チェガン

林檎

今後

  リヒトは不貞腐れながら壁に寄りかかっていた。

「今のは...アルカさんが悪いと...思う...」
「俺かよ」

  ガブがアルカに対して指摘したあと、少し考えリヒトに向かって歩いた。

「ま...まぁ〜今回は俺も悪いとこがあったが、そこまで不貞腐れんなよ。疑問を持った点を人に聞けるのはいいことだと思う...ぞ...」

  リヒトは確かめるように少し顔を上げ、アルカを見た。
  言葉と行動があっていないのだが。

「そこまで笑わなくてもいいじゃない!!」
「悪い悪い」

  全然悪いと思ってないような感じでリヒトに謝った。
  
「絶対そう思ってないでしょ...」
「そんな事ねぇーって」
「うそ!」
「お!人の嘘が分かるようになったのか!成長したなぁ〜」
「ひどすぎる!!」

  二人が言い争ってると、ガブのところにヒュースとアドルが近づいて言った。

「こいつがアルカに言うことがあるんだと」

  ヒュースが指をアドルに向けてガブに言った。

「そんなこと...僕に言われましても...」
「あ!そっか!」

  そう言うと今度は、アルカに向かって走った。

「忙しねぇー...」
「いつもの事だから...」

  残された二人はボソッっと誰のも聞こえないような声で呟いた。

「アルカ〜あいつがお前に言いたいことがあんだってよ」

  先ほどと同じようにアドルを指しながらアルカに向かってヒュースは言った。

「お!そうか。分かった、今行く。」

  アルカはアドルの方へ行こうと足を前に出したが、途中で止めた。

「そう言えば」

  そうアルカが呟いたあと、クルッと体をヒュースとリヒトに向けた。

「ヒュース、こいつがお前に聞きたいことがあんだってよ。聞いてやってくれや」
「え?」

  アルカの指はリヒトに向けられていて驚いた。

「お!まじか!わかった!」

  ヒュースが元気に返事したあと、アルカはアドルの方に向かった。

「んで、聞きたいことってなんだ?」
「あ...えっと...」

  リヒトがさっきのことを聞こうとヒュースの方へ体を向けたが言葉が出てこなかった。
    今までヒュースを近くで見ていなかったこともあったため、今まで気づかなかった。
  思っていたより背が大きくてリヒトとは顔一個分。いや、それ以上の差があった。

「え...あ...」

  緊張と威圧感で言葉が出なかった。
  先程まですごい戦いをしていたのだ。強いことはガブから聞いて知っている。それで、この身長差。
  怖くないわけがない。
   リヒトが震えていると、ヒュースは不思議に思い周りを見回した。すると、なにかに気づいたのか手を椅子へと伸ばした。
  椅子を二つ用意し座った。

「どうぞどうぞ」

  笑顔で手を椅子に向けて言った。

「ど...どうも...」

  リヒトは戸惑いながらも椅子に座わると、変わらぬ笑顔を向けた。

「んで、何が聞きたいの?」

  ヒュースはリヒトが座ったことを確認し聞いた。
  リヒトはまだ緊張していたが、話し方が普通なので少し安心した。
  あと、普段からよく笑う子なのか自然と笑を浮かべている。

(変わった子かもしれないけど、すごく優しいのかもしれない。)

  そう思い話だそうと口を開いたが、それより先にヒュースが話し出した。

「俺に難しい事聞くなよ?そんなに頭良くねぇーし。あ!でも記憶には自信あるぞ!」

   キラキラした目と笑顔でそんな言葉を吐いたヒュースに対し、リヒトは頭の中には1つの単語が現れた。

(あ、この人可愛い)

