とある素人の完全駄作

もやし人間

3話 じゃあ、行くぜ

そんな訳で、学園都市のとある河川敷で『超電磁砲レールガン』御坂美琴と、『絶対支配ドミネーター』前田智也がバトることになった。
お互いがお互いに鋭い視線を向ける。そしてーーー
「それじゃ遠慮なく、行かせてもらうわよ!!」
昨日は上手く思い出せなかったが、美琴は絶対支配ドミネーターに関しては噂程度ではあるが聞いた事があった。前田の話で完全に思い出した彼女は、
(エネルギーは、あらゆる現象の根幹を成すもの。そんなのを自在に操れる相手に出し惜しみなんて出来ない!!)
思い切り『雷撃らいげきやり』を放つ。恐ろしい速度で飛来する高圧電流を目の当たりにした前田がとった行動はーーー

ビンタをするように軽く右手を振って、雷撃の槍を叩いた。それだけ。そして、それだけで、

雷撃の槍は消えた。

「な......」
初撃から防がれた。バカバカしい程にあっさりと。もう一度、雷撃の槍を放つ。消される。もう一度。消される。もう一度ーーー。しかし結果は同じ。右手を振るうだけで、雷撃の槍は消される。まるでどこぞのツンツン頭の少年のようである。
「なんで......どうやって......」
黒子が呟いた。愛するお姉様の実力をよく知っている彼女は、目の前の光景を信じられずにいた。その疑問に対する答えはすぐに返ってきた。
「別に、御坂さんが撃ってくるのと同じ電圧の電流を使って中和してるだけだけど。中和した電気エネルギーは、全部俺の体の中に蓄積してあるよ」
種を明かせば簡単な事だった。だが同じ電圧という事は、美琴の攻撃を受け、電圧を測定してから自身も放電してる事になる。つまり、一度攻撃を喰らっているのだ。美琴の放つ電撃の最高電圧は10億ボルト。それを喰らってなお平然としているのだ。相手の底知れなさに美琴は震えそうになる。それを押し退けて、
「なら、これならどう!?」
再び電撃を放つ。ただし前田に向けてではない。地面に向けてだ。途端、ゾゾゾゾゾゾゾゾッ!! という摩擦音が響き、彼女の周辺に黒い霧のようなものが出現する。磁力で砂鉄を操り、剣を生み出しているのだ。漆黒の刃が蛇のように動きながら、前田に襲いかかる。しかし前田がとった行動は、またしてもシンプルだった。自分を叩き斬ろうと迫りくる砂鉄の剣に触れる。瞬間、美琴の、黒子の、初春の、そして佐天の視界に赤が飛び散った。しかしそれは、前田の鮮血などではなく、
前田が熱エネルギーを操って生み出した、炎の赤。深紅の炎が、美琴の振るう漆黒の剣の包み込む。前田以外の、その場にいる全員が思った。
((((なんのために......?))))
その答えもまた、すぐに返ってきた。

砂鉄の剣が一瞬にして崩れ去るという形で。

「「えぇっ!?」」
佐天と初春が驚愕の声を上げる。しかし、普通の中学校と違い、名門である常盤台中学の生徒である美琴と黒子は、今の現象の原理を即座に看破した。即ち、
「酸化による砂鉄の磁性の喪失......ですわね」
「砂鉄を炎で酸化させて酸化鉄に変化させ、砂鉄が磁力に反応しないようにしたのね」
2人のお嬢様の解答に前田は、
「ご名答ー。流石さすがは名門中学の生徒、理解が速すぎてちょっと怖いわー」
のんびりと返した。さてと、と呟いた前田はこう言った。
「相手は超能力者レベル5の第3位。本気マジでかからないと、られるからなー」
すーはー、すーはー、と深呼吸をする。そして次の瞬間、美琴たちは再び驚愕に襲われた。

目の前で黒髪の少年の全身が、薄く青い光を放ち出したのだ。

(何......? なんなの......?)
もう声も出ない程に驚き、戸惑う美琴たち。対して前田は、一言。
「じゃあ、行くぜ」
即座に構え直す美琴。相手がどう来ても反応出来るように、全神経を限界まで尖らせる。そんな彼女を嘲笑あざわらうかのようにーーー

ピシュンッ、と。

まるでス〇ーウォーズか何かでビームライフル的なものを発砲したかのような音が響いた。と、美琴たちが認識した時には既に、常盤台中学のエースの目の前には、10メートル強は離れていたはずの前田がいた。慌てて身を反らす美琴の眼前を、風を切り裂く音さえも置き去りにして、前田のサマーソルトキックが通過する。それから数瞬遅れて、突風が美琴を襲う。全力で踏ん張って、なんとか倒れずに済んだものの、肩で息をしながら美琴は混乱していた。
(は、はやすぎる......なんて、化け物じみた機動力......)
離れた場所から見ている黒子たちも同じ気持ちだった。そんな彼女たちの疑問に、前田は答える。

「『フル加速アクセル』。体内で常に運動エネルギーを精製し続け、同時にそれを全身に巡らせる。この循環によって、運動能力を半ば強引に底上げする、俺独自オリジナルの技だよ。まぁ、今回は一から運動エネルギー精製つくった訳じゃなくて、一部はさっき中和した、アンタの電気エネルギーを利用させてもらったけど」

そして、前田はまた動きだす。再び構える美琴だが、前田の動き一つ一つの速度が凄まじい。彼の姿を認識した瞬間にはもう、背後に回られている。磁力で砂鉄を集めて防御しても、炎で無力化されるだろう。かと言って、電撃での防御は中和・吸収で逆に利用されるだろう。打つ手なしだ。詰んだーーー


「ッ訳ないでしょうが、ナメるなァァァァああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


守りが効かないなら、攻めの一択。
美琴の短い制服スカートの下で、ゲームセンターのコインが大量に舞う。直後、
ゴッッッッッ!!!!!! という音が連続して響き、超能力者レベル5第3位の少女の代名詞、『超電磁砲レールガン』が高速で連射される。フル加速アクセルの圧倒的な機動力を発揮しつつもギリギリでの回避を強いられた前田は、顔の真横を音速の3倍以上の速度でゲーセンのコイン圧倒的破壊力が通過した瞬間に戦慄した。
(これが超能力者レベル5の本気か......コワイコワイ)
前田の体の青い光が消えた。フル加速アクセルは強力だが負担も大きい。膨大な量のエネルギーを消費して、無理矢理その体を動かしているため、1分の制限時間タイムリミットと、3分の休憩時間インターバルがあるのだ。
しかし、彼は薄く笑っていた。自分の能力をフルに使って、本気で戦える相手に会えたことを喜ぶように。
「ねー、御坂さんさー」
彼は、眼前の少女に向けて話す。


「機動力を強化する方法だけどさ......フル加速アクセルだけじゃないんだよね」


そして直後。


ゴゥッッッッッッッ!!!!! と。


突如至近距離で吹き荒れた烈風。その尋常ではない風圧によって、御坂美琴という1人の少女の華奢な体は、吹き飛ばされた。


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