とある素人の完全駄作

もやし人間

Extra Edition ビキニは目線が上下に分れますけどワンピースは身体のラインが出ますから細い方しか似合わないんですよ(後編)

そして、全員の着替え、あとスタッフの前田まえだへの謝罪が終わったところで、撮影を行う部屋へと移動した。が、しかしーーー
「何もないけど?」
美琴みことがボヤいた通り、その部屋には何もなかった。床、壁、天井、全てが真っ白というだけの部屋。
「ここで撮影するんですか?」と、初春ういはるが担当に訊く。担当は答えずに笑顔を見せると、リモコンを操作した。すると、次の瞬間。
ビュワンッと奇妙な音と共に、部屋がビーチになった。波の音、潮の香り、太陽の光や砂の熱まで、全てが本物だった。
「「「「「「「「わぁ~!!」」」」」」」」
少女たちが歓声を上げる。
「このスタジオは、色々なシチュエーションを作り出せるんですよ」
そう説明しながら担当がリモコンを操作すると、そのたびにシチュエーションが変わる。夜の繁華街、富士山頂、学校の教室まで。そして、最初のビーチに戻る。近くのヤシの木に触れた佐天さてんが、
「凄い! 触れるんだ!」
と、興奮する。
「学園都市の最新技術です」
と、説明する担当。これを見たゲーマー前田の反応は、
「へぇ、これだけのA  R拡張現実技術をってゲームを造ったら、かなりの大作になりそーだなー」
 (でも、それすると外に技術漏洩しちゃうから無理だと思うよ......)
そう思って苦い表情になる美琴だった。と、その時、初春が微妙に顔を赤くしながら質問する。
「あ、あのっ。カメラマンって、やっぱり男の人ですよね......」
「ああ。そう言えば、そうですわね」
「分かってるとは言え、ちょっと、ね」
初春の言葉に同意する湾内わんない固法このり。すると自称モデルの婚后こんごうが、どこからともなく扇子せんすを取り出し、
「これだから素人は。モデルは見られる事で、より美しく輝くんですのよ」
と言った矢先、担当が言う。
「全て自動撮影です」
「「「「「「「「え?」」」」」」」」と、疑問の声をシンクロさせる少女たち。
「カメラが視界に入る事はまずありませんので、自然体でお願いしますね」
担当の言葉に、またしても少女たちは見事なシンクロを発揮する。
「「「「「「「「え?」」」」」」」」

そして、照りつける太陽の下(屋内)、撮影が始まった。で、自称モデルの婚后はーーー
パラソルの下でリクライニングシートに横たわって、いちいちポーズを決めながら撮られていた。
「う~ん、自然体って言ってもあれは違うわよね~」
と、呟く美琴に、
「お姉様、わたくしたちもやりますわよ」
黒子の声がかかる。
「やるって何を?」
と聞き返しつつ顔を向けた美琴の視線の先で。
「もちろん、自然体でサンオイルの塗り合いっこですの」
ヨダレを垂らしながらちょっとあれな顔をした黒子が、両手の指をワキワキさせていた。
「またそれか! やらないってば!」
「あ~ん、待って下さいですの~ん!」
「寄るな~!」
「塗り塗り~!」
お嬢様2人の(いつもの)追いかけっこを見て、
「なるほど、あれが自然体ね」
と、納得したように言う固法。
流石さすが御坂みさか様、素晴らしいお手本です」
湾内が歓心する横で初春が、
「あれ? 前田さんは?」と疑問を浮かべる。言われてみれば、あの黒髪の少年がいない。すると、佐天が教えてくれた。
「智也なら、暑いの嫌いだからって、日陰でジュース飲みながら休んでるってさ」
そう言って、少し離れた所にあるヤシの木を指差す。そちらを見ると、ヤシの木の下の日陰で、全身黒ずくめの少年が、ストローを刺したヤシの実を片手にボーッしていた。
「この状況で?」
「一緒に遊ぼうよって誘ったら、「俺は楽しく遊んでるみんなを眺めてるよ」って」
「そう言えば前田さん、凄いマイペースでしたね」
「女子更衣室で平然と女子とお喋りできるレベルでね」
佐天と初春と固法が同時にヤレヤレ顔になったところで、
「私たちも見習いましょう」
と、泡浮あわつきが言う。
こうして、少女たちは自然体で遊び始めた。
ビーチバレー。追いかけっこ。ハンモックで昼寝。追いかけっこ。砂のお城造り。追いかけっこ。背負い投げ。
シチュエーションはビーチからプールに、プールからクルーザーに変わっていった。全員が思い思いの形で楽しんでいた。そして、またシチュエーションが変わった。


