現代社会に冒険者という職業が出来るそうですよ?

Motoki

No.2 入学、迷宮突入

  俺たちは冒険者になった。
 決断をしたあの日からもう2週間が経とうとしている。

『僕たち、私たちは冒険者です!冒険者とは____』

 今俺が見ている画面の中では勇気がイケメンスマイルで冒険者について説明している。ちなみにその横には同い年の女子もいる。彼女も冒険者になった(ギルドの募集に応じて)一人だ。

『学生でも安心!冒険と勉強を両立できます!』

 俺が見ているのは「ユーチュー部」という学生専用動画配信アプリだ。ここにはギルドが学生募集(高校生以上)の為に作った動画も載せられている。この動画によってかなりの人数が集まったので、効果抜群だったと言っていいだろう。





 今は2017年10月23日(月)の朝6時40分だ。
 今日はこれから学校だ。
 冒険者高等学校では週30回(1回50分)、授業を受ける事になっている。受ける科目は決められているが、いつ受けるのか等は自由だ。ちなみに夜間もやっている。
 俺と勇気は月火水木で30回受け、残りの金土日を休日兼攻略に当てることにした。


 俺は支度を終え、部屋を出た。隣の部屋の勇気を呼び、登校する。

 今日が初めての登校日なので少しウキウキしていたりする。
 それは勇気も同じ様で目が輝いて……目を見開いて女子を観察している。彼の頭はもうダメなのだろう。

 ここに通う生徒達はみな石に認められた者達だ。

 1週間前に行われた冒険者資格取得試験(石を触っただけだが)に合格した者達である。

 合格しこの高校に入学した生徒達には学校から色々な物が支給された。

 例えば朝動画を見ていた携帯端末だ。これは冒険者である事の証明にもなるらしく、冒険者をする上で色々と便利な機能があるようだ。もちろん普通のスマホとしても使える。

 攻略中の戦闘時などは専用の特殊な制服のベルトに固定する事ができ、落とす事もないようだ。
 装備については今日支給されるらしい。





  しばらく歩いていると学校が見えてきた。全体的に白く清潔感のある綺麗な学校だ。
  門をくぐり抜けて学校の敷地内へと入る。この学校は各学年1クラスずつで、1クラス30人いるかいないかという程の少人数な学校だ。石に認められた者が少ないので仕方の無いことではあるが。

  玄関で靴を履き替え、近くの階段をのぼる。1年生の教室があるのは4階だ。ちなみに1年生は1階と4階以外には基本的に立ち入れない。2年生は1階と3階、3年生は1階と2階だ。

  階段をのぼり終えたすぐの所にある教室に入る。
 よく見ると各席に名前が書かれているようだ。俺と勇気は少し席が離れたが、むしろ喜ばしい事だろう。

  周りを見ると既に何人かのグループが出来始めている。そこで初めて気付いたのだが、このクラスは意外にも女子が多い。男子10人に対して女子が20人もいる。
  俺は男子の方が多いと予想していたのだが、はっきりいって意外だ。普通、こういう迷宮攻略などは男子の方が食いつくと思うのだが…。

