現代社会に冒険者という職業が出来るそうですよ?
No.3 迷宮、初戦闘
___コツコツコツ…
螺旋状の階段がある空間は音が全くしないため、俺たちの足音が余計に大きく響いているように感じる。
「ちょっと怖いですね…」
「な、なのです…」
なずなと凜々花が二人でくっついて歩いている。
確かに不気味ではある。実際、次の2層では調査隊の方々が亡くなっているのだ。その事実が恐怖を倍増させているのだろう。
重い足を懸命に動かしていると、やっと階段の終わりが見えて来た。
「皆きいてくれ、油断は禁物だが緊張し過ぎるのもダメだ。互いを信じ、常に独りでは無い事を意識していれば多少は気が楽になるだろう」
短い時間だが剣心と接して分かったことは、剣心の家は今どき珍しい剣術(剣道ではない)を学んでいるそうだ。
俺は剣道を習っていたが、剣道はどうしても《斬る》ではなく《叩く》様なものになっているような気がする。故に、あまり実践には向かないだろう。剣術ならばその心配はそこまでしなくていいだろう。
「おう、俺は剣心の事信じてるし頼りにしてるぜ!」
勇気の言葉と表情から溢れ出る暖かい光が、みんなの緊張をよりいっそう溶かしてくれたようだ。
こういう時、勇気の人柄は本当にすごいと思う。
……認めたくは無いけどな。
「さあ、2層を拝んでやろうじゃない!」
莉奈がそう言うと2層に向かって足をはやめた。
1番に莉奈が階段をのぼり終え、2層を見る。
「おぉっ!これはっ………1層と変わらないのか」
 俺達も追いつき2層を目にするが、そこは1層と変わらない洞窟の様な場所だった。
 壁中にある光を発する石のお陰で遠くまで見渡せていて、その光景自体も幻想的だが、1層を歩いている間もずっとみていたので流石にもう「おおっ!」とはならない。
今更だが、塔の大きさと迷宮の大きさは完全に別なようだ。
空間が捻じ曲がっているのか分からないが、外と中では大きさが異なっている。
よって2層目の大きさは塔の外見と比べると多少小さい。…のだが、西村さんの話だと上に上がるにつれてどんどん大きくなっていくようだ。
上に行くにつれて攻略も大変になるのはゲームと同じか。
「ふぅ。っと、いきなり分かれ道だけどどっちに進むんだ?」
勇気が分岐点を指差しながら確認してくる。
俺は端末の地図を見る。自衛隊や他の冒険者のお陰でこの辺はマッピングが終わっている。
ただ隠し通路や罠があるかもしれないので100%では無いだろう。
「んー。左に行けばマッピングがあまりされてないから宝とかあるかもしれない。右に行けば3層に続く所まではマッピングされてるみたいだ。どっちがいい?」
皆に確認すると剣心となずなが左に行こうと提案してきた。
「左に行けばマッピングが進み他の冒険者の役に立てますし、危険度は少し上がりますがマッピングされていない迷宮探索の経験も積んでおくべきだと思います」
「あぁ、それに罠等には要注意だが、もしかしたら何か攻略のヒントになるものがあるかもしれない」
確かにそれもそうだな。2層の中に限って見れば右の方が安全だろう。だが3層やそれより上を見た時に2層でマッピング経験があるかないかでは、かなりの違いが出てくる。
長期的にみれば左へ行くのが安全に繋がる、か。
「俺もそれに賛成しよう、他はどうする?」
俺が聞くと各々が
「任せるのです」「そーゆーのは良くわかんないや」「優人についてくぜっ」と答えたので左に行く事にした。
歩き始めて5分程経った。まだモンスターとも宝箱とも罠とも遭遇していない。徐々に集中力が低下してきて警戒も緩みがちになってきていた。
____ガキィン!!
突然大きな音がした。
慌てて音のした前方に視線を向ける。
先頭を歩いていた勇気が盾で“何か”を防いでいるようだ。
「……おらぁっ!」
勇気が盾を強く押し返し“何か”を前へと飛ばす。
よく見るとそれは犬…いや、それより少し大きいな。
実際に見るのは初めてだが狼と呼ばれるものでは無いだろうか。
「エンカウント!モンスター視認、狼みたいなのが1頭!」
俺は端末のカメラをモンスターに向ける、するとそのモンスターの情報が表示された。他の冒険者によって集められた情報だろう。
