現代社会に冒険者という職業が出来るそうですよ?

Motoki

No.5 学校、新装備

 「…きて、起きて」

  遠くから声が聞こえる。そのたびに意識が覚醒へと近づいていく。
  目を覚ますとそこには唇を突き出し、キスをしようとしてくる綺麗な顔があった。……男のだが。

 「王子様の目覚めのキスですよぉ〜〜」

  俺が起きた事に気付かない勇気ホモ野郎はそのまま近づいてくる。俺は無言で拳から赤い光を放ち、直後に勇気ホモ野郎の腹を殴る。

 「カッハッッ!」

  俺に覆いかぶさっていた勇気ホモ野郎が声にならない悲鳴をあげ、天井にぶつかる。

 「……死ぬ覚悟は出来てるんだろうな」

 「!? お、おはよう!いや、その誤解だ!俺は何もしようとしてないz…グハッ!」

  言い訳を最後まで聞かずに蹴りを入れる。
  よもや、レッドウルフ・ロード戦から1日も経たずに仲間が一人減ることになるとはな…。

 「じゃあな勇気ホモ野郎。あの世で悔いろ」


  寮からは勇気ホモ野郎の断末魔が上がり、同時に周囲を黒い光が覆っていた。






 「あ、優人なのです」

 「おう。凜々花、なずな、莉奈、おはよう」

  俺が登校してくると、凜々花達が声を掛けてきた。俺の挨拶に「おはよう(なのです)(ございます)」と返してくる。
  改めて見ると3人は本当に可愛い。周りの男子達も注目しているようだ。

 「勇気は一緒じゃないのです?」

 「……あいつは、死んだよ」

  俺の言葉に皆が顔を青くする。
  こんなに心配して貰えるなんて、あの世にいる勇気も報われるな。

 「っちょっと待てーい!俺を勝手に殺すな!殺されかけたけど死んでないわ!」

  勇気が勢いよく教室に入ってくる。
  皆が安堵の表情を浮かべる。本当に心配してたのか、いい子たちだな。

 「ゆ、勇気さん!?どうしたんですか!?顔に大きなアザが!」

 「い、いやぁ〜、ちょっとふざけ過ぎちゃってね」

  …ちょっと?あれでちょっとなのか?朝の出来事を思い出し鳥肌が立つ。

 「…!? 待った、ストップ!ちょっとじゃない!かなりふざけたよ!」

  俺からの殺気が漏れていたのかもしれない。勇気が必死で訂正する。

 「…なんとなく察しがついたよ」

  莉奈が苦笑している。昨日あったばかりというのに素晴らしい勘だな。

 「そういや剣心は?」

  勇気が周りを見渡しながら聞く。確かに見当たらない。

 「チャット来てたよ、見てないの?」

  莉奈が端末を見せてきたので内容を確認する。

『技の反動で身体が動かせない。誰か助けてくれ。』

  おお、そこまで強い反動が来たのか。まぁあの威力だしな、妥当か。



  …………誰か助けてくれ?

 「わ、私たち剣心さんの部屋知らなくて!というか男子寮に行くと迷いそうで!勇気さんたちが行ってくれると思ったのですが…」

  すまない、剣心。全ては勇気の責任だ。
  俺が勇気を見つめる睨みつけると、途端に背筋を伸ばし敬礼しながら

 「い、行ってまいります!!!」

  と言葉を残し物凄い勢いで去っていった。
  女子達は苦笑どころか失笑していたが。

 「そういやなずな達は時間割どうしてるんだ?」

 「私たちは優人くんと勇気くんに合わせるつもりですよ。剣心くんもそうするそうです」

  おお、じゃあ学校でも常に一緒なのか。
  …ちょっと嬉しいな。

 「はーい、みなさーん!おはようございまーす!」

  元気よく伊藤先生が入ってくる。
 「おはようございまーす」と皆が返し、着席する。

 「今日は6人が休みですね。皆迷宮に行っていますよ」

  伊藤先生はそう言いながら持ってきていた本を開く。この学校は朝のHRの前に朝読書時間があるのだ。
  俺も机の中から本を取り出す。ゲームやアニメ等で出てくる迷宮ダンジョンについて書かれた本だ。
  少しでも知識をつけておこうと買ったものだ。
『迷宮には沢山の罠がっ!』
 と書かれたタイトルの所を読んでいく。
  なんと、そんな罠まで存在するのか…!







 「では、英単語テスト不合格者には課題を配ります」

  今は4時間目の終わり。突然単語テストをやると言われ、しかもすぐに丸つけ。8割の正答率を超えなかった者は不合格とされ、もとから用意されていた課題が配られる。
  俺たちのパーティーからは不合格者は出なかったが、勇気バカはギリギリだった。
  ちなみに1位は凜々花で、英語はペラペラな様だ。

