月夜の太陽 〜人と人ならざる者達の幻想曲〜

古民家

第15話 決着

ザリュは刃を高く振りあげ、一直線にロキへ振り下ろす。

ギィィィィン!

しかし、刃は空を切り、火花を散らし床で止まる。

ザリュは一瞬ロキを見失ったことに驚いたが、すぐに立て直し後ろを振り返った。

「びっくりしたぞ。まだ、動けるのか。」

傷を抑えながら、ロキは息を荒げている。

「でも、もう立っているのも限界といったところか?大人しくしていれば痛くしないのにな……?」

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」

ザリュは、息を荒げるロキに違和感を覚えた。
(なんだ?息使いが早い?早すぎる!?)

通常、急激な運動の際に体は酸素を取り入れようと深く呼吸を行おうとする。
しかし、ロキは明らかに過呼吸のような息使いをしていた。

「なんだお前?ロキ、何をしている!?」

激しい呼吸をしながら、ゆっくりと顔を上げ、ロキはザリュを睨みつける。
その目は、今までの紅い目ではなく、髪と同じく銀色に染まっていた。

ロキの銀色の瞳を見たザリュは、自分の手足が震えていることに気付いた。

それはザリュの理解の及ばない、ロキの異様さに対しての恐怖であった。
いつのまにか、ザリュは手や額に汗をかき、呼吸も早くなっていく自分の身に違和感を覚える。

まるで、 巨大な捕食者を目の前にして、動けずにいる小動物のようだ。

ザクッ!!

ザリュは震える体を動かそうと、自らの腕を刺すと、うめき声とともにドス黒い血が床に落ちる。

ロキは、ゆっくりとザリュに近づく、
それに対してザリュはそれに合わせるかのように、後ろに下がる。

そして、5歩後ろに下がった瞬間、ザリュはロキの怪我をしている腕側に回り込み、首を斬りつけた。

ヒュン!!

ロキは、また寸でのところで刃を避ける。

ヒュンヒュン!!

ザリュは続けざまに、切り込むがロキはそれを難なく避ける。

「!!」

いつのまにかロキとザリュの距離は、お互いに手が届くほどにまで近づいていた。

「なんだ!?なんなんだお前は!?こんな化け物だなんて聞いてない!!」

ザリュは、間合いを図ろうと距離をとったが、明らかに狼狽していた。

「クソ!!化け物が!なら……この女を先にやるだけだ!!」

ザリュはロキからアリシアに目標を変えると、アリシアめがけて飛んだ。

「きゃああああーーー!!」

ドンッ!!

アリシアは一瞬目を瞑り、次の衝撃に備えたが、その衝撃どころか痛みさえ感じない。うっすらと目を開くと、自分に斬りかかろうとするザリュが目の前で止まっていた。

ゆっくりと倒れこむザリュ。
その背中には、ナイフが深々と刺さっている。

ロキはザリュが身を翻した瞬間、閃光のような速さでザリュへ一撃を放った。

しかし、未だに意識がはっきりとしないような銀色の瞳は、視線を彷徨わせていた。

「ロキ?大丈夫?」

ロキはザリュからアリシアへ視線を移すと、アリシアの細い首に手をかけようと手を伸ばし、力を込める。

「ロキ!?ダメ、や、めて!」

アリシアの言葉に、手にこもる力が弱まる。

「ごほっ!ごほっ!」

「ア、アリシア?すまない、オレは…」

「だ、大丈夫よ。それよりも…」

ロキとアリシアはザリュの方へ視線を向けた。すでにザリュの体からは大量の血が流れ出ており、見た目にも助かるような感じではなかった。

「くそッ…こんなキズで……動けなくなるなんて……あの女……」

悪態をつきながら、ズルズルと体を引きづり、なおも2人に近寄ろうとするザリュ。
衣服や体を纏う黒い包帯が解け、顔や腕が顕になる。

口元は歪み、肌は薄黒く、ギラギラした瞳がこちらを睨みつけている。そして、左手腕から甲にかけて、黒い波のような刺青が入っていた。

深手を負っても、動こうとするザリュの執念にロキは、背筋に寒気を感じた。

しかし、体力の限界か這いずりもゆっくりとなり、ついにはピタリと止まった。

「いつか……その力に……呑まれるぞ。そした…ら……オレと……同じ……………」

呪詛のような言葉を最後に、笑みを浮かべたザリュの目から光が失われた。


「…帰ろう…」

こうして、フレイアの家を襲撃し、アリシアをさらったザリュとの関係に終止符が打たれ、ロキはアリシアに肩を借りて、フレイアとロゼッタの待つ家へと向かった。

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