ブリザード吹き荒れる南極かどこかに。
「な、何ココ!?」
「急に寒くなりましたけど」
「景色が変わると、それに合わせて気温も変わるみたいですね」
「って、そこまでやる必要ある?」
「ここで自然体って言われても......」
「熱エネルギー操って暖を取ろうにも、この吹雪じゃ精製つくった熱が速攻で飛んでっちゃうなー」
みんなが寒さに震える中ーーーいや、黒子だけは相変わらず美琴に飛び付こうとして抑え込まれ続けている。一番寒そうな格好してるのにーーー1人、頑張ってポーズを決めている人がいた。もちろん、婚后である。
「ホホホホホホ! わたくしはモデル! いついかなるオーダーも......ハッ、ハクション!!」
凍った地面に寝転がってポーズを決めている婚后を、ようやく寒さに震えた黒子が、
「無理するからですの......」
と、横目で見る。その時。
ビュワンッと。またシチュエーションが変わった。今度はバカみたいに暑い砂漠に。
さて問題。直前まで凍った地面に寝転がってポーズを決めていた婚后さんは、灼熱の砂漠に切り替わった時、どうなったでしょう?答えは簡単。
「ん? あ、ああああ、あつーーーーーっ!!!!!!」
だが、地面に寝転がってなくてもダメージはある。
「こ、これは暑すぎ......」
「焼けますね......」
「なんでこんな極端な......」
「みっ、水! 水!」
婚后がそう叫んだ時、確かに水が出てきた。



嵐で荒れ狂う海に浮かぶ漁船の上にシチュエーションが変わったから。
少女たちが全力で悲鳴を上げる中、美琴がツッコむ。
「って、水多すぎ!!!!」
「だからなんでこんな極端な......!!」
「なんでしょう、この装飾過剰な船は......!!」
「システムエラーなら、警報アラートくらい鳴ってもいいもんだけどなー」
「そんで智也はなんでそんな平然としてられるのよ......!?」
そして、この状況でもモデル姿勢を貫く婚后。
「うおぉぉぉぉ! どっせぇぇい!!」
と、気合いの入った雄叫びと共に、釣り竿を振り上げる。そして、釣った獲物を披露する。
「どうです! 見事なカツオ!」
が、そこで生き物好きの初春からツッコミが入る。
「残念! それはスマガツオですね!」
「へ?」
「いや、ツッコむトコそこじゃないだろ」
という佐天のツッコミを無視して、初春は続けた。
「西日本では、ヤイトとも呼ばれるんですよ! って、ん? あ、止みましたよ」
そう、雨が止んだ。つまりシチュエーションが変わったのだ。あたり一面が真っ暗な星空だった。
「わぁ、綺麗な星空! 見て! あそこに地球が......」
だんだん減速していく美琴の声。そして、美琴の声は元の速度のツッコミに戻った。
「って、月面かい!!!!」
あたり一面が真っ暗な星空なのも納得である。
「でも、綺麗ですね」
「そ、そうね......」
「重力3分の1までは再現出来てないのか」
「智也、今ココでそれ求める?」
わっちゃわっちゃと喋る一同。その時、婚后が。
「ご覧になって!! あ、あれは......!」
何かを指差して叫ぶ。そちらを見るとーーー


