月夜の太陽 〜人と人ならざる者達の幻想曲〜
第2話 魔女と呼ばれた盟主
 ノルトの街の北側は、丘になっており、街から頂上に向かってなだらかな坂道をつくっている。
その坂道の両脇を挟む様に士族や貴族の屋敷が立ち並んでいる。
そして、坂道の到達点には、国王より領主としてノルトの街を収める事を一任された、オーネスト家の屋敷が建っている。
屋敷には塀はなく、敷地いっぱいに芝生が敷き詰められ、さらに手入れの行き届いた
花壇が屋敷の入口に向かって伸びていた。
「相変わらず『解放感のある執政』は、健在か……」
花壇を横目に屋敷入口に近づくロキ。
扉をノックしようとした時。
「ッく!!」
一瞬、背筋が凍る様な感覚が襲い、
ロキは周りを見渡した。
だが、それはまた一瞬にしてかき消えた。
「なんだ、今のは?」
ガチャ
ドアの開く音がして、ロキが振り向くと
切れ長の瞳でこちらを伺う様にメイドが立っていた。
「当家に御用でしょうか?」
「あ、ああ…雑貨屋のロキが来たと、執事のオットーさんに繋いでもらえるかな?」
「私共の長であるオットー様も、強いては私共メイドも、雑貨に困窮するようなことはございません。大変失礼ですが、お引き取り下さい!」
メイドは少し間を置いてから、姿勢を正してはっきりと告げた。
「いや、オレはべつに雑貨を売りに来たわけじゃなくて……」
「では、資金のご融資でしょうか?誠に申し訳ありませんが、協会または貴族の方のご紹介もない方へ、融資するわけにはまいりません。どうかお引き取りを!」
(な、なんだか難しい子だな……)
「ロキ様。お越しいただきありがとうございます。アンナマリー、もうお下がりなさい」
奥から聞き覚えのある男の声がきこえた。
「オットー様!しかし…」
「ロキ様はこ当主様がお呼びになられたお客人です。」
「し、失礼致しました!わ、私てっきり物売りの人かと思って、 どうお詫びをしたら良いやら…その…」
アンナマリーは自分が取った対応に、身が縮む思いがした。
「あなたは悪くないですよ。あなたは、当然の仕事をしただけですから。
 さあ、ロキ様こちらへ。ご当主様がお待ちです。」
広いエントランスを横切ると、入口と同じくらいの扉が現れる。
「こちらが応接室となります。ご当主様は中でお待ちです。」
そういうと、オットーは扉をノックした。
「旦那様、ロキ様をお連れ致しました。」
「お入りなさい」
部屋の中から、落ち着いた女性の声が入室を促した。
中に入ると、明るいエントランスとは異なり、マホガニーの壁とマルーンの床が広がる落ち着いた、というより少々薄暗さを感じさせた。
その部屋の中央には、広い部屋とは不釣り合いなほど、小さな白いソファが2つと、その真ん中に、これまた小さく白い丸テーブルが置かれている。
ソファの片方には人が1人座っていたが、後ろ姿のため、良くは見えない。
ただ、薄暗い部屋でもわかるくらいの紅く艶のある髪が印象付けていた。
「さあ、お座りなさいな。そんなところにいては、話もできないわ。」
再度、促されると、ロキは空いている片方のソファに腰を下ろした。
カサンドラ・オーネスト
代々ノルトの街を監督・統括してきたオーネスト家、15代目当主。
10年前、先代の当主、カサンドラの父であるマグナス・オーネストが不慮の事故で急死したため、後継者のカサンドラが当主の座についた。
そしてカサンドラは、当主になると同時に街の条例改革にのりだした。
表向きには、利益の再分配や、既得権益の形を激減させ、商権や貿易権を貴族主導からギルド主導に移し、経済の循環を活性化させた。
当初、貴族達はこれに反発したが、1年も経たないうちにその反発もなくなり、最近は自ら商売をする貴族達も見られるようになった。
