つくも使いと魔法と世界―壊れた右腕に思わぬ使い道があったのですが……。
1章10 草原ウルフ
異世界初戦闘です!
ショウトは今、猛烈に混乱している。
なぜなら、目の前には見たこともない獣……、草原ウルフと対峙しているからだ。
「グルルルゥゥゥ……」
そんなショウトを睨み付けている草原ウルフは、体の幅よりも少し広めに広げた四本の足をしっかりと地着き、怒っているのか口吻にシワを寄せ、上の牙をはっきりと覗かせている。すると突然、
「いけーっ! ショウト!」
サイクルの弾けるような声が響き渡った。
それが合図になったのか草原ウルフはヨダレを口からたらし、勢い良く地面を蹴った。
それとほぼ同時にショウトの思考も働き出す。
しかし、こんな状況は生まれてこのかた経験したことがない。例え思考が働こうと良いアイデアなんて浮かぶはずもなかった。
そうこうしているうちに、草原ウルフはショウトを射程圏内に捉えたのか勢い良く飛びかかる。
「うおっ!」
間一髪、獣が飛んだ瞬間ショウトも身体を捻り左方向へと飛んだ。
左手をしっかりと伸ばしヘッドスライディングをするように地面と熱い抱擁。擦れた手のひらに熱を帯びたまま直ぐ様立ち上がる。
「あっぶねー」
草原ウルフは着地すると二撃目に突入する。砂ぼこりと共に、くるりと身体を反転、その姿まさにサイドターン再びショウトに迫る。
しかし、ショウトに今の状況を打開する方法が浮かばない。良いとこ飛んだところを潜り込んで腹を蹴るか、飛びかかって来たところで顔面を蹴るくらいだ。あとは一か八か……、ショウトは咄嗟に叫んだ。
「おい! サイクル! どうしろってんだよ! 能力つったって使ったことねぇよ!」
 
「そんなの僕にだってわかんないよ。だってショウトと一緒に居たから何となく知ってるだけで、そんな魔法聞いたことないもん」
開いた口が塞がらないとはこの事だ。と言うよりも、「練習してみよう」なんて良く言えたものだ。何も分からずに戦わされているこっちの身にもなって欲しい。
視線の先にいる草原ウルフが再びショウトに飛びかかる。
「えぇい! 選択肢一だ!」
選択肢一……つまり、飛んだところをスライディングして獣の下に潜り込み腹を蹴るだ。やったことはないが、あれだけの跳躍力のある獣なら出来るかもしれない。
ショウトは意を決して草原ウルフに向かって滑り込んだ。
「――うおおぉぉぉっ!!」
ショウトと草原ウルフの身体が上下で交差する。
ショウトはスライディングした勢いの伸ばした右足を軸にそのまま立ち上がり、草原ウルフは音も立てず静かに着地した。
「ねぇ、なにやってるの?」
誰よりも早く口を開いたのはサイクルだった。
「ああぁぁぁ! 届かねぇよ! 足の長さとかじゃねぇからな! アイツが飛び過ぎなんだよ!」
既にショウトは猫を被ることを忘れていた。というよりも、そんな余裕はなかった。素の姿を全面に出し、草原ウルフと対峙して初めてサイクルの姿を探す。すると、
「は? お前なんで浮いてんだよ!」
あろうことにサイクルの身体はフワリと宙を浮き、あたかもショウトと草原ウルフの戦闘を優雅に観戦しているかのように少し高い位置から眺めていた。
「だってそんな所に居たら僕が食べられちゃうじゃないか。どう見たってショウトより僕の方が美味しそうだしね」
「お前な! 美味しそうとかそう言う問題じゃないだろ! 自分で戦えって言っといて――」
サイクルに反論しようと声を上げた時だった。ショウトの声に被せるようにサイクルは声を荒げた。
「ショウト前! 前!」
その瞬間、右肩に痛みが走る。
一瞬の隙をつき、草原ウルフはショウトの肩に鋭い爪で引っ掻いていた。
ショウトの右肩からはシャツと一緒に裂かれた三本の爪痕がくっきりと付き、じわじわと傷口から血が滲む。
「――くっ」
不馴れな血に若干の目眩。大量出血ではないが、こんな傷は生まれてこの方経験したことがない。
「ほらほら、戦ってる時によそ見をしちゃだめじゃないか」
そんな状況にも関わらずサイクルはまだまだ余裕のようだ。だが、その声は既に戦いに引き戻されたショウトの耳には届いていなかった。
――クソッ! どうする?! この状況を打開するにはどうしたらいいんだ!? 選択肢二か!?
選択肢二、飛びかかってきた所で顔面を蹴るなのだが……、ショウトの気持ちを知ってか、草原ウルフはゆっくりと歩みを進めショウトとの間合いを詰める。それによりショウトの選択肢二は消えた。
――何でだよ! 何で飛びかかってこないんだよ!
