月夜の太陽 〜人と人ならざる者達の幻想曲〜
第35話 宴の中にて
「御機嫌よう、ラムズさん。あなたがここにいるということは、ご招待を受けてですか?」
先ほどと同じように、カサンドラは口元を扇子で隠しながら挨拶をした。
「ええ、私は宰相閣下よりご招待を受けておりましてね。オーネスト殿、宿屋ではあまりお話も出来ずに失礼いたしましたね。」
ラムズは蓄えた髭をワシワシと掴みながら、ニヤニヤと笑っていた。
ロキは、先日宿屋で会ったラムズの印象がだいぶ変わっているように感じた。
あの時はカサンドラに対して…いや貴族という人種に対しての嫌悪を持っていた感があった。
「商い人のあなたが、ここにいると言うことは、何か利事の要件があってのことでしょう。」
「はは、これは手厳しいですな。確かに商人である以上は、儲け話があれば何をおいても駆けつける所存ですが……」
ラムズは言葉を切り、含みのある笑顔を見せて続けた。
「今回は、私とモニカ様との縁談の話もありましてね。挨拶も兼ねて、こちらに参った次第ですよ。」
「モニカ……モニカ・コルドー侯爵…宰相閣下の娘だったかしら?」
「流石、紅い貴族…いや、ノルトンヘクセと呼ばれるだけはある。この国のあらゆることをご存知ですな。」
ラムズは、ニヤニヤと見下すような視線をカサンドラに向けると、彼女は少し目を伏せた。
ロキは、カサンドラの前に立ち、ラムズに冷たい視線を送る。
「ふん、ナイト気取りか小僧。お前のような下男がこのようなところにいること自体、そこの魔女殿の気品に……う!」
ロキの蒼い瞳から突き刺さる視線がラムズを威圧する。
「もう一度…」
ロキは静かにラムズへ言葉を告げた。
「な、何?」
「もう一度、彼女をその名で呼んでみろ。ここでその髭面をブン殴るぞ!」
 
「ひっ!!」
ロキの瞳に見据えられたラムズは、何か得体の知れない、大きな存在からの圧力を感じ2、3歩後ずさった。
「ロキ、もういいわ。」
カサンドラはロキの肩に手を添え、ラムズを睨むロキを制止した。
「ふ、ふん。まあ見ているがいい、もうすぐ私は誰よりも高いところへ行くのだから。」
そう言ってラムズは、足早にその場を去っていった。
「まったく…同じ商人の端くれとして、あんな態度でよくも商売ができるもんだ。」
 
