平凡な生活を送るはずが異世界転移に巻き込まれてしまった

零羅

決心と冒険者

私たちは今、あの扉から抜けて、神無木君が出てくるのを待っている。
正直さっきよりも生きた心地がしない。
あのバケモノと対峙して、神無木君が生きている保証はない。というか、生きている可能性は限りなく低いだろう。
でも、あそこで神無木君の策を止めれば彼を信じてないことになる。
しかし、どれだけ待っても彼が出てくる様子はない。
意を決して扉を触ると、いとも簡単に扉は開いた。
もしかして、神無木君はあのバケモノに勝ったの!
そう思ってあの白い空間に入った。
するとそこには......何も無かった。
強いてあるとすれば先程のバケモノの足跡くらいだ。
神無木君が居ないことに思考が追いつかず呆然とした。
ただ、何故だろう。一瞬彼の死を思ったけど、すぐにその考えが霧散していった。何故かしっくりこないのだ。
「嘘だろ......神無木のやつまさか死んだのか」
「そんな......」
ノーブルさんは神無木君の死を嘆き、澪ちゃんと雫ちゃんはクラスメイトの死に思考が追いついていないようだ。
そんななか、ラファルさんはこう呟いた。
「いや、彼が死んだとはまだ限らない」
「だが、あのバケモノも神無木もどこにも居ないぞ」
ノーブルさんは神無木君の死を確信しているらしい。
こんな状況ならそう思うのも仕方が無い。
なのになんで私は彼の死に疑問を覚えるのだろう。
確かに彼は卓越した格闘術をもっていたけれど、あのバケモノ相手にそれが通用するとは思えない。
「そうだ、だからおかしいんだ」
「どういう事だ」
「あの足跡を見ろ。あれがあるということはここが先程まで私たちのいた場所で間違いないだろう。だが、足跡は残っていても、神無木の死体どころか血痕ひとつない。あのバケモノがいないことは気になるが、ともかく彼が死んだとは断言できない」
確かにそうだ。
ここで彼の死を認めたら私は生きる意味を半分捨てるようなものだ。
「......それもそうだな。何故俺たちの元に戻ってこないかは分からないが、取り敢えず帰って報告するか」
そうして私たちは王城に戻った。


翌日、私は朝から訓練所で剣を振っていた。
なぜかというともちろん強くなるためだ。
強くなって神無木君を守れるように後衛だけでなく前衛もできるようにと思ったのだ。
ちなみに他のみんなはまだ眠っている。
ダンジョン探索とクラスメイトの失踪で肉体も精神も堪えたのだろう。
「そんな力の入れ方じゃダメだ」
素振りをしていると急に声をかけられた。
振り返るとグルダン団長が訓練所の入口に立っていた。
「こんな時間から練習とは随分と気合が入っているな」
グルダン団長はそういうと、私の前まで来た。
「私、強くならないと行けないので」
「魔王退治を早く成し遂げたいってわけではなさそうだな。何がそんなにお前を駆り立ててるんだ」
そう問いかけるとグルダン団長は鋭い視線を向けてきた。ここで下手な嘘をついてもおそらくバレるだろう。
「私、神無木君のことが好きなんです。だから早く神無木君と会って彼を守れるような力が欲しいんです」
そう告白するとグルダン団長は笑った。
「はははっ、青春してるな。惚れた男を追いかけるために強くなるか。神無木ってやつも隅に置けないな。だが、今のままじゃダメダメだな」
「それは分かってるんですが......」
いまのままじゃダメなのは分かってる。
ただ、このまま何もしないということが出来ないのだ。
「折角だ、毎日この時間帯に俺が稽古をつけてやろうか」
グルダン団長はいきなりこんな提案をした。
「いいんですか?」
「おう、魔法については教えれないが、剣なら俺が教えてやろう。どんな理由であれ強くなるのなら俺としても嬉しいからな」
そういうとグルダン団長は私から少し距離をとった。
「じゃあ、始めるか。どこからでも打ち込んでこい」
そして私がグルダン団長へと攻撃しようとしたとき
「「「ちょっと待ってください」」」
訓練所の入口に3人の生徒がいた。
「澪ちゃん、雫ちゃん、高崎くん」
「私たちも交ぜてください」
「私たちも神無木君に助けられたので一度あってお礼を言いたいんです」
「僕もクラスメイトを救ってくれた彼にお礼を言いたいんです」
3人ともやる気のこもった目をグルダン団長に向けた。
「がははっ。こんなにやる気のあるやつが沢山いて嬉しいもんだ。4対1で構わん。かかってこい」
それから、毎日のように私たちはグルダン団長に朝稽古を付けてもらうようになった。


そのころ神無木はというと門の前で寝転んでいた。
何故俺がこんなところで寝ているのかというと、門番が居ないからだ。昨日ダンジョンから出て王国へ向かおうとしたら多くの冒険者たちが王国のほうへ帰っていたので、人目が多く転移を使えず仕方なく歩いて帰っていたのだ。
すると前方に勇者たちの姿が見えたので急いでダンジョンまで引き返してしまった。
そうして、王国へ向かった頃にはもう門が閉められていたのだ。
転移を使えば中に入れはするんだが、不法侵入扱いされると嫌なので此処で待つことにし、今に至る。
5時頃になりやっと門番の人が門を開けた。
「お前ずっとここにいたのか。危なくなかったか?」
「いや、特には。それに少しは腕に覚えがあるから大丈夫だ」
「そうか、まぁ取り敢えず身分証の提示をしな」
あっ、そうか。今はもう勇者じゃないから身分証がいるのか。
「すまん、身分証がない場合はどうすればいい?」
「その場合はこの石に手をかざしてくれ。これは犯罪石といってもしお前が犯罪者なら手をかざしたときこの石が光るらしい。これで身分証がなくとも入ることが出来る」
俺は石に手をかざした。もちろん、光ることは無い。
「よし、通っていいぞ。あと身分証は早めに用意しておけよ」
というか、わざわざ勇者にバレるリスクを負ってまで戻ってきたのは冒険者登録するためだからな。
別に他の場所でも良かったんだが、他の場所だと仮登録しか出来ないらしい。
その場その場で検問を受けるのも面倒だからここで本登録しようってわけだ。
そうして俺は今冒険者ギルドの前まで来た。
その外装はよくアニメなどである木製の造りではなく石造りである。
絶対に来るであろうテンプレの対処法を考えながら冒険者ギルドへと入った。

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