月夜の太陽 〜人と人ならざる者達の幻想曲〜
第17話 絆の形
ゴーーン…
ゴーーン…
ゴーーン…
シュトルゲンの真ん中に建つ教会から、鐘の音が街全体に響く。
本来、礼拝の時間を告げるものだが、今ここに故人を弔う音として鳴っている。
フレイアが育てていたハーブ畑の片隅に、花崗岩の墓石が立てられている。
墓石のまえには、アリシアとロゼッタが膝をつき、少し後ろでロキが小さく首を垂れていた。
『フレイア  ここに永眠する』
墓石にはフレイアの髪飾りと花が添えられていた。
「ロキ様、ありがとうございます。
おばあ……祖母もきっと感謝して逝けたと思います。」
まだ赤く腫れている目のまま、ロゼッタはロキにお礼をいう。
その横で、同じく目を赤くしたアリシアは、まだ少し鼻をすすっている。
ロゼッタは、両親の代わりに育ててくれた最愛の祖母を亡くし、アリシアはようやく会えた母を途端に無くした。
2人の悲哀は想像だに出来ない。
ロキは、これから彼女らはどうするのか、
少し気がかりだった。
はじめは、カサンドラからの依頼として、
アリシアをここへ案内するだけだと考えていた。
だか、今回のフレイアとロゼッタを含む、自分の過去と向き合う切掛けとなった出来事は、ロキの中で小さな棘として残った。
それから2週間が過ぎた。
休息を兼ねて、ロキとアリシアはロゼッタの、もといフレイアの家に宿泊させてもらっていた。
ハーブ畑の中、夕暮れの風が肌寒く感じる。
ロキは冬の訪れがもうすぐなんだと、
空を見上げた。
その日の夕食時、ロキはアリシアにこれからのことを話すことにした。
「私は、ロゼッタと一緒に暮らそうと思う。」
アリシアはフレイアを弔ってから、ロゼッタと共に生きていくことを考えていたという。
お互いに身内は無く、ロゼッタは祖母譲りの占術の才能を活かした占い師を続け、アリシアは母の残したハーブを育てていくことを決めた。
「私にとっては、ロゼッタは姪になるのかな?少しへん感じもするけれど、見た目も知識もロゼッタと変わらないから、姉妹ってことでやっていけると思う。」
「アリシアがお姉ちゃん?私の方が世間のこと知ってると思うけど…」
少し不満げにつつくロゼッタは、まんざらでもないみたいだ。彼女も、かつて姉を亡くしたことでアリシアに対して、何らかの感情を抱いていたのだろう。
そうして、アリシアはロゼッタと共にシュトルゲンに残ることとなり、ノルトへはロキのみ帰ることになった。
そして、ロキが出立する日の朝……
馬車に荷物を積んでいると、家からアリシアが出てくるのが見えた。
「ごめんなさい、ロキ。あなた1人だけがノルトへ帰ることになってしまって。」
「別にかまわないさ。それに、2人が一緒に住むことになってオレも良かったと思ってるよ。」
「ありがとう…あなたには、感謝しても仕切れないことだらけだけど、これはほんのお礼よ。」
アリシアは、小さな袋をロキに手渡した。
「これは?」
「母さんのハーブレシピから、特別に調合した丸薬よ。」
「ありがとう、助かるよ。ロゼッタは?」
「ロゼッタなら、翡翠館に居ると思うわ。」
ロキは、アリシアに別れを告げ、アリシア達の家を後にした。
翡翠館に向かう道中、ロキはシュトルゲンの街をじっくりと観察した。
この街に着いた途端、狂人に追われて、逃げるように走っていたため、気付かなかったが、シュトルゲンの街はとても堅牢な作りをしていた。
街全体を囲む城壁は高く、街の家屋も所々に補給されていたり、多くの家が玄関扉が金属でつくられている。
「さすが城塞都市といったところか。」
そうこうしてるうちに、見覚えのある通り、見覚えのある建物が現れた。
翡翠館の3階の部屋へ上がっていくと、部屋にはロゼッタが待っていた。
「もう行かれるのですね。何もお礼が出来なくて、申し訳ないです。」
「お礼ならアリシアにもらったから、気を使わなくても良いさ。」
「で、では……その……」
「?」
「め、目を瞑っていただけますか!」
ロキは言われた通り目を閉じてしばし待つ。が、ロゼッタからは何も反応がない。
「ロゼッタ、もう開けても…!!」
不意に柔らかな感触が、唇に伝わる。
反射的にロキが目を開けると、ロゼッタの顔が目の前にあり、自分の唇を重ねていた。
「ロ、ロゼッタ!?」
ロキが身を引くと、顔を赤らめながらロゼッタは優しく微笑んでいた。
「わ、私は…ロキ様には、いろいろと助けて頂きました。そ、それに祖母のことも…だから、私の気持ちをですね…」
 
言わんとすることがまとまらないロゼッタは、深呼吸を1度すると改めて、ロキの目を見つめた。
「………わ、私は、ロキ様の、いえロキさんのことが、お、お慕いしています。」
「あ、ありがとうロゼッタ…」
いきなりの告白にロキは少し驚いた。
「だがオレは……」
「今は、まだまだですが、いつかきっと大人の女性になってみせますので、待っていてください!」
(お、大人の女性って……それにしても、ロゼッタは意外に積極的なのかな?)
ロキはロゼッタに、ノルトへ戻ることを伝えると、翡翠館を後にした。
城塞都市シュトルゲンを出ると、来た時と同じような草原が広がり遠くに、ノルトの街とを隔てる山脈が見える。
「アリシア、ロゼッタ。いつか、また…な」
シュトルゲンを尻目に、ロキはノルトに続く街道へ馬車を進めた。
 