   真顔のまま固まっているリヒトにヒュースは声をかけたり手を目の前で降ったりをしていたが全然反応がなかった。
  すると、アルカが声をかけた

「何やってんだお前?」
「こいつが固まって動かなくなっちゃった」
「お前何したんだ?」
「何もしてねぇーよ?」

  二人が話している時にガブがリヒトに話しかけた。

「何してるの?」

  ガブの声にハッとした。

「な...何って?」
「...ヒュースさんから...話は聞けたの?」
「い...いえ...」
「やっぱり...」

  リヒトが落ち込んでいるとアルカが小さい声で話しかけた。

「お前、ヒュースが可愛いとか思ってんじゃねぇーだろーな?」

   なぜアルカはこんなにも勘が鋭いのだろう。
   リヒトは何も言わずに目線だけをアルカから放した。

「ま、あいつの事を可愛いと思えるのは今だけだからな。そのうちそう思わなくなるだろーよ」
「え?」

  リヒトがなんでと聞こうと思ったがそれより先にアドルがリヒトの方をつついた。

「どうしたの?」

  何か言いたそうな顔で見られていた。
  なんだろうと思い聞いたら、一言だけ答えてくれた。

「...エレナに戻る...」
「...え?」

  その言葉を聞いた時、嬉しいような寂しいような。
  複雑な気持ちになった。
 
「ほ...ほんと?」

  アドルは小さく首を縦に振った。

「でも、なんでいきなり...」

  その問いにはアルカが答えた。

「交渉したんだよ」
「交渉?」

  顔をアルカの方に向き直し聞いた。

「そう、こいつが女になる代わりに俺たちはそいつを全力で守るってな」
「なに...その交渉...当たり前な交渉なんだけど...」
「仕方ねぇーだろ。こいつがそうしないと戻らねぇーってんだから。ま、それで女のこいつにあんなことやこんなことをもう聞き放題...」

  アルカの首筋に短剣が突きつけられている。
   いつの間にアルカの後ろに回り込んだのか。アドルが怖い顔であるかを睨んでいた。

「エレナに...変なことを聞くな」

  声色で本気で怒っているのがリヒトの方にまで伝わってくる。
  それに対し、アルカは静かに両手を上にあげた。

「変なことって何のことだい??」
「......。」
「黙っていたらわからないじゃねぇーか」

  アルカの挑戦的な目にアドルはイラつきを隠せないでいるが、それと同時にこれ以上は何を言っても勝てる気がしなかったのだろう。

「...ちっ...」

  アルカの首筋からナイフを離し、少し感覚を開けた。
  それを外から見ていたリヒトは何となく、アドルの方に目線を向けていた。
 それに気づいたらしいガブが問いかけた。

  「考え...事?...また...なにか...不思議に...思ったの?」

  隣からガブの声が聞こえた。すこしなれてきたが、まだ少し驚いてしまう。

「少しだけ疑問に思ったんだけど、アドルはアルカに対して手を挙げないんだなって思って。本当にむかついていたら殴ったりはするだろうなって思って。」
「...アルカさんの殴られてるところ...見たいの?」
「ち!違うよ!!ただ、今のは完璧アルカの方が不利な状況だったのに引いたのがアドルだったから」
「あ〜...なるほどね...」

  ガブはリヒトが何が言いたいのか少し理解した。その後、少し考えて提案してみた。

「じゃ〜...今から言うこと...アルカさんに...してみて...」
「え?」

  その後、ガブの話を聞いて驚いた。

「そんなこと...出来るわけないじゃない」
「やる...やらないは...君が決めればいい...でも、さっきの疑問は言葉で説明しても...分からないと思うよ...」

  そう言われてリヒトは悩んだが、自分なんかにアルカがと思いやって見ることにした。

「じゃ〜、はい...これ使ってやって...」

  渡されたのは小さなナイフだ。

(ちょっと怖いけど...今までバカにされてきたんだもん。これくらいいいよね)

  リヒトは静かにナイフを隠しながらアルカの前まで移動した。

(あ...前から行くんだ...すごいな...)

  ガブは頭の中でそう思いながらも、何も言わないで様子を伺った。

「ん?どうした?」

  アルカがリヒトの存在に気づき声をかけた。
  その後すぐに隠していたナイフを取り出しアルカの首元に突き出した。

「おいおい...なんの真似だ?」

  アルカは少し驚いたがすぐに平静を保った。
  流石、慣れているだけのことはある。
  両手を上にあげ降参ポーズをしているアルカ。

(普通のアルカだ...これだったらアドルだったら殴るくらいはできるんじゃ...)