 「女子が多いな!最高だなっ!」

  勇気がそんな事をいいながら近付いてくる。

 「勇気、そんな調子だとすぐにモンスターにやられるぞ」

 「そ、それは勘弁だな。俺はこの学校から去る気はない!」

  そう、この学校は迷宮内で死に、迷宮に挑戦出来なくなった者を元いた学校に転校させるのだ。まぁ、冒険者で居られなくなった者をこの学校に置いておいても意味は無いしな。

 …というか女子の視線が凄い。
 ほとんどの女子が勇気を見ている。ちっ、イケメンめ。
 そんな事には気付かない勇気はいつも通りの笑顔を俺に向けている。

 「ヒロインの登場はまだかなぁ!」

 いつもどおり馬鹿なセリフも口から出ている。
 そこら辺は作者に頼んでくれ。





 「みなさーん!着席してくださーい!」

 しばらく雑談していると先生らしき人が入ってきた。
 見覚えがあるな、伊藤さんだ。

 「今日から1年間、君たちの担任をする事になった伊藤萌奈です!よろしくお願いしますね!」

 …勇気を含めた男子達が歓喜の声をあげている。
 それに向けられる女子からの冷ややかな視線に気付かずに。

 「今から皆には簡単な自己紹介と交流をしてもらって、その後に色々と配布物を渡します」

 伊藤さん改め伊藤先生が端の生徒を指名し、そこから自己紹介が始まった。





 「では自己紹介とプリント類の配布が終了したので、次は迷宮攻略用の制服を配布します!これは特殊なもので出来ているので簡単には破れたりしませんよ!」

 そういい皆に配られていったのは、ピッチピチの全身タイツ______ではなく、今着ているようなブレザーやズボンの普通の制服だった。

 「着てみれば分かると思いますが、ものすごく動きやすいので戦闘や探索の障害にはなりません。それにそれを着ていることで迷宮内での簡易的な身分証明にもなるので大事にしてください」

 なるほど、そんなハイテクな物が無料タダで貰えるなんて流石は冒険者学校だな。
 いや、その分はきちんと働いてもらうぞ、という事なのかもしれないな。

 「それではこの後の予定について話します___」






 俺たちはその後体育館で校長先生西村さんの話を聞き、装備室なる所で武器や防具を貰い、教室へ戻ってきた。そこで迷宮についておさらいをしてその日の過程は終了した。

 「優人〜、迷宮行ってみようぜ!」

 帰りのHRが終わったのは丁度昼だった。
 勇気が迷宮に行こうと提案してくるのは予想していたので、考えていた返事をする。

 「俺は構わないけど、出来ればあと4人欲しいな」

 俺があと4人と言ったのは、先の講習で迷宮内では少な過ぎず、多過ぎない、1パーティー(6人)で動くのが理想だと言われたからだ。
 誰を誘おうか迷っていると、後ろから声を掛けられた。

 「坂本くん、大谷くん、といったかな。君達も迷宮に行くのだろうか?」

 そう声を掛けてきたのは坪内剣心つぼうちけんしんだった。

 「あぁ、もしかして坪内くんも?」

 「剣心でいいぞ。俺も迷宮へ行きたいんだが、如何せん独りなものでな。悩んでいたんだ。」

 「そうなんだ!俺の事は勇気、優人の事は優人でいいよ。剣心が良いなら一緒に行こうぜ!」

 勇気が人懐っこい笑顔で歓迎する。
 俺もそれに続く。

 「剣心、よろしくな」

 俺はそう言い手を差し出す。
 そうすると剣心は嬉しそうに微笑み、その手を握った。

 「こちらこそよろしく頼む。優人、勇気。」

 剣心が加わり3人になったが、後の3人はどうするか…。

 「あ、あの!私達もご一緒させて貰えないですか?」

 そう言ってきたのは、気弱そうな女子だった。
 髪は綺麗な黒色で長く、背は160cm程だろう。かなり可愛い容姿だ。
 その後ろにはポニーテールにした茶色の髪をゆらしながらニコニコしている女子にしては長身の女子と、外国人の様な容姿をした銀髪の女子がいた。

 「モチロンデアリマァス!!!!」

 隣で勇気が叫ぶ。非常にうるさい。話しかけてきた女子が「ヒッ!」と悲鳴をあげている。

 「こ、この人うるさいのです…」

 銀髪女子も引いている。

 「悪かったな、こいつはその、頭がおかしいんだ」

 俺がそう言うと勇気が何かを言おうとしてきたが、剣心が黙らせる(武力によってではない)。

 「非常に有難い申し出で、こちらとしても助かる」

 剣心が頭を下げる。それをみた最初に話し掛けてきた女子が「ビュッ!」となりそうな勢いで頭を下げる。

 「こ、ここ、こちらこそ有難いですっ!!」

 何かいろいろと激しいなこの子。

 「…私は莉奈、天野莉奈あまのりなだ。よろしくね!」

 長身の女子、莉奈がそう言ってくる。

 「凜々は東凜々花あずまりりかなのです。よろしくなのです。」

 銀髪女子は凜々花という名前らしい。

 「はっ!わ、私は高橋なずなたかはしなずなです!よろしくお願いします、坂本くん、大谷くん、坪内くん!」

 そう名乗った女子、なずなは少し危なっかしい子のようだ。俺たちの名前は自己紹介した時に覚えたのだろう、記憶力いいな。

 「とりあえず今日1日、よろしくな」

 「よろしく頼むぜ!」

 「よろしく頼む」

 そう言い、携帯端末でパーティー申請をした。パーティーを組むことによってお互いの位置、状態等を知る事ができ、PMパーティーメンバー専用のチャットも出来るようになる。

