チェガン

林檎

仕事

  アルカは容疑者と思われる三人の前に警察と一緒にいた。

「この三人が容疑者?」
「そうだ。三人ともアリバイを説明できる人がいない、それに被害者とも知り合いらしい」
「なるほど...」

  真剣な顔で話しているアルカの後ろでエレナとリヒトは邪魔にならないように動かないで待っていた。

「まず、今までの状況と証言を知りたい。資料とかないの?」
「それなら...ちょっと待ってろ」
「よろしく〜」

  恐らく刑事さんと思われる人は、ガタイもよく背もアルカと顔半分くらい違う。が、いつも通りのアルカにリヒトは「さすが」と思わざるを得なかった。
 その後、資料を持ってきた刑事さんがアルカに渡す。
  アルカがそれに目を通していると容疑者の1人が手を挙げた。

「あの...」

  被害者の1人、高山静保。会社員で被害者とは高校からの友達だ。

「警察の方は分かりますが、あの方達はどちら様でしょうか...?」

  恐らく、アルカ、エレナ、リヒトのことだろう。
  慌てて事情を説明しようとリヒトが口を開けようとしたら近くにいた刑事さんがアルカに指を指し説明した。

「こいつは、高校探偵だ。実力は保証する。安心しろ」
「高校生に任せていいのかよ...」

  そういったのは、二人目の被害者。
神永湊(36)。写真家。偶然近くを通っていたら悲鳴が聞こえ駆けつけたら被害者が首を吊って死んでいたらしい。
被害者とは顔見知り程度。

「今までも難事件を解決してきた実績がある。問題はない」

  言い切った刑事さんに神永さんが文句を言おうと口を開く。

「こっちは、急いでんだ!高校生なんかに任せてたら日が暮れちまうよ!」

  被害者達の言い争いの中、当の本人は先程の資料から一切目を話さずに読んでいた。

(周りの声、聞こえてないのかなぁ...)

  すごいのかすごくないのか分からないと思いながらアルカを見ていると隣から声をかけられた。これの犯人はもちろんエレナだ。

「私たち、本当にここにいていいのかな」
「わかんない...でも、何かあったらアルカが何とかしてくれるんじゃないかな...」
「だと、良いんだけど...」

  不安の声を漏らすエレナ。
  リヒト自身もこんな経験がないため不安はある。

(一体、何を考えいるの?アルカ...)

  そう考えていると、警察たちの話がアルカから、私たちに移っていたのに気づく。

「あの人たちも探偵なんですか?」

リヒト達に指を指していたのは被害者の三人目。平野翼端(31)。仕事が長続きしないためバイトをしているらしい。が、最近はあまり家を出ていない。

「あの子達は探偵が連れてきた。部下みたいなものだ」
「な?!」

  咄嗟に否定してしまいそうになるのを堪えた。

(誰が部下よ!!私たちは何もわからずに連れてこられただけだっての!!)

  文句は心の中で抑えておいた。が、前の方には肩を震わせ笑いをこらえているアルカ。
  持っている資料を握りつぶしそうな勢いだ。
 リヒトは拳を握り怒りを必死に抑えた。

(後で!覚えといてよね!!アルカのバカ!!!)

  少し落ち着いたアルカが私たちに手招きをした。
  リヒトとエレナは顔を見合わせた後、控えめにアルカの近くに行った。

「さて!資料は読んだが、本人達からも直接聞きたいですね。あと、この資料が本当にあっているのかも確認したい。ひとまず、僕の質問に答えて頂けますか」
「何、てめぇーが仕切ってんだ!こっちは、急いでるっつってんだろうが!」

  神永湊さんがアルカに向かって怒鳴りつけた。
  リヒトとエレナは怖くて声すら出なかった。が、アルカは慣れているのか、いつもと変わらない顔で話していた。

「急いでるんだったら、こんな意味の無い言い争いをしない方がいいんじゃないですか?こんなことを言ってる時間があるなら僕の質問に答える方が効率的だと思いますが」
「高校生のガキが偉そうに言ってんじゃねぇーよ!!」

  アルカに掴みかかり言い放った。そこで、警察官が止めにかかりアルカから手を離させた。

「このひとは、探偵です。実績も残しています。どうか協力をお願いします」

  先程とは違う優しそうな警察官だ。

「ちっ...さっさと済ませろ」

  そう言うと、神永さんは元の位置に戻った。

「んじゃ、さっさと済ませたいんで質問は速やかに答えてくださいね」
「くだらねぇ質問したらぶん殴るからな」
「了解です」

  いつもと変わらないニヤついた笑顔で話しているアルカ。

(鋼メンタルとかじゃなくて、ただ単に馬鹿なだけなのか慣れているのか...分からないわね...)

