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現代社会に冒険者という職業が出来るそうですよ?

Motoki

No.13 命のやり取り、殺人未遂犯

 最初は軽い気持ちでこの近くへ来ていた。
 まさかそこにあんなのがいたなんて知るはずもなく。

 今、俺達《アストライア》はギルド職員や警察官、マスコミ達に囲まれている。

 「…なんでこうなったんですか!」

 なずなが小さく叫ぶ。
 なんでこうなったのかは、俺が聞きたい。

 時を遡る事3時間前…。

 ◇

 「なあ、アジトっていつできんの?」

 勇気が授業中に聞いてきた。今は世界史のグループワーク中だ。

 「確か来週の月曜には完成してるって話だよ」

 「はやっ!?…すみません!」

 勇気が驚きで叫ぶと世界史の先生が勇気を睨んだ。
 剣心がそれを見て苦笑しながら早さの理由を教える。

 「家を建てるのを生業としてる人達が、6時間ごとに交代してノンストップで作業を進めてるらしい。それにある程度は別の場所で既に組み立ててあったらしい」

 「へ、へぇ。それでも1週間くらいで建てちゃうなんてすげーな」

 勇気の感心には同意せざるを得ない。
 1週間で立派な一軒家が建つなんて、ちょっと信じられない。

 「帰りに皆誘ってアジトの建設現場寄ってみるか?」

 俺の問いに勇気の目が輝いた。



 ……後になって思えば、俺がこんな事を言わなければあんな事に巻き込まれはしなかったのかもしれない。

 ◇

 「皆さんに悪いお知らせがあります。この学校周辺に殺人未遂を犯した冒険者が逃げ込んで来ています。」

 教室が一気に静まる。
 伊藤先生の言葉の意味を理解しきれないのだろう。

 「今日は皆さんに早めに下校してもらう事になりました。その分の週間授業数は免除します。護衛にギルド職員を何人かつけますので、集団下校となります。」

 集団下校。小学生で聞いて以来の単語だ。
 普通の高校であったならば、やんちゃでちょっとイタく恥ずかしい男子数名が「俺たちなら大丈夫っしょww」とか言ってる所だがここは冒険者が集う教室。
 命の大切さを理解していない人間は一人もいない。
 それは犯罪を犯した冒険者も一緒なはずだが、考えても仕方がない。



 「では一年男子は私に、女子はそこの彼について行ってください」

 俺達はその指示に従い伊藤先生について行く。途中までは女子と一緒なので莉奈達の姿も視認はできる。
 俺達を護衛するらしいギルド職員は全員で6人。それぞれが油断なく目を光らせている。



 寮まであと半分となった時だった。
 護衛のギルド職員達に何か知らせがあったようで、片耳につけたイヤホンの様なものに手を当てている。
 伊藤先生の方を見ると、何か安堵した表情を浮かべている。
 通信が終わったらしく、伊藤先生が皆の方を向く。

 「皆さん、ついさっき犯人が確保された様です。これでもう安心ですよ!」

 皆から「おお〜!」と歓声が聞こえる。

 「私たちはこのまま皆さんを寮に送りますが、買い物や用事がある人はそちらに向かっても大丈夫です」

 「アストライアのメンバーはアジトを見てきます!」

 勇気が姿勢と元気よく手を挙げ、伊藤先生に知らせる。
 莉奈達も俺達と合流した。

 「分かりました。護衛はいりますか?」

 護衛か、犯人が確保されたなら大丈夫だろう。

 「いえ、すぐそこなので大丈夫です」

 俺の言葉に伊藤先生は頷き、「ではまた明日」と言葉を残して寮へと向かっていった。

 ◇

 え、これ完成してない?
 アジトの様子を見に来た俺達の最初の感想は、恐らく皆同じだったろう。

 「あ、あの!こ、これってもう完成してるんですか?」

 なずなが近くにいた大工さん?に質問する。
 すると大工さんはなずなの胸を見て…おっと語弊があるな。なずなの胸のエンブレムを見て「おっ」と言った。
 …決してなずなの胸を見て「おっ」と言った訳では無い。

