月夜の太陽 〜人と人ならざる者達の幻想曲〜

古民家

第21話 暗闇の救出

ロキは雑貨屋に戻ると、直ぐに2階に駆け上がっていった。
少し経ったころ、1階に降りてきたロキは、厚手の上着とズボンを履き、背中に大きなリュックを背負った格好をしていた。

ドアを出ようとしたロキは立ち止まり、店の真ん中に立つ木に掛けてある、古いランタンを取ると店を出た。


  ノルトの街の東には広い草原が広がり、春には白い花で一面いっぱいになる。
さらに、東に進むと岩盤が隆起した山々が続いていく。

かつて、この山の近辺では鉄鉱石以外にごく稀に魔石や貴石などが採掘され、深い坑道が掘られた。

  ロキが東の草原まで来る頃には、風が強まり肌寒さを感じるほどになっていた。

「まずいな…。この分だと、鉱山に着く頃には吹雪きそうだ。」

ロキはさらに足を早め、リィズの行ったと考えられる鉱山へ急いだ。

かつて領土最大の採掘量を誇った東の鉱山。廃鉱になった今は、深い坑道が続いている。

ロキは鉱山の入り口を見つけると、すぐにリィズを探し始めた。

「リィーーズ!!どこだーー!!」

坑道に虚しく声が反響する。

ロキは、懐からマッチを取り出すと下げているランタンに火を入れた。
ランタンに青い炎が灯り、ゆらゆらと揺れ出す。

「おい、オース!リィズの居所がわかるか?」

「うーーむ。これだけ広いと、ハッキリとは……もう少し近づければ、リィズ殿の体温を感じれるかと……」

「とにかく坑道の中を探すしかない。オース、感知の方は任せたぞ。」

坑道の中は灯りは無く、ランタンの光だけが頼りの中、ロキはリィズの探索を続けた。

しばらく進むと、奥の方から微かに声が聞こえた。

「リィズ!?」

ロキは、すぐさま坑道のさらに奥の方へ走り出した。


カン、カン、カン……
リィズは坑道の奥に着くと、ひたすらツルハシを振るっていた。

「ダメだ…さっきから錆びた岩ばかり。本当に魔石なんてあるのかな?それに、なんだか気温も下がってきたみたいだし……」

掘り続けたリィズの手の平には豆が出来ており、もうツルハシを握るのも困難になっていた。

ズズ…、ズズズ…

「え?なんの音?」

音がしたと思った瞬間、突然、リィズのすぐそばの壁が崩れ出した。
ランプが岩に飲み込まれ、あたりは真っ暗になった。

「いったいなにか起こったの?何も見えない……痛ッ!」

リィズは真っ暗闇の中で動こうとすると、足に激痛が走った。

「あ、足が……ダメ、動かない。」

リィズは足が動かないことに気付くと、急に不安と恐怖に襲われた。
ここに来ることは、誰にも言っていない。
 
  父親には東の草原とは言ったけれど、この廃鉱まで探しに来る人がいない事を考えると、リィズは行き先を告げなかった事を今更ながら後悔した。

「わ、わたし、ここで死んじゃうの……そんなの嫌!だれか!助けてェェ!!」

坑道内に虚しく声がこだまする。

暗い中で、不安と恐怖が心を挫く。

「さ、寒い……、だれか……お父……さん」

思考が回らず、眠気が襲い、ゆっくりとリィズの意識が闇に溶けていった。


「あと少しです、ご主人。」

「わかってる、こっちから声がした!」

ロキは数メートル先が見えない坑道を、真っ直ぐに走ると、岩が崩れたような場所に出た。

すぐに周りを照らすと、壁の近くに倒れているリィズを見つけて、駆け寄った。

「リィズ!しっかりしろリィズ!」

リィズからは返事や反応が無く、足が岩に挟まれている状態だった。

「待ってろ、すぐに岩を退けてやる!」

ロキは岩を退けるとリィズを岩から遠ざけるように引っ張った。 

「オース!もっと灯りを!」

「し、承知しました!」

オースは一層ゆらゆらと体を揺らし、光を大きくした。

「まずいな、体が冷えてる。とにかく、坑道を出ないと。」

ロキは、リィズを抱えると坑道の出口へ向かった。

坑道の出口まで来たロキは、立ち止まった。
なぜなら、外は吹雪が吹き荒れ、すでに足首の高さまで雪が積もっていた。

「だめだ。この吹雪じゃあ外には出れない。」

ロキは、坑道を少し戻るとリィズを下ろし、状態を確かめた。

「足は…折れてはいないが、歩くのは無理だ。それに、寒いところにいたせいか体温も下がってる。早く、温めてやらないと。」

「では、ご主人。服をお脱ぎになることを提言…」

カンッ!

ロキはランタンのオースを叩くと、リュックの中から水と包帯を取り出し、リィズの足の怪我を手当てした。

「オース。水を沸かすのと、灯りを頼む。」

「は、はい…承知しました。」

ロキは、横倒しになったオースに言付けると、近くにある枕木の破片や布などを集めて、焚き火を作った。  

「これでしばらくは大丈夫だと思うが、リィズの目が覚めないのが心配だ。」

「ご主人。お分かりかと思いますが、燃やすものがあまり無い状態では、限界がありますよ。」

ロキはオースの言わんとしていることを理解していた。

外の吹雪は止む気配はなく、雪はさらに積もり始めていた。

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コメント

  • 古民家

    読んで頂きありがとうございます。
    読み返すと恥ずかしくなることもありますが、出来るだけ更新していきます。

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