チェガン

林檎

組織

...ピピピピ

「あ...終わったみたい」

  携帯を確認した後リヒトに向かって言ってくれた。

「え...あの...?」

  ガブはリヒトの言葉を聞かないで立ち上がる。

「じゃ〜、屋敷に戻ろ?」

  手を差し出しながらそう言った。
リヒトはその手をとり立ち上がる。

「ねぇ〜、さっきの話の続きなんだけど...」
「さっきの続き...?あぁ〜...あの子の『チェガン』の話?それなら...行ったらわかるんじゃないかな...」

  前を向きながら答えてくれた

「...本当?」

  手を口元に置き、考える素振りを見せた。

「それに、教えたくても僕も...詳しくは...わからない...」

  ガブのチェガンは、相手の力を見破ることは出来るがそれは簡単な単語でらしい。
  だから、ややこしい物とかは見えたとしても全部を理解するのは自分の頭では難しいと言っていた。

「だから、今からあの少年について調べる...保護してくれてるといいんだけど...」

  眉間に少しシワを寄せ、少し困った顔をしている。

「保護してくれてるんじゃないの?流石に殺しはしないで...しょ...」

ガブは、リヒトの顔をじ〜っと見ている。

「な...何よ...」

  いきなりだったので少し萎縮してしまった。

「いや、よくもそこまで...人を信じることが出来るよねって思っただけ...」
「...どういうこと?」
「普通、知らない人を見たら疑うし...あの二人の喧嘩見たんでしょ?なら...あの二人がうっかり殺しちゃってるとか...思わない?」

  横目でリヒトの表情を確認しながら言っているように見えた。

「うっかりって...ん〜...でも、あの二人は殺さないんじゃないかな...」
「...意味わかんない...」
「なんでよ!」

  怒ろうと思った時、

「ほら、着いたよ。」

  話に夢中になっていたのか屋敷についたことに気が付かなかった。

「今戻ったよ。」
「お〜!無事だったか、お疲れさん」

  アルカが階段に座ってもうくつろぎモードに入っている感じだ。

「お疲れ様です。あの...さっきの子は...どうなったんですか?」

  その言葉にリヒトも周りを見回して見たがさっきの男の子の姿がない。

「あぁ〜、さっきの少年ならほら、あそこにいるぞ?」

  アルカが指さしたのは、リヒト達の隣らへんだ。
見てみると、

「きゃ?!」
「そこか...」

  リヒト達が入ってきた扉のすぐ隣に縄で縛られて身動きが取れない状態の男の子がすごい不機嫌そうな顔で座っている。

(なんか...アルカを睨んでる?)

「...よく殺さなかったね...もしかして帰ってきたんですか?」

ーー帰ってきた?

