チェガン

林檎

守る力

〜時間は少し遡り〜

「クッキーすごく美味しいです」

リヒトは招かれた部屋の中で紅茶とクッキーを頂いていた。

「お口に合って良かったですわ」

そう言い、優雅に紅茶を飲むカルムの姿は本当に綺麗だ。見惚れてしまう。

「あの。一つお伺いしてもよろしいですか?」

そう言ったのはアーノだ。
アーノもすごく綺麗な人だ。だが、片目を布で隠してしまっている。なにか意味があるのだろうか。

「はい!答えられることでしたらなんでも答えます!」
「ふふ。頼もしいわ。」

あ、笑った。本当に綺麗な人だ。羨ましい。

「あなたはなぜここにいるのですか?」
「...やっぱり、私みたいな力がない部外者が居ては迷惑なのでしょうか」

何も出来ない私がいくら頑張ってもみんなのようには出来ない。迷惑をかけてしまうだけだ。

「迷惑ではありません。危険な世界に足を突っ込んでしまうのが少し気がかりなのです」
「危険な世界...ですか」
「えぇ。この街に何が起こっているのかはもうお聞きにはなりましたか?」
「はい。さっきアルカから聞きました」
「でしたら、なぜここに?命すら危ないのですよ?」

なぜなんだろう。アルカやガブの話を聞いたらほっとけなくなってしまった。
この街は今までもこれからもこの人たちによって守られていく。でも、それをこの人達だけに押し付けていいものでは無い。そんなことをしてはいけない気がした。
リヒトは少し考えた。

「嫌だったからです」
「何がですか?」
「話を聞いたのに、このまま人任せのまま護られていくのが。それで護られてても嬉しくないんです!」

リヒトは三人を見た。驚いているような顔をしていた。
自分勝手なことかもしれない。折角護ってもらえているのにそれが嬉しくないなど。

「ごめんなさい。自分勝手なのは分かっているんです。それでも、私はただ何も知らないのは嫌なんです。力はないですけど、それでも皆さんの力になりたい。皆さんの助けになりたいんです!」

そう言うと三人は顔を見合わせ笑った。

「それがあなたのここにいる理由かしら?」
「は...はい」
「嬉しくない...ですか。それは少し驚きました」
「ご...ごめんなさい」
「謝らくてもいいのよ?私達はあなたの言葉が嬉しいの」

嬉しい?どういう事?

「あなたはまだあまり深く知らないアルカやガブをほっとけない。私たちの力になりたい。その言葉。私たち『命を懸ける者たち』からすれば、最高の言葉よ。ありがとう」

命を懸ける者たち。
そうだ。この人達は今までもずっと戦ってきたんだ。どんなに辛くても街を守るために頑張ってくれてたんだ。私が何も知らない時も。ずっと。
そう思うと自然と涙が出てきた。
三人は驚いていたが、出てしまったら止まらない。
すると、カルムが背中を摩ってくれて、アーノは頭を撫でてくれた。アルバはそのまま見守ってくれた。みんなの優しさに涙が止まらない。
本当にこの人達はすごい人なんだ。こんなに優しくて強い。絶対に力になりたい。この人達が辛い思いをしないように。

❁❀✿✾ ❁❀✿✾ ❁❀✿✾

「すみません。いきなり泣いてしまって」
「気にしないで。あなたは人の心を読み取るのが得意なのかしら?」
「え?いえ...そんなことは無いと思いますけど...。」

何故いきなりそんなことを?

「そう。いえ、あなたと話していて思ったことがありまして」
「思ったこと...ですか?」
「えぇ。あなたは他人の事を自分のように考え、本気で接してくれる。それがあなたの良いところ。ある意味、それは私たちと同じ力とも言えるかも知れませんね」
「力...そう...だと嬉しいです」

私は何も出来ない。だからこそ、何事にも本気なんだ。こんなの力ではない。でも、私の本気が他の人にも届いてくれたと思うと凄く嬉しい。

「あの。力の話しついでに少し、リヒトさんのこれからについてもお話しませんか?ここでやっていくのであればそれなりに戦闘技術も必要になってくるかと思います」

そういったのはアルバだった。
確かに、このまま戦闘ではこの人たちに護られていくのであれば何も変わらない。せめて、自分の身を護れるようになれば。

「リヒトさんは運動は得意かしら?」
「いえ。そこまでは...。」
「頭を使うの好きだったりしますか?」
「逆に苦手です」
「短距離走、長距離走とかはどうです?」
「どちらも遅いです...。」
「...手先は器用ですか?」
「......すいません...。」
「そうですか」

三人考え込んでしまった。こう考えると本当に取り柄がないな。私。
この人達に申し訳ない。

「そう言えば、ダンスが得意と言っていなかったかしら?」
「あ、はい。得意という程でもないんですけど、好きです。 」
「でしたら、体を動かすことはお好きで?」
「はい。」
「でしたら、これはどうでしょうか?」

そう言ってカルムが袖から出したのはナイフと同じくらいの大きさ。先が尖っていて持ち手もある。

「これはクナイですわ」
「クナイ?って、あのよく忍者とかが持っていそうな?」
「そうよ。」

クナイ。でも、これって対人向けのもので一体一で戦うものでは?

