三人の精霊と俺の契約事情
親子の会話
陽の光がカーテンの隙間から差し込みその眩しさで目を開いた。
昨日の痛みは何だったんだろうと思ってしまうほど恐ろしい位に体が軽く、借り物の体かと疑ってしまった。
「ーーお前ら」
ベットの近くの木製のテーブルの上に三人の精霊が固まって寝ていた。余程疲れいるのか死んだように寝ている。
三人の精霊の一人、一人の頭を撫でながら、
「心配してくれていたんだな、もう大丈夫だありがとう」
三人の精霊の優しさに触れていると、木の乾いた音が二回部屋に響いた。音の方に振り返ると部屋のドアを開け、ドアの縁に寄りかかりこちらをはにかみながら見ていた。
「やっと目覚めた見たいね。精霊ちゃん達がなかなか呼びに来てくれないからおかけでこっちもぐっすり寝れたわ」
「おかげ様で、すっかり体は良くなったよ。精霊たちもなんだかんだ気を張ってて疲れてたんだよ。彼奴ら彼奴らなりに気を遣ったりしてたのかもしれない」
テーブルの上に寝ている三人の精霊たちをディーネと二人で見つめていると背後から、
「よっ、気分はどうだいアーサー」
「やあ、レオン。もうすっかり大丈夫だよ、色々世話になったね」
「僕なんて何もしてないよ。全てはこのディーネちゃんのお陰さ」
背後からディーネの両肩に手を置き「ねっ」とディーネの顔を覗き込むと、ディーネは小さくため息を吐き。
「ーーとりあえず治療は終わったわ。これから私はまだ次の治療に北の地域に向かうわ」
「ディーネちゃんは相変わらず忙しいのね」
「レーベンハートさんがこっちを優先して診断くれって言ってくれなければアーサーは後三日はまだベットから動けなかったわよ」
「はは、レーベンハートさんに感謝するよ」
レーベンハートさんの言葉がなければ今頃と三日ベットから動けない自分を想像しアーサーは苦笑いを浮かべた。
「北方って?」
「バルティカ戦線よ。沢山の負傷者が出ているみたい。バンディッツメンバーも数名この戦線に参加していてアラートレベルは低いものの、かなり苦戦をしているわ」
「バルティカ戦線?」
「北方にあるバルティカ共和国は昔から竜魔族との縄張り争いが絶えない場所よ。かつては勇騎士アーサーが邪竜を封印したとされている場所もバルティカ共和国にあるのよ。そこでは昼夜問わず常に魔物と戦闘が繰り広げられているわ」
アーサーは説明されてもあまり理解出来なかった。よく考えてみれば世界地図すらまともに見たことがなかった。つい最近まで自分の部屋で閉じこもり外の世界に出て冒険する事になるなんて夢にも思わなかった。どこにどんな国があって今世界では何が起こっている何て考えもしなかった。
自分のことが精一杯でまわりを気にする余裕が今のアーサーにはあるはずもなかった。
「ーーって、ことで私はバルティカ共和国にすぐに向かうわ」
「僕は、一旦状況報告をするためにバンディッツ本部に戻るよ。アーサーはどうする?」
「・・・俺は、」
* * * * * * * * * * * * *
レオンとディーネと別れたあとアーサーが向かった先は西の最大の地であり因縁の地だったーー。
「あっ! アーサーさん。団長、団長アーサーさんがいらっしゃいましたよ」
若い兵士がこちらに気付き大きな声をあげる。釣られるように他の兵士達もアーサーと三人の精霊に視線を送る。
「お久しぶりだなアーサー、来るなら来ると一言連絡をくれれば良かったのに」
「ランスロット久しぶりだね。元気そうで何よりだよ。今回は本当に少し寄ろうと思っただけだから」
金色の夜明け団にすっかり囲まれてしまったアーサーと三人の精霊たち。その噂を聞きつけたのは、
「アーサーさん、ご無沙汰しております。その節は本当にお世話になりました」
特徴のあるアニメ声に似合った愛嬌のある顔立ち。それと真逆の青いマントと銀色の鎧に魔法騎士団の団長の腕章を付けて現れたのはリンスレットだ。
彼女の登場に皆一斉に一列に並び胸の中心に手を当て頭を下げる。これは相手を敬う魔法騎士団の敬礼のポーズであり今年の正魔法騎士団は「銀の星団」だからだ。ーーよって、「金色の夜明け団」の団員は全員「銀の星団」の前では常に敬礼をしていなければならないのだ。
「俺は特に何もしてないよ。リンスレットも元気そうで何よりだよ」
