チェガン

林檎

イタズラ

「それで..野暮用って...なに...?カルロ...」
「それはなぁ〜」

  そう言うとカルロと呼ばれた少年はアルカの方へと足を運んだ。

「もしかして...」
「いつもの。本当に野暮用ですわね」

  二人は何をしに来たのか察したため、ため息をついた。

「アルカ〜」
「カルロー」

    お互いが名前を呼び二人は拳同士を合わせ挨拶した。
  仲が良いらしい。

「んで、なんでお前がこんなところにいるんだ?」
「いや、その前に聞きたいことがあんだけどよ〜」
「なんだよ」

  アルカはキョトンとして聞いた。

「もしかして、こいつお前の女か?」
「「は?」」

  アルカとリヒトはいきなりのことで素っ頓狂な声が出た。

「何を言ってんだお前?」

  怪訝そうな顔でアルカが聞いた。

「あれ?違ぇーの?」
「お前、俺のさっきの説明聞いてなかっただろ」
「おう」
「...だろーな」

  リヒトはいきなりのことでまだ真っ白になっていた。

「いい加減戻ってこい。」

  その言葉と同時に額にデコピンを食らわされた。それでリヒトは「はっ」と戻ってきた。

「なんだ、違ぇーのかよ〜。つまんねぇーなぁ〜」
「悪かったな。」
「おう!もっと謝れ」
「よし、みんな帰んぞ〜」

  カルロの言葉を綺麗にスルーしたアルカは屋敷の方へと歩こうとした。
  それを当然カルロが止めた。

「待て待て。つれねぇーこと言うなよ」

  軽い。
  口調や行動。一つ一つがどこぞのヤンキー的な感じだ。
  だが、何となく人の心の中に入ってくるような。そんな感じの人だ。

(この人。何となくアルカに似てる気がする)

「一応用事があるんだって」
「その用事とやらはなんだ?言いたいことは手に取るように分かるが情で聞いてやるよ」

  体を向き直して聞いた。
  偉そうな口調にはもう突っ込まないと決めていたが、心の中では呟かさせて頂こう。

(アルカって人をムカつかせる天才なんじゃないの...)

「お前の思ってることも手に取るように分かるけどな。俺は天才じゃねぇーからな」
「え?」

  リヒトは心を読まれ驚いた。

「べ...別にそんなこと思ってないし!」
「ほぉ〜、そうかそうか。お前は俺が天才だとぉ〜?ふぅ〜ん」
「だから!そう思ってないってば!!」
「ほうほう。俺は別に『何の』天才かは言ってなかったけどなぁ〜。お前がムキになるってことは俺のことをバカにしてたんだなぁ〜」
「え?!や...ちが!」
「こいつ。時々カマかけてくるからなぁ〜。油断してると秘密まで喋っちまうからきーつけろー」

(最後、棒読みじゃないですか)

  不貞腐れながら黙っていた。これ以上会話を続けていると余計なことまで言いそうだ。

「んでよ、用事ってのは。まぁ〜野暮用だな」
「んじゃ、またなぁ〜」

  体の向きを変え屋敷へ戻ろうとするとまたカルロがアルカを捕まえた。
  流れるような動作。

「待て待て。最後まで言わせてくれよ〜。な?」
「お前の野暮用はいつも同じだろ。今回もそうだろうが」
「うん」
「......少しは否定する姿勢くらい見せろや...」

  アルカは呆れながらカルロに向き直し顔を上げた。
  アルカが真剣な顔をするのと同時に空気が変わる。
  緊張感に似た〈何か〉がこの場を包んでいくような感じだ。
  普段ふざけている分、他の人より空気を変えやすいのだろうか。

「俺は絶対にラッヘには入らねぇー。俺はシャインでこのままヴェルターを続ける」
「だから、俺たちのところでもヴェルターの仕事は出来る。もちろん俺たちのためにな」
「断る。俺はお前達のやり方には反対なんだ」
「なんでだよ。お前だってベーゼを憎んでるはずだろ。偽善者を装ってもいつボロを出すかわからん。このまま俺たちのところへ来い」
「何度来ても無駄だ。」
「どうしてもか?」
「どうしてもだ」

  二人の会話を聞いていて次から次へと聞いたことのない言葉が出てきて話についていけない。

(よく分からないけど、カルロって人はアルカを勧誘してるってことかな。それをアルカが断ってる...なんでだろう?)

