月夜の太陽 〜人と人ならざる者達の幻想曲〜
第26話 兆しの訪問
降り続いた雪は、ノルトの街を覆い尽くし、大の大人の背丈ほども積もっていた。
この時期に沢山の雪が降ることは、珍しくなく毎年変わらない光景である。
ロキの店でも毎年変わらずの閑古鳥が鳴いている。ただ、昨年までと違うのは、店にロキ以外の店員がいるということだ。
リィズは、半ば押しかけのような形で、『ジャック・オ・ランタン』で働いている。
ロキは彼女が店で働き出した時は、どうなることかとヤキモキしていたが、リィズの持ち前の明るさや、テキパキと掃除や棚整理をしていくのを見て安堵した。
「マスター。1階の棚整理と掃除終わりましたよ。」
階下からリィズが、2階で制作作業をしているロキに呼びかけた。
「ああ、ありがとう。少し休憩にしよう。」
ロキは作業台から立ち上がると、ポットに水をいれようとした。
「ああ!ダメダメ!お茶なら私が入れます。マスターは、座ってて!」
そう言うとリィズはロキからポットを取り上げた。
「なあ、そのマスターっていうの、辞めないか?」
「だって、好きに呼べっていったのマスターですよ。それに、父さんから店の主人には敬意を持て!って言われてるし。」
リィズはカップにお茶を注ぎ、ロキの前に差し出すと、テーブルを挟んでロキの正面の席に座った。
「まあ、確かにそうは言ったけど…」
「どうしてもイヤなら変えますけど、『ご主人様』とか?」
「マスターで良いです……」
「それにしても、今日もお客さん来ませんね。やっぱりこう寒いと脚が重いかな?」
「まあ、客が来ない間に、制作作業が進むからそれで良いんだよ。」
朝から昼にかけては、ロキは制作作業、リィズは1階の整理と掃除が日課になっていた。
コン、コン、コン……
ドアを叩く音が店に響く。
「あ!お客さんかな?ちょっと出てきます。」
 
リィズは席を立ち上がり、軽快に階段を降りって行った。
ロキは、テーブルの上野空いたカップを片付けて、作業に戻ろうとした。
「マスター!」
 
「どうしたリィズ!?」
階下からリィズの困惑した声が聞こえ、ロキはすぐに階段を駆け下りた。
ロキが1階に降りると、リィズの前に見覚えのある初老の男性が立っていた。
「こちらの…男の人がロキさんに御用だとか。」
「オットーさん。」
「ご無沙汰しております、ロキ様。ご盛況なことで、何よりでございます。」
立っていたのは、オーネスト家の執事として、先代の当主の頃より勤めているオットーだった。
「あのマスター。こちらの方は?」
「大変失礼致しました。私、オーネスト家に仕えております、マリス・オットーと申します。」
オットーは、右手を胸に当て軽く会釈をした。
「オ、オーネスト家って、ノルトのご領主様じゃないですか!?」
オーネストの名前を聞いて、リィズはゆっくりとロキの後ろに後ずさり、ロキの背中に隠れるような形になった。
「お、おいリィズ。」
「大丈夫ですよ、お嬢さん。私はただの使用人ですので、ご心配なく。」
「こ、こちらこそ失礼しました。私は、リィズと言います。」
ロキの背中から出てきたリィズは、慌てて姿勢を正し返礼をした。
「それでオットーさん。今日は何の用です?」
「それに着いては、例によってご当主様とお話し頂ければ幸いです。」
ロキは少し考えてオットーに返答した。
「また、あの屋敷にいくのか?悪いんだが、また別の機会にしてくれないか?」
「な、何を言ってるんですマスター!?オーネスト様ですよ!ご領主!この街で1番偉い方ですよ!」
リィズが慌ててロキに意見するところを見たオットーは、少し微笑んで改めてロキに向き直った。
「そうおっしゃるとのことで、今回はこちらから参りました。」
「なに?」
「え?」
店のドアが再び開くと、女性がひとり入ってきた。
薄茶色のドレスに身を包み、印象深い長く艶のある紅い髪と深い藍色の瞳、色白の肌にアクセントにもなる赤い唇は少し微笑みを浮かべていた。
「お邪魔するわね、ロキ。」
「邪魔するなら、来なきゃいいんだよ。」
カサンドラは、ロキの言葉にキョトンとすると、クスクスと笑った。
「相変わらずあなたは、面白い言葉の捉え方をするのね。……あら?あなたは?」
カサンドラは、ロキの後ろの方で立ち尽くしているリィズわわ初めて見ると目を細めた。
「わ、私ですか!?」
「ご当主様、こちらはロキ様のお店でお勤めされておりますリィズ様とおっしゃいます。リィズ様、こちらは……」
「カサンドラ=オーネストよ。そう、リィズというの、こんなあばら家で働かされているなんて大変ね。あなた私の屋敷で働かない?」  
「え!?そんな、私なんて無理です!」
「おい、あんまりウチのリィズをいじめるなよ。」
「ウチの……?まあいいわ。いじめるなんて心外だわ。…でも、年下が好みだったなんて意外。」
「……冷やかしなら、もう話はしないぞ。」
冷めた視線でカサンドラを見るロキと、それに対しても微笑みを崩さないカサンドラ。
2人のやり取りを見ていて、リィズだけがオロオロしていた。
「マスタ〜。り、領主様ですよ〜。」
リィズが、後ろから小声でロキに話しかける。
「はあ……。とりあえず、中で話そう。」
ロキはカサンドラたちを店内に招き入れた。
ロキは、カサンドラが訪問してきたことに、言い切れない一抹の不安を感じていた。
多分、それは当たってるだろうと、内心自分にいいきかせていた。
この時期に沢山の雪が降ることは、珍しくなく毎年変わらない光景である。
ロキの店でも毎年変わらずの閑古鳥が鳴いている。ただ、昨年までと違うのは、店にロキ以外の店員がいるということだ。
リィズは、半ば押しかけのような形で、『ジャック・オ・ランタン』で働いている。
ロキは彼女が店で働き出した時は、どうなることかとヤキモキしていたが、リィズの持ち前の明るさや、テキパキと掃除や棚整理をしていくのを見て安堵した。
「マスター。1階の棚整理と掃除終わりましたよ。」
階下からリィズが、2階で制作作業をしているロキに呼びかけた。
「ああ、ありがとう。少し休憩にしよう。」
ロキは作業台から立ち上がると、ポットに水をいれようとした。
「ああ!ダメダメ!お茶なら私が入れます。マスターは、座ってて!」
そう言うとリィズはロキからポットを取り上げた。
「なあ、そのマスターっていうの、辞めないか?」
「だって、好きに呼べっていったのマスターですよ。それに、父さんから店の主人には敬意を持て!って言われてるし。」
リィズはカップにお茶を注ぎ、ロキの前に差し出すと、テーブルを挟んでロキの正面の席に座った。
「まあ、確かにそうは言ったけど…」
「どうしてもイヤなら変えますけど、『ご主人様』とか?」
「マスターで良いです……」
「それにしても、今日もお客さん来ませんね。やっぱりこう寒いと脚が重いかな?」
「まあ、客が来ない間に、制作作業が進むからそれで良いんだよ。」
朝から昼にかけては、ロキは制作作業、リィズは1階の整理と掃除が日課になっていた。
コン、コン、コン……
ドアを叩く音が店に響く。
「あ!お客さんかな?ちょっと出てきます。」
 
