現代社会に冒険者という職業が出来るそうですよ?

Motoki

No.7 サッカー、話し合い

  炎を纏った強烈なボールがゴールへと空気を切り裂いて向かっていく。
  それを氷の壁が破壊されながらも受け止めきる。
  キラキラと氷片が舞う中、青いゼッケンをつけ赤い光を放つ勇気が大跳躍をしてボールを確保し着地する前に前にいる味方へとパスをして危機を逃れる。

  今、俺は某有名サッカーアニメも涙目の光景を目の当たりにしている。









 「よ〜し。今日の体育だがサッカーをしようと思う」

  今日は木曜日、明日は迷宮に挑戦できる日だ。
  俺たちの学校でも週に1回だが体育はある。人数が揃わない時は他学年と合同でやる事もあるらしいが、今日は体育初日なので1年生(といっても1クラスだけだが)は全員揃っている。
  教師は軽い自己紹介をしたあと、突然サッカーをすると言い出した。
  それを聞いた生徒達からは期待(主に男子)と不安(主に女子)の声が上がっている。

 「あの、何故サッカーなのでしょうか?」

  俺たちの疑問をなずなが問う。初日にいきなりサッカーをするというのは変な話だ。

 「あぁ〜。出来るだけ急いで実施するよう、校長のやつに頼まれてな。理由はこうだ______」

  曰く、自身の力には一刻も早く慣れさせたい。だが、戦闘訓練という形でその力を人に向けるのはまだ危険だ。
  だったら球技で試してみようと言う事らしい。
  かなり耐久力が上がった特殊なボールを用い、自由度の高いサッカーでならその力を使いつつ直接の戦闘訓練よりは安全に行えるのでは無いか、ということらしい。

 「ですが、男女合同でですか?」

  女子のクラスメイトの一人がそう尋ねる。
  確かに気になるところだが、それについては大丈夫だろう。

 「今の君達にはほとんど力の差は無い。石の色によって得手不得手はあっても、総合的な力の差はほとんど無い。つまり、男子と女子の性別によるハンデはほとんどないという事だ。」

  そう、俺は莉奈を見て既に確信している。
  石の力を得た人間は一定の力まで引き上げられる。それは誰でも、男でも女でも一緒だ。そこからは鍛錬によって異なってくるが、まだ問題視しなくても大丈夫だろう。

 「じゃあ準備運動したら始めるぞ〜」


 ……教師は後に言った。
 アレはサッカーでは無いと。






 「ナイスパス!」

  勇気からボールを貰った青チームの男子生徒が綺麗にボールを受け取るトラップする。
  石の力はここでも働き、運動神経が異常上昇した俺達はプロサッカー選手顔負けの動きが出来る。…といっても技術はからっきしでほぼ力でゴリ押しだが。


  初めは誰だっただろう。それまでは普通のサッカーだった。だが、徐々にサッカーが楽しくなってきて皆のテンションが上がってくるとコート戦場に魔法が炸裂し始めたのである。
  それに対抗するため《赤い光を放つ怪力》や《黄色い光を放つ無限の体力や強力な障壁》、《緑の光を放つ無気配の忍者の様なもの》まで現れ始め、今やもう何が起きているのか分からないのが現状だ。

 ____バァンッ!!

  大きな破裂音。

 「あっちゃ〜、またやっちゃった〜」

  莉奈がボールを割った。本日3回目。赤石の力にも耐える特殊で頑丈なはずのボールを、だ。
  キーパーを買って出た莉奈だが、パンチングをしたがる。その全てがフルスイングで、ボールを破裂させる。

 「さすがなのです…」「私の障壁なんかすぐ破られそうです…」
  と凜々花となずなが呟く。
  俺達は迷宮でその力を見ていたから衝撃は少ないが、初めて見たクラスメイト達は驚いていた。今は呆れているが。

  ゴールキックから再開され、ボールがなずなに渡る。
  俺と勇気、凜々花は青チーム。
  莉奈となずな、剣心は赤チームだ。

 「あわわ…!」

  焦るなずなに青チーム女子が迫る。
  青女子が赤い光を放ち凄まじい速度で瞬時に距離を詰める。が、なずなは障壁を展開しそれを阻む。
  その隙に味方の男子生徒へパスをする。
  赤男子はボールを受け取ると周囲に炎の渦を展開する。これではそう簡単に近づけない。

 「よっしゃ行くぜ!…ってあれ!?」

  赤男子が走り出そうとして奇妙な声をあげる。炎を消した赤男子の足下には既にボールは無かった。

 「緑石もなめないでよねっ」

  何とボールは赤男子のもとに渡った瞬間に奪われていたようだ。恐るべし忍者ガール。

 「凜々花ちゃん!」

  ボールが赤チームのゴール前にいた凜々花へと渡る。
  オフサイドにならないギリギリのタイミングで飛びたした様だ。

 「行くのですっ!」

  ボールが氷を纏う。凜々花の周囲に吹雪が発生する。
  凜々花が勢い良く蹴りを入れると、ボールは吹雪を尾にして赤チームのゴールへと迫る。

 「いれさせないよ!」

 莉奈が腕を振りかぶりフルスイングをしようとする。

 「させないのです!」

  凜々花がそう叫ぶのと同時に吹雪が爆発的にボールから広がり莉奈を飲み込む。

 「わぁっ!寒っ!見えなっ!」

  莉奈の悲鳴の様な声が聞こえる中吹雪はさらに拡大し続け、凜々花が手をパチンッと鳴らすと同時に消えた。
  ボールは見事ゴールの中に入っていて、その前には寒さで震える莉奈がいた。