「モンスター名はレッドウルフ!高い身体能力を持っているらしい!」
俺がそう叫ぶと狼…レッドウルフは「グルル…」と俺の方に狙いを変えた。
「こっちみやがれ!」
勇気が剣で盾を叩く。するとそこから赤い光が放たれ、それを見たレッドウルフが勇気の方に向き直る。
敵の注意を引きつける《特殊な技》だ。俺たちは石を吸収する事でスキルを使える様になっている。使い方などは自然に理解している。剣や魔法の使い方も同様だ。
勇気が憎悪を稼ぎ、敵の攻撃を全て引き受ける。
「グルアァ!!」
レッドウルフがその赤い身体から赤い光を放つ。
俺たちがスキルを使う時の光と同じものだ。
____ガキィン!!ガンッ!!ドカッ!
レッドウルフの放った強力な3連撃を勇気が盾で防ごうとしたが、2撃目でバランスを崩され3撃目をモロに食らう。
「ぐっ!」
「勇気!…はぁっ!」
勇気に向かって追撃しようとするレッドウルフに向かって走る。短剣を2本、鞘から抜きざまに切りつける。
レッドウルフには不意打ちになったようで見事に当たった。
「勇気さん!今回復します!」
そういうやいなや、なずなの身体が黄色い光を放つ。
苦しんでいた勇気が、溝落ちをさすりながら立ち上がる。
「これが回復魔法か、すごいな!さんきゅ!なずなちゃん!」
勇気が復活した所でレッドウルフも立ち上がった。
今の攻撃を食らってなお勇気をターゲットとしているようだ。あのスキルの効果はかなり高いようだ。
レッドウルフが再び突っ込んでくる。
それを勇気が盾で防ぐ。レッドウルフが盾にぶつかり止まったところを莉奈が横から殴り飛ばす。
レッドウルフが殴り飛ばされた先には剣心が刀を構えて待っていた。
「……っ!」
無言の気合いとともに放たれた高速の斬撃はレッドウルフの身体を深く斬り裂いた。
「グル…グルァ…!」
瀕死となったレッドウルフに向かって氷の矢が飛んでいく。
凜々花の魔法だ。
冒険者の使う魔法はゲームでいう純魔法だ。純魔法とは、詠唱による定型の手順を経て行われる魔法とは別に、魔力を属性に変換せず直接使う魔法だ。
魔力とイメージ力などだけで行われて、行使した者のイメージによってあらゆる事ができる。
___ガシャアァン!!
氷がレッドウルフを貫通して地面に激突し、盛大に割れる。
その破砕音に混ざりレッドウルフの断末魔が響く。
断末魔が収まるとレッドウルフは光の粒となって消えていった。もう血痕も毛の一本すらも残っていない。
「勝ったのです!」
凜々花が嬉しそうにそう言い、なずなとハイタッチする。
初めての戦闘にしては中々のコンビネーションだったと言えるだろう。
剣心の斬撃も凜々花の魔法も強力な攻撃だったが、莉奈のパンチはちょっと威力がおかしかった。食らったレッドウルフの骨が折れる音が何本分か聞こえた。
レッドウルフが少し哀れに思えた。
「おつかれさま、よく防いでくれた」
「めっちゃ怖かったぁ〜!でもそれ以上に剣心も凄かったな!」
剣心と勇気が互いに互いを褒めている。
騎士と侍に憧れている二人は気が合うのかも知れない。
「今更なんだけどさ、私達何かクエスト受けた方がよくない?」
クエストとは他の冒険者や政府等からの依頼をギルドがまとめて冒険者に依頼しているものだ。
端末内にクエストボードという物があり、そこから受注する事が出来る。
莉奈の言う通り、何かついでにやれる事があるかもしれない。
「そうですね、調べてみます!」
なずながクエストボードを見て「むむむ…」とか「はっ!」とか言っている。もとからかなりの美少女なだけに、なかなかに可愛い。
隣の勇気もそれをみて「はっ!」とか「グハッ」とか言っているが、こっちはおぞましい。
「あの、これなんて私達にぴったりじゃないですか?」
そう言い、なずなが見せてきた画面には
《迷宮2層 : 最初の分かれ道の左側をマッピングし、マッピングデータを提供せよ》
と書かれていた。確かにピッタリだ。
「報酬はマッピングした範囲にもよるようですが、100m分の新マップデータが300円で買い取られるそうです」
