脇役転生の筈だった

紗砂

25

「魁斗、落ち着いてくださいまし。
大丈夫ですわ。
先程やった事を思い出してください」

「うぐっ……わ、分かった…」

「その調子ですわ」


私達はゆったりと踊り、曲が終わるとすぐに移動した。
それは天也の方も同じだったようだ。


「あぁ、いた。
3人とも、探したよ」

「咲夜、愛音さん」


奏橙と紫月はいつもよりも数倍嬉しそうな表情で私達のところへやってきた。
そして、魁斗を見つけると愛音に質問した。


「その方は?」

「あ、私の弟の魁斗です」

「私が連れてきましたの」

「……強制的だったけど……」


魁斗がボソッと呟いた気がするが気にしないでおこう。


「咲夜らしいよ」

「だろ?」


…奏橙と天也は私に対する遠慮というものはないのだろうか?
そして、このメンバーを見てある事を思いついた。


「皆さん、夏休みは予定がもう入っていますか?」

「いや、俺は無いな」

「僕も無いよ」

「私も無いです」

「私は最後の3日間以外なら…」


天也、奏橙、愛音、紫月の順に答える。
…つまりは最初の方なら大丈夫だと?


「魁斗、あなたは?」

「え……最後の辺りは部活で忙しいけど……」


なら、大丈夫だね。
父に頼んでおこう。


「船は大丈夫ですの?」


と聞いてみるが全員大丈夫そうだった。
なら問題は全くない。


「では、7月の20から27でどうでしょう?」

「いいぞ」

「大丈夫だよ」

「大丈夫です」

「問題ありません」

「空いてる…けど……?
何が?」


魁斗だけは戸惑っていたが他はOKしてくれた。
良かった。


「咲夜の家は客船会社なんだよ。
海野グループ、聞いた事ないか?
まぁ、客船だけじゃなくホテル運業やリゾート開拓まで行っているが」

「は……?
………本当にお嬢様だった……」


魁斗は私をなんと思っていたのだろうか?


「まぁ、そんな訳でお父様にお願いして客船を貸していただきますわ」


まぁ、多分父なら私が頼めば1番いい客船を用意してくれるだろう。


「運がいいな。
咲夜のとこの客船なら1番安いプランでも1年待ちだぞ?
しかも、1番高いプランなら2年待ちだったか?」

「いえ、3年ですわ」

「伸びたな…」


それ程まで人気があるのだ。
少しだけ誇らしく思う。


「しかも、咲夜のお父さんなら悠人先輩と同類だからね。
きっと1番いいプランのものになると思うよ」

「ま、まじか……」


魁斗は顔を引き攣らせていた。
……うん、気持ちは分かる。
私もそうだったし。
今はまぁ……多少は慣れたけど。
庶民との違いにもこ凄く戸惑うし。


『さて、盛り上がっているところだけどここで文化祭のランキング発表をしようと思う』


その明来先輩の声で皆、ピタリと声が止まった。


「ランキング?」

「えぇ…。
売上が全校1位のクラスに対しては片付けが免除されるんですの。
私達のクラス、1ー3が入ればいいのですが……」

「クラスの奴らのためにも入りたいな…」


光隆会メンバーはそちらの仕事もあり片付けは免除されるが1ー3はメンバーが4人もいる。
そのせいで片付けが余計に大変になってしまうのだ。


『じゃあ、まずは3位から順にいこうか。
3位は2年5組、ケーキショップ。
2位は3年2組のお化け屋敷。
そして、1位は……1年3組、コスプレ喫茶。
3組に拍手を』