  そう考えていたら、急に背筋が凍るような視線を感じた。
  リヒトは一瞬恐怖を感じたがその後すぐにアルカに頭を押されてそのまま尻餅をついてしまった。
  リヒトは何が起こったのか分からなく固まっていた。

(今..何が起こったの......?)

  リヒトが固まっているとガブが近づいてきた。

「アルカさん...やりすぎ...」
「いやいや、先に手出して来たのはこいつだぞ?」
「本気じゃないって...分かってたじゃないですか...」
「まぁ〜な」
「とりあえず...この子...どうにかしてください...」
「最近俺にあたり強くね?」
「気のせいです...」

  ガブはアルカの言葉をするりとかわした。
  少しため息をついたあと、アルカはリヒトに声をかけた。

「お〜い。しっかりしろー」

  すごくやる気のない声でリヒトの頬をぺちぺち叩きながら言った。
  リヒトは頬に少し痛みを感じ我に返った。

「あ...あれ...?私...なんで座ってるんだろう...」

  何が起こったのか記憶が飛んでしまっていて思い出せない。

「お前は俺に刃を向けたんだろーが」
「......あ!!」
「あ!!じゃねぇーよ」

  アルカはリヒトの頭をグリグリ押した。
  地味に痛い。

「い...痛い...痛いよ...」
「たく...なんでお前は俺に刃を向けたんだ?」
「そ...それは...」

  リヒトはガブの方に少し目線を向けた。
  その視線に、ガブは気付かないふりをしているのかこっちを向かない。

「ガブに何か入れこまれたな?」

  ぎくっ...

  何も答えず顔だけ背けた。

「たく...ガブは後でなんか手伝ってもらうからなぁ〜」
「え...嫌です...」
「問答無用!!」

  アルカが立ち上がり、周りを見回した。

「今いるのが、ヒュース、ガブ、リヒト、アドルか...」

  少し考えたあとガブに向かって指示した。

「ガブ、カルネェーとアーノさん、アルバを呼んできてくれ」
「了解です...」

  そう言うと、そのままドアを開け出ていった。

 そういえばヒュースへの質問がいまだできていないことに気づく。
  ちょっとそっちをチラ見すると偶然、ヒュースとリヒトが目が合った。

「そーいえばお前、俺に何か聞きたいことがあったんじゃないのか?」
「う...うん...」

  タイミングよすぎかい。

「なんだ?」

  ヒュースは座ったまま聞いた。
  近づいてさっき思ってたことを聞く。

「最初、ヒュースさん、ソフィアさん、アルカでアドルと戦った。でも、アルカだけあまり傷ついてなかったから戦いにあまり参加してなかったのかなって思って...それか、本当はすごい力を持ってるとか」
「アルカのすごい力?アルカは頭良いだけの普通の人間だぞ?」
「悪かったな。普通の人間で」

  アルカはヒュースの頭に手を置いてググッと力を入れているようだ。
...ヒュースさんの近くにいる人はみんな小さく見えるな。

「悪かった悪かった!!だから押さないでくれ...」

  ヒュースはアルカの手首を持ち軽々と避けた。

「それで、君はアルカに傷ついて欲しかったのか?」
「ち!違うよ!!そうじゃないよ!」
「全否定も怪しいですよねぇ〜」
「ですよねぇーなにか、やましいことでもあるのでしょーか」

  二人がリヒトを横目にわざと聞こえる声で話していた。
  ナチュラルに茶番を挟まないでほしい。

「もぉー!!真面目に答えてよ!!」

  リヒトが怒ったのと同時にドアが開いた。

「はいはい。そこまでにしてくださいね」

  3人を呼びに行ってくれたガブと、呼ばれた3人が入ってきた。

「待ってた待ってた」
「お待たせしました」

アルバが柔らかい口調でそう言う。
  普段から敬語を使う人なのだろう。

  「リヒト、さっきの質問はまた後で聞いてくれ。今はこっちの方が先行だ。」

  アルカはアドルの方を指し言った。

「うん、分かった」

  リヒトが返事したら、みんなまた椅子に座り話を聞く体制に入った。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く