ゴーーン…
ゴーーン…
シュトルゲンの真ん中に建つ教会から、鐘の音が街全体に響く。
本来、礼拝の時間を告げるものだが、今ここに故人を弔う音として鳴っている。
フレイアが育てていたハーブ畑の片隅に、花崗岩の墓石が立てられている。
墓石のまえには、アリシアとロゼッタが膝をつき、少し後ろでロキが小さく首を垂れていた。
『フレイア  ここに永眠する』
墓石にはフレイアの髪飾りと花が添えられていた。
「ロキ様、ありがとうございます。
おばあ……祖母もきっと感謝して逝けたと思います。」
まだ赤く腫れている目のまま、ロゼッタはロキにお礼をいう。
その横で、同じく目を赤くしたアリシアは、まだ少し鼻をすすっている。
ロゼッタは、両親の代わりに育ててくれた最愛の祖母を亡くし、アリシアはようやく会えた母を途端に無くした。
2人の悲哀は想像だに出来ない。
ロキは、これから彼女らはどうするのか、
少し気がかりだった。
はじめは、カサンドラからの依頼として、
アリシアをここへ案内するだけだと考えていた。
だか、今回のフレイアとロゼッタを含む、自分の過去と向き合う切掛けとなった出来事は、ロキの中で小さな棘として残った。
それから2週間が過ぎた。
休息を兼ねて、ロキとアリシアはロゼッタの、もといフレイアの家に宿泊させてもらっていた。
ハーブ畑の中、夕暮れの風が肌寒く感じる。
ロキは冬の訪れがもうすぐなんだと、
空を見上げた。
その日の夕食時、ロキはアリシアにこれからのことを話すことにした。
「私は、ロゼッタと一緒に暮らそうと思う。」
アリシアはフレイアを弔ってから、ロゼッタと共に生きていくことを考えていたという。
お互いに身内は無く、ロゼッタは祖母譲りの占術の才能を活かした占い師を続け、アリシアは母の残したハーブを育てていくことを決めた。
「私にとっては、ロゼッタは姪になるのかな?少しへん感じもするけれど、見た目も知識もロゼッタと変わらないから、姉妹ってことでやっていけると思う。」
「アリシアがお姉ちゃん?私の方が世間のこと知ってると思うけど…」
少し不満げにつつくロゼッタは、まんざらでもないみたいだ。彼女も、かつて姉を亡くしたことでアリシアに対して、何らかの感情を抱いていたのだろう。
そうして、アリシアはロゼッタと共にシュトルゲンに残ることとなり、ノルトへはロキのみ帰ることになった。
そして、ロキが出立する日の朝……
馬車に荷物を積んでいると、家からアリシアが出てくるのが見えた。
「ごめんなさい、ロキ。あなた1人だけがノルトへ帰ることになってしまって。」
「別にかまわないさ。それに、2人が一緒に住むことになってオレも良かったと思ってるよ。」
「ありがとう…あなたには、感謝しても仕切れないことだらけだけど、これはほんのお礼よ。」
アリシアは、小さな袋をロキに手渡した。
「これは?」
「母さんのハーブレシピから、特別に調合した丸薬よ。」
「ありがとう、助かるよ。ロゼッタは?」
「ロゼッタなら、翡翠館に居ると思うわ。」
ロキは、アリシアに別れを告げ、アリシア達の家を後にした。
翡翠館に向かう道中、ロキはシュトルゲンの街をじっくりと観察した。
この街に着いた途端、狂人に追われて、逃げるように走っていたため、気付かなかったが、シュトルゲンの街はとても堅牢な作りをしていた。
街全体を囲む城壁は高く、街の家屋も所々に補給されていたり、多くの家が玄関扉が金属でつくられている。
「さすが城塞都市といったところか。」
そうこうしてるうちに、見覚えのある通り、見覚えのある建物が現れた。
翡翠館の3階の部屋へ上がっていくと、部屋にはロゼッタが待っていた。
「もう行かれるのですね。何もお礼が出来なくて、申し訳ないです。」
「お礼ならアリシアにもらったから、気を使わなくても良いさ。」
「で、では……その……」
「?」
「め、目を瞑っていただけますか!」
ロキは言われた通り目を閉じてしばし待つ。が、ロゼッタからは何も反応がない。
「ロゼッタ、もう開けても…!!」
不意に柔らかな感触が、唇に伝わる。
反射的にロキが目を開けると、ロゼッタの顔が目の前にあり、自分の唇を重ねていた。
「ロ、ロゼッタ!?」
ロキが身を引くと、顔を赤らめながらロゼッタは優しく微笑んでいた。
「わ、私は…ロキ様には、いろいろと助けて頂きました。そ、それに祖母のことも…だから、私の気持ちをですね…」
 
言わんとすることがまとまらないロゼッタは、深呼吸を1度すると改めて、ロキの目を見つめた。
「………わ、私は、ロキ様の、いえロキさんのことが、お、お慕いしています。」
「あ、ありがとうロゼッタ…」
いきなりの告白にロキは少し驚いた。
「だがオレは……」
「今は、まだまだですが、いつかきっと大人の女性になってみせますので、待っていてください!」
(お、大人の女性って……それにしても、ロゼッタは意外に積極的なのかな?)
ロキはロゼッタに、ノルトへ戻ることを伝えると、翡翠館を後にした。
城塞都市シュトルゲンを出ると、来た時と同じような草原が広がり遠くに、ノルトの街とを隔てる山脈が見える。
「アリシア、ロゼッタ。いつか、また…な」
シュトルゲンを尻目に、ロキはノルトに続く街道へ馬車を進めた。
 
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