おお、1km分データを提供すれば3000円か。6人で割っても1人頭500円だ。
1km歩くだけで500円だ。それにもともとの目的と合致している。一石二鳥だ。
「俺はそれでいいと思うぞ」
剣心の言葉に皆が同意する。
「じゃ、じゃあこれを受注しますね!」となずなが言うと、“受注”と書かれているところをタップする。
すると俺たちの端末にも通知が来る。
同じパーティーなのでクエストも全員で協力して行う。
ちなみに今は300メートルほどマッピング出来ているので最低でも900円は貰える。
「よし、頑張るのです!」
凜々花はさっきよりも気合が入っている。まぁ、俺も内心そうなんだが。
それからしばらく歩いた。途中宝箱を1つ見付けたが、出てきたのは明らかに腐っている謎のフルーツだった。
一応ギルドに持ち帰って調べて貰う事にしたが、腐っているので正確なデータが取れるかは微妙だ。
マッピングもかなりすすみ、1500m分の道と部屋をマッピングした。
道中何度かレッドウルフに遭遇したが全て難なく倒す事が出来た。
「ここってレッドウルフばっかだよな〜」
「確かに、他のモンスターはいないわね」
勇気がぼやくと莉奈も同意する。
レッドウルフは今発見されている中でも下の方に位置するいわゆる雑魚モンスターだ。5層より上にはいないらしい。
「え!?」
突然なずなが叫んだ。
かなり慌てている。
「どうした?」
「た、大変です!レッドウルフ・ロードがこの2層に出現しているようです!」
レッドウルフ・ロード。
その名の通り、レッドウルフの頂点に立つモンスターだ。レッドウルフ・ロードが出現した層ではレッドウルフの出現率が上がり、他のモンスターの出現率が下がる。なるほど、どうりでレッドウルフしか居なかったわけだ。
「どこら辺で目撃情報がでたんだ?」
「…2層へ来た直後のパーティーが最初の分かれ道の右側からレッドウルフ・ロードが走ってくるのを目撃したそうです……」
……分岐点まで到達すれば左側、俺達が帰るためのルートをこちらに向かって進んで来るかもしれない。おそらく進んできているだろう。
「討伐パーティー募集のクエストも出ているようですが、誰も受注していません」
レッドウルフ・ロードの強さは5層にいる守護者と呼ばれる強力なモンスターと同等の強さを誇るらしい。
それを討伐するのであれば最低でも12人は欲しい所だ。
だが今は平日の午後4時30分、この時間だと人はあまり集まらないだろう。
「隠れてやり過ごすのも無理だよな…」
勇気が消え入りそうな声で呟く。隠れたとしても大量にいるレッドウルフには見つかるだろう、その音を聞きつけたレッドウルフ・ロードが来たらそれこそ最悪だ。
1度に複数の敵を相手にするのはまだ俺達には早い。
「なずなちゃん、その討伐クエスト受けるのです」
「えっ!?」
「どっちにしろこのままではジリ貧なのです。だったら不意打ちで先手を取って戦う方がいいのです」
なるほど、確かにそうだな。
凜々花の魔法なら多少動きを止められるし、莉奈が顔を殴るだけでも脳震盪を起こすだろう。
……あれ、男子の1撃の火力が微妙なんだが。
「俺もそうするべきだと思う。少しで良いから時間をくれればかなりのダメージを与える技を使える」
剣心が腰の刀の柄を握ってそういう。
剣心の自意識過剰という訳ではなく、おそらく本当に大ダメージを与えられる技があるのだろう。
「…そうだな、そうしよう」
俺がそう言うと皆が覚悟を決めた表情で頷く。もちろん死ぬ覚悟ではない。全力で戦う覚悟だ。
なずながクエストを受注する。みんなのスマホが通知が来た事を知らせる為にブルブルと震える。
遠くからレッドウルフとは比べ物にならない程の雄叫びが聞こえてきた。
最後までご愛読ありがとうございます!
ふぅ、1回目の迷宮攻略でいきなり5層ボスと同格の敵と戦う事になったようです。
ちなみにガーディアンは5層ごとに存在していて、自衛隊がやられた25層の敵はかなり強力だったようです。
どっかのVRデスゲームと酷似していますが、それがゲームのセオリーだと思うので突っ込まないでください笑
では、また次話で!