  リヒトは呆れながらアルカの方を見ていた。
  アルカの説明と質問を聞いていると今回の事件がどんななのかリヒトも理解出来た。

  今回殺されてしまったのは、「田辺梓桜」(26)職業メイクアップアーティスト
  首元にはチェーンのあとが残っており、それで首を絞められ死亡と予測される。
  死亡時刻は大体、朝方の4時ごろ。
場所は、踊華公園の中心にある桜の木。そこにつらされていた。
  その日は友達の「高山静保」さんと出かける約束をしていたが、彼女が待ち合わせの時間になっても来なかったため連絡。だが、繋がらないため先に行ったと思い、行く予定だった「踊華公園」を回っていると吊るされた彼女を発見。
  叫び声を聞きつけ駆けつけたのが「神永湊」さん。目にいち早く入ったのは吊らされている彼女。携帯を取り出し警察に連絡。
  その後に「平野翼端」さん。泣いている彼女をなだめるように近づいた。

  これが、今回の大体の流れらしい。

「なるほどねぇ〜...」

  アルカが呟くように言った。

「んじゃ、三人は田辺さんとは顔見知りではあったんですよね?」
「だから!そう言ってんだろうが!!何度も同じことを繰り返すんじゃねぇーよ!」
「僕が聞いたのは初めてですので。」

  ニコニコしながらそう言った。
  今思えば話し方がアルカでは無い。
  猫かぶりなヤツめ。

「それで、1番最初に見つけたのがあなただったと」

  指を指した先は高山さんだった。

「...はい...」
「なるほどほどほど...」

  (何回『ほど』言うのよ...)

  思っていても口には出さない。今は、そう言う状況ではないことは分かっている。

「刑事さーん!死体ある?見たいんだけど〜」
「別にいいが...その軽いノリはどうにか出来んのか...だから、舐められるんだろう」

  眉間に皺を寄せアルカに言った。が、アルカは気にする様子なくニコニコしながら言った。

「舐めるんだったら舐めればいいじゃん。僕は犯人を当てられればそれでいい。僕のやることは変わらない」

  そう言うと刑事さんが小さいため息をした後に「来い」と一言言った。
  アルカはその後ろをついて行く。リヒトたちはとりあえずアルカから離れないように、その後からついて行く。
 
 行った先には青いシートがあり、おそらくその下には死体があるだろうと予測できる膨らみがあった。
  刑事さんがめくると案の定、女性の死体があった。

(生で初めて見る...ずっとは見ていられない)

  そう思い顔を背けるとエレナが死体をじっと見ている。

「ど...どうしたのエレナ...」

  おそるおそる聞いてみるとエレナが口を開いた。

「綺麗な死体だなって思って」
「え...は...?」

  思いもしない言葉にリヒトは言葉を失った。

「ど...どうしたのエレナ...頭打った?」
「う...打ってないよ!!酷いよリヒト!」
「だって...」

  『ありえない』と言おうとしたがアルカによって遮られてしまった。

「何話してんだおめぇーら」

  いつの間に来たアルカにエレナは自ら口を開いた。

「あの死体。綺麗だなって話してたの」
「それを言ったのはエレナだけでしょ!!」

  その言い方だと私までそう言ったみたいな言い方じゃないと言って弁解しようとした。...が、アルカの方が少し早かった。

「...ゴホン...あっと...ま...まぁ〜人にはそれぞれ趣味があるからな...うんうん...」

  頷き、1人で解決していた。

「違うんだってば!!!」

  ーーーやば

  そう思った時には遅く、リヒトの声は周りの警察官の人達にも届いた。

「いや...これは...あはは...」

  何とか笑顔で乗り切ったが、もう冷や汗ものだ。
  アルカは案の定とも言うべきか、お腹を抱えて笑っていた。

「笑うな!!」

  小声でアルカの頭をどついながら叫んだ。

「いってえーな...」
「あんたが悪いんでしょ!!」
「何もしてねぇーだろ!」

  小声で言い争っている。
  だが、すぐに死体に目を向けた。

「まぁ〜でも、確かにあの死体は綺麗だな.........綺麗すぎるほどに...」
「え?」

  一瞬、アルカにもそんな趣味があるのではないかと疑ったが、どうやらそうではないらしい。

「化粧もしてるあとあるし、服もあまり乱れていない。もみ合った形跡はないな」

  確かに。
  もう一度見ると、首のところ痣と手首に切り傷以外は目立ったところはない。
  自殺と言ってもいいだろう。

「どうして殺人事件と断定出来るんだろう」
「確かに。言っていいのかわからないけど、自殺って考えてもいいと思うけど...」
 「そう見せるために〈わざと〉綺麗に見せている可能性もある。」

  そう言うといつもの胡散臭い笑みを浮かべた。

「実に、単純で芸のないトリックだな」

  そう言うと先程の刑事さんと所へと行ってしまった。
  リヒトとエレナは立ち尽くすしか無かった。

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