 「ちょ、ちょ〜!凜々花〜〜!」

  莉奈が凜々花をジロっと見ると、凜々花は舌をぺろっと出して「やりすぎたのです」と可愛く謝罪した。
 何人かの男子が落ちた。何に、とは言わない。

  だがこうして見ると、サッカーによって皆の力の制御が上手くなっている気がする。
  最初はボールに炎や氷を纏わせる事は出来ていなかったし、気配も上手くは消せていなかった。力の加減も誤り、ボールを明後日の方向へ飛ばしすぎるという事も多々あった。
  これは割と良い鍛錬になっているのでは無いのだろうか。


 ピッピッピ〜〜〜

  試合終了を知らせる笛がなる。
  結果は青チームの勝ちだった。皆かなり楽しかったようだ。

 「お前ら!先生から言いたい事はただ一つだ!」

 先生が授業の最後に話をして解散するのかと思っていると、先生が皆に伝えたい事があると言い出した。

 「次からはグラウンドを極力壊すな!」

  先生はそう言うとグラウンドを指差す。そこには…あちらこちらにクレーターやら燃える芝生やらが存在していた。

  (どうみてもサッカーした後のグラウンドじゃないな)

  クラスメイトの共通認識だった。








 「いや〜、にしても凜々花ちゃん!凄かったね!」

  勇気がそういうと凜々花は照れたように笑った。

 「思ったより楽しくて、頑張りすぎちゃったのです」

  授業が終わり、今は放課後。下校準備を済ませた俺達は明日の予定を話し合うために教室にいた。

 「…俺は全く活躍出来なかった」

  剣心が落ち込んでいる。サッカー中はハッキリいって存在を忘れていた。まあ、俺もほとんど活躍してないけどな。

 「それで、明日はどうしますか?」

  なずなが俺を見上げて聞いてくる。何故かこのパーティーのリーダーは俺がやっている。

 「明日は10時から攻略を開始しよう。それで、1つ相談があるんだ」

  俺の言葉に皆が耳を傾ける。

 「上の層へ登る階段の周辺にはモンスターがわかない事は知ってるよな?」

  上の層へ登る階段の周辺、つまりその層の最深部はモンスターが出現しない。もちろんそこに至るまでにはモンスターがたくさん出るが、階段の周辺には出ないのだ。
  ガーディアンが居る層だとガーディアンを倒さないとモンスターは出現するらしいが。

 「俺は明日、迷宮で野営をしようと思う。そこで皆の力を借りたいんだ」

  俺の言葉に皆が驚く。野営なんて学生じゃ誰もしていないだろう。

 「俺達は今、最前線からはかなり遅れてる。まだ25層は突破されてないけど、それも時間の問題だ。なにせガーディアン以外はもう問題じゃないからな」

 「つまり、最前線に追いつくために最大限効率的に攻略を進めたいと?」

  剣心の質問に首を縦に降って肯定する。

 「だけど、お風呂とか食料とかはどうするのさ」

  莉奈の質問はもっともで、皆もうんうんと頷いている。

 「そこで皆の力を借りたいんだ。食料やテントとかは学校が用意してくれた野営セットがある。風呂は凜々花に負担がかかるが、お湯を創造してもらおうと思う。」

 「私は大丈夫ですよ、最前線に追い付きたいのは私も一緒です」

 「凜々も大丈夫なのです。お湯の創造・維持くらい朝飯前なのです。」

  二人が肯定すると他の皆もそれに続いた。

 「じゃあ明日は迷宮でお泊まりか!」

 勇気のテンションが上がっている。

 「あまり調子に乗るなよ。油断してると死ぬからな」

 俺が釘を刺すと勇気は「わ、わかった」と怒られた子犬の様にシュンとした。

 「明日は何層まで行くんだ?」

 「まずは10層まで行こうと思う」

 「「「「「………は?((なの)です)」」」」」

  あれ、何かおかしな事言ったかな。

 「えーと、10層まで行こうと思う」

 「い、いや聞こえてるよ!?ただいくら何でも10層って!」

  俺達は先の攻略で2層まで行った。明日は一日中攻略に回せるし、マッピングもしないから到達は不可能ではないだろう。
  その事を皆に伝えると一瞬固まった。

 「モンスターだって、強くなってくんだよ?」

 「罠だって増えますよ?」

 莉奈となずながそう言ってくるが今の俺たちなら問題は無い。

 「今日のサッカーで力の制御はかなり上達したはずだ。それに罠について、俺はそこそこ知識をつけてある」

  俺の自信を持った回答に皆は黙り込み、そして静かに笑った。

 「ま、優人が決めたなら構わないよ。皆も同じだ」

 勇気がそう言うと、皆は力強く頷いた。俺をそこまで信じてくれているのか。素直に嬉しいな。

 「じゃあ今日はこれで解散としよう」

 剣心が時計を見てリュックを背負う。時計を見るともう6時を過ぎている。長話をし過ぎた。

 「あぁ、じゃあまた明日な」

 俺達は別れを告げ、______一緒に帰った。
 ……寮生活だって事忘れてた。まだ慣れないな。
 皆で苦笑しながらゆっくりと寮に向かって歩いていった。

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