「とりあえずもうこんなことでここまで来んな。お前らがどんだけ暇だろーと俺たちは忙しいんだよ」
「ケチくせぇーな。そもそも、俺たちのやり方のどこがダメなんだよ?意味わかんねぇ〜」
「だろーな。とりあえず、俺たちシャインとお前達ラッヘのやり方は根本的に違う。そもそも敵対視している仲だろ。」

  二人は真剣な顔でお互いをみた。

「勿体ねぇーよ」
「あ?」
「お前の力をこんなところに置いておくのは勿体ねぇー。宝の持ち腐れだろ。」
「もういっぺん言ってみろ。さすがのお前でも許さねぇーぞ」

  ゾクッ...

  リヒトは少し離れたところから会話を聞いていたがそれでもアルカの放つ殺気を感じ寒気がした。
  戦う力が無いと聞いていたが、絶対嘘だろう。
  こんな怖い空気を出せるのは戦闘中、その場にいないとできないんじゃないだろうか。

「怖いねぇ〜。まぁー、これ以上アルカを怒らせたらまずいから今日はこれでおさらばするわ。んじゃな。またいつか来るわ」

  そう言うと、そのまま向きを変え歩き出した。

「次はもっと違う用で来い」

  カルロはその言葉に返事するように片手を上げひらひらと振った。

「また、来ますわね...」
「やめて欲しいですわ、まじで...」

  アルカは一気に疲労感を感じた。
  こんなアルカ初めて見る。

「んで...おめぇーはなぜいきなり森に出やがった」

  目線だけをリヒトに向け威圧感のある声で聞いた。

「...。」

  リヒトは自分の気持ちと頭の考えの食い違いによりあの場から逃げるように出てきてしまったのだ。

(情けない...今回も何も出来なかったし、自分から仲間にしてってお願いした側なのにみんなに迷惑かけて...情けない)

  リヒトはアルカの問に答えることが出来ず俯いてしまった。
  すると、前に人の影が現れた。少し、顔を上げてみるとそこにはアドルが立っていた。

「アドル...」
「俺にはお前が今どう思っているのか。あの時なんであんなことを言ったのか分からないが、お前のやった事は間違ってないと思うぞ」
「...え?」
「屋敷で話し合っていた時、お前自分のことのように怒ってた。人のためにあそこまで怒れる人はあまりいない。そこはお前が誇ってもいいところだと思う。今回も自分が今何をすべきか一生懸命考え俺に伝えた。今成すべきを考え実行。間違えても問題は無い。間違えたらお前を止めてくれるやつがここにいる。」

  アドルはアルカ達に目線を向けた。

「喧嘩しても言い争ってもそれはお前が自分の意見を大事にしている証拠だろ?だから、あまり気にする必要はねぇーと思う」

  最後に「俺にはわかんねぇーけど」と付け加え屋敷に向かって歩き出した。

「......。」

  動かないリヒトにガブが近づいた。

「あれは...アドルなりの...励まし...何だろうね...」
「...うん」

  リヒトの心はすごく軽くなった気がする。重い枷が外れた感覚だ。
  心の中で「ありがとう」と呟きつつリヒトも歩き出した。
  それをガブが追いかけるように歩き出した。


  みんなは屋敷に戻り食堂に集まった。

「見ねぇーと思ったら先に戻ってたんだな」

  ヒュースとアルバ、あとアーノが座っていた。

「僕達の出る幕ではないと思いまして」

  優しく微笑みながら言ったのはアルバだ。、
  話したことは無いが優しい人なのだろう。

「んじゃ、また席につくぞ。」

  みんなは元の席に座った。

「んじゃ、さっきの続きだがアドルは一旦女に戻り事情説明。俺達の仲間になってもらえるか聞く。そのあとはそいつの返答次第だ。いいな。」

  みんなは小さく頷いた。リヒトも今回は頷いた。今はこれが最適なんだろうと思ったからだ。

「んじゃ、アドル。」
「分かってる...」

  不服そうに頷いた。
  アドルは目をつぶった。すると、白い光がアドルを包むように出てきた。そして、少し時間が経つと徐々に光は薄くなっていき真ん中に立っている人が見えるようになってきた。
  そこには、アドルではない。