街の人々は、より良くなったノルトの新しい領主カサンドラに称賛を贈り、カサンドラに因んだ品々が扱われるようになった。
しかし、その実反発していた貴族を粛清したとも噂され、賞賛の裏側ではノルトンヘクセ(ノルトの魔女)と呼ばれ畏怖の念も持たれていた。
「お久しぶりね、ロキ。最後に会ったのは5年くらい前かしら。」
「……そうですね。イリーナ様の葬儀の件以来ですから、そのくらいでしょうか、オーネスト様。」
「あなたと私の仲よ。そんな他人行儀な話し方は好ましくはないわね。」
カサンドラは、少し微笑み指をパチンと鳴らした。
入ってきた扉が開き、アンナマリーがカートを押して入ってきた。
先ほどの件を気にしているのか、紅茶を差し出すアンナマリーは、ロキに対して少々緊張した面持ちだった。
「あら、ロキ。もう、アンナマリーに手を出したの?我が家は前ほど使用人の数は多くないの。出来れば自重していただけるかしら。」
「ち、違いますカサンドラ様!」
「では、アンナマリーの方から迫ったのかしら。あなたもそろそろ年頃だものね。」
「カサンドラ様〜〜」
「冗談よ。」
(自分のメイドを弄ぶことも相変わらずか)
トボトボと退室するアンナマリーを見送ると、カサンドラは紅茶を少し口にして、カップをテーブルに置いた。
「ごめんなさいね、ロキ。普段こういった冗談も話せる殿方もご婦人もいないのだから、大目にみてちょうだい。」
「相変わらずだな、ノルトンヘクセ。」
ロキも紅茶を飲むと、カサンドラの方を見ながら口を開いた。
その言葉にカサンドラは、少しだけ口元に笑みを浮かべた。
「あなたもね、ヴォルフアーゲン(狼の瞳)
」
静かな部屋の中で、ピリッとした空気が流れ、しばしの沈黙が続いた。
その坂道の両脇を挟む様に士族や貴族の屋敷が立ち並んでいる。
そして、坂道の到達点には、国王より領主としてノルトの街を収める事を一任された、オーネスト家の屋敷が建っている。
屋敷には塀はなく、敷地いっぱいに芝生が敷き詰められ、さらに手入れの行き届いた
花壇が屋敷の入口に向かって伸びていた。
「相変わらず『解放感のある執政』は、健在か……」
花壇を横目に屋敷入口に近づくロキ。
扉をノックしようとした時。
「ッく!!」
一瞬、背筋が凍る様な感覚が襲い、
ロキは周りを見渡した。
だが、それはまた一瞬にしてかき消えた。
「なんだ、今のは?」
ガチャ
ドアの開く音がして、ロキが振り向くと
切れ長の瞳でこちらを伺う様にメイドが立っていた。
「当家に御用でしょうか?」
「あ、ああ…雑貨屋のロキが来たと、執事のオットーさんに繋いでもらえるかな?」
「私共の長であるオットー様も、強いては私共メイドも、雑貨に困窮するようなことはございません。大変失礼ですが、お引き取り下さい!」
メイドは少し間を置いてから、姿勢を正してはっきりと告げた。
「いや、オレはべつに雑貨を売りに来たわけじゃなくて……」
「では、資金のご融資でしょうか?誠に申し訳ありませんが、協会または貴族の方のご紹介もない方へ、融資するわけにはまいりません。どうかお引き取りを!」
(な、なんだか難しい子だな……)
「ロキ様。お越しいただきありがとうございます。アンナマリー、もうお下がりなさい」
奥から聞き覚えのある男の声がきこえた。
「オットー様!しかし…」
「ロキ様はこ当主様がお呼びになられたお客人です。」
「し、失礼致しました!わ、私てっきり物売りの人かと思って、 どうお詫びをしたら良いやら…その…」
アンナマリーは自分が取った対応に、身が縮む思いがした。
「あなたは悪くないですよ。あなたは、当然の仕事をしただけですから。