黒くて四角い、モノリスが鎮座していた。

「「「「「「「「えぇぇぇぇぇ......!?」」」」」」」」
驚きの余り仰け反る少女たち。と、黒子が何かを拾った。それは、何かの生き物の骨だった。
その時。
『すみません。ちょっと調整しますので、景色変えますね』
担当の声に黒子が、「今度は何ですの!?」と言った。
そして、次の景色は、よく晴れた山の中のーーー
「キャンプ場?」
と、美琴が呟く。そこに、スーツを着た担当が歩いてきた。
「ごめんなさい。あの、今カメラのシステムにエラーが出てしまって。すぐ直ると思うので、しばらく休憩してて下さい」
「休憩って......」
美琴が近くのテーブルの上の玉ねぎを手に取った時、遠くから担当が言った。
「あ、そうそう。その材料、本物ですから、ご自由にどうぞ」
「ご自由にって言われても、どうします?」
佐天の問いに答えたのは、固法だった。
「このシチュエーションにこれだけの食材......カレーしかないでしょ!」
と、いう訳で役割分担してカレー作り。
カレー担当その1   佐天・初春・前田
ご飯担当   美琴・黒子・固法
と、ココでまたしても婚后の上から目線モードが発動。
「まったくカレーなんて、そんな庶民な食べ物」
「え~? 美味しいじゃないですか」
「カレー嫌いなんですか?」
佐天と初春は純粋に言葉を発する。そして、その次に言葉を発した黒子には軽い悪意があった。
「実は作れないんじゃありませんの?」
「な、何を言ってますの? もちろん作れますわ。婚后家に代々伝わる究極のカレーを」
と、ムキになって適当な事を言ってしまったのが間違いだった。
「へ~、どんなカレーなの?」
と、美琴が興味しんしんで訊く。
「え?」
そして、話はどんどん進んでいく。
「なんか美味しそう! 食べてみたいな!」
「ぜひ作って下さい!」
「い、いえ。せっかくですし、今日は庶民のカレーを......」
と、慌てて逃げようとした婚后に、固法が余計すぎる助け船を出した。
「両方作ればいいんじゃない? 材料あるし!」
「え?」
と、いう訳で。
カレー担当その2   婚后・湾内・泡浮(全員自炊経験無し)
この時、前田はこう思っていた。
(はいはいどんまいどんまい)

