俺の妹はヤンデレでした

繭月

13話

「はぁ、はぁ、はぁ・・・どこにいんだよ」
メッセージを確認した後俺はダッシュで集合場所に向かったのだが・・・荒い息を吐きながら俺は周囲を見回す。
場所は今日の集合場所である駅の時計塔の真下、周りに見知った顔は見当たらない。
一応こちらからメッセージを送ったのだが返信はないからきっと気づいていないのだろう。
もう一度スマホを開いて時刻を確認する。
「集合時間まであと10分か・・・」
ん?なぜ時計台があるのにそれを見ないかって?そんなのメッセージが届いてるかもしれないし、あと振り向いて首をあげるのが地味に辛いし。
さすが現代の若者!と皮肉を言われそうな行動をしていると前方から笑顔の瑞樹ちゃんと無表情・・・いや少し不機嫌な翠が歩いて来ていた。
「おはよう」
「あ、おはようございます。隆盛さん」
そう言いつつも瑞樹ちゃんは俺の目は見ずに周りをキョロキョロと見回している。
「おはよう隆盛」
「おー、おはよう。機嫌悪そうだけどなんかあった?」
「いや、とくに何も」
「そう、ならいいけど。それよりさっきから瑞樹ちゃんは何してるの?」
未だに周りをキョロキョロしている瑞樹ちゃんに尋ねると、
「私のことはどうでもいいとして、隆盛さんお兄ちゃんはどこですか?」
「え?一緒じゃないの?」
「はい、私たち今来ましたから」
てっきり一緒に来ると思っていたがどうやら別々に来たらしい。
ん?まてよ、今日遊ぶのは俺、葵、瑞樹ちゃん、翠、柏木だよな。
それで朝のメッセージから二人は合流してるのは予想できる。
ということは今葵と柏木は二人っきりってことか?
なら今俺がすることはあいつらを二人っきりで行かせること!
問題はこの二人とどうやって葵達を合流させないかだ。
幸い二人にも葵達の場所は分かっていないみたいだからなんとかなるはずーーー
「あ、近くにいるみたいですね」
スマホを見ながら瑞樹ちゃんが言い出す。
もしかして連絡が来たのか?
俺はポケットからスマホを取り出すが未だに返信は来ていない。
俺無視されてんのか?
悪いと思いつつもこっそりと瑞樹ちゃんのスマホを覗くと画面に映っていたのはメッセージの画面ではなく地図。しかも赤い点にお兄ちゃんとタグが付いている。
「なぁ瑞樹ちゃん。これってーー」
「心配いりません。GPSですので」
「・・・葵はこのこと知っているのか?」
「・・・」
そっと視線を明後日の方向に向ける。
「あのな、それ犯罪だからな?」
「いえ、私のお兄ちゃんに対する愛情表現です」
「そんなことより瑞樹ちゃん。葵はどこにいるの?」
GPSうんぬんをそんなことって・・・
俺が呆れている間に瑞樹ちゃんは赤い点をタップする。
そしてスマホの画面に出てきたのは道路の向かい側にあるカフェの情報だった。
「どうやらあそこにいるみたいですね」
そう言って二人は歩いてカフェに近づいていく。
「ちょっと待て!」
「どうかしたんですか?」
俺の言葉に二人は立ち止まりこちらを振り向く。
いや、どうすんの俺 ︎だけど今は葵と柏木の二人がせっかく二人っきりでいるんだ、もう少しその時間を伸ばしたい。
「そ、そういやなんで瑞樹ちゃんは葵と一緒に来なかったんだ?」
「わからないんですか?これだから隆盛さんは。そんなのデートの待ち合わせの定番である『ごめん待った?』『いや俺も今来たところだよ』っていうのをやってみたかったからですけど?」
一人芝居をした後なに当たり前のことを聞いてるんですか?という顔で答えるがそんなのわかるわけない。
「ならやれなくてよかったな」
「なんでですか?」
少し怒気の混じった声で瑞樹ちゃんがたずねる。
「い、いや、だって葵は先に星原家を出たんだろ?すぐに追いかけるならまだしもそれなりに時間を開けたら葵のことだから『え?うん。それなりに待ったけど何かしてたの?』って答えるだろ?」
そこまで言うと二人は脳内でそのシュチュエーションを再現してるのか真剣な顔で悩んで・・・結果落ち込んでいた。
「た、たしかにお兄ちゃんなら言いそう」
「というか葵なら絶対言う。そんなこともわからなかったなんて・・・」
いつのまにか二人の目からハイライトが消えていた。
「ま、まぁ男子同士通じるところもあるしさ」
本能的に自分を擁護する。
「それじゃあ葵達のところに行こうぜ」
悪い柏木。時間稼ぎ無理です。だって殺されそうなオーラを放ってるし。
俺は仕方なく率先してカフェに向かう。