  少年を確認した後、アルカの方を向きガブが聞いた。

「帰ってきたっつーか、呼んだんだ。」
「なるほど...」

  話についていけない。というか、この状況で話についていける人なんていないだろう。

「んで、ほかの人たちはどこに...?」
「ん〜?あ〜、御影町にベーゼが来るから先に行ってもらってる。俺は留守番だ」

  何かの資料を確認しながら言っていた。

「そうですか...」

少し、ガブの様子を見たあと

「御影町に行ったのは、かるねぇーとアルバだよ。戦闘員ではないけどあの二人なら多分大丈夫だ。戦闘能力も低いわけではないから」
「...そう...ですか」

  ガブは少し安心したような顔をしている。

「そうそう、ヒュースとソフィアが怪我したから今リリーフが手当してる。あまり騒ぐなよ?」
「...騒がない...」
「お前じゃねぇ〜よ、その隣の女だ。」

  二人は同時にリヒトを見た。
  いきなりで少し頭がフリーズしたがすぐに自分のことを言われていると気づいた。

「?!私のこと?!」

  周りを確認して女はリヒトしかいないことに気がついた。

「うわ...気づくのおそ〜...」

  呆れた声色で眉間にシワを寄せながらいった。

「うっさいわよ!!」
「お前がな」

  なにか言うと必ずむかつく言葉を返してくる。
  本当にイラつく。

「ねぇ...こいつのこと...調べなくていいんですか?」

  ガブは、ドアの隣に座っている少年を指さしながらアルカに確認をとっている。

「それが、俺が何回も質問したけどずっと無言なんだわ。どうしたらいいかね?」
「...僕...考えるの苦手...考えるのはアルカさんの仕事...」
「人任せかよ...」
「だって...アルカさんが一番頭いいし...」
「アルカって頭いいの?」

  先程のガブからはそう聞いていたがやはり信じられなかった。
  人を馬鹿にすることしか頭のない人が〈頭がいい〉なんて、普通は思わないだろう。

「...さっき、『チェガン』の話したの、覚えてる?」
「...うん」
「アルカさんの『チェガン』は...」
「ガブ...余計なことをペラペラ喋るな」

  ガブの言葉を遮られてしまった。

「アルカさんが連れてきたんじゃないのですか?」
「そうだ。でも、俺が興味あったのはもう一人の方でこいつじゃない」

  「なっ!」文句を言おうと口を開いたが、少しだけアルカの方が早かった。

「こいつは『チェガン』を持っていない。なら、俺たちに関わるのは危険すぎる。このまま記憶を決して返した方がいいだろう」

  アルカの言葉が頭の中ではリピートした。

ーー記憶を消す

「でも...」
「記憶を消すって...何?」

   自分でも今発した言葉が震えていることがわかった。が、今はそんな事考えている余裕はない。

「どういうこと?なんで...なんで私はここにいちゃいけないの?」

  アルカにあってから分からないことだらけだ。
  挙句、記憶を消すなんて...。
  
  訳の分からない頭で今のこの状況を理解しようと頭をフル回転させるがそれは、悪い方へといっているような気がする。

「まぁ〜...どーせ記憶消すから言ってもいいか...」

  アルカが真剣な顔で話し出した。

「俺達の組織は、『シャイン』。光って意味だ。俺達は周りに気づかれないようにこの世界を守っている。」
「気づかれないように...?」
「そうだ、この世界には今、『ベーゼ』というものが異世界からこちらに来ている。」
「でも、なんでそれを周りの人には気づかれないようにしてるの?守っているなら隠す必要なんてないんじゃ...」
「お前は馬鹿なのか?」
「いきなりなんなのよ!」

  ガブが喧嘩しそうな二人の中に割って入った。

「とりあえず...話...進めて?」

  二人はガブを見たあと再び話し始めた。

「お前は、13年前の出来事を覚えているか?」
「え...えぇ〜...あれは...忘れる方が難しいと思う...」

あれは、あまりに酷く思い出すだけでも身震いしてしまうほど怖い記憶。
  自分の周りには、瓦礫や逃げ惑う人、怖くて怖くて動けない人や泣きじゃくっている人もいた。
  よくわからないものが、次々と周りの人を殺したり、どこかへ連れて行ったりしていた。
  もう、この世界は地獄になってしまったんじゃないかと思った。

「そう、みんなは13年前の出来事を忘れられないでいる。その中で、もしまだこの世界は狙われていると言ったら、街の人はどうなる?」

  そこまで言ってくれたら今の混乱寸前の頭でもわかった。

「日々の生活を安心して過ごせなく...なる?」
「簡単に言うとそういうことだ。」
「でも、みんなは守ってるんだよね?なら、言っても俺達が守ってやるから安心しろとか言ったら...」

  アルカはこっちに少し目線を寄こして

「そんなこと言えるわけねぇーだろ」
「...なんで?」
「何を根拠にそんなことを言える?絶対に守ってやるって...守れる確証なんて俺達にはない」
「でも!今まで守ってくれたんでしょ?!ならこれからだって...」