「アヴァロンに今回はどのようなご用件で?」
「うんん・・・その、シーサーにちょっと」
アーサーは歯切れが悪い言い方をし頬を掻いた。そんなアーサーを見てリンスレットは微笑み、
「そうでしたか、国王様はお城にいつものようにのんびりしてらっしゃいますわ」
「うん、ありがとう。ーーそうだ、時の砂の魔法が解けて以降のオヤジの様子はどうだい?」
シーサー・ペンドラゴンは魔道士マーリンの時の砂の魔法により魔力の一番高かった状態をキープするため、歳をとらないようにしていた。事実、シーサーは実年齢は還暦を過ぎていたのにも関わらずアーサーが出逢った時はアーサーと歳の変わらない姿をしていた。マーリンに至っては百年以上も歴史の中を生きて来たのだ。
「国王様はお年を召されてもお元気ですよ」
リンスレットの笑顔で全てが分かるような気がした。彼女の笑顔見たさに人が集まる意味がなんとなく分かる気がした。
「それなら安心だよ。少し城にお邪魔させてもらうよ」
「どうぞごゆっくりなされて下さい」
リンスレットに見送られながらアヴァロン城に向かうアーサーと三人の精霊だった。
☆
大理石調造りの壁や床、以前も訪れたが相変わらず立派な城だ。
窓から見えるコロッセオと呼ばれるドーム型の建物は前回の騒動でほぼ壊滅状態に陥ったが懸命の修復作業により復興を遂げた。
王座の間の扉の前の憲兵に制止させられ、
「アーサー様がお見えになられました」
「通せ」
と、声が聞こえた。
「アーサー様どうぞお入りください」
扉が開くと赤い絨毯を踏みしめながらゆっくりと歩いて行くアーサーの先には玉座に座る一人の老人がいた。
「よっ、小僧久しぶりだな。元気にやってるか?」
「それはこっちの台詞だ。すっかり老け込んじまったな」
「なーに、年相応になっただけだ。こんなとこにわざわざ来た理由を聞かせろ」
「・・・その」
歯切れ悪く言葉が出ない。
「ははーん、さてはこの前のカタリナ公国の件が絡んでるのか」
図星を突かれさらに言葉が詰まる。
「カタリナは壊滅し帝国の支配下になったらしいじゃないか。お前もその場にいたらしいと噂では聞いている」
「ーーーー」
改めてその事を言われると悔しさと自分への怒りで唇を噛み下を俯むき拳を握った。
「その場に居たお前が俺のところに来る理由は一つだ。金色の瞳だろ?」
顔を上げるアーサー。
「図星か。お前がここを訪れたと聞いて大体は予想していたよ。確かにマーリンの時の砂の魔法の効果がなくなりせっかく開眼した金色の瞳だったのに使えなくなり残念だな」
「ーー残念って、どうすればまた使える?」
「お前何か勘違いしてないか?金色の瞳があればカタリナの件は勝てたとでも言うのか?」
「少なくとも救えた命は今よりも多かった筈だ。沢山の子供や・・・ソフィアさんも」
「甘い!! そんな考えだからお前は前に進めないし、誰も助けられないんだ。最初から金色の瞳がないから無理だと否定し、自分にはこれしかない出来ないと決めつけてた。負けた時の言い訳を金色の瞳にしてお前は自分のチカラの無さを誤魔化してるだけだ」
「俺だって何もしなかった訳じゃない。やろうと必死で努力したよ。ーーけど、どうにもならかった。魔力の無い俺には無理だったんだよ」
「現実から目を背けるな! 今お前の隣にいるのは何だ?何のためにお前は自分の人生を捧げてまで精霊と契約したんだ。彼女たちに頼って自分は何の努力をした?魔法が使えないから勝てない。ーー甘いよ」
「ーーーー」
俺は何を期待してここに来たんだろうか。慰めの言葉をかけて欲しかったのか・・・。
「今の魔法騎士団の団長を知っているだろ?リンスレット・ローエングラム彼女は自分の努力だけであの地位を手に入れた。決して魔力に恵まれた環境で育った訳でもない。お前はそこまで努力したのか?何をここまでしてきた?魔法が使えないからってただ現実から逃げて来ただけだろ」
「ーーーー」
その通りだよ。今まで俺は自分の部屋に引き篭もり姉や兄を嫉妬し世間や現実から目を背けて来たんだ。それでも自分はいじめや嫌がらせに耐えてきたんだ。ーーずっと耐えてきたんだ。我慢してきたんだよ。
「親父の・・・親父のせいじゃないか」
俺は何を言ってるんだ?