螺旋状の階段がある空間は音が全くしないため、俺たちの足音が余計に大きく響いているように感じる。
「ちょっと怖いですね…」
「な、なのです…」
なずなと凜々花が二人でくっついて歩いている。
確かに不気味ではある。実際、次の2層では調査隊の方々が亡くなっているのだ。その事実が恐怖を倍増させているのだろう。
重い足を懸命に動かしていると、やっと階段の終わりが見えて来た。
「皆きいてくれ、油断は禁物だが緊張し過ぎるのもダメだ。互いを信じ、常に独りでは無い事を意識していれば多少は気が楽になるだろう」
短い時間だが剣心と接して分かったことは、剣心の家は今どき珍しい剣術(剣道ではない)を学んでいるそうだ。
俺は剣道を習っていたが、剣道はどうしても《斬る》ではなく《叩く》様なものになっているような気がする。故に、あまり実践には向かないだろう。剣術ならばその心配はそこまでしなくていいだろう。
「おう、俺は剣心の事信じてるし頼りにしてるぜ!」
勇気の言葉と表情から溢れ出る暖かい光が、みんなの緊張をよりいっそう溶かしてくれたようだ。
こういう時、勇気の人柄は本当にすごいと思う。
……認めたくは無いけどな。
「さあ、2層を拝んでやろうじゃない!」
莉奈がそう言うと2層に向かって足をはやめた。
1番に莉奈が階段をのぼり終え、2層を見る。
「おぉっ!これはっ………1層と変わらないのか」
 俺達も追いつき2層を目にするが、そこは1層と変わらない洞窟の様な場所だった。
 壁中にある光を発する石のお陰で遠くまで見渡せていて、その光景自体も幻想的だが、1層を歩いている間もずっとみていたので流石にもう「おおっ!」とはならない。
今更だが、塔の大きさと迷宮の大きさは完全に別なようだ。
空間が捻じ曲がっているのか分からないが、外と中では大きさが異なっている。
よって2層目の大きさは塔の外見と比べると多少小さい。…のだが、西村さんの話だと上に上がるにつれてどんどん大きくなっていくようだ。
上に行くにつれて攻略も大変になるのはゲームと同じか。
「ふぅ。っと、いきなり分かれ道だけどどっちに進むんだ?」
勇気が分岐点を指差しながら確認してくる。
俺は端末の地図を見る。自衛隊や他の冒険者のお陰でこの辺はマッピングが終わっている。
ただ隠し通路や罠があるかもしれないので100%では無いだろう。
「んー。左に行けばマッピングがあまりされてないから宝とかあるかもしれない。右に行けば3層に続く所まではマッピングされてるみたいだ。どっちがいい?」
皆に確認すると剣心となずなが左に行こうと提案してきた。
「左に行けばマッピングが進み他の冒険者の役に立てますし、危険度は少し上がりますがマッピングされていない迷宮探索の経験も積んでおくべきだと思います」
「あぁ、それに罠等には要注意だが、もしかしたら何か攻略のヒントになるものがあるかもしれない」
確かにそれもそうだな。2層の中に限って見れば右の方が安全だろう。だが3層やそれより上を見た時に2層でマッピング経験があるかないかでは、かなりの違いが出てくる。
長期的にみれば左へ行くのが安全に繋がる、か。
「俺もそれに賛成しよう、他はどうする?」
俺が聞くと各々が
「任せるのです」「そーゆーのは良くわかんないや」「優人についてくぜっ」と答えたので左に行く事にした。
歩き始めて5分程経った。まだモンスターとも宝箱とも罠とも遭遇していない。徐々に集中力が低下してきて警戒も緩みがちになってきていた。
____ガキィン!!
突然大きな音がした。
慌てて音のした前方に視線を向ける。
先頭を歩いていた勇気が盾で“何か”を防いでいるようだ。
「……おらぁっ!」
勇気が盾を強く押し返し“何か”を前へと飛ばす。
よく見るとそれは犬…いや、それより少し大きいな。
実際に見るのは初めてだが狼と呼ばれるものでは無いだろうか。
「エンカウント!モンスター視認、狼みたいなのが1頭!」
俺は端末のカメラをモンスターに向ける、するとそのモンスターの情報が表示された。他の冒険者によって集められた情報だろう。
「モンスター名はレッドウルフ!高い身体能力を持っているらしい!」