 「それじゃあ出発なのです!」

 「皆はもう昼ごはん食べたのか?」

 「「「「「あっ」」」」」

 …みんなは昼ごはんを忘れるほど迷宮に行きたかったらしい。

 「…とりあえず飯行くか」

 そう言うと皆頷いたので、揃って学食へと足を進めた。





 昼食を終え、攻略用の制服に着替えた俺たちは荷物を寮の玄関にある受付に渡した。部屋まで行かなくてもここで預かって貰える。
 そして学校から少し歩くと迷宮の入口が見えてきた。

 「ふむ、あれが入口のようだな。この端末をかざせば良いんだよな?」

 剣心が端末を見せながら聞いてきた。

 「あぁ、そうらしい。何か駅の改札みたいだよな。」

 俺が言った通り、迷宮に入るには入口の前に設置された改札口の様な所を通る必要がある。誰がいつ入ったか等が記録されるようだ。

 …というか武器や防具を装備した人達が改札を通るこの状況は、中々にシュールだ。

 余談だが、剣や槍などの武器の刃の部分は体内の不思議な力(以降魔力とする)を武器に通さなければ例え紙ですら切ることが出来ないらしい。なので街中で持っていてもそこまで危険ではない。鈍器は普通に危ないが。

 そうこうしているうちに俺たちの番が来たので端末をかざして入る。
 シャンッという鈴の音がしてゲートが開く。俺はあまり電車を使わないので、こういうのは新鮮だ。

 「この場所は前にも来たのです」

 そういえば凜々花達は資格取得の時にここに入っているのか。

 「ここの石は綺麗ですよね」

 なずなの言葉に皆が同意している。
 確かにここの石はとても綺麗だ。……喋ったりしないしな。

 「よしっ!じゃあ進もうよ!」

 莉奈は早く戦って見たい!というように手につけている金属の篭手ガントレットを打ち鳴らしている。敵を殴って攻撃するのが莉奈の戦闘スタイルのようだ。

 「実は俺も少し楽しみなんだ」

 剣心も腰に掛けている刀を大事そうに撫でている。
 剣心は何というか、名前の通り剣術が得意なようだ。

 他の皆の戦闘スタイルは以下の通りだ。

 勇気 : 剣と盾を持ち、前衛で壁役タンクとして戦う。黒石の特殊な力は今のところ使うつもりも言うつもりもないようだ。

 凜々花 : 魔法による強力な攻撃で敵を蹴散らす。武器は魔法を使うイメージを高めるため、杖を装備している。青石だ。

 なずな : 黄石の力で味方を治癒、支援する事ができる。杖を装備している。

 そして俺だが、俺は緑石で得られる力と同じ様な戦い方をする予定だ。ちなみに緑石は短剣や片手剣などを装備し、状況にあわせて自由に遊撃するのが得意になるようだ。
 ただ、黒石のおかげで回復も魔法も使えるが、まだ使う予定はない。勇気も同じ事が出来るが騎士に憧れていたようで、他の戦い方は眼中にないようだった。

 「よし、1層なら敵はほとんどいないらしいしすぐに突破出来るだろ」

 「そうだな!本番は2層からだ!」

 勇気が剣を掲げながら叫ぶ。声が木霊してうるさい。
 迷宮内は洞窟の様だ。

 「行きましょう!」

 なずなの声と共に俺たちは歩き出した。





 1層はモンスターに遭遇する事なく、2層へ繋がる階段へとたどり着いた。1層の宝箱は他の冒険者によって既に開けられていた。
 本格的な攻略となるであろう2層への階段をのぼる。
 1段、また1段と登るたびに皆の緊張も高まっているようだった。


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