ヤクモハルヤの脱獄計画

のん

夢と挫折

カンカン!!
そんな騒がしい号令が俺の朝の始まり。いや、厳密にはなる前から起きてはいる。そして看守はいつも通り言う「朝の点呼を行う!」続けて番号を言い続ける。「001713番!」そうして俺が「はい」そんないつも通りが始まる。

ここの収容所には階級分けがある。Cクラスは低犯罪もしくは無罪で連れて来られる可哀想なやつら、Bクラスはそこそこの犯罪、Aクラスはわりとすごいらしい。よくは知らない。俺の記憶にそんなたいそうな思い出はないが。
基本的に牢にはぎゅうぎゅうに押し込まれるように人がいるが、俺のフロアの牢は五、六人しかいない。(独房もあるみたいだけど)一級犯といったところかしかし作業内容は一般収容者と変わりはない。力仕事や工場業日によって変わる。けどたまにひどい時はーー。

「なぁなぁ今夜肉あるかなぁ」
話を遮って入ってきたアホはタケモト レン。俺と同じ牢のやつで特徴としてはメガネの七三分けくらいだ。いたって地味だ。
「肉を食いたきゃ黙って仕事しとけ」
俺はひそひそと言う。
「なに喋りながらやってんだぁ!そこ!!」
看守が叫ぶ。バレたとなるとやばい。痛ぶられるだけで済めばいいが看守次第では‥‥。
「すみませんでした!ほんとに申しわ‥‥」ぐちゃ。
悲痛な命乞いを無視して発砲された《それ》をみて
どうやら俺たちではなかったようだ。
「クズ共は黙って仕事してりゃぁいいんだよ、ほら働け無能共!」
そう叫び一人ひとり壊したやつは俺たちAクラスの担当看守《ホウセイ》だ。こいつはかなりのクズだ。この状況下をさらに劣悪にしてる原因の一つでもある。あいつに目をつけられないことはここを生きていく上での攻略法みたいなものだ。それにしても頭が吹き飛んださっきまで人だったものをみてこう思うなんて神経が麻痺してきているのかもしれないがとにかく、、今日一番を争う安心であった。

ここでは簡単に人が死ぬ。顔がムカつくと殺されたやつもたくさんいるしさらには気分でそうなることもある。
そんな場所だ。

夕食を終えて俺は牢へ戻ろうとした。唯一の自由時間といっても過言ではない。1時間もないほどの時間だがこんな暮らしをしていると毎日の楽しみにすらなら感じるのだ。
「ヤーークモッ!辛気臭いなぁ!生きてんの?」
こんな場所でハイテンションなのはこいつくらいだ。
「なに、ヤヨイ」俺はいつも通り冷めて返す。
「‥‥暇だから?」いつもの調子で返ってきた、俺的にもう話すことはないのだが。
「本を読みたいんだだる絡みなら他所にしてくれ」
ヤヨイはこんな場所でも明るく容姿も整っている俗に言う美少女というやつだろう。俺にはあんま縁のない存在と認識している。しかし牢が同じなのが運の尽きだ。まだ絡んでくる。
ヤヨイのだる絡みというかなんというか話はまだ続いている。俺は適当に相打ちを打っていたのだが突然に
「ここから出れたらなにがしたい?」
トーンが少し低い、いつも通りではない異変に顔を覗いてみる。
「そうだな、働かずに本を読んでのんびりしたい」
本音で話したつもりだ。
「それは嘘!つまんないでしょ?私は結婚するの!幸せな家庭を築いて‥‥初めては好きな人がいいなぁ‥」
「良い人と出会えたらいいねそれ」
俺の皮肉に彼女は。
「ヤクモがいるでしょ?」そう笑っていた。
「ヤクモは前髪長いからなぁ‥このヘアピンをあげよう!そうしたらきっともっと前が見えるでしょ?」
夢をキラキラと語った彼女は俺には少し眩しかった。目をそらしたのはきっとなんとなくだ。彼女を見ると少し胸が苦しくなるのはきっと食後のせいだ。そう思い込もうとし、そしてヘアピンで前髪をあけだ。

