戦闘員No.25の活動日誌

とろろこんぶ

重力を操る

「やるの?やらないの?」
「私、は……やります」

クロは顔を上げた。腹を括った顔だった。
総督はそんな彼女をまっすぐに見つめていた。やるじゃん、とでも言うように。
ドクターはにぃと歯を見せて笑った。

「じゃあ、行こうか」
「行くって、ドクター、どこに?」
総督が歩き出したドクターを呼び止める。ドクターは足を止め、こちらに背を向けたまま言った。

「映画館だよ。主犯はそこにいる」
「なんで言いきれるの?」
「監視カメラの様子とか、下っ端たちの情報とか、色々理由はあるけど…私なら、そこを拠点にするから」

随分な自信だった。ドクターの予想が外れたことは、今までにたった一度きりもない。つまり、そういう事だ。

総督はドクターを追い越し、こちらを向いた。俺も続く。総督を護るように、彼の横に立つ。
クロも同じように横に並んだ。

「これ、返す」
俺は剣をクロに手渡した。クロは黙ってそれを受け取り、しかと握った。

総督はマントについているフードを被った。
「行くぞ。」
「ああ。」
「了解〜」
「わかりました」

俺たちは駆け出した。
映画館に飛び込む。ロビーは人気がなく、うんと静かだった。

「ずっと疑問だったんだよね」
ドクターはそう呟いた。
「モールの客は何処に行ったんだろうって。」
「そういえば…」
「全然人を見かけませんね…。人の気配もないですし、妙ですね…」

そうなんだよねえ、とドクターはうなづいた。

「絶対にバレない場所…声が聞こえない場所。音が聞こえない場所。防音の場所。」
「…まさか」
総督が息を飲んだ。

そうだよ、とドクターは頷く。
「映画館だよ、あこにすし詰めにしたんだ。どんな対応をされたかまではわからないけど、最悪の場合を考えておいて」

大人数を、あそこに…?
怪我人がいるかもしれない。パニックになっている人だっている。

それを、皆、あそこに…?
それにしても静かすぎないか?こんなものか?
…ちゃんと、生きているのか?

クロがふらついた。俺はとっさに支えた。酷く青い顔をしていた。ガタガタと震えていた。

「おい、クロ、どうした?大丈夫か?」
「…私、単独でここに来たわけじゃないんです」
「…え?」
「もう1人魔法少女がいます。あの子は…何処に?」

あの中に?そう眼が言っていた。
「…ここで止まっていても仕方ない!」
総督が叫んだ。
「お前、正義の味方なんだろ!」
「わ、私…!?」
総督は俺からクロをひったくり、自ら立たせた。
「皆怯えてる、皆助けを求めてる。正義の味方を待ってるんだ、お前を待ってるんだよ、魔法少女!!」

正義の味方を待っている…
それは、人質なのか、はたして総督自身か。

「私が…」
「そうだ」
「今はあの子もいないのに…戦うことしか教えてもらってないのに…」
「それでもだ!お前がやるんだよ!僕らも手を貸すから、」
だから、と総督は潤んだ目でクロを睨んだ。
羨望と、怒気を含んだ視線だった。

「…はい!」
「よし、行くぞお前ら」
総督はもう俺やドクターの方を見もしない。長年の部下に長い長い言葉など不要とでも言うように、背を向けた。

その背はとてもとても大きくて、一生ついて行こうと思えた。

「最優先は人質の救出。いいな」
「了解」

その時、エリアの照明がついた。
モール内の電力は全てドクターが操っているはず…。ドクターも怪訝そうに眉を潜めている。

「誰か来る…」
俺は呟いた。奥の暗闇からコツ、コツ、と足音が響く。

覆面の男が現れた。先程何人も倒した者達とよく似たデザインの覆面だ。
「お前が、主犯だな?」
総督が睨んだ。男は答えない。
「なぜAndersを名乗った?目的はなんだ?」
男は、答えない。

勢いよくナイフを総督に振りかざし、斬りかかった。
「総督、危ない!」
俺総督に飛びついた。微かに頬にナイフがあたり、薄く血が伝った。
「ニコ!」
「大丈夫だ」
男は俺に標準をさだめ、俺を攻撃してきた。
俺はナイフを弾く。さほど強敵とは思えない。動きだって素人に毛が生えた程度だ。
男はナイフを拾おうと身をかがめる。そのすきに腹部に蹴りを入れた。
男はよろめき、立ち上がる。
「…妙だな」
「なにが、ニコ?」
「なんというか、手応えが無さすぎる。まるで時間稼ぎかのような……ッ!!?」
俺は膝をついた。身体が痺れる。視界がぼやける。
「ニコ!?どうしたの!?」
「ニコ君!?」

呼吸が上手くいかない。なんだ、なんだ、これは。
「毒…?」
「…ッ!!ニコ君腕出して!血流を止めないと…」
「ははははははははは!!」
突然、覆面の男が高らかに声を上げて笑い出した。
「やった、上手くいった!あの人が教えてくれた通りだ!」
あの人…?参謀でもいるのか?
「よし、お前ら出てこい。あとは数で蹂躙すっぞ」
言うやはやいか、置くからぞろぞろと覆面があらわれる。武器を構えて

「…なんだよ、この数…!!」
「…と、とりあえずニコ君を何とかしないと…きゃっ!?」
ドクターが俺に歩みよろうとすると、ドクターの足元を銃撃された。
手の内まで、ばれてる…?

「そう…とく、…にげ…」
「ニコ置いていける訳ないしこの人数裁くなんて無理だってば!」
総督が叫んだ。意識がもうろうとして、聞き取れない。
俺、死ぬのか?こんな所で、皆を置いて?

それは、それだけは…
どうすれば…!

「いけ、片付けろ!」
主犯が叫ぶと、覆面が一斉に襲いかかってきた。万事休すと思い、力の入らない身体を鞭打ち、小さな総督の身体を庇うように抱いた。
総督が驚いたように目を開く。強くその身体を抱きしめ、固く目を瞑った。

せめて、こいつだけはーー!!


「Graviteco  Operacio!」


可憐な声と共に、覆面達の身体がふわりと浮いた。

「な…、なにこれ?どういう原理?」
ドクターが口を開けている。覆面達も状況を読み込めていないようだ。
無論、俺たちだって…

ただ1人、動じず凛々しい顔を保つのはー
「クロ…?」


「なんだ、あの女!情報にねぇぞ!」
主犯がわめいた。

クロは凛と答えた
「私は鉄の魔法少女。貴方たちを成敗します!」

鉄の、魔法少女…
本当だったんだな…

「魔法少女?ふざけんな、何言ってやがる!お前ら、そっから狙え!」
浮かぶ覆面はクロに一斉攻撃を始める。

クロは腕を振り下ろした。
すると、覆面は一斉に下に落ちる。床はひび割れていた。

「クロ、お前…?」
「私は鉄の魔法少女。重力使いです。周囲の重力を自由自在に操れるんです。」
「非科学的だよ、魔法なんて…」
「知りませんよ、そんなの」

そのまま、クロは次々と覆面をたおしていった。叩きつけたり、吹き飛ばしたり…

正直、とても強かった。完全に独壇場だったから、一般ピーポーな俺はドクターに応急手当をしてもらいなんとか首の皮一枚繋がった。

「あらかた片付いたね。やるじゃん、魔法少女」
「総督さんも、お怪我は?」
「大丈夫」
「なら、良かったです。人質の皆さんを解放して早く退散しましょう。」
「ああ、そうだね…」


その時、館内に爆音が響いた。

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