月夜の太陽 〜人と人ならざる者達の幻想曲〜

古民家

第3話 カサンドラの依頼

ノルトの街の領主。カサンドラ・オーネストの屋敷の一室で、魔女と呼ばれた女性と対峙したロキは、少し不安を感じていた。

ここ最近まで、特に交流もなかったカサンドラから、しかも直接依頼されることは何らかのリスク、もしくは難題であることを考えずにはいられなかった。

「それで、オレに依頼したい事っていうのはどんな事なんだ。悪いが領主様のお眼鏡にとまるようなものは扱ってないぜ。」

「ねぇ、ロキ。」

ロキは、少しでも軽い雰囲気を作ろうとしたが、カサンドラの一声で、また一段と重苦しい空気がうまれた。

「あなたの扱っている品は、今回の依頼とは関係ないわ。あなたの持っている物ではなく、持っているモノに用があるの。」

動くはずのない、締め切られた部屋の空気が動くのを、ロキは全身で感じた。

それと同時に、カサンドラに対して敵意に近い感情がロキを支配する。

ロキの心中を読み取ったのか、カサンドラはまたパチンと指を鳴らした。

再びドアが開くと、アンナマリーと一緒に1人の少女が入ってきた。

 少女が部屋に入ると、アンナマリーは一礼してから退室した。

肩まで伸びた銀に近いブロンドの髪と、薄い青みを宿した瞳が印象的な美少女である。

少し幼さない感じもするが、彼女自身が纏う雰囲気は静けさの中に鋭利なナイフに似た鋭さをロキは感じた。

「カサンドラこの子は…」

「そんなに怯えないでちょうだい、ロキ。
この子は、アリシア。ここに来て、もう2年になるのかしら。」

表情を変えないアリシアだか、目線だけはしっかりとロキを見ていた。

「カサンドラ。この人は……人間?」

アリシアの一言に、ロキの心が張り詰める。

ロキはアリシアの鋭い観察力を警戒し、少し前のめりに座り直した。

「いいのよロキ。彼女は、ナートフリューゲル(夜の翼)と呼ばれる一族よ。
アリシア、こちらはロキ。あなたを守るナイト様よ。」

「どういうこと!?」
「どういうことだ!?」

カサンドラの言葉に、2人の声が重なる。

少しの沈黙の後、ロキは困惑を押し隠しながら、カサンドラへ質問した。

「カサンドラ。彼女はひょっとしてダークストーカーなのか?」

「いま、そう言ったわ。」
「……ウッ」

さも当然というカサンドラの態度に、ロキは困惑を隠せなくなってしまった。

「ロキ、あなたには彼女の身辺警護をお願いしたいのよ。そして、彼女をシュトルゲンまで送って欲しいの。」

カサンドラは、言葉を続けた。

「待ってくれ。オレは用心棒なんてしたことは無いぞ。」

「そうかもしれないわね。でも、あなたにその力はあると私は確信してる。それに今回のことは、あなたにとっても、きっとためになると思うわ。」

「………」

「カサンドラ、わたしはまだ納得していない。確かに彼は、普通の人間とは違うと思う。でも、ダークストーカーのようでもない。彼はいったい?」

考え込むロキを尻目に、アリシアはカサンドラへ意見した。

「アリシア。わたしはあなたを守ることは出来ない。それは、立場や権威などではなく、わたしは持たないモノだから…」

3人とも、それぞれの考えや思いを口にすると、当初の張り詰めた空気は、薄くなりしばらくの間広い部屋に静けさが漂う。

「……お茶が冷めてしまったわね。それにもうすぐ日暮れだわ。」

カサンドラは、自然な感じで空気の流れを変え、それぞれの考えを促した。

「少し考えさせてくれないか。」

「わかったわ、ロキ。明日、答えを教えてもらえればそれで良い。
それに、もう日も落ちたことだし、ここにお泊りなさいな。部屋は余っているのだし。」

有無を言わさずカサンドラは、三度指を鳴らした。

部屋の扉が開かれ、今度はオットーとアンナマリーの両名が現れた。

「ロキ様。それでは、お部屋にご案内致します。」

オットーに促され、ロキは椅子から立ち上がり、扉の方へ向かおうとして、カサンドラの横で立ち止まった。

「とりあえず、今晩考えてみる。だが、期待はしないでくれ。」

「ええ、わかっているわ。」

部屋には、カサンドラとアリシアの2人が
のこった。

「カサンドラ……」
「あなたも、もう部屋に戻りなさい。」

カサンドラはアリシアの言葉を遮り、これ以上の話は無いという雰囲気を漂わせた。

いつのまにか窓の外は、日が落ちており、ベルベットの空が広がっていた。

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