月夜の太陽 〜人と人ならざる者達の幻想曲〜

古民家

第9話 占い師ロゼッタ

シュトルゲンは南側は、飲食店や娼館が立ち並び、昼間は人通りは少ないが、夕方から朝方にかけて多くの人が行き交う歓楽街の色を呈している。

そして、その中に翡翠館という建物がある。1階は酒場として、2階は連れ込み宿、そして、3階は占い館が営まれている。

ロゼッタはロキとアリシアを3階の部屋に招き入れると椅子に座らせた。

「ありがとうロゼッタ。おかげで助かった。」

ロゼッタは、ひざまづきロキに頭を垂れた。

「ロキ様、ご無事で何よりです。」

突然のロゼッタの行為に面食らうロキ。
しかし、ロゼッタはさも当然のように、その姿勢をとる。

「あ、頭をあげてくれロゼッタ。俺たちの方こそ危ないところたすけてもらったんだ。」

ロゼッタは立ち上がり、ニコリと笑ってみせた。

「ロゼッタ、あなたは何者なの?それに、私たちは本名は名乗ってないのに……」

「………私はこの翡翠館で占い師をしてると、言ったじゃない。あなたバカなの?」

「な!ば、バカとは何よ!確かに、世の中の常識とかには疎いかもしれないけど、初めて会った人にバカ呼ばわりされるほど、私はおかしくはないわ!」

いきなりバカ呼ばわりされ、アリシアも
憤慨する。ロゼッタは、知らないとばかりそっぽを向き、それにアリシアはさらに腹を立てる。

「ロゼッタ、アリシア。いい加減に……!」

ロキは、言い合う2人をなだめるため、椅子から立ち上がろうとした。その時、足に力が入らないことに気付き、そのまま前のめりに座り込む。

「ロキ!?」
「ロキ様!?」

ロキのことを心配した2人は、喧嘩をやめ、ロキに肩を貸すように椅子に抱き起こした。

「あ、ありがとう2人とも。」

「まだ、ガスの効果が抜けきっていないのかもしれませんね。しばらくここは安全ですので、無理はしないで下さい。」

(ガスだけのせいじゃないだろうな、恐らく身を割く程の狂気から逃れた安堵感から来るものに近い。…これはマズイ。)

「………ロゼッタ。君に、3つほど聞きたいことがあるだが、質問してもいいかい?」

「はい、答えられることでしたら。」

ロキは、この数時間の間に起こったことを頭で整理し、質問の順番を考えた。

「まず、あの黒い男は何者なのかわかるかい?」

「アイツは、このシュトルゲンで闇業を営む奴らの1人です。名前や素性はまったくわかりませんが、噂ではハンターやアサシンとして活動している狂人です。それにアイツは……。」

「やつの名前は、ザリュと言っていた。これで名前はわかったな。
次の質問だけど、なぜオレの名前を知ってるんだ?」

2つ目の質問をすると、ロゼッタはまた膝をつき、ロキの青い瞳を見つめて手を取った。

「ロキ様はお忘れかもしれませんが……
3年前、野盗の襲撃で両親と姉を失った私を助けてくれたのはロキ様です。命の恩人であるロキ様を、あなたを私は片時も忘れた事はありません。」

そう語るロゼッタは、当時のことを思い出しているのか、黒い瞳に涙を浮かべていた。

「まさかとは思ったが…君はあの時の女の子なのか?」

「はい、そうです!ロキ様!会いたかった。もう一度会って、お礼を言いたかった。」

そういうと、ロゼッタは涙を流してロキの手を強く握りしめた。

「ロゼッタ、オレは、その……」

「ロキ様が、世間で言われるダークストーカーだとしても、あなたは私を助けてくれた。例え、周りの人があなたを忌み嫌っても、私だけはロキ様の味方です。」

ザリュの話には続きがある。

ロキが救おうとした家族の両親は野盗に殺され、娘もあと一歩のところで矢に打たれてしまった。そのあと、野盗は逃げ出し、残されたのは3人の遺体だった。
ところが、両親は荷物の中にもう1人の娘を隠していた。

「あの時、君の家族を救えなかったことを酷く後悔したけれど、君を見つけた時は、とても救われた気持ちになったんだ。生きていてくれて、ありがとうロゼッタ。」

ロキが、手を握り静かに泣くロゼッタの頭を撫でると、ロゼッタは顔を上げ、涙でクシャクシャにしながら嬉しそうに笑った。

「あと一つ、フレイア・ノーベルという名前を知らないか?」

「グスッ……、なんでフレイアを探しているのです?」

「知っているのか、ロゼッタ?」

「……フレイア・ノーベルは私の祖母です。」


夕暮れ時、街はオレンジ色に染まり、翡翠館を含む歓楽街は、段々と賑やかさを増してきている。
男たちは酒を飲み交わし、娼館の女たちは道々を行く男に声を掛け、一夜の快楽へ誘う。

ロゼッタは1階の酒場から食べ物などを運び、ロキとアリシアは翡翠館の2階に場所を移した。

ロキは、ロゼッタにアリシアのことと、シュトルゲンの街に来た目的を説明した。

「さて、これからのことを決めようと思う。」

「そうね。ロゼッタのお祖母様がフレイア・ノーベルということには驚いたけれど………。」

「ロゼッタ。君のおばあさんに、会わせてもらうことは出来るかい?」

「はい。お祖母様も、ロキ様と会えばきっと喜びます。」

ロキ達は次の目的が決まると、早々に休むことにした。

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