 さあ、ロキ様こちらへ。ご当主様がお待ちです。」
広いエントランスを横切ると、入口と同じくらいの扉が現れる。
「こちらが応接室となります。ご当主様は中でお待ちです。」
そういうと、オットーは扉をノックした。
「旦那様、ロキ様をお連れ致しました。」
「お入りなさい」
部屋の中から、落ち着いた女性の声が入室を促した。
中に入ると、明るいエントランスとは異なり、マホガニーの壁とマルーンの床が広がる落ち着いた、というより少々薄暗さを感じさせた。
その部屋の中央には、広い部屋とは不釣り合いなほど、小さな白いソファが2つと、その真ん中に、これまた小さく白い丸テーブルが置かれている。
ソファの片方には人が1人座っていたが、後ろ姿のため、良くは見えない。
ただ、薄暗い部屋でもわかるくらいの紅く艶のある髪が印象付けていた。
「さあ、お座りなさいな。そんなところにいては、話もできないわ。」
再度、促されると、ロキは空いている片方のソファに腰を下ろした。
カサンドラ・オーネスト
代々ノルトの街を監督・統括してきたオーネスト家、15代目当主。
10年前、先代の当主、カサンドラの父であるマグナス・オーネストが不慮の事故で急死したため、後継者のカサンドラが当主の座についた。
そしてカサンドラは、当主になると同時に街の条例改革にのりだした。
表向きには、利益の再分配や、既得権益の形を激減させ、商権や貿易権を貴族主導からギルド主導に移し、経済の循環を活性化させた。
当初、貴族達はこれに反発したが、1年も経たないうちにその反発もなくなり、最近は自ら商売をする貴族達も見られるようになった。
街の人々は、より良くなったノルトの新しい領主カサンドラに称賛を贈り、カサンドラに因んだ品々が扱われるようになった。
しかし、その実反発していた貴族を粛清したとも噂され、賞賛の裏側ではノルトンヘクセ(ノルトの魔女)と呼ばれ畏怖の念も持たれていた。
「お久しぶりね、ロキ。最後に会ったのは5年くらい前かしら。」
「……そうですね。イリーナ様の葬儀の件以来ですから、そのくらいでしょうか、オーネスト様。」
「あなたと私の仲よ。そんな他人行儀な話し方は好ましくはないわね。」
カサンドラは、少し微笑み指をパチンと鳴らした。
入ってきた扉が開き、アンナマリーがカートを押して入ってきた。
先ほどの件を気にしているのか、紅茶を差し出すアンナマリーは、ロキに対して少々緊張した面持ちだった。
「あら、ロキ。もう、アンナマリーに手を出したの?我が家は前ほど使用人の数は多くないの。出来れば自重していただけるかしら。」
「ち、違いますカサンドラ様!」
「では、アンナマリーの方から迫ったのかしら。あなたもそろそろ年頃だものね。」
「カサンドラ様〜〜」
「冗談よ。」
(自分のメイドを弄ぶことも相変わらずか)
トボトボと退室するアンナマリーを見送ると、カサンドラは紅茶を少し口にして、カップをテーブルに置いた。
「ごめんなさいね、ロキ。普段こういった冗談も話せる殿方もご婦人もいないのだから、大目にみてちょうだい。」
「相変わらずだな、ノルトンヘクセ。」
ロキも紅茶を飲むと、カサンドラの方を見ながら口を開いた。
その言葉にカサンドラは、少しだけ口元に笑みを浮かべた。
「あなたもね、ヴォルフアーゲン(狼の瞳)
」
静かな部屋の中で、ピリッとした空気が流れ、しばしの沈黙が続いた。
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コメント
大空 ヒロト
続き読みたいので頑張ってください
面白いです
俺も書いているのでよろしければ読んでもらえるとうれしいです。