「エレナ!!」

 ずっと待ち望んでいた人がたっている。
  リヒトは立ち上がりエレナに向かった。

「り...リヒト?!」

  いきなりリヒトが抱きついたことによりエレナは何が起こったのかわかなかった。

「エレナ!エレナ!!」

  リヒトは抱きつきエレナの名前を何度も呼んだ。、
  何が起こったのかわからないエレナは少し戸惑ったがリヒトの頭に手を乗せ微笑んだ。

「ただいま!リヒト!」
「おかえりなさい!!」

  満面な笑みでリヒトはエレナを迎えた。

(アルカはアドルとエレナを今は別に考えているのね。だからエレナに戻ってまた勧誘。無理やり入れたりしない。素直になったらいいのに)

  カルムは小さく微笑み、アルカの方に目を向けた。

「...あんだよ...」

  カルムの視線に気づいたアルカは小さく呟いた。

「いえ。なんでもありませんわ」

  そう言い、カルムは二人に近づいた。

「嬉しいのは分かりますけれど、今はやるべき事をやってしまいませんか?」
「あ...はい...」

  リヒトの様子を見てエレナは首をかしげた。

「何をやるんですか?」

  エレナはカルムに向かって問いた。

「長くなってしまうかもしれませんから椅子に座りましょう」

  手を椅子の方へ向かせた。

「エレナ座ろ?」
「うん」

  二人は椅子に移動して座った。
  リヒトはアルカの隣に。エレナはリヒトの隣に席についた。

「んじゃ、まず何個か質問させてもらうぞ?いいか?」

  アルカはテーブルに肘をつきエレナに聞いた。

「あ...は...はい!」

  緊張しているのかいつもより硬い感じがあった。

「緊張しなくても大丈夫だよ。」

  笑顔でエレナにそう言うと、小さく頷きアルカに向かい直した。

「お前の記憶はどこまである?」
「私の...記憶ですか?」
「あぁ」

  エレナは少し考えたあと周りを見渡し不思議な顔をした。

「どうしたの?」
「...私の記憶は...リヒトと学校から帰っている途中...そのあとは思い出せない...」
「え...」

  エレナは確か、その時にアルカと出会って屋敷に来てとまだアドルになっていない時だ。
  なんでその時から記憶が無いんだろうか。
  リヒトは疑問に思いアルカの方へと目を向けたらすごい顔で怒っていた。

「...ど...どしたの...」

  なぜ怒っているのかわからないリヒトにソフィアが口を開けた。

「してやられたな。最後の最後でこれだ」
「え?」
「...本当に...アドルは...アルカさんの事...嫌いなんだね...」
「そういうことですわね」
「何のことだ?」

  この場で何のことか分かってないのはリヒトとヒュースだった。

「恐らく、アドル君はこの女の子の記憶を自分の都合の言いように取ってしまった。」
「取った?」
「そう。でも、今回はアルカさんへの嫌がらせも入ってると思いますけど」
「いや...がらせ?」
「えぇ」

  アルバはそのあとは話さなくなってしまった。
   優しく教えてくれたアルバには感謝もあるがもう少し先の言葉も聞きたかったと思ってしまう。

「リヒト?どういうこと?」
「ん〜...どういうことなんだろう...」 

  考えてみたが嫌がらせ要素がよくわからない。

(記憶がない...嫌がらせ...自分に都合がいいように...下校途中...)

  今までのキーワードを思い出してみるがやはり分からない。
  すると隣から肩をつつかれた。

「こいつは俺たちとの記憶が全くない。そこから俺たちはこいつを仲間にしなきゃならねぇー。わかるか?」

(仲間に...しなくちゃならない...)

  リヒトはエレナにひとつ質問をしてみた。

「エレナは、この人達に仲間になってくれないかって言われたらどうする?」

  するとエレナは不思議な顔をしたあとすぐ答えが返ってきた。

「よく分からない。仲間も何もこの人達の事を知らないのにそんな事言う理由も分からないもん。答えようがないよ。」

  エレナは当たり前のような顔でそう告げた。
  その瞬間みんなが難しい顔をしているのか分かった。

「そういうことなのね...」
「さすがのお前でも分かったか」
「...はい...」
「これは...長期決戦になるぞ...」
「「...はぁ〜...」」

  エレナ以外のため息が中を舞い消えていった。

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