俺がそう叫ぶと狼…レッドウルフは「グルル…」と俺の方に狙いを変えた。
「こっちみやがれ!」
勇気が剣で盾を叩く。するとそこから赤い光が放たれ、それを見たレッドウルフが勇気の方に向き直る。
敵の注意を引きつける《特殊な技》だ。俺たちは石を吸収する事でスキルを使える様になっている。使い方などは自然に理解している。剣や魔法の使い方も同様だ。
勇気が憎悪を稼ぎ、敵の攻撃を全て引き受ける。
「グルアァ!!」
レッドウルフがその赤い身体から赤い光を放つ。
俺たちがスキルを使う時の光と同じものだ。
____ガキィン!!ガンッ!!ドカッ!
レッドウルフの放った強力な3連撃を勇気が盾で防ごうとしたが、2撃目でバランスを崩され3撃目をモロに食らう。
「ぐっ!」
「勇気!…はぁっ!」
勇気に向かって追撃しようとするレッドウルフに向かって走る。短剣を2本、鞘から抜きざまに切りつける。
レッドウルフには不意打ちになったようで見事に当たった。
「勇気さん!今回復します!」
そういうやいなや、なずなの身体が黄色い光を放つ。
苦しんでいた勇気が、溝落ちをさすりながら立ち上がる。
「これが回復魔法か、すごいな!さんきゅ!なずなちゃん!」
勇気が復活した所でレッドウルフも立ち上がった。
今の攻撃を食らってなお勇気をターゲットとしているようだ。あのスキルの効果はかなり高いようだ。
レッドウルフが再び突っ込んでくる。
それを勇気が盾で防ぐ。レッドウルフが盾にぶつかり止まったところを莉奈が横から殴り飛ばす。
レッドウルフが殴り飛ばされた先には剣心が刀を構えて待っていた。
「……っ!」
無言の気合いとともに放たれた高速の斬撃はレッドウルフの身体を深く斬り裂いた。
「グル…グルァ…!」
瀕死となったレッドウルフに向かって氷の矢が飛んでいく。
凜々花の魔法だ。
冒険者の使う魔法はゲームでいう純魔法だ。純魔法とは、詠唱による定型の手順を経て行われる魔法とは別に、魔力を属性に変換せず直接使う魔法だ。
魔力とイメージ力などだけで行われて、行使した者のイメージによってあらゆる事ができる。
___ガシャアァン!!
氷がレッドウルフを貫通して地面に激突し、盛大に割れる。
その破砕音に混ざりレッドウルフの断末魔が響く。
断末魔が収まるとレッドウルフは光の粒となって消えていった。もう血痕も毛の一本すらも残っていない。
「勝ったのです!」
凜々花が嬉しそうにそう言い、なずなとハイタッチする。
初めての戦闘にしては中々のコンビネーションだったと言えるだろう。
剣心の斬撃も凜々花の魔法も強力な攻撃だったが、莉奈のパンチはちょっと威力がおかしかった。食らったレッドウルフの骨が折れる音が何本分か聞こえた。
レッドウルフが少し哀れに思えた。
「おつかれさま、よく防いでくれた」
「めっちゃ怖かったぁ〜!でもそれ以上に剣心も凄かったな!」
剣心と勇気が互いに互いを褒めている。
騎士と侍に憧れている二人は気が合うのかも知れない。
「今更なんだけどさ、私達何かクエスト受けた方がよくない?」
クエストとは他の冒険者や政府等からの依頼をギルドがまとめて冒険者に依頼しているものだ。
端末内にクエストボードという物があり、そこから受注する事が出来る。
莉奈の言う通り、何かついでにやれる事があるかもしれない。
「そうですね、調べてみます!」
なずながクエストボードを見て「むむむ…」とか「はっ!」とか言っている。もとからかなりの美少女なだけに、なかなかに可愛い。
隣の勇気もそれをみて「はっ!」とか「グハッ」とか言っているが、こっちはおぞましい。
「あの、これなんて私達にぴったりじゃないですか?」
そう言い、なずなが見せてきた画面には
《迷宮2層 : 最初の分かれ道の左側をマッピングし、マッピングデータを提供せよ》
と書かれていた。確かにピッタリだ。
「報酬はマッピングした範囲にもよるようですが、100m分の新マップデータが300円で買い取られるそうです」
おお、1km分データを提供すれば3000円か。6人で割っても1人頭500円だ。