固法がお米を洗っていると。
「あれぇ~?」
声の主である美琴の所へ行くと、彼女はガスコンロのレバーを回していた。しかし、どれだけ回しても着火しない。黒子が片手に持っているライターも着火しない。
「故障?」
「困りましたわね~」
と、そこで固法が「そうだ!」と閃く。
先輩系巨乳JK固法が考えた手段は、学園都市最強の発電系能力者エレクトロマスターの力を使ったーーー
「なるほど、IHですのね」
しかし常盤台のエースはちょっと出ちゃったくらいの電気で人を黒焦げにできる程度に強すぎるため。
「話しかけないで。集中してないと吹きこぼれちゃうんだから」
いつになく集中モードである。
そして、自炊経験無しチームはーーー
玉ねぎを剥きすぎて、らっきょうみたいなのを生み出していた。そして、
「あれはこうやって作られるのですのね!」
「たったこれだけしか取れないなんて、なんて貴重な食材なのでしょう!」
それをマジでらっきょうだと思う湾内と泡浮。
「ほほほ、勉強になりまして?」
と言いつつ、婚后の焦りは加速していく。
そして、カレー担当その1。自炊経験ありチームはーーー
初春「ニンジンはやっぱりイチョウ切りですよね」
佐天「え?カレーの時は乱切りでしょ?」
野菜を細かく切るか、大きめに切るかで、少女2人が揉めていた。その間で、
(細かく切るの面倒臭いし、大きめでいいや)
どこまでもマイペースな前田であった。
「ねぇ! やっぱり野菜は、大きい方がいいですよね!?」
「細かく、ですよね?」
と、佐天たちは婚后たちに訊く。が、そこでは。
ゴリゴリゴリゴリ......
「トウモロコシの、」
「すりおろし?」
そして、トマトの皮を剥こうとする。包丁でなくピーラーで。当然、剥けない。
そして、ワカメをぶつ切りに。ミカンを皮ごと輪切りに。ゴボウを輪切りに。
(何あれ、どんだけカオスってんの?)
と、心の中で軽くディスる前田。しかし湾内たちは、
「初めて作るカレー、楽しみですね」
「ゴボウが合うなんて、初めて知りました」
「イチゴだって!」
「なんだかお腹がすいてきました!」
と、ココで婚后に限界が来た。
「あの......実は、その......わたくし、本当は、カレー作った事ないんですの」
「「え?」」
「カレーはおろか、お料理なんて......ごめんなさい。行き掛かり上、引っ込みがつかなくなって......」
婚后の言葉を純粋に信じて、カオスを生み出し続けた2人。その2人の、婚后への言葉はーーー
「それなら、皆さんに作り方を教えていただきましょう! ね?」
「そうですわね」
と、いう事で、固法にカレーの作り方を教えてもらうお嬢様3人。そして、佐天たちもカレーを順調に作り続け、美琴もゼーハーゼーハーしながらもご飯をキッチリ炊いた。ちなみに、美琴が撮影後、「智也君が熱エネルギー操ってご飯炊けば良かった」的な事を喚き散らしたのは余談である。そして、食事の準備が整った。
佐天・初春・前田が作ったチキンカレーと、婚后・湾内・泡浮が(固法監修の下)作ったシーフードカレー。各々が好きな方を食べた。最初は色々言ってた婚后も、美味しそうに食べる。そんな婚后に美琴が、
「ね? みんなで作って食べると、美味しいでしょ?」
それを聞いた婚后はと言うと。
「アナタ、いい人ですわね。お名前は?」
今さら過ぎる質問。
「御坂美琴だけど」
「御坂......どこかで......」
そう呟いたものの、思い出せなかった婚后。お上品に扇子を広げると。
「まあいいですわ。これを機に、お友達になってさしあげてもよろしくてよ、御坂さん?」
「あ、ああ、そう......ありがとう」
と、その時、担当の声が響く。
「お待たせしました。システムが復旧したので、撮影再開しますね」
「ええっ、もう!?」と驚く美琴。だが担当は、
「あ、食べてて大丈夫です。とりあえず、1枚いきま~す」
そして、みんながカレーの皿かスプーンを持って写った集合写真が撮れた。

そして、撮影後。
「あ~、美味しかった~! こういうモデルなら、大歓迎だな~!」
「楽しかったですね~」
「喜んでいただけて良かったです」
「たまには庶民の味も悪くありませんね」
「お代わりしてらしたクセに」
と、お喋りをしてて、固法がふと気付く。
「あら?御坂さんは?」
「え?」
「お姉様?」
唯一、彼女の行方と目的を察したのは、
(......あ、察し)
無言で微弱な音波を放ち、ソナーのようにサーチをかけた前田だけだった。
で、その美琴はというと。
「えーと......あぁ、これじゃなくて、こっち......おぉ!」
あの子供っぽいカラフルな水玉の水着を着て、勝手に撮影のARシステムを使ってビーチで水遊び。
「いやっほーう!! ららららんらら~ららんらら~らららららら♪ あぁ~、やっぱこれ可愛い!!」 
だが、彼女は気付いていない。シチュエーションをビーチに変える前にリモコンの操作を間違えた事で、大通りに面したビルの側面のモニターに、自分の姿がリアルタイムで映っている事に。そして、それを目撃した人がいる事に。
補習帰りのツンツン頭の高校生。右手に、異能の力なら触れただけでなんでも打ち消す力『幻想殺しイマジンブレイカー』を宿す少年、上条当麻かみじょうとうまだった。ひょんな事から美琴にちょいちょい絡まれている彼は、子供っぽい水着を着て、1人ビーチで水遊びをしている超能力者レベル5を見て一言。
「ビリビリ、何やってんだ、あいつ......?」
そして、やはりそんな事には気付かず、楽しそうに水遊びをする、乙女おとめ御坂美琴であった。
「そ~れ、行くぞぉ~!!」

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品