「今持っているのがこの大きさのものですが、もう少し小さいものがあります。飛びクナイと言うものなのですが、それを使うのはどうでしょうか?」
「飛びクナイ?」
「棒手裏剣とも言うかもしれません。手裏剣のように投げて仕留めるものです」

投げてって...。仕留められるほど強くなんて投げれないですよ...。

「仕留めるまでは考えなくて宜しくてよ。誰かの援護が出来ればと思ったのです。それに、いざとなれば自分を護ることも出来ますわ」

援護。それが出来れば私もみんなの力になれるかな。

「ですが、やはり上手く扱えるようになるには練習しなくてはなりません。それに、私も持っているだけで扱える訳では無いの」
「そうなんですか?なら、いったい誰が...」
「武器の扱いでしたらソフィアさんが1番得意ですわ」

あの人に教わるの?
死ぬ未来しか見えませんが...

「ナイフと同じ使い方なのであればアルカさんも教えられるのではないでしょうか?」
「確かにそうですわね。ですが、この所ゲートが開きっぱなしで忙しそうよ。難しいと思いますよ」
「なら、やはりソフィアさん...」

三人は深刻そうに話している。ソフィアは一緒にいる人でも怖いのかな?

「リヒトさんほソフィアさんに教わることでよろしいのかしら?」
「え...あ...他には居ないんですよね...?」

いきなり話を振られしどろもどろになりながら答えた。
出来れば違う人の方がいいが、わがままも言っていられない。

「そうね...他にいるかしら?」
「難しいですね...。」
「ソフィアさんとアルカさんの二人だとどちらの方が宜しくて?」

やっぱりこの2人か...。なぜこの2人との絡みがやたらと多いのだ。

「......アルカ...の方が怖くないです...。」
「そういう決め方なのですね。おもしろいですね」

控えめに笑うアルバ。いっそ思いっきり笑ってくれ...。

「でしたら、アルカさんに...。」
「俺がなんだ?」

いきなり声がしてリヒトは勢いよく後ろを見た。そこにはアルカがドアを開けて寄りかかっていた。
いつ入ってきたんだろ。

「リヒトさんが少しても力になりたいということでクナイをオススメしたのです」
「クナイか。悪くは無いな」
「でしょう?ですが、クナイを主に使っている人っていないので教える人に困ってまして」
「それで俺か?」
「はい。ナイフを使う応用で教えてあげることできませんか?」

「う〜ん」と首を傾げるアルカ。いきなりそんな事言われても困るだろう。
それに、練習している時絶対にバカにされる...。

「俺より、他のやつの方が教えるの上手いだろ?アルバとかどうなんだ?」
「私はちょっと...。使い方を理解していませんので」
「かるねぇ〜は?」
「教えられるほどではないので」
「アーノ...」
「無理です」

「言葉を遮るほどかよ...」そしてまた考えてしまう。なんか、申し訳ないです。
協力すると言ったのに迷惑をかけている...。

「お前的には避けたいだろうがやっぱりソフィアが無難だな。」
「やはり、そうでしょうね」
「あぁ。それに、ソフィアとは抱き合ってた仲だし、問題ないだろ」
「な!!」

何故今!!出す!!
いきなりあの時のことを言われ咄嗟にことが出ない。
リヒトが困っていると楽しそうな声で三人が飛びつくように聞いてきた。

「あら!そうなの?」
「違います!」
「ソフィアさんが...余程気に入られたのですね」
「違います!!!」
「リヒトさんはソフィアさんのお気に入りなのですね」
「違うんだってば!!!」

何故人の話を聞かない!!
違うんだよ!!
この事態にした張本人はお腹を抱えて笑ってる。
本当に蹴飛ばしたい。

「アルカのバカ!!」
「いって!!」

アルカの背中を思いっきり殴ってやった。嘘を広めるなど許せない!

「冗談はここまでにして、あとはソフィアさんをどのように説得するかですわね」

そういったのはカルムだ。
冗談と分かっていたのなら最初から乗らないで欲しい。

「冗談だったのですか?」
「冗談だったみたいですね。」

真顔で言うアルバ。微笑みながら言うアーノ。この二人の場合は本気で言っていたのか...。

「馬鹿力にクナイはやばい。クナイが先に折れる」
「折れるか!!!」

アルカは背中をさすりながら立ち上がる。本当に人を馬鹿にしないと生きていけんのかお前は!!

「ソフィアさん。今、どちらにいるのですか?」
「自分の部屋だろ。さっきまで図書室にいたわけだしな。本持ってこもっているはずだ」
「なら、行くなら今ってことですわね」

そう言うと三人は立ち上がり部屋を出た。リヒトも慌てて部屋を出ようとしたが、アルカがその場にとどまっていた。

「行かないの?」
「行くところがあるから行ってろ」

「ふ〜ん」と曖昧な返事をしリヒトは三人の後ろを着いて行った。

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