「や、やりましたわ!」

「よしっ!」

「よ、良かったです!」

「これで片付けは免除だね」


と、4人で喜んでいるとクラスメイトがこちらへやってくる。


「先輩のおかげだな」

「咲夜さんが稼いでくださったおかげですわ」


……うちのクラスの稼ぎはほとんど私のコスプレで兄が支払ったものらしい。
……兄のおかげとも言えるこの現実に感謝したいとは思うものの素直になれない私だった。


「……さすが悠人先輩。
咲夜に関しては金にいと目をつけないな…」

「今回の件で考え直してくださればいいのですが……」

「無理だな」
「無理だね」
「無理だと思いますよ?」
「無理じゃないですか?」
「無理です」
「無理だと思いますわ」


……皆から否定された。
……何故だろうか?
物凄く虚しい。


そんなこんなでこともなくパーティーは終了した。


「天也、お兄様から許可はいただけましたからあとは天也の方だけですわ。
私が伺える時間が分かりましたら連絡をください」

「あぁ…。
だが、咲夜の両親にはいいのか?」

「問題ありませんわ。
お父様はお兄様の同類ですけどお母様は説得できますから」

「……そうか。
じゃあ、後で連絡する。
…またな」

「えぇ、お待ちしておりますわ。
では、また後ほど」


後ほど連絡をするという約束をすると私は車に乗り込み家へと帰った。


家に着くと、真っ先に兄が出迎えてくれる。


「……咲夜…」

「お兄様、ただいま帰りました」

「あぁ、おかえり…」


兄は明らかに落ち込んでいた。
……パーティーでの事が原因だろうが。


「お兄様、婚約を認めてくださりありがとうございます」


兄は嫌そうな顔をしたがその後、いつになく真面目な表情になった。


「咲夜、本当にいいんだね?
あんな奴でいいんだね!?
あんな奴よりはまだ…まだ!
燈弥の方が……!
けど…」


兄は誰が相手であろうと許せないらしく悶えている。
それを見ても平然としている使用人達が凄いと思う。


「お兄様、私は天也がいいです。
それに、勝手にそのような事を言っては朝霧先輩に失礼です」

「そ、そうだよね。
咲夜に失れ……天野を潰す……」


……これは暫く駄目そうだ。
思ったよりも根深い様だ。
それに、私に失礼って言おうとしたよね?


「お兄様、少し休まれますか?」

「そ、そうするよ……」


兄はよろよろとしながら自室に戻って行った。
いつもよりも数段酷い有り様に清水も心配そうにしている。


「お嬢様、悠人様に何をなされたので……?」

「……私がやったと決めつけるのはやめていただきたいですわ」

「あの悠人様がお嬢様様以外の事であぁも取り乱すとは思えませんでしたので」


清水は私が小さい頃から仕えていたからか兄の事は良くわかっているようだ。
だが、私を咎めるような視線を送ってくるのは勘弁して欲しい。


「……天也との婚約をお認めになって下さるようにしただけですわ」

「……………悠人様のお病気はそれほどまでに重症だったのですね…」


周りにいた他の使用人達まで頭を抱えている始末。
皆にとってもそれほどに兄の病気は厄介らしい。


「清水、悪いけれどお母様に連絡をお願い出来るかしら?
内容は勿論、婚約の件で」

「畏まりました、お嬢様」


私はそのまま自室に戻ると着替え、ベットにダイブした。

昨日、まる1日考えた。
天也の事について、そして愛音に気付かされた事について。


一昨日、文化祭が終わってから愛音に相談した時、言われた事があった。


『咲夜は僅かでもそんな気持ちが無ければキッパリと断ります!
それはまだ知り合って間もない私でも分かることです。
咲夜が断らなかったという事はきっと好きなんじゃないんですか?
きっと咲夜は気付いて無いだけです!』


でも、私は恋愛感情なんて分からない。
前世でも恋なんて1度もした事が無かったから。

確かに、時々ドキッとする事はあったし、カッコイイと思う事もあった。
……だけど、本当に私は天也の事が好きなのだろうか?
この感情は本当に恋なんだろうか?

愛音に言われたあともそんな事を思っていた。
だが、それを見透かすように愛音は言ったのだ。


『なら、もしも奏橙さんや先輩から告白されていたなら咲夜はこんなに悩みましたか?』


そう言われてしまった。

…私は、きっと奏橙や先輩から告白されたのであればキッパリと断った。
そう伝えると愛音は笑顔になった。


『…もし、天也が他の方に告白していたら咲夜はどう思いますか?』


そんな愛音の言葉の通りに想像してみると何故かモヤッとした。
胸がギュッと締まるようなそんな苦しさだった。


『それが恋です。
咲夜は天也の事が好きなんです!』


すると、何故か先程とは違いストンと胸に落ちた。
恋をしている。
それも、あの天也に対して。
そう考えるととてつもなく恥ずかしく感じた。



「私が、天也に……ううぅぅぅぅ……」


私は天也の事を思い出すと顔を染め上げ近くにあった枕で顔を隠した。
すると、トントントンとノックの音が聞こえ慌てて体制を直した。


「どうぞ」

「失礼致します。
お嬢様、奥様から後程詳しい話を聞きたいので電話をするとの事です。」

「分かりました」


きっと途中で父が乱入してきて私の話し相手は変わるのだろうな……などと思い少しぐったりするのであった。

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