 「そのエンブレム、君達が《アストライア》かい?」

 「は、はい!」

 「アジトの方はまだ完成してないよ。君達が考えた秘密の部屋を作るのが大変なんだ」

 大工?のおじさんは大変そうな顔を全くせずに「わっはっは」と愉快に笑う。

 「そ、そうですよね…。あの部屋、作るのって大変ですよね…」

 なずながしゅんとする。

 「ああ、確かに大変さ。だけどな、今までじゃああいうの作れる機会なんてそうそうなかったから結構楽しんでるんだぜ!感謝したいくらいだ」

 「なのです? それは良かったのです!凜々は東凜々花なのです。アジトの事、よろしくなのです!」

 凜々花が自己紹介をして、愉快なおじさんにアジトの事を頼む。

 「あぁ!お前さん達の名前は知ってるよ。俺はここの現場監督をしてる吉原朝木よしはらあさきだ。アジトの増築とか新設備が欲しくなったら呼んでくれ!」


 愉快なおじさん改め、吉原さんとフレンドになった俺達はその場を後にした。

 ◇

 帰り道、それは突然だった。
 俺はその微妙な異変を見逃さなかった。

 「莉奈!地面を殴れ!」

 俺の指示に莉奈は一瞬「は?」というような顔をしたが、俺の声に含まれた必死さが彼女をすぐに動かした。

 「やあ!」

 気合いと共に放たれた赤い光を放つパンチは地面に衝突すると大きなクレーターを作り出した。
 周囲にコンクリートの欠片が飛び散る。
 すると俺達の左斜め後ろから「クソっ!」と声が聞こえた。

 「誰だ!」

 俺達がすぐにそちらへ向き、正体を尋ねる。
 そこに立っていたのは、気持ちの悪いニヤニヤ顔をした男だった。

 「俺か?俺は歌のお兄さんだよ〜!みっんな〜!こっんにっちわ〜」

 「嘘なのです!歌のお兄さんはそんな気持ちの悪い顔はしないのです!」

 凜々花が瞬時に否定するが、会話の内容が危機感を削いでいきそうだな…。

 「今、俺達に攻撃しようとしていたな。それも致命傷を与える程の攻撃を」

 剣心が殺気を放ちつつ問う。
 すると男はニヤニヤ顔をさらに気持ちの悪いものへと変えた。

 「いいねぇいいねぇ!その殺気!モンスターじゃ味合わせてくれないその感じ!…だから病みつきになっちまうよ」

 瞬間俺は悟った。こいつが例の殺人未遂犯だと言う事を。
 奴の目に潜む、恐ろしい程の殺気を感じ取ったからだ。

 「……お前、捕まったんじゃ無かったのか?」

 俺が聞くと、男は「あひゃひゃ」と笑った。

 「いや〜、あれは笑ったよ!流石の俺ももうダメだと思ったらさ?ギルドの奴ら俺とすれ違った全然関係ない人間確保しやがって!! 俺はフード被ってたから顔もバレてないし、偶然似たような服を着てた奴が身代わりになってくれたんだよ!」

 …なんだと。
 つまりあれか。俺達は今ギルド職員ですら手をやく殺人未遂犯と遭遇してるのか。

 「あひゃひゃ!男共は殺す!女共は後で頂く!せいぜい楽しませてくれよ!!」

 そう言うと男は全身から緑色の光を放った。
 突如、男の姿を見失った。だが、殺気は俺達に常に向けられている。

 この感じだ。俺が最初に感じ取った違和感は。
 今この状況では武器がないので剣心は戦えない。勇気も魔法は使えはするが、戦力として数えると勇気の魔法は除外される。

 「優人!上に花火!なのです!」

 凜々花が叫ぶ。俺はその言葉の意図を瞬時に理解し、上空へと炎の玉を打ち出す。

 「させねぇよ!ひゃひゃ」

 姿が見えない男が笑う。どこからか巨大な手裏剣が飛んできて、打ち上げられたばかりの火の玉を横から撃ち落とそうとする。

 「それこそさせないのです!」

 凜々花がそう言うと、俺達の周りに物凄い数の氷槍が現れる。
 それが一斉に射出され、四方八方を貫いていく。
 その一つが手裏剣にあたり、手裏剣の軌道を逸らす。

 「っお!?なんだその出鱈目な攻撃は!?どんだけ魔力あんだよ」

 男の姿を視認する。脇腹から血が出ている。凜々花の攻撃を避けきれなかったのだろう。

 「お嬢ちゃんよお、わかってんのか?今お嬢ちゃんは俺を殺そうとしたんだぞ?迷宮外で死んだ場合蘇生はされないぞ?」

 その言葉に凜々花がビクっとなる。
 俺達は今、モンスターではなく人間と戦っている。その意味を、重さを今やっと理解したのだろう。

 _____ドカァン!!

 空中で俺の放った火の玉が爆発する。
 周囲を明るく照らし、熱風が通り過ぎていく。

 「…ちっ。めんどくさいことしやがって」

 男が不機嫌になった。俺達が本気になって壁を作れば男の攻撃を防ぎ切るのは可能だ。だが、それだと男は逃げてしまう。
 ならばどうするか。男をなずなの障壁や俺達の魔法壁で捕らえるのがベストだろう。
 だが、男は壁が出来上がる前に抜け出してしまうだろう。

