俺の妹はヤンデレでした

繭月

7話

「俺好きな人ができたんだ」

勿論嘘なのだがその言葉を発した途端瑞樹の目から光が消えた気がした。頭の中では警鐘がなっており本能がこの場から逃げろと言っているがなぜ逃げる必要がある。相手は瑞樹だぞ?「へーよかったね」と言って終わりだろ
しかし目の前では未だに瑞樹が光のない目で俺を見ている・・・いや俺を見てるのか?焦点が合っていない気がする
「おーい瑞樹、どうした?」
俺が声をかけると瑞樹はビクッと肩を震わせ、止まっていた手を動かし始めた。明らかに動揺している
少し食べ進めた後また手を止めて
「お兄ちゃんに好きな人が、できたんだ」
「え?あ、うん」
「そ、そっか。・・・それって翠ちゃん?」
なぜ翠が出るのかわからなかった。なにせあいつとは随分長い間一緒にいるので俺にとってはもう一人の妹みたいなやつである。しかし異性として見たことはない
「いや違うけど」
俺が答えると瑞樹は安堵の表情をした。しかし目には未だに光は戻っていない
「それで、お兄ちゃんの好きな人って誰?」
「え?」
まさか好きな人を聞かれるとは思っていなかったので全く考えてなかった
「えっと・・・秘密」
俺がそう言うと瑞樹は何かを考えるようにして
「そっかよかったね」
俺の予想通りの言葉を言って瑞樹はこの話は終わりとばかりに食事を再開した
やっぱりなんもなかったな。そのあとは互いに今日の学校のことを話して過ごした


「瑞樹風呂上がったぞ」
うちは風呂の順番などなく入れる人から入るようにしている
もし瑞樹に「お兄ちゃんの入った後に入るなんて死んでも嫌だ!」なんて言われた日には俺はショックのあまり寝込んでしまう自信があるね
そんなことを考えていると
「はい。これあげるよ」
そう言って瑞樹は出来立てのカップケーキを渡してきた
「これどうした?」
「今テレビで見て美味しそうだなぁって思って。時間あったし作ってみた」
リビングのテレビではバラエティ番組が流れている。作り終えて焼いている間に観ていたのだろうか
「ありがと、それより疲れてるだろ?風呂温めなおしてるから冷めないうちに入れよ」
「うん、わかった」
そう言いつつも瑞樹はリビングから動こうとしない
「・・・」
「・・・」
「・・・いやあの瑞樹さん、お風呂沸いてますよ?」
「うん知ってる」
「じゃあなんでここにいるの?」
「お兄ちゃんからカップケーキの感想もらってない」
「・・・今すぐ食べろと?」
その言葉を肯定するように瑞樹はコクコクと首を縦に振る
俺は仕方なくカップケーキを口にして
「うわ、うま!」
普通にお店に出てるものよりも美味しい気がする
「そう。よかった!」
嬉しそうに言って瑞樹は風呂場に向かって行った
俺は瑞樹から貰ったカップケーキを食べ終わると急な睡魔に襲われてリビングのソファーに寝転がった
瑞樹に見られたら「こんなところで寝ないで!」なんて怒られるんだろうな
まあ瑞樹が風呂から上がるまで少し仮眠をとることにしよう
抗いがたい睡魔に身を委ねてゆっくりと目を瞑る