カフェは外から中の様子が見えるようにガラス張りの部分があった。
そこに葵と柏木はいた・・・のだがはたから見たらめっちゃいい雰囲気になってる。なんというかもう完全にカップルというか二人だけの世界というかそういう雰囲気を放ってるんだよ。
それを俺たちは少し離れたところから見る。
なぜ遠くから見ているのかというと俺の「今入ったら二人がどんな状況かわからない。そんな相手を傷つけたりしたら葵に嫌われるよなぁ」って呟いた(二人に聞こえるように)おかげだ。
まぁそのかわりとして両サイドから尋常じゃないほどの力でつねられているんだけどな。・・・二人ともそろそろ離してくれないとかな、まじで痛いです。
しかし俺のそんな希望も虚しく二人は葵達に目が釘付けで周りのことが見えていないようだった。
そろそろ俺の体が千切れると思い二人と合流しようとすると葵がパンケーキを切り分けフォークで刺して柏木に渡した。
柏木も一瞬躊躇したものの顔を真っ赤にしながらフォークを受けとり口に入れる。
「「お兄ちゃん(葵)と、か、関節キス・・・」
二人の目からハイライトは消え失せ真っ黒い深淵が覗いていた。
そして二人は立ち上がりカフェの窓に近づくと絶対零度の笑顔で窓を叩いた。



〈星原 葵〉
「三人とも来てるなら連絡くれればよかったのに」
隆盛達と合流して電車に乗り二駅隣のショッピングモールに向かっていた、のだが。
「お兄ちゃんなら待っててくれると思ったんです」
「だから探したんだけど見つからなくて・・・」
「「まさかあんなところにいたなんてねー」」
「うっ!ごめん」
瑞樹と翠に責められていた。
確かに何の連絡もなしにカフェに居たら怒るよな。反省しなきゃ。
「なら今度私達も連れてってください!」
「そしたら許すよ」
「それくらいならいつでもいいよ」
それで二人の機嫌が直るならお安いものだ。
その後特に何もなくモールに着いた俺たちは早速買い物を始めた。
「葵はこの前来た時はこっちから回って行ったんだよな?」
「そうだけど」
「なら今日は向こうから行こうぜ」
そう言われて隆盛に続き駅の反対側にあるお店からみんなで見て回ることになった。

「十分回った気がするのにまだ半分もいってないんだな」
ショッピングモールの二階にあるとあるお店の前で俺は隆盛に話していた。
「ああ、そうだな」
「今は二階の中央部にいるけど三回に上がらずに先に進んだ方がいいと思うんだけど。どうかな?」
「ああ、そうだな」
「・・・隆盛ってわりとかっこいいよな」
「ああ、そうだな」
なにを言っても隆盛は適当な返事をするだけで全く聞いていない。
それもそのはずで、今隆盛が見ている店の中では瑞樹と翠、柏木さんがカラフルなモノを買っているのだ。
詳しくは・・・まぁ隆盛の態度でわかってやってくれ。
「というか隆盛は三次元には興味ないと思ってたんだけど」
「たしかに俺は三次元に興味はない!」
「うわっ、びっくりした」
いきなり大声で訴えられて驚いたが気にした様子もなく続ける。
「だがしかし!こんな素晴らしいイベント見ないわけがないだろ?」
なに言ってんだこいつって顔をされたが「お前こそなに言ってんだ」と言いたい。
そんな風に隆盛と話していると瑞樹がこちらに近づいてきた。
「そんなところにつっ立ってないでお兄ちゃんちょっとこっちきてよ」
そう言って俺の腕を掴むと店内に引っ張っていく。
「いやいや、水着売り場に入るとか無理だって。周りの目が俺に突き刺さってんだけど!」
反抗するも後から来た翠も手伝って二人がかりで店内へと連れられる。
もう店内に入ることは避けられないと思いせめて隆盛もと思いそちらに視線を送るとそれに気づいた隆盛が動き出ーーー
「「あ、隆盛(さん)は来なくていいよ」」
「はい・・・」
ーーーせなかった。