 となれば…

 「凜々花!なずな!俺が奴と一騎打ちをする!俺ごと壁で覆え!」

 これが最善策。俺が奴の動きを封じ、なずなと凜々花に壁で覆ってもらう。勇気も壁くらいなら作れるだろう。

 「てめぇ、おもしれぇこと言うな。作戦を敵に教えるのは悪手だがな」

 「俺がお前を逃がさないから問題ない!」

 俺はそう叫ぶと密度の高い氷剣を作り出す。片手剣二刀流だ。
 短剣より長い片手剣にしたのはその方が攻撃力とリーチがあるからだ。赤石で筋力を上げられるなら短剣よりも片手剣の方が良い。

 「…っ!優人さん!信じてますよ!!」

 俺が男の動きを封じてると、なずながそう叫びながら俺の周囲に立方体の障壁を作り出した。
 男が何度か攻撃すれば障壁を破れるだろうが、そうはさせない。

 「…てめぇ、名前は?」

 「歌のお姉さんだ。覚えとけ」

 俺の誤魔化しに男が遂にキレた。
 男が緑色に光ったかと思うと次の瞬間には俺の首に短剣が迫っていた。

 俺は放電しつつ、その攻撃を避けようとしたが避け切れず、首を浅く斬られる。
 焼けるような痛みを感じながら俺は治癒魔法で首を治癒する。

 「ああ?何だてめぇ。何で黄石の力まで使える」

 男が眉を寄せて聞いてくるが、答えてやる義理はない。

 「今のは危なかったな。だがもう終わりにする。起きたら牢屋の中だ。俺達を襲った事を一生悔いろ」

 俺は全身から黒い光を発し、赤石と緑石の力で残像が残る程の速度で男に近付いた。
 男はまだ俺の残像を見ている。思考も加速された俺だけが、この加速された世界を見ている。
 男は時が止まったように動かない。

 「眠れ」

 男の身体に電気を纏わせた拳を打ち込む。
 スタンガンの代わりになるだろうと思って打ち込んだが、パンチ自体の威力が強すぎて男の身体から骨が折れる音が聞こえてきた。
 そのまま男は吹っ飛び、なずなの障壁を突き破って凜々花の氷壁に埋まった。

 俺は黒い光を消すと、すぐに男の元へ駆け寄り治癒魔法をかける。気絶はそのままだが今のパンチの分は治さなければ死んでしまう。

 「優人!信じてても心配はするのですよ!」

 凜々花が泣きそうな顔で抱き着いてくる。おお、何だこれは、神からのご褒美か?
 何ていい匂いで柔らかい感触……じゃなくて!

 「あ、あぁ、大丈夫だよ。黒石の力なら問題なく勝てた。で、その、近くないか?」

 俺がそう言うと初めて自分が抱きついている事に気付いたらしく、顔を真っ赤にして周囲を吹雪で銀色にして俺を殴り飛ばした。
 殺人未遂犯の攻撃を首にくらった時より、よっぽど俺にダメージを与えた。…心に、だが。

 「流石だな、優人。俺は刀が無くても多少は戦えるが、それでもこの中では足でまといになってしまった。すまない」

 剣心が誤ってくる。

 「いや、俺も魔法で剣心に刀を渡すべきだった。そうすればもっと楽に勝てただろ。ごめん」

 俺と剣心が謝りあってると、ギルド職員数十人が走ってきた。その中には伊藤先生もいる。

 「あれ、坂本君達じゃないですか!さっきの爆発は何ですか!?」

 伊藤先生が聞いてくる。遠くからパトカーのサイレンも聞こえる。

 「伊藤先生!俺達こいつに襲われて!何とか撃退したんすよ!」

 勇気が「怖かった〜怖かった〜!抱きしめて!」と伊藤先生に言っている。
 お前何もしてないだろ。

 「こいつって…っ!? この人は!?」

 「例の殺人未遂犯ですよ。ギルド職員が確保したのは全くの別人だそうです」

 「……もうどこから突っ込めばいいか分からないですが、とりあえずギルドに来てください」

 「…はい」

 俺達がギルド職員達について行こうとすると後ろから声をかけられた。

 「君達!今回の事件は君達が起こしたのかい!?」

 いつの間にか沸いてきたマスコミが俺達を取り囲む。

 「皆さん!そこを動かないでください!」

 沢山の警察がこちらへ走ってくる。


 …どうしてこうなったんだろう。
 俺達はアジトを見に来ただけだったのに……。

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