手に入れられるかしら?」

「どうかしら、取り調べが終わっても証拠物として保管されてしまうし、裁判にでもなったらさらに難しいと思う。」

ティファナは難しい顔をしながら、首を傾げた。

「拝借、するしかないわね。」

「盗むのか?」

「失礼ね。黙って借りると言って頂戴。」

「同じじゃないか!」
「違うわよ!」

ロキとカサンドラはお互いに睨み合いながら唸っていた。

それを見たティファナはクスクスと笑うと、少し悲しそうな顔をした。

「どうかしたティファ?」

「あ、いえ。仲の良いお二人を見てると、とても羨ましいと感じてしまって。」

「仲良くない!」
「仲良くない!」

声が重なり、さらにティファナはクスクスと笑った。

「………私も……そんな風に…話せたら…」

「え?何か言ったティファ?」 

「いいえ、なんでもないです。」

コン、コン、コン…

ドアを叩く音に、部屋の中にいた者全ての意識がそこへ集中した。

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