「あら、ロキにしては珍しく気が立っているじゃない。あんな人の言う事なんか気にしなくてもいいのに。」
「…リーが…、傷付くのが許せなかっただけだ。」
「え!?」
 
「いや、その……ほら、あれだ。俺はカサンドラの護衛だろ、主人を守るのは当たり前だからな。」
「…あ、そう…」
少し残念そうにため息を吐くカサンドラ。
ロキも彼女の方を見ようとはせず、整えた髪をワシャワシャとしていた。
「でも、ありがとう…」
「ん?何か言ったか?」
ロキには聞こえない程の小さな声で、カサンドラはロキの気遣いに感謝した。
「ところで、今のラムズが言っていた宰相…コルドー侯爵だったか?一体どんなやつなんだ?」
「コルドー侯爵は……ほら、今しがたティルス王子に話しかけている人の事よ。」
カサンドラはティルスの側にいる男へ、軽く扇子を傾けた。
彼女の指す方にいるティルスの横には、長身で痩せ型の男が彼に何かを話していた。
「カサンドラ、少し離れるけど良いか?」
カサンドラが頷くと、ロキは彼女元を離れティルスとコルドーの方へ近寄っていった。
「さてと、私も行かないと…」
「どちらに行かれるのですか?」
不意に後ろから声をかけられ、カサンドラは後ろを振り返る。
そこには先程見かけたナイルズが立っていた。
「はじめまして、私は…」
「ナイルズ伯爵ですね。」
「おや?私をご存知とは、紅い髪の貴婦人に知っていただいていたとは、とても光栄です。」
ナイルズはニコニコしながらカサンドラの前に跪き、彼女の手の甲にキスをした。
「ありがとう。それにしても、今日はやけに、後ろから声をかけられるわ。」
ナイルズは少し驚いたように目をパチパチさせると、クスクスと笑った。
「何か面白いことでも?」
「ああ、これは失礼しました。ただ、貴方は、貴方の考える以上に、周りからは一目置かれているということですよ。」
「…まあ、魔女と呼ばれたり、若輩の癖に陛下の覚えが良いことをよく思っていない人にしてみればそうよね。」
それを聞いた、ナイルズは再びクスクスと笑った。
「貴方、さっきから失礼ね。」
「本当に申し訳ない。そのような噂は確かに聞いていますが、私が笑ったのはそういうことではないのです。」
ナイルズは軽く息を整えると、和かな笑顔をカサンドラに向けた。
「貴方は、貴方の考えている以上に、気品があり美しいということですよ。私の周りにも、貴方とお近づきになりたいと思っているものも数多くいます。」
いきなり美しいと言われ、内心カサンドラは驚いた。
普段、領主として努めてきたカサンドラに送られる言葉は、賞賛や妬みといったことが多く、1人の女性に贈られる言葉には慣れていなかった。
「あ、あなた私をからかってるの?」
「いえいえ、とんでもない。私は本心を口にしたにすぎません。もし、許されるのでしたら、我が屋敷にあなたをお迎えしたいと考えております。」
和かな笑顔のまま、カサンドラへの遠回しな告白を口にするナイルズ。
カサンドラは扇子で口元を隠しながら、ナイルズから視線を逸らした。
視線を逸らした先にロキの姿を見たカサンドラは、心の中で例えることのできないモヤモヤとした感情が巡っていた。
「どうかされましたか、オーネスト侯?」
「……いえ。少し驚いただけ。」
「いきなりで大変失礼いたしました。お返事は、またの機会で結構ですので、私はこれにて失礼致します。」
そういうとナイルズは、カサンドラの元を離れていった。
動揺した。
しかも、殆ど初対面の殿方に…
カサンドラの心中は、ナイルズが去った後でも穏やかではなかった。
改めてロキの方を見ると、ロキもカサンドラの方を見ていることに気付き、反射的にカサンドラは視線を反らせてしまった。
テンポの良い楽隊の音色の中、あちらこちらから笑い声が聞こえ、益々宴は盛り上がっていった。
先ほどと同じように、カサンドラは口元を扇子で隠しながら挨拶をした。
「ええ、私は宰相閣下よりご招待を受けておりましてね。オーネスト殿、宿屋ではあまりお話も出来ずに失礼いたしましたね。」
ラムズは蓄えた髭をワシワシと掴みながら、ニヤニヤと笑っていた。
ロキは、先日宿屋で会ったラムズの印象がだいぶ変わっているように感じた。
あの時はカサンドラに対して…いや貴族という人種に対しての嫌悪を持っていた感があった。
「商い人のあなたが、ここにいると言うことは、何か利事の要件があってのことでしょう。」
「はは、これは手厳しいですな。確かに商人である以上は、儲け話があれば何をおいても駆けつける所存ですが……」
ラムズは言葉を切り、含みのある笑顔を見せて続けた。
「今回は、私とモニカ様との縁談の話もありましてね。挨拶も兼ねて、こちらに参った次第ですよ。」
「モニカ……モニカ・コルドー侯爵…宰相閣下の娘だったかしら?」
「流石、紅い貴族…いや、ノルトンヘクセと呼ばれるだけはある。この国のあらゆることをご存知ですな。」
ラムズは、ニヤニヤと見下すような視線をカサンドラに向けると、彼女は少し目を伏せた。
ロキは、カサンドラの前に立ち、ラムズに冷たい視線を送る。
「ふん、ナイト気取りか小僧。お前のような下男がこのようなところにいること自体、そこの魔女殿の気品に……う!」
ロキの蒼い瞳から突き刺さる視線がラムズを威圧する。
「もう一度…」
ロキは静かにラムズへ言葉を告げた。
「な、何?」
「もう一度、彼女をその名で呼んでみろ。ここでその髭面をブン殴るぞ!」
 