「・・・・」
窓から差し込む光で俺は目を覚ました
目を開けると毎朝見る自室の天井がある
あれ、昨日はたしか風呂に入ってそのあと睡魔に襲われてリビングのソファーで寝たはずなんだけど・・・いつのまに俺は部屋に戻ったんだ?
昨日はあのあとリビングから出た記憶も、ましてや起きた記憶すらない
まぁ瑞樹に聞けばわかるか。
そう思って俺はベットから起きようとして右手首に違和感を感じ自分の右手首に視線を落とす
・・・なにこれ?
俺の右手首には手錠が付いていた。そしてもう片方をベットの柵の一つに繋げてある
するとタイミングを見計らったように瑞樹が入ってきた
「あ、起きたんだ。おはようお兄ちゃん」
「お、おはよう。・・・あのさ瑞樹この手錠って瑞樹がしたの?」
瑞樹が俺を拘束する理由なんて全くわからない。しかし瑞樹は隠すことなく笑顔で頷き答えた
「うん。そうだよ」
「な、なんで?」
俺は今の自分の現状がわからない。なぜ俺はベットに拘束されるのか。それが知りたかったのだが瑞樹の答えは俺の予想に反して
「だってお兄ちゃんに悪い虫がついたからだよ」
そう答える瑞樹の目からは昨日少し見せたように光が消えていた
「大好きなお兄ちゃんに悪い虫がつくのは私は許せないの。だから誰か教えて」
誰か教えてと言われてもあれは嘘なのだからどうしようもない
「えっとー・・・」
俺が答えられないで口を閉じると瑞樹は泣きそうになり
「お兄ちゃんその人を庇うんだ。わたしよりもその人が大事なんだ・・・」
「いやそんなことねーよ!」
・・・はっ!つい反射的に答えてしまった。妹の涙恐るべし
俺は仕方なく本当の事を話すことにした
「ーーーーだから本当は好きな人なんていないんだって」
今日の午後隆盛と話したことを教える。まぁ隆盛の名前は出していない。なんだか出してはいけない気がした
「そっか。よかったー」
瑞樹は説明を聞いて笑みを浮かべていた
「ふぅ。なあ瑞樹そろそろ家を出ないと遅刻するんだけど」
学校の始まりのチャイムが鳴るまであと20分ほどしかない。家から学校までは歩いておおよそ10分から15分ほどかかる
「大丈夫だよ。お兄ちゃんは今日は風邪をひきましたって学校にはもう連絡してるから。それじゃあ行ってきます」
手回しが早いな!まぁ学校はさぼれてラッキーと考えよう
「あ、せめて手錠は外してくれ」
そういうと瑞樹は扉の前で振り返り
「手錠外してどこ行く気なの?もしかして女?」
また瞳から光りを消して尋ねながら近づいてくる。てか信じてもらってないじゃんか!
「い、いや出かける気はないよ。それより早く学校に行かないと遅刻するんじゃないのか」
「・・・帰ってから聞くね」
笑顔でそう言って瑞樹は学校に向かった
「怖かった・・・」
俺は今日一日の自由を犠牲にして危険から逃れた・・・
周りを見回すが俺が手の届く範囲にはほとんど物が置かれていなかった。基本的に部屋は誰がきてもいいように整理してあるからどちらかといえば綺麗な部屋だ。しかし最低でも枕元に漫画などを複数置いていたはずだがそれも今は綺麗に本棚に並べてある。
「はぁ、暇だ・・・」
特にすることもないのでベットに横になって目を閉じる
瑞樹はなんでこんな行動をとったんだ?というかこれが隆盛の言っていたヤンデレというやつなのか・・・。それなら瑞樹を更生させないといけない。そしてその役目は兄である俺の役目じゃないのか?
思考がまとまり始めてようやくこれからどうするのかが見えてきた
「まあ今はこの状況をどうするかが問題だよな」
瑞樹の言い方からして解放してくれるかはわからないんだよなぁ
見える範囲に鍵はないしきっと瑞樹が管理してるんだろうな。力で無理やりってのは・・・無理ですね
俺が手錠をどうするか悩んでいると
ピンポーン
家のインターホンが鳴った
「出れないんですけど、まぁいないってわかったらまた今度来るだろう」
ピンポーン
・・・
俺が居留守を使っていると
ピンポーン、ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン
「うるせー!!」
は!しまった。つい叫んでしまった。
俺が声をあげるとインターホンは止んだ、しかし出れるはずもないので諦めて帰ってもらうのを待つしかない。
その後一度だけインターホンが鳴りそして家は静寂に包まれた
「はぁ、行ったか。今の人には悪いことしたな・・・」
心の中で誰かもわからない人に謝罪をする
コンコン
「えっ?」
家は鍵がかかっているはずだから家には俺以外には誰もいない・・・というか叩かれたのって窓だよな
俺は恐る恐るカーテンから外を覗くと
「やっほー」
翠が片手を上げていた
「は、・・・なんでいるんだ?学校は?」
まだ学校は始まったばかりのはずだ。
「学校?今日は私もさぼっちゃった。・・・それにしてもすごいかっこだね」
ニヤニヤしながら俺を窓越しに見てくる
「そう思うなら外して欲しいんだけど・・・」
「鍵は?」
「・・・知らない。けど瑞樹のことだから学校には持って行くなんてことはしないと思う」
「そう。なら瑞樹ちゃんの部屋かなぁ」
そう言って屋根をつたって翠が俺の部屋に入ってきた
「お邪魔しまーす」
キョロキョロと部屋を見回していっこうに瑞樹の部屋に向かおうとしない
「案外綺麗にしてるね。・・・いや、これは瑞樹ちゃんの匂いがする。だけど染み付いてるわけじゃないから多分最近・・・いや今日入ったんじゃないのかな?」
「・・・」
俺は翠の推測に絶句してしまう。匂いだけでいつ入っていたのかがわかるものなのか?いや無理だろう(反語)
俺がなんも答えないでいると
「まぁ本当はわかんないよ」
「え?でもあってるし・・・」
「それはだって葵の現状を見れば大体推測できることを言っただけだよー」
そう言われてようやく俺は気づいた。
翠が言いたいのは俺をここに拘束するにはまず拘束した人物である瑞樹がこの部屋に入ったことの証明になるってだけのことだと思う
「お前そんなに頭の回転早かったけ?」
「心外だなー。私これでも葵よりは頭いいはずだよ」
まぁテストの点数では俺よりも高いのは確かだ。しかしテストの点数がいい=頭の回転が早いってことにはならないと思う
俺がそんなどうでもいいことを考えていると翠は今度は本棚や机の引き出しを物色し始めた
「ちょっ、何してんだよ」
止めようとするが右手が固定されて動かない。そんな俺の行動をニヤニヤしながら見つめて
「そんなに止めようとするってことは何かあるのかなぁ?」
そう言って物色を続ける翠に俺はつい本音がこぼれた
「お前のそういうとこ直したら普通に可愛いと思うんだけどな」
「・・・・」
その瞬間翠は止まって
「み、瑞樹ちゃんの部屋って、隣だよね」
そう言って部屋を出て行った
「あいつ、どうかしたのか?」
心なしか部屋を出ていく翠の顔はあかく染まっているように見えた

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