1km歩くだけで500円だ。それにもともとの目的と合致している。一石二鳥だ。
「俺はそれでいいと思うぞ」
剣心の言葉に皆が同意する。
「じゃ、じゃあこれを受注しますね!」となずなが言うと、“受注”と書かれているところをタップする。
すると俺たちの端末にも通知が来る。
同じパーティーなのでクエストも全員で協力して行う。
ちなみに今は300メートルほどマッピング出来ているので最低でも900円は貰える。
「よし、頑張るのです!」
凜々花はさっきよりも気合が入っている。まぁ、俺も内心そうなんだが。
それからしばらく歩いた。途中宝箱を1つ見付けたが、出てきたのは明らかに腐っている謎のフルーツだった。
一応ギルドに持ち帰って調べて貰う事にしたが、腐っているので正確なデータが取れるかは微妙だ。
マッピングもかなりすすみ、1500m分の道と部屋をマッピングした。
道中何度かレッドウルフに遭遇したが全て難なく倒す事が出来た。
「ここってレッドウルフばっかだよな〜」
「確かに、他のモンスターはいないわね」
勇気がぼやくと莉奈も同意する。
レッドウルフは今発見されている中でも下の方に位置するいわゆる雑魚モンスターだ。5層より上にはいないらしい。
「え!?」
突然なずなが叫んだ。
かなり慌てている。
「どうした?」
「た、大変です!レッドウルフ・ロードがこの2層に出現しているようです!」
レッドウルフ・ロード。
その名の通り、レッドウルフの頂点に立つモンスターだ。レッドウルフ・ロードが出現した層ではレッドウルフの出現率が上がり、他のモンスターの出現率が下がる。なるほど、どうりでレッドウルフしか居なかったわけだ。
「どこら辺で目撃情報がでたんだ?」
「…2層へ来た直後のパーティーが最初の分かれ道の右側からレッドウルフ・ロードが走ってくるのを目撃したそうです……」
……分岐点まで到達すれば左側、俺達が帰るためのルートをこちらに向かって進んで来るかもしれない。おそらく進んできているだろう。
「討伐パーティー募集のクエストも出ているようですが、誰も受注していません」
レッドウルフ・ロードの強さは5層にいる守護者と呼ばれる強力なモンスターと同等の強さを誇るらしい。
それを討伐するのであれば最低でも12人は欲しい所だ。
だが今は平日の午後4時30分、この時間だと人はあまり集まらないだろう。
「隠れてやり過ごすのも無理だよな…」
勇気が消え入りそうな声で呟く。隠れたとしても大量にいるレッドウルフには見つかるだろう、その音を聞きつけたレッドウルフ・ロードが来たらそれこそ最悪だ。
1度に複数の敵を相手にするのはまだ俺達には早い。
「なずなちゃん、その討伐クエスト受けるのです」
「えっ!?」
「どっちにしろこのままではジリ貧なのです。だったら不意打ちで先手を取って戦う方がいいのです」
なるほど、確かにそうだな。
凜々花の魔法なら多少動きを止められるし、莉奈が顔を殴るだけでも脳震盪を起こすだろう。
……あれ、男子の1撃の火力が微妙なんだが。
「俺もそうするべきだと思う。少しで良いから時間をくれればかなりのダメージを与える技を使える」
剣心が腰の刀の柄を握ってそういう。
剣心の自意識過剰という訳ではなく、おそらく本当に大ダメージを与えられる技があるのだろう。
「…そうだな、そうしよう」
俺がそう言うと皆が覚悟を決めた表情で頷く。もちろん死ぬ覚悟ではない。全力で戦う覚悟だ。
なずながクエストを受注する。みんなのスマホが通知が来た事を知らせる為にブルブルと震える。
遠くからレッドウルフとは比べ物にならない程の雄叫びが聞こえてきた。
最後までご愛読ありがとうございます!
ふぅ、1回目の迷宮攻略でいきなり5層ボスと同格の敵と戦う事になったようです。
ちなみにガーディアンは5層ごとに存在していて、自衛隊がやられた25層の敵はかなり強力だったようです。
どっかのVRデスゲームと酷似していますが、それがゲームのセオリーだと思うので突っ込まないでください笑
では、また次話で!
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