チェガン

林檎

犯人

  リヒト、エレナは警察の人に紛れて見ていた。
  話も聞いているのに犯人が誰だかわからない。
  だが、アルカは分かったのか「犯人を当てよう」などと軽い感じに言うため、本当にわかったのか不安になる。

「本当に分かったのかよ。嘘くせぇーな」
「とりあえず話を聞きましょう?なにかの参考にはなるんじゃないかしら」

  二人は信じていないようだ。
  アルカが犯人を分かったことが。
  だが、それでも余裕の笑みを崩さないアルカは話を進めた。

「では、犯人を当てますね。」

  その言葉にその場にいる人達全員に緊張が走った。
   
「この場でアリバイがなく。田辺さんを呼び出し殺すことが出来た人。それは...あなたではないでしょうか?」

  アルカの指先には被害者の一人が目を見開いて立ち尽くしていた。

「平野翼端さん」

  アルカの静かな声はこの場の空気を一気に変える引き金となった。

「な!なんで僕が!そこまで関わっていない僕がなぜ彼女を殺さなくてはならないのですか!!」

  声には焦りと怒りが混ざっている。
  冷や汗をかきながらアルカに向かって声を荒らげた。

「そこまで関わっていない??冗談でしょ?」
「冗談...だと?」
「そうですよ。冗談だろうが嘘だろうが。どっちでもいいんですけどね。早く自白してくれませんか?」
「ふざけるな!自白も何も僕は何もやっていない!やっていないことを自白など出来るわけないだろ!!」

  冗談と言われて頭にきたのか、先程まで大人しかったのが嘘のように声を荒らげ、今にもアルカに掴みかかりそうな程だ。
  だが、怒りを向けられている本人は余裕そうな顔をしている。
  何となく、相手を嘲笑っているようにも思える表情。

「あなたがどんなことを言おうと事実は変わらない。なら、早めに本当のことを言った方がみんなの為でもあり、自分のためでもあると思いますが?」
  「そもそも、僕が犯人である証拠はあるのか?まさか、ないにも関わらず僕を犯人扱いしているんじゃないだろう?!」
「もちろんありますよ。提示させていただきますね」
「何?!」

  そう言うとアルカは刑事さんに歩み寄り何かを受け取っている。
   そこまで近い距離で見ている訳では無いためリヒトは何をしているのかがわからない。
  でも、それはエレナも同様だ。
  一体、証拠とはなんなんだろうか。

「まずはこの写真を見ていただきましょうか」

  そういうのと同時に三人の容疑者の前に一枚の写真を出した。
  そこに映っていたのは田辺さんの死体だ。

「梓桜...」
「なんで今更そんな写真を!」

  今にも泣き出しそうな高山さん。
  怒りを抑えきれていない神永さん。
  
「落ち着いてください。何もさすがの僕だって無駄に写真を出したりしませんよ。よく見てください。」

  死体が写っている写真をよく見てくださいとは。変な意味で流石と思った。

「何があるってんだよ...」

  三人が見ている横からアルカが聞いた。

「何か、お気づきになるところはありませんか?例えば顔...とか」

「あ!」

  最初に声を出したのは高山さんだった。

「なんとなくだけど、薄く化粧してるのかな」
「その通り。流石同じ女性なだけにすぐ分かりましたね」

  確かに先程死体を確認しときに、化粧をしている痕跡が残っているとアルカが言っていた。
  だが、それがなんなんだろうか。

「それがなんだっていうんだ」
「そうだ。それで僕を犯人扱いしたのかい?」
「話は最後まで聞いてくださいよ」

  笑を崩さずに二人を制止した。

「まだ、話は終わってません。確か田辺さんがお亡くなりになられたのは午前四時。なのに、この人は化粧をし服も見たところ普段着では無いと思いますが。どうですか?高山さん」

  いきなり話を振るわれ戸惑っていたがすぐに何かを思い出すような素振りを見せた。

「確かに。この子がスカートを履くなんてあまり無いかも。普段着ではないですね」
「やはりそうですか。では、次です。なぜ午前四時に化粧もしてオシャレ着をきてここにいたのでしょう?」

  普通なら考えられないだろう。
  午前四時なんてまだ眠っている時間だ。そんな時間になぜあそこにいたのか。プラス、化粧などをして。

「考えられる理由2つ。1つは職業柄、外に出る際はどんな状況でもすっぴんで出るのは嫌だった。」
「確かに、梓桜はどんな時でも化粧ポーチを持ち歩いて出かけたり、家でも念入りに化粧に力入れてたかも」
「次に二つ目。この人をやった後に犯人が化粧をしたか」
「...意味あるのか...?それ...」

  そうだ。
  前者ならまだ納得はできる。が、後者は理解できない。
  なぜ、犯人は殺したあとにそんな手間のかかることをしなければならない

「確かにそうですよね。普通に考えたら前者の方が納得がいきます。そこで僕は先程の死体と彼女が生きていた頃の写真を見比べました。」

  そして、もう1枚の写真を取り出し三人に見せた。

「何か違いがあるのか?」
「......。」

  先程から平野さんは一言も喋っていない。
  リヒトにはそれが何となく変に感じた。

(なんなんだろう...さっきから平野さんって人。辛そうな顔をしている。犯人に言い当てられたからとかじゃない気がするけど...)

