ドジな探偵の少し変わった日常

由美

スタート地点

聞くところによると、依頼者の金子智鶴かねこちづるの兄、奏多かなたが一週間ほど前から連絡が取れないそうだ。もともとそんなに頻繁に連絡を取り合う仲じゃないのだが、一人暮らしをしている奏多に定期的にメールを送って生存確認がてら世間話をしているそうだ。それが、メールを送っても返信が来ない。不安に思った智鶴が奏多の家を訪ねに行ったが、奏多は不在だった。ただ、念のために持たせてくれた鍵で中に入ると、座卓の上にはスマートフォンが置き去りにされていた。
不審に思った智鶴が警察に連絡するも、現在になっても行方が分からないまま。親の元にも身代金の要求などがないため、誘拐の類ではないと判断し、結局は警察も捜査を中断した。
「お兄さんの部屋には何か変わったものはありましたか?」
田口が聞くが、智鶴は首を横に振った。
「何も。ただ、スマホが座卓に置いてあっただけです。スマホ依存症みたいな兄が、何で置いて行ったのか」
「うーん、そうかぁ。じゃあ、中田。ちょっと鍵をお借りして部屋を拝見してこい」
中田は渋々動いた。こういう不法侵入みたいなことをするのはいつも自分だ。智鶴は戸惑いながら中田に鍵を渡してきた。
「一緒に行きましょうか?」
その方がいいに決まっている。
「いや、こいつに行かせましょう。外もちょうど寒いですから。風邪を引いてしまいます。中田は丈夫だし滅多に風邪なんか引かない生き物なので大丈夫」
人間だぞ。こいつは俺を何だと思ってるんだ。
中田は口を開いて不満を言おうとしたが、田口に追い払われて、仕方なく奏多のアパートに行くことになった。

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