ジリジリと凄みを利かせて近づいてくる草原ウルフにショウトはただ、たじろぎ後退していく。しかし、その後退していた身体は直ぐに止まった。顔だけを少し左に向け、後ろを確認すると、そこには太い大きな木が壁のようにショウトの行く手を塞いでいた。
――こうなったら、一か八か……、右手の力を信じるしかねぇ!
ショウトの力は『物に魂を宿らせる』または『物の魂を呼び起こす』だとサイクルは言っていた。実際、ショウト自身どうなるかも分からないが今はそんな事を言っている場合じゃなかった。
「えぇい! どうにでもなりやがれ!」
ショウトは少ししゃがんで、右手で足元の草を鷲掴みすると、がむしゃらに引きちぎった。その勢いを保ったまま下投げの要領で草原ウルフに草を投げつけた。すると、ショウトの手元を離れた草たちは、ひらひらと宙を舞い緩やかに吹く風に流された。
その様子をショウトは目で追い、一方の草原ウルフは危険と判断しなかったのか、ショウトの突然の動きにも微動だにせず、ただ真っ直ぐショウトを睨み付けている。
そして、風に流された草たちは地面に音もなく落ちた。
「は? うそだろ……」
命のやり取りに慣れていないと言うこともあり、ショウトはその事実に呆気にとられ、尻餅を着いた。信じられない光景にショウトの思考が停止する。そのショウトの気の緩みを一瞬で判断したのか草原ウルフはここぞとばかりにショウトに襲い掛かった。
「ガウゥゥッ!!」
草原ウルフの牙がショウトの首元へ向かって行く。しかし、ショウトはその事実にいまだ気付いていない。
「ショウト!!」
サイクルが叫んだ。ショウトはその声で我に返り視線を草原ウルフに戻した。しかし、その勢いと凄さにただただ恐怖し動けない。すると、その時だった。
「キャイィィーン!」
草原ウルフの甲高い鳴き声と共にその身体が真横にぶっ飛ぶ。
ショウトは一瞬の出来事に理解する暇も与えてもらえず、ただ飛ばされた草原ウルフの姿を目で追った。
「何が起こった……?」
ショウトの口から無意識に声が漏れる。
草原ウルフは飛ばされた勢いのまま激しく地面に叩き付けられ、ずるずると横様に流れ静かに止まった。そして、そのまま横たわり動く様子はない。
遥か横様に飛ばされた草原ウルフをただ呆然と眺めていると、初めて聞く声がショウトの耳に届いた。
「ねぇアンタ、大丈夫かい?」
声のした方に視線を送ると、そこには薄茶色ローブに身を包み、顔を隠した少女? が立っていた。
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ショウトは今、猛烈に混乱している。
なぜなら、目の前には見たこともない獣……、草原ウルフと対峙しているからだ。
「グルルルゥゥゥ……」
そんなショウトを睨み付けている草原ウルフは、体の幅よりも少し広めに広げた四本の足をしっかりと地着き、怒っているのか口吻にシワを寄せ、上の牙をはっきりと覗かせている。すると突然、
「いけーっ! ショウト!」
サイクルの弾けるような声が響き渡った。
それが合図になったのか草原ウルフはヨダレを口からたらし、勢い良く地面を蹴った。
それとほぼ同時にショウトの思考も働き出す。
しかし、こんな状況は生まれてこのかた経験したことがない。例え思考が働こうと良いアイデアなんて浮かぶはずもなかった。
そうこうしているうちに、草原ウルフはショウトを射程圏内に捉えたのか勢い良く飛びかかる。
「うおっ!」
間一髪、獣が飛んだ瞬間ショウトも身体を捻り左方向へと飛んだ。
左手をしっかりと伸ばしヘッドスライディングをするように地面と熱い抱擁。擦れた手のひらに熱を帯びたまま直ぐ様立ち上がる。
「あっぶねー」
草原ウルフは着地すると二撃目に突入する。砂ぼこりと共に、くるりと身体を反転、その姿まさにサイドターン再びショウトに迫る。
しかし、ショウトに今の状況を打開する方法が浮かばない。良いとこ飛んだところを潜り込んで腹を蹴るか、飛びかかって来たところで顔面を蹴るくらいだ。あとは一か八か……、ショウトは咄嗟に叫んだ。
「おい! サイクル! どうしろってんだよ! 能力つったって使ったことねぇよ!」
 
「そんなの僕にだってわかんないよ。だってショウトと一緒に居たから何となく知ってるだけで、そんな魔法聞いたことないもん」
開いた口が塞がらないとはこの事だ。と言うよりも、「練習してみよう」なんて良く言えたものだ。何も分からずに戦わされているこっちの身にもなって欲しい。
視線の先にいる草原ウルフが再びショウトに飛びかかる。
「えぇい! 選択肢一だ!」
選択肢一……つまり、飛んだところをスライディングして獣の下に潜り込み腹を蹴るだ。やったことはないが、あれだけの跳躍力のある獣なら出来るかもしれない。