「ひっ!!」
ロキの瞳に見据えられたラムズは、何か得体の知れない、大きな存在からの圧力を感じ2、3歩後ずさった。
「ロキ、もういいわ。」
カサンドラはロキの肩に手を添え、ラムズを睨むロキを制止した。
「ふ、ふん。まあ見ているがいい、もうすぐ私は誰よりも高いところへ行くのだから。」
そう言ってラムズは、足早にその場を去っていった。
「まったく…同じ商人の端くれとして、あんな態度でよくも商売ができるもんだ。」
 
「あら、ロキにしては珍しく気が立っているじゃない。あんな人の言う事なんか気にしなくてもいいのに。」
「…リーが…、傷付くのが許せなかっただけだ。」
「え!?」
 
「いや、その……ほら、あれだ。俺はカサンドラの護衛だろ、主人を守るのは当たり前だからな。」
「…あ、そう…」
少し残念そうにため息を吐くカサンドラ。
ロキも彼女の方を見ようとはせず、整えた髪をワシャワシャとしていた。
「でも、ありがとう…」
「ん?何か言ったか?」
ロキには聞こえない程の小さな声で、カサンドラはロキの気遣いに感謝した。
「ところで、今のラムズが言っていた宰相…コルドー侯爵だったか?一体どんなやつなんだ?」
「コルドー侯爵は……ほら、今しがたティルス王子に話しかけている人の事よ。」
カサンドラはティルスの側にいる男へ、軽く扇子を傾けた。
彼女の指す方にいるティルスの横には、長身で痩せ型の男が彼に何かを話していた。
「カサンドラ、少し離れるけど良いか?」
カサンドラが頷くと、ロキは彼女元を離れティルスとコルドーの方へ近寄っていった。
「さてと、私も行かないと…」
「どちらに行かれるのですか?」
不意に後ろから声をかけられ、カサンドラは後ろを振り返る。
そこには先程見かけたナイルズが立っていた。
「はじめまして、私は…」
「ナイルズ伯爵ですね。」
「おや?私をご存知とは、紅い髪の貴婦人に知っていただいていたとは、とても光栄です。」
ナイルズはニコニコしながらカサンドラの前に跪き、彼女の手の甲にキスをした。
「ありがとう。それにしても、今日はやけに、後ろから声をかけられるわ。」
ナイルズは少し驚いたように目をパチパチさせると、クスクスと笑った。
「何か面白いことでも?」
「ああ、これは失礼しました。ただ、貴方は、貴方の考える以上に、周りからは一目置かれているということですよ。」
「…まあ、魔女と呼ばれたり、若輩の癖に陛下の覚えが良いことをよく思っていない人にしてみればそうよね。」
それを聞いた、ナイルズは再びクスクスと笑った。
「貴方、さっきから失礼ね。」
「本当に申し訳ない。そのような噂は確かに聞いていますが、私が笑ったのはそういうことではないのです。」
ナイルズは軽く息を整えると、和かな笑顔をカサンドラに向けた。
「貴方は、貴方の考えている以上に、気品があり美しいということですよ。私の周りにも、貴方とお近づきになりたいと思っているものも数多くいます。」
いきなり美しいと言われ、内心カサンドラは驚いた。
普段、領主として努めてきたカサンドラに送られる言葉は、賞賛や妬みといったことが多く、1人の女性に贈られる言葉には慣れていなかった。
「あ、あなた私をからかってるの?」
「いえいえ、とんでもない。私は本心を口にしたにすぎません。もし、許されるのでしたら、我が屋敷にあなたをお迎えしたいと考えております。」
和かな笑顔のまま、カサンドラへの遠回しな告白を口にするナイルズ。
カサンドラは扇子で口元を隠しながら、ナイルズから視線を逸らした。
視線を逸らした先にロキの姿を見たカサンドラは、心の中で例えることのできないモヤモヤとした感情が巡っていた。
「どうかされましたか、オーネスト侯?」
「……いえ。少し驚いただけ。」
「いきなりで大変失礼いたしました。お返事は、またの機会で結構ですので、私はこれにて失礼致します。」
そういうとナイルズは、カサンドラの元を離れていった。
動揺した。
しかも、殆ど初対面の殿方に…
カサンドラの心中は、ナイルズが去った後でも穏やかではなかった。
改めてロキの方を見ると、ロキもカサンドラの方を見ていることに気付き、反射的にカサンドラは視線を反らせてしまった。
テンポの良い楽隊の音色の中、あちらこちらから笑い声が聞こえ、益々宴は盛り上がっていった。
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