「お兄ちゃんこれなんかどう?」
そう言って試着室から出てきた瑞樹は淡い青の生地にフリルがふんだんに使われている可愛らしい水着を着ていた。
「ああ、いいんじゃないか。すごくにあってるよ」
あまり主張しすぎない色が瑞樹の真っ白な肌と合っていて可愛らしい印象があった。
「・・・似合ってる。ふふっ。なら私はこれにしようかな」
そう言ってカーテンを閉じた。
「葵、ちょっといいかな?」
瑞樹が見せ終わるのを見計らっていたのかすぐに隣から声をかけられる。
呼ばれた方に視線を向けると瑞樹とは違い大人っぽさのある黒一色の水着を着用していた。
「大人っぽくていいんじゃない」
「かわいい?」
「かわいいと言うよりは綺麗だと思う。翠によく似合ってるよ」
そう言うと翠は顔を赤くしてカーテンを閉めた。
「さて俺はこれで・・・」
二人も買うもの決まったし水着売り場から出ようとするとちょうど水着を選び終えたのか籠を持った柏木さんに腕を掴まれた。
「どうかした?」
「えっと・・・」
俺がたずねると柏木さんはキョロキョロと周りを見る。
「あの腕を離してくれません?周りから見られているので・・・」
瑞樹と翠に水着を見せられて周りにいる女性客から視線が向けられている状態で更に柏木さんに腕を掴まれているという状況・・・穴があったら入りたいです。
「ご、ごめんなさい!」
腕を掴んでいることに気づいていなかったのか慌てて手を離した。
「顔赤いけど大丈夫?」
「う、うん。大丈夫だよ。それより、えっと、わ、私も水着に着替えるから似合うか判断して欲しいな」
「俺に!?隆盛じゃなくて?」
「隆盛君?なんで?」 
柏木さんは頭の上にクエスチョンマークが見えるくらいに疑問顔で首をかしげる。
「天然なのか?」
「そんなこと言われたことないよ」
小声で呟いたつもりがどうやら聞こえていたらしい。
「そんなことよりも見てくれるの?」
「まぁ柏木さんがほんとに俺でいいなら」
「やった。じゃあちょっと待っててね」
そう言ってちょうど出てきた瑞樹と入れ替わりに試着室に入っていった。
「お兄ちゃん柏木さんとなに話してたの?」
「ん?いや、なんでもないよ」
「ふーん。・・・そっかなら次のお店行こ」
そう言って座ってる俺の腕をひっぱる。
「柏木さんと翠待たなきゃいけないし」
「呼んだ?」
いつのまにか着替えが終わっていたらしく翠がこちらに寄ってくる。
「いや、瑞樹が先に行こうって言うからさ他の二人も待たなきゃって話してたんだよ」
「へー、瑞樹ちゃん抜け駆けはだめじゃないかなぁ?」
抜け駆け・・・なんのことだろう?
二人の会話を隣で聴きながら柏木を待っていると試着室のカーテンを少し開けて柏木が顔を出す。
「着替え終わったのか?」
俺がたずねると柏木は赤い顔を縦に振った。
「・・・?」
「・・・?」
「いや、出てこないと見れないんですけど」
その言葉に瑞樹がすぐに反応する。
「お兄ちゃん!あんな奴の水着を見たいの!?」
「友達をあんな奴なんて言うな。あと柏木さん無理してみせる必要はないから」
「い、いや、大丈夫・・・」
大丈夫かどうかの問題になってる時点でもうすでに大丈夫じゃないんだけど。
それから柏木は意を決したように一つ頷きカーテンを開いた。
「・・・」
柏木が身につけていたはピンクに白の水玉模様のされている水着だ。
「・・・どう、かな?」
顔をタコのように赤くしてたずねられて一瞬ドキッとしてしまう。
「に、似合ってる。うん。すごく・・・」
目をそらしながら早口で言う。
顔赤くなってるよなこれ。
その瞬間背中に氷を入れられたような感覚を覚えた。
「なんで柏木さんの時だけそんな反応をするのかなぁ?」
満面の笑みで翠が詰め寄ってくる。
「な、なんでって。そりゃクラスメイトの女子の水着姿みたらこんな反応するって」
「私達の時はしてなかったよね、お兄ちゃん!」
「そ、そりゃ妹の水着姿みたくらいじゃそこまで・・・それに翠は長いあいだ一緒だったから俺にとっちゃもう一人の妹みたいなもんだし・・・」
しどろもどろになりながらも二人に説明をする。
というかもうここから出ていいよね?
誰に聞いたでもなく俺は水着売り場からすぐさま退場した。








投稿するの遅くなり申し訳ありません。
今年から部活に入りまして(複数)正直言ってきついです。
次の投稿はなるべく早くします!

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