ショウトは意を決して草原ウルフに向かって滑り込んだ。
「――うおおぉぉぉっ!!」
ショウトと草原ウルフの身体が上下で交差する。
ショウトはスライディングした勢いの伸ばした右足を軸にそのまま立ち上がり、草原ウルフは音も立てず静かに着地した。
「ねぇ、なにやってるの?」
誰よりも早く口を開いたのはサイクルだった。
「ああぁぁぁ! 届かねぇよ! 足の長さとかじゃねぇからな! アイツが飛び過ぎなんだよ!」
既にショウトは猫を被ることを忘れていた。というよりも、そんな余裕はなかった。素の姿を全面に出し、草原ウルフと対峙して初めてサイクルの姿を探す。すると、
「は? お前なんで浮いてんだよ!」
あろうことにサイクルの身体はフワリと宙を浮き、あたかもショウトと草原ウルフの戦闘を優雅に観戦しているかのように少し高い位置から眺めていた。
「だってそんな所に居たら僕が食べられちゃうじゃないか。どう見たってショウトより僕の方が美味しそうだしね」
「お前な! 美味しそうとかそう言う問題じゃないだろ! 自分で戦えって言っといて――」
サイクルに反論しようと声を上げた時だった。ショウトの声に被せるようにサイクルは声を荒げた。
「ショウト前! 前!」
その瞬間、右肩に痛みが走る。
一瞬の隙をつき、草原ウルフはショウトの肩に鋭い爪で引っ掻いていた。
ショウトの右肩からはシャツと一緒に裂かれた三本の爪痕がくっきりと付き、じわじわと傷口から血が滲む。
「――くっ」
不馴れな血に若干の目眩。大量出血ではないが、こんな傷は生まれてこの方経験したことがない。
「ほらほら、戦ってる時によそ見をしちゃだめじゃないか」
そんな状況にも関わらずサイクルはまだまだ余裕のようだ。だが、その声は既に戦いに引き戻されたショウトの耳には届いていなかった。
――クソッ! どうする?! この状況を打開するにはどうしたらいいんだ!? 選択肢二か!?
選択肢二、飛びかかってきた所で顔面を蹴るなのだが……、ショウトの気持ちを知ってか、草原ウルフはゆっくりと歩みを進めショウトとの間合いを詰める。それによりショウトの選択肢二は消えた。
――何でだよ! 何で飛びかかってこないんだよ!
ジリジリと凄みを利かせて近づいてくる草原ウルフにショウトはただ、たじろぎ後退していく。しかし、その後退していた身体は直ぐに止まった。顔だけを少し左に向け、後ろを確認すると、そこには太い大きな木が壁のようにショウトの行く手を塞いでいた。
――こうなったら、一か八か……、右手の力を信じるしかねぇ!
ショウトの力は『物に魂を宿らせる』または『物の魂を呼び起こす』だとサイクルは言っていた。実際、ショウト自身どうなるかも分からないが今はそんな事を言っている場合じゃなかった。
「えぇい! どうにでもなりやがれ!」
ショウトは少ししゃがんで、右手で足元の草を鷲掴みすると、がむしゃらに引きちぎった。その勢いを保ったまま下投げの要領で草原ウルフに草を投げつけた。すると、ショウトの手元を離れた草たちは、ひらひらと宙を舞い緩やかに吹く風に流された。
その様子をショウトは目で追い、一方の草原ウルフは危険と判断しなかったのか、ショウトの突然の動きにも微動だにせず、ただ真っ直ぐショウトを睨み付けている。
そして、風に流された草たちは地面に音もなく落ちた。
「は? うそだろ……」
命のやり取りに慣れていないと言うこともあり、ショウトはその事実に呆気にとられ、尻餅を着いた。信じられない光景にショウトの思考が停止する。そのショウトの気の緩みを一瞬で判断したのか草原ウルフはここぞとばかりにショウトに襲い掛かった。
「ガウゥゥッ!!」
草原ウルフの牙がショウトの首元へ向かって行く。しかし、ショウトはその事実にいまだ気付いていない。
「ショウト!!」
サイクルが叫んだ。ショウトはその声で我に返り視線を草原ウルフに戻した。しかし、その勢いと凄さにただただ恐怖し動けない。すると、その時だった。
「キャイィィーン!」
草原ウルフの甲高い鳴き声と共にその身体が真横にぶっ飛ぶ。
ショウトは一瞬の出来事に理解する暇も与えてもらえず、ただ飛ばされた草原ウルフの姿を目で追った。
「何が起こった……?」
ショウトの口から無意識に声が漏れる。
草原ウルフは飛ばされた勢いのまま激しく地面に叩き付けられ、ずるずると横様に流れ静かに止まった。そして、そのまま横たわり動く様子はない。
遥か横様に飛ばされた草原ウルフをただ呆然と眺めていると、初めて聞く声がショウトの耳に届いた。
「ねぇアンタ、大丈夫かい?」
声のした方に視線を送ると、そこには薄茶色ローブに身を包み、顔を隠した少女? が立っていた。
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