三人の精霊と俺の契約事情
ミリアの決断
「各国の和平交渉の同意は如何かな? 反対国はいるのか?」
ハロルド三世の玉座に寄りかかり威勢を張る。
「はっ、今のところほぼ全て賛同して帝国の支配下に入ってます」
「ーーほぼ? ほぼとは?」
ハロルド三世は、報告している兵士を睨め付ける。
「いえ、その、最終通告を期限付きで送っている段階でしてーー」
「どこの国が賛同してない? 最終通告は誰の判断なのだ」
あからさまに不機嫌になるハロルド三世。
「はっ、え-、カタリナ公国とーー」
「かたりな?」
聞いたことのない国名に首を傾げるハロルド三世。
「ーー山間にある世界でもトップクラスの小さな国ですよ皇帝閣下」
と、ハロルド三世と報告しに来た兵士の間に割って入る。そのヴィルの姿を見るやホッと胸を撫で下ろす兵士。
「おおっ! ヴィル」
急に掌を返したようにご機嫌になるハロルド三世。
「最終通告など無意味ですよ、全く同意する気がないのですから。 同意する気があるなら最初から同意しますよ」
「なるほど」
「神の鉄槌は必要がない程の小さな国です。私が騎士団を率いて軽く支配下にしてみせますよ」
「本当かヴィル! 期待しておるぞ」
「ええ、閣下。ついでに試したい部隊もあるのでーー」
ヴィル・クランチェは不敵な笑みを浮かべた。周りからは余裕の笑みと捉えていたがヴィルのマントの中に隠れていたミリアはその笑みを何か別の企みのような危険な笑みと思って身震いしていた。
☆
昼下がりの帝国城の二階にある大食堂の窓際、暖かい光を浴びて昼食をとっているヴィルと小悪魔。
「ヴィル、一体何を考えてるの? あんな簡単にどーでも良いような仕事引き受けて。ーーそれに」
ーーと、言いかけたところでミリアは、ちらっとヴィルの顔を覗いた。正直ヴィルの事がまだちゃんと分かってないミリアは、あの冷やかな目をした時のヴィルが怖いと思っていた。時折こうして顔色を伺っていた。
ヴィルはミリアは無視しているのか、聞こえていないのか無言で口に昼食を運んでいた。
「うっ、ーーヴィル聞いてるの?」
普段と変わらないヴィルと分かりいつも通りお節介を焼くミリア。
「ミリア、前にも言ったが食事の時は静かに食べるものだ。話があるなら食べ終わってからにしてくれ」
「ーーはい、はい。 どーしてこう頭が堅いのかしら」
ミリアは、水を一口飲んで窓の外を眺めた。
食堂の窓際の席からは中庭が見えそこでは明日の騎士団を目指す若い兵士が汗を流しながら剣術の稽古をしていた。
「僕もあんな時があったよ」
ヴィルの口から出た意外な言葉にミリアは不思議そうにヴィルを見た。 ヴィルは中庭の兵士を見つめて遠い目をしていた。ミリアにとっては初めてみるヴィルの表情だった。
「ヴィルもあんなに必死に稽古したの」
「勿論だよ。僕は平凡な田舎の貧しい家の出身だからね。誰よりも稽古して努力してきたつもりだよ」
「みんなが天才とか言ってるから最初から才能があると思ったわ」
「ーーそれは違うよ。ただ我武者羅に稽古して誰にも負けたくないと思ってやってきただけだ。その為に色んな事をしてきた」
ヴィルの声のトーンが変わったのに気づくミリア。
「利用出来るもの全部利用して、嘘を並べて、汚いことにも手を染めてーー」
ガタンと音を立て勢いよく立ち上がるヴィル。他の昼食を食べていた人達が何事かと視線をおくる。
「それでもまだ、僕の野望は叶わない」
最後のこの一言はミリアが聴き取れるかくらいの小さな声のトーンだった。
「ヴィル・・・あなたの野望って?」
ヴィルは食べ終えた食器を片付ける為に席を立つ。ミリアに背を向けながら、
「ーーーー」
「えっ? 今なんて・・・」
先ほど同じ声のトーンで立ち去りながら言った一言はミリアの耳には届かなかった。
そこまで努力しても届かないモノ。汚いことにも手を染めてまでして手に入れたいものって何だろう。
ミリアは単純にそれが知りたかった。
そして、自分もそのために利用されているって事に気付いていた。それでもヴィルと一緒にいるのは彼の行く末を見て見たかったからだ。
ーーそれに、
食器を片付けたヴィルが戻って来ると、
「ーー行くぞ」
「はい」
必ずちゃんと迎えに来てくれる。
闇の中で誰一人でいる私を誰も必要としてくれなかった。悪魔族に襲われても誰も助けてくれなかった。誰も迎えに来てくれなかった。
そんな私をヴィルは悪魔族にもかかわらず一緒にいてくれる。よく分からないけど契約をしてくれて私の命を助けてくれた。
だから、この人がどんな人間でも何をしていても信じて助けになる事が私の今の使命だ。
「どこに行くの?」
「南方の小さな国にお出かけさ。 君もこんな辛気臭いところよりは緑豊かな場所にたまには行きたいだろ?」
「うん、行きたい! いつ行くの?」
「もう準備は出来ている。 明日の朝には帝国を立つよ」
「随分準備が早いのね」
真紅のマントの影に隠れて同じ方向が目指して進むミリアだった。
そこにはどんな結末が待っているのか、ヴィルが描く野望とはーー。
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