「守れてたらこんなに苦労しねぇーよ!!」

  大きな声で怒鳴った。
屋敷にアルカの声が響いている
悲しさと怒りが混ざったかのような
悲痛の叫びに聞こえた。

「あ...」

  アルカは驚いているのか、舌打ちをしたあと目線をリヒトから違う所へと移した。
  リヒトは驚き言葉が出なかった。
まさか、アルカがこんな焦った顔で怒鳴るなんて想像すらしなかった。
  今までどんな状況でもニヤニヤして笑っていた人物がいきなり大きな声を出したのだ。
  驚かない方がおかしい。
  アルカは、目をそらしたまま動かなかった。

「...。」

リヒト達の中に沈黙が流れた。
  すごく重い空気がリヒトを襲う。
  自分の言葉にすごく後悔した。
  何も知らない自分が口を出していいことではなかったのだ。
  そう思えば思うほど心の中の罪悪感は大きくなりどうすればいいのか。何を考えればいいのかも分からなくなってきた。だが、その重い沈黙を崩したのはガブだった。

「アルカさんはすごいよ。」
「...あぁ?」

  アルカがガブを睨んでいる。
  いきなり突拍子もないことを言うのだ。無理もない。だが、それを気にせずガブは話し出した。

「アルカさんの『チェガン』は常人を超えた頭の良さなんだよ...だから今までもベーゼの出てくるところを予測して...いち早く僕達に知らせてくれた...だから、町への被害も減らせているんだよ」

(減らせている?)

「おい...余計なことを話すな」
「だって、話さないと誤解されたままだし、僕はアルカさんに憧れてるんだよ...だから、アルカさんが嫌な感じに思われてるのはいやだ...」
「...。」
「ん...?てか!お前俺が憧れなのか?!」

  すごく驚いていた。
  驚くまでの沈黙は何だったのだろう。


「...そうだよ...」
「...。」

  目を大きく開いて驚いている。

「...てっきり、ソフィアかと思ったぞ...」
「うん...最初はソフィアさんが憧れでここに入った。でも、ソフィアさんから聞きました。」
「何をだよ」
「僕を助けてくれたのはアルカさんだって...」

  アルカは頭を抱えため息をついた。

「...別に、助けた覚えはねぇーよ」
「そっちになくても...こっちにはあるから...」
「そうかよ...」

  さっきまでギスギスした空気だったが、今はちょっと暖かい感じの空気に変わった気がした。

「そーだ...アルカさんのことは後でゆっくり話すとして」
「おい...」
「まずはこの少年のことについて...なにかわからないといけないよね...」

  ガブはアルカの言葉を華麗にスルーして言葉をつなげた。

「はぁ〜...」

  アルカは、深い溜息をつきながらも何かを考えている。
  リヒトも一緒に何かいい案がないか考えてると、不意にアルカがこっちをじ〜っと見ていた。

「な...なに?」

  アルカの視線を追ってか、ガブの視線までこっちに集中している。

「な...なによ...私の顔に...なにか付いてる?」

  顔を触りながら確認した。

「あ〜付いてるついてる」
「うそ!どこ?どれ?!」

  慌てふためくリヒトに対して真剣な顔でアルカが言った。

「下の方に口と〜真ん中の方に鼻と〜上の方に...」
「それはあんたもでしょーが!!」

  思わず怒鳴ってしまった。
  真剣な顔で言うから本当に何か変なのがついてるのかと思ったのに。
  リヒトが怒ってる横で、ガブとアルカはお互い目を合わせてなにか納得したように頷いた。

「んじゃ、任せたわ。」

  ポンと、肩に手を置かれた。

(任せた?)

「うん...君の方が何かと都合が...いいと思う...」
「え?...なんのこと?」
「よし!任せたぜ?いろいろ質問してこいつのことを知るぞ?お前はすげぇー重要なんだからな?」
「うんうん」
「...え?...え!えぇー!!?!?」

  リヒトの悲鳴は空の彼方へと消えていった。

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