その後夜の点呼が終わり就寝時間となる。
もし、きっと俺の人生が左右されたのはこいつの発言がきっかけだ。

「なぁここを脱獄したいと思うやつこの中にどれくらいいるか」

それはここの牢のリーダー的存在《アマモリ リョウキ》である。
彼はこう続ける
「計画はある。成功確率もある。ただ人手が足りない。乗る奴はいるか?」
そこでモヒカンのいかにもゴロツキの低脳《タナカ サダオ》が文句を垂れる。
「出れんならとっくに出てんだよ、んな簡単なわけねーだろ」しかし彼は賛成派だった。
「けど、やんなら全員で連帯だ。それならノッてやんよ」
タケモトも含め他のやつも賛成派。
「ヤクモお前はどうだ?」アマモリは俺に名指しする。俺は死ぬのが怖い。割と悩んだしかし一番に思い出したのは‥‥キラキラと夢を語る彼女だった。

「よし、乗ろうここから出よう」
脱獄に向けて数人の意思が固まった。

次の日の朝。何事もなく迎え点呼の少し前に目が覚めた。そして‥‥

カンカンカン!!鳴り響くいつもの音。
俺の牢屋には六人がいる。今日も五人分の点呼が終わった。いつもど‥‥五人分??

「ヤ、ヤヨイはどこだ‥?」

心を握り締められてようやく溢れた声だった。そうすると担当看守のホウセイはこう言った。
「あー可愛かったからなぁ、昨日性処理に使ったら抵抗してきたもんでな。アレは面白かったなぁ、あ、あと殺しちまったわ(笑)」

「は‥‥?」

約3秒のフリーズ。そして、言ってる意味を理解した頃には俺の右手拳はホウセイの左頬を捉えていた。
「テメェやりやがったな!?」牢の外まで吹き飛んだホウセイの叫びが鼓膜に届く頃には右足の蹴りがホウセイの腹部に届いていた。
騒ぎを駆けつけた看守が十人ほど駆けつけてきた。ホウセイを含めた十数人に囲まれて俺はなにもできなかった。ドガ、ガ、ドス、ドンガン。これでもかというほど痛めつけた看守たちの中でホウセイはこう言う。
「はぁぁ‥痛ってーな、こんな事してタダで済むと思ってんのかよ?あ?」ホウセイはヤクモの前髪を掴み上げてニヤニヤしている。
「なになに、お前あいつのこと好きだったの?ウケるね、お前は殺さないでおいてやるよ、死ねずに一生苦しんでおけよ‥‥あっはっはははははは(笑)」
ホウセイの高笑いが響く頃ヤクモの意識はなかった。

目覚めると椅子に縛られていた。顎は固定されている。目も隠されている。どうやら拷問室に連れていかれてしまったようだ。ここの末路はだいたいわかる。
(俺は死ぬのか)顎が固定されていてうまく喋れない。

「お前なにしてここにいんの?死ぬの?どんな気持ち?」誰かがそう言った。
(誰だお前)相変わらず顎の固定のせいでうまく喋れない。
「表情が見れないのは残念だなぁ。あ、っていうかさ‥」
「黙れキイラお前に発言権はないぞ」
ブーツの甲高い足音共に現れたこの声には聞き覚えがある。聞いた瞬間毛穴が開きアドレナリンが湧き出て脳に血がのぼる。
(ホウセイィィ‥‼︎)唸り声にも似た声が出てきた。
「あー何言ってるかよくわからん、落ち着けよ、お前を殺す気は無い、ただ話をしにきたんだ、、、」ホウセイは喋り始めた。キイラという人物はあれ以来黙っている。
「お前の聞きたかってたあの気持ちよかった体験談を‥‥な(笑)」
それ以降聞きたくも無い話を暴力を交えて聞かされた。一晩中。俺はホウセイへの憎しみと殺意で頭がどうにかなりそうだった。その話が本当なのか話を盛ってるのかは定かではない。そんな中二つの事に気付いたのだった。顎が固定されているのは舌を噛み切って俺が死なないようにという事。そして俺はヤヨイの事が好きだったという事だ。そして俺の体力と気力は底をつき、顎の拘束具を外された瞬間俺は今まででもっとも低く殺意を込めて
「お前を必ず‥‥殺すッッ!」

その後、数日間放置され気を失い意識を取り戻した俺は自分の牢へ戻るため拷問室から出された。ふらふらと無気力に自分の無力を噛みしめ復讐を胸に決めた俺に対してキイラが一言。
「お前はまたくるよ」と笑っていた。


コメント

  • ポックル

    なかなか面白い!!
    早く続きが読みたいです

    0
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