「高山さんなら気づくところないですか?」
「気づくところって...私もそこまで化粧について詳しいわけじゃ...あれ?」

  なにかに気づいたのか2つの写真を見比べている。

「どうかしましたか?」
「いや...でも...」
「これに間違いはありません。言ってみてください」

  高山さんがアルカに確認するような目を向けたあと、自信なさげにこちを開いた。

「口紅...何となく違う...気がする...」

  アルカは何を思ったのか口元に笑みを浮かべた。

「僕もそれをおもいました。なぜでしょ?」
「ただ単にたまには違うものを付けてみたかったとかじゃねぇーの?」
「確かに、それも考えられます。ですが、彼女の性格上それはないかと」
「なんでだ」

  やっと口を開いた平野さんは苦悶の表情を浮かべていた。

「恐らく彼女は几帳面な性格。肌も綺麗ですし髪も手入れをしっかりしているように見えます。そのような人が気分でいつもと違うものを付けますかね?」

  そこまで見ていたのか。
  リヒトは関心してしまった。
  
「そういう時もあんだろう。きちんとした人でも時々は違うことをしたくなることもある。あと、これが証拠となんの関係があるんだ」
「関係ありますよ。彼女についてはあなたに聞くのがやはり1番早いでしょう」

  アルカの目線の先には高山さんが立っている。
  何のことかわかったのか表情はしっかりしている。

「梓桜は高校の頃から規則をしっかり守って、気分では行動しないです 。それに、化粧についても今の職場につくためにたくさん勉強をして自分なりに色々工夫をしていました。いつも化粧自体は少しは変えていましたが、口紅だけはいつも同じのを付けています。」

  しっかりとした口調に嘘は付いていないとわかる。
  そんなに大事な友達を失ったのかと考えるだけで胸が痛くなる。自分だったら絶対に耐えられない。

「なぜいつも同じ口紅を?」
「亡くなった姉がアドバイスにと渡したのが彼女が愛用している薄いピンクの口紅だったんです。」
「そう言えば彼女には姉がいましたね。仲は良かったのですか?」
「よかったと思いますよ。二人でよくメイクについて話してたのを見ていましたから」
「なるほどねぇ〜...」

  少しか考える素振りを見せたがすぐに顔を高山さんへと向けた。

「彼女は以前まで付き合っていたとか口にしていませんでしたか?」

  なぜいきなりそんなことを。
  今回の事件には関係なさそうだが。

「高校卒業した辺りですかね。彼氏が出来たってすごく喜んでいました。ですが...」
「ですか?」
「最近、彼氏について悩むことが多くなっていたかと思います...」
「ほうほう。悩みですか」
「それがなんの関係があるんだよ。証拠もクソもねぇーじゃねぇーかよ」

  我慢しきれなかったのか、神永さんが苛立ちの声をあげた。
  そのあとに平野さんも便乗した。

「証拠がないから時間稼ぎですか?僕の事を犯人扱いするんだったら早く出せばいいじゃないですか!」

  苛立ちからなのか後半の方は怒り声も含まれている感じだ。
  大丈夫なのかとアルカの方へと顔を向ける。
  余裕な感じだ。
  一体、何を思っているのだろうか。

「この話が無意味だったかは後にわかりますよ。」
「何を言ってーー」

  平野さんの言葉を遮りアルカは笑みを浮かべながら言った。

「あなたは〈顔見知り程度〉ではないですよね?」

  いつもより低い声で言った。
  空気が凍りつくのを感じる。
  みんなの視線は平野さんへと注がれる。

「な...何を言っているんだ!彼女とはあまり合っていない!少し挨拶をする程度だ!」
「挨拶をする程度ですか?」
「そうだ!!」
「そうですか」

  そういうアルカに対し、今までとは違う恐怖があった。
  殺気とは違い、少しだけ喜びのような感情がこの冷たい空気に入っている。
  一体なんなんだ。

「挨拶する程度の関係。あなたはそう言いました」
「だからなんだって言うんだ!!余計なことをペラペラ喋りやがって!」
「これを見ていただきましょうか」

  アルカが刑事さんに渡されたものはピンク色のケースに入っているスマホだった。

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