  そうこうしているうちにチャイムがなり、昼休みになった。

『1年坂本優人くん。大谷勇気くん。坪内剣心くん。高橋なずなさん。東凜々花さん。天野莉奈さん。昼食を早めに終え、1時までに装備室に来てください。』

 「え、俺ら何も悪い事してないよな?」

  勇気よ、悪い事をしてなくても呼ばれる事はあるんだぞ。PM全員が集合する。

 「まぁ、取り敢えず飯を食おう」

 「そうですね、折角だから皆で食べましょう。私、作りすぎちゃって」

  なずなが大きめの弁当箱を机に置く。作り過ぎたとかいうレベルじゃない。

 「なずなずは早起きして皆の分を作ってたのです」

  凜々花が得意気に言う。いや、何故凜々花が得意気なんだ。

 「り、りり、凜々花!?それ言っちゃダメなやつです!」

  どうやらもともと皆で食べる予定だったのだろう。俺達が昨日「昼食は基本学食へ行く」と言ったのを覚えていた様だ。

 「おお!これなずなちゃんの手作り?食べていい?」

  勇気は嬉しそうに、物凄く嬉しそうに弁当を見つめている。剣心の喉からも「ゴクッ」と音が聞こえてきた。

 「なずなの料理は凄く美味しいんだよ!」

  莉奈も得意気に言う。だから何故莉奈が得意気なんだ。

 「それじゃあお言葉に甘えて、いただきます」

  俺の言葉に続き皆が「いただきます」と言う。
  なずなは俺たちの様子を伺っていたが、勇気が「うめぇーー!!!」と叫ぶと嬉しそうに笑った。





 昼食も食べ終わり、装備室の前に来た。
 ドアをノックし、部屋に入る。

 「失礼しまーす…」

  緊張しながらゆっくり入ると奥から「ちょ、ちょっと待ってくだs…きゃあっ!」と悲鳴が聞こえてきた。
  今のは伊藤先生の声だ。何かあったのかもしれない。俺は急いで奥の部屋の扉を開け、様子を見る。

  _____そして閉めた。

 「きゃああああああ!!!」

  さっきの10倍はありそうな悲鳴が奥から聞こえる。
  …そう、扉の向こうにいたのは着替え途中だったのか下着姿の伊藤先生だったのだ。
  恐らく俺達の入室に気付いて焦ってしまい、床にあった服を踏んで転んだのだろう。

 「どうしたっ!?」「なにがあった!?」

  沢山の先生や生徒が装備室に集まる。…やばい気がする。
  顔を赤くした伊藤先生が扉を少し開け「な、なんでもないですよ!」と皆に伝えているが、周りの人達は何が起きたかすぐに察した様だった。

  余談だが、次の日から俺は坂本優人覗き魔と呼ばれるようになり、女子達から恐れらるようになった。





 「え、えぇ〜、こほんっ。み、皆さんを呼んだのは新しい装備を選んで貰うためです。」

  やっと顔から赤色が抜けてきた伊藤先生(服は来ている)がそう告げる。なんだ新装備か、怒られるんじゃないのか、良かった。

 …え?新装備?

 「あ、あの!私達昨日貰ったばかりですよ?」

  なずなが慌てたように言う。
  昨日の今日でまた装備を選べ、か。

 「迷宮内の監視カメラで確認しましたが、皆さんの実力は群を抜いています。なので、より上質な装備を使ってもらい攻略を早めて欲しいのです。」

  なるほど、それは有難いな。

 「では、奥の部屋に用意してあるので確認してみてください。杖については迷宮の宝箱から発見された物がありまして、その杖には魔力増強の効果があるそうですよ」

  凜々花の目が光る。「行くのです!」と言って颯爽と部屋に入っていく。俺達もその後を追い部屋に入る。

 「お、この盾すげぇ!」「この刀は!?」「くぅ〜!このガントレットは最高だな!」

  うちの物理火力勢が歓喜の声を上げている。俺も短剣と手裏剣を確認する。前回投石を攻撃手段とした時、意外と有効だったので手裏剣を貰おうと思ったのだ。

  なずなは綺麗な黄色の宝石が埋め込まれたネックレスを見てうっとりしている。凄く絵になる。
  あのネックレスには治癒力を上げ魔力消費量を下げる効果があるそうだ。23層で見つかったものらしく、今ある装飾品の中ではダントツで高性能なものだ。

  それぞれが欲しい装備を貰い、心を弾ませながら教室に戻る。攻略に対するモチベーションもうなぎのぼりだ。

 「あぁー!早く迷宮行きたいぜ!」

 「私もなのです!早く金曜になって欲しいのです!」

  勇気と凜々花が興奮気味に話す。剣心も落ち着いているように見えるがにやけている。

 「にしても迷宮にエレベーターとはね〜」

  莉奈が嬉しそうに言う。さっき伊藤先生から聞いた話なのだが、迷宮にエレベーターが作られるようだ。完成は金曜日だ。国が本気を出すとこんなにも早いのか。

  今までエレベーターが作られなかった理由だが、迷宮の地面は層が変わる寸前でどうしても削れなくなるのだ。
  故にエレベーターが作れなかったので諦めていた。
 のだが、上の層から下の層に向かって掘っていくと簡単に貫通したようでエレベーターの作成が再開したのだ。
  1度到達した層なら以降からは楽に移動できる様になるのだ。これは冒険者にとっては限りなく嬉しい事で、今まで時間的にも精神的にも行けて20層だった冒険者が楽に上の層まで行けるのだ。攻略がより効率よく行える。

 「じゃあそれまで勉強頑張って、金曜から思いっきり冒険しよう!」

 勇気の声に皆が「おー(なのです!)」と声を上げた。

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