「アーサー?」
思い掛けない返答にシーサーは目を点にしてきょとんとしている。
「魔道士マーリンと共謀して俺の魔力を封印なんてするから俺は魔法が使えなくなったんだ。俺は親父に人生を狂わされたんだよ!」
こんなこと言って何の解決になるんだ。八つ当たりもいいとこだろ。
「ーーーー」
「なあ、俺の人生を返してくれよ。魔法が使えないってだけでどれだけ悲惨な目に遭ったか知ってるのか? ペンドラゴン家に生まれたのに魔力が無い俺はキャメロットの城下町でどんな扱いされていたかお前に分かるのか?俺が産まれてから今日までに何回会った?それで父親ぶって偉そうに説教してんじゃねえよ!」
俺は馬鹿だ・・・何でこんな事を言ってしまったんだ。ーー悪い癖だ。言うつもりも無かったのに。
シーサーは目を細めじっとアーサーを見つめていた。三人の精霊たちは二人のやりとりを聞きながらおどおどしていた。
アーサーはシーサーの視線を避けるように床に敷かれた赤い絨毯を見つめていた。
言うつもりはなかった。ーーけど、ずっとこの気持ちは少なからず心の何処かにはあったと思うし、怨んでいたのは確かだった。
ただ、何で今この場面であんな事を言ってしまったのかはアーサー自身でも分からなかった。
「お前の言いたい事は分かった。確かにお前のことは何も知らないかもしれないな。父親失格だ。それは認めよう」
ーーだけど、とシーサーは間髪入れずに続けた。
「人生の先輩から言わせてもらうが、困難に立ち向かわなければその先にある希望や幸せを手に入れることは出来ない。苦労や努力の先に本当の自分を知ることが出来るんだ」
「ーーーー」
アーサーは顔を上げてシーサーの金色の瞳と改めて視線を合わせた。
その瞬間、頭を締め付けるような頭痛が走った。
アーサーが顔を歪めていると、
「ーーまっ、お喋りもここまでだ。私も多忙な身でな。外で人を待たせているんだ」
アーサーが振り返ると王座の間の扉から大臣が焦った顔で覗き込んでいた。
「色々意地悪な事を言ってしまったな。金色の瞳の発動の条件は私よりメイザースのが詳しいかも知れん。尋ねるといい」
「えっ? 彼は生きてるんですか?」
「ははは、彼は私以上の魔道士だよ。マーリンの時の砂の魔法が解けた以上彼が死ぬ事はまずあり得ないだろー」
シーサーはしわくちゃな顔を更にくしゃくしゃにして笑った。
「メイザースが生きてる。ーーそっか」
メーディアがきっと喜ぶと思い早くこの事実を伝えてあげたいと思った。
「せっかく来てくれたんだ、私からお前にコレをプレゼントしてやろう」
「ーーどうも?」
シーサーとの長い親子の会話は終わった。
アーサーは自分の思いを本気でぶつけられた。シーサーは親父失格と言っていたがアーサーの性格を良く理解していた。
全て図星だった。当たっていただけに改めて言われて悔しかったのかもしれない。
ただ、このままではいけないと心から思った。
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