リィズは席を立ち上がり、軽快に階段を降りって行った。
ロキは、テーブルの上野空いたカップを片付けて、作業に戻ろうとした。
「マスター!」
 
「どうしたリィズ!?」
階下からリィズの困惑した声が聞こえ、ロキはすぐに階段を駆け下りた。
ロキが1階に降りると、リィズの前に見覚えのある初老の男性が立っていた。
「こちらの…男の人がロキさんに御用だとか。」
「オットーさん。」
「ご無沙汰しております、ロキ様。ご盛況なことで、何よりでございます。」
立っていたのは、オーネスト家の執事として、先代の当主の頃より勤めているオットーだった。
「あのマスター。こちらの方は?」
「大変失礼致しました。私、オーネスト家に仕えております、マリス・オットーと申します。」
オットーは、右手を胸に当て軽く会釈をした。
「オ、オーネスト家って、ノルトのご領主様じゃないですか!?」
オーネストの名前を聞いて、リィズはゆっくりとロキの後ろに後ずさり、ロキの背中に隠れるような形になった。
「お、おいリィズ。」
「大丈夫ですよ、お嬢さん。私はただの使用人ですので、ご心配なく。」
「こ、こちらこそ失礼しました。私は、リィズと言います。」
ロキの背中から出てきたリィズは、慌てて姿勢を正し返礼をした。
「それでオットーさん。今日は何の用です?」
「それに着いては、例によってご当主様とお話し頂ければ幸いです。」
ロキは少し考えてオットーに返答した。
「また、あの屋敷にいくのか?悪いんだが、また別の機会にしてくれないか?」
「な、何を言ってるんですマスター!?オーネスト様ですよ!ご領主!この街で1番偉い方ですよ!」
リィズが慌ててロキに意見するところを見たオットーは、少し微笑んで改めてロキに向き直った。
「そうおっしゃるとのことで、今回はこちらから参りました。」
「なに?」
「え?」
店のドアが再び開くと、女性がひとり入ってきた。
薄茶色のドレスに身を包み、印象深い長く艶のある紅い髪と深い藍色の瞳、色白の肌にアクセントにもなる赤い唇は少し微笑みを浮かべていた。
「お邪魔するわね、ロキ。」
「邪魔するなら、来なきゃいいんだよ。」
カサンドラは、ロキの言葉にキョトンとすると、クスクスと笑った。
「相変わらずあなたは、面白い言葉の捉え方をするのね。……あら?あなたは?」
カサンドラは、ロキの後ろの方で立ち尽くしているリィズわわ初めて見ると目を細めた。
「わ、私ですか!?」
「ご当主様、こちらはロキ様のお店でお勤めされておりますリィズ様とおっしゃいます。リィズ様、こちらは……」
「カサンドラ=オーネストよ。そう、リィズというの、こんなあばら家で働かされているなんて大変ね。あなた私の屋敷で働かない?」  
「え!?そんな、私なんて無理です!」
「おい、あんまりウチのリィズをいじめるなよ。」
「ウチの……?まあいいわ。いじめるなんて心外だわ。…でも、年下が好みだったなんて意外。」
「……冷やかしなら、もう話はしないぞ。」
冷めた視線でカサンドラを見るロキと、それに対しても微笑みを崩さないカサンドラ。
2人のやり取りを見ていて、リィズだけがオロオロしていた。
「マスタ〜。り、領主様ですよ〜。」
リィズが、後ろから小声でロキに話しかける。
「はあ……。とりあえず、中で話そう。」
ロキはカサンドラたちを店内に招き入れた。
ロキは、カサンドラが訪問してきたことに、言い切れない一抹の不安を感じていた。
多分、それは当たってるだろうと、内心自分にいいきかせていた。
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