唯一無二の半端者(グレーマン)
第1話 プロローグ
 「あなた……いったい何者なのよ?!」
 大理石の冷たい床に、一人の少女の声が響く。
 少女の名前はリリー・ロマネスク。
 このロマネスク王国の第二王女にして、つい先ほどまで執り行われていた国王主催の誕生パーティーの主役でもある人物。
 まだ十歳という子供ながらも、気の強そうなキリッとした目元に緋色の瞳、それと同色の腰まで届きそうな長く艶かしい髪を持った将来を有望視される絶世の美少女だ。
 そんな彼女の僅か一メートル離れた足元には頭を強く打ち付けられ、白目を剥いた大柄な男が一人。
 何を隠そうこの男の所属する国際的テロ集団こそが、リリーの年に一度しかない誕生パーティーをぶち壊した張本人である。
 だが、リリーが声をあげたのはこの男に対してではない。
 そもそも襲いかかってきたかと思えば、瞬きをした一瞬のうちに今と同じ格好をしていた男に声を上げる暇すらなかったのだ。
 そうなると彼女は一体誰に対して叫んだのか。
 答えは倒れている男のすぐ側、リリーの目の前に佇む灰色の髪の少年に対してだ。
 
 「テロリストってのも案外大したことないんだな」
 誰にでもなく声変わりしてない声で、ポツリと独り言をつぶやく少年。
 後ろ姿しか見えないが、おそらく年はリリーと同じくらいだろう。
 同年代の男子の中では少し小柄に見え、背は自分の方が一~二センチばかり高い……はずだ。
 それ以外には、この国では珍しい灰色の髪だということを除き特筆すべき点はなく、何処にでもいる普通の少年といった風貌。
 それにもかかわらず、先ほどの戦闘では羅刹の如き強さを誇り、少年より何倍も大きな体の男を一撃で……一瞬にして倒してしまった。
 そんな彼に『おてんば姫』として知られる、リリーが興味を抱かない訳がない。
 むしろ、声をかけないことの方が不自然と言える。
 「す、凄いのよ! なんか……こう……凄かったのよ!!」
 僅かに頰を蒸気させて、興奮冷めやらぬといった様相ではしゃぐリリー。きっと語彙力が足りないのはそのせいだと信じたい。
 因みに「~なのよ」というのはリリーの口癖である。
 
 「さて、そろそろ師匠のところに戻らないと」
 そんな彼女を無視して少年は足早にその場を離れようとする。
 しかし、それを許すまいと少年の上着の裾をむんずと掴む。
 それでも少年は尚も無視して逃れようとする。
 「…………師匠のところに戻……」
 「さっきのはなんだったの? 教えて欲しいのよ!」
 「………………ししょ……」
 「答えてくれるまで離さないのよ!」
 緋色の瞳を爛々と輝かせ、楽しそうに微笑む。
 その笑顔はいたずらっ子の様な無邪気さと、何が何でも逃がさないと決意を込めた邪悪さがあった。
 「あー、もう! しつこい! 意図的に無視してたっていうのに……」
 それに根負けした少年が振り向き、リリーと正面から目が合う。
 少年の瞳は濁った灰色をしていた。
 「え……まさか、無属性!?」
 
 リリーは心底驚いた様な表情をする。
 それを見て少年は、「だから嫌だったんだ……」と何処か投げやり気味に呟く。
 属性というのは、この世界の主エネルギーとされる『魔力』を『魔道士』といった特別な力を持つ人々が、『魔法』という奇跡を起こす際に用いられる特性のことである。
 その種類は無属性を含めて、「火」「水」「土」「風」「雷」「草」「闇」「光」の九種類。
 例外を除き原則として、この世界に住む『魔道士』は一人一つの属性を持っており、必ず瞳の色と関係している。
 例としてあげるならば、赤系統の色は「火属性」、青系統の色は「水属性」といった形。
 そして、そんな属性の中でも一際異彩を放つのが、リリーも思わず驚いしまった無属性。
 世間一般では、ハズレだの一生負け犬確定だの言われており、扱える魔法も自身の身体強化一つだけだとされている。
 その為、一般人とも魔道士ともどちらとも言い難く、なおかつ彼らの特徴である灰色の瞳から「半端者」と揶揄されていた。
 少年が頑なに無視を貫こうとしたのはこんな背景があったからだ。
 だから、リリーが次にこんな言葉を掛けてくれるとは全く予想だにしていなかった。
 「カッコイイのよ」
 「…………え?」
 少年はリリーの発言に一拍遅れて間抜けな声を発する。
 頭で何度も反復するうちに、だんだんと言葉の意味を理解していき、気がつくと顔が熱くなっていた。
 「な……」
 なんで? どこが? 畳み掛ける様に、少年が質問に質問を重ねようとした所で「アキラー。生きてるかー」といった何処か能天気な女性の声が聞こえた。
 「あ、師匠のところに戻らないと」
 少し名残惜しそうにしながらも、リリーの手を振りほどき声のした方角へ向かおうとする少年。
 「ねぇ! あなたの名前は何て言うの?」
 「アキラ……アキラ・クラウド。無属性の魔道士だ」
 アキラは首だけをリリーの方へ向け、そう名乗ると来た時と同じく、瞬きをした一瞬のうちに何処かへと消えてしまった。
 そして、それから約一ヶ月間。
 リリーが城を抜け出しては王都を探し回ったが、遂にアキラを見つけ出すことは叶わなかった。
 それから五年後のペルセウス魔法学院の入学試験。
 二人は幸か不幸か再び顔を合わせることとなる。
 大理石の冷たい床に、一人の少女の声が響く。
 少女の名前はリリー・ロマネスク。
 このロマネスク王国の第二王女にして、つい先ほどまで執り行われていた国王主催の誕生パーティーの主役でもある人物。
 まだ十歳という子供ながらも、気の強そうなキリッとした目元に緋色の瞳、それと同色の腰まで届きそうな長く艶かしい髪を持った将来を有望視される絶世の美少女だ。
 そんな彼女の僅か一メートル離れた足元には頭を強く打ち付けられ、白目を剥いた大柄な男が一人。
 何を隠そうこの男の所属する国際的テロ集団こそが、リリーの年に一度しかない誕生パーティーをぶち壊した張本人である。
 だが、リリーが声をあげたのはこの男に対してではない。
 そもそも襲いかかってきたかと思えば、瞬きをした一瞬のうちに今と同じ格好をしていた男に声を上げる暇すらなかったのだ。
 そうなると彼女は一体誰に対して叫んだのか。
 答えは倒れている男のすぐ側、リリーの目の前に佇む灰色の髪の少年に対してだ。
 
 「テロリストってのも案外大したことないんだな」
 誰にでもなく声変わりしてない声で、ポツリと独り言をつぶやく少年。
 後ろ姿しか見えないが、おそらく年はリリーと同じくらいだろう。
 同年代の男子の中では少し小柄に見え、背は自分の方が一~二センチばかり高い……はずだ。
 それ以外には、この国では珍しい灰色の髪だということを除き特筆すべき点はなく、何処にでもいる普通の少年といった風貌。
 それにもかかわらず、先ほどの戦闘では羅刹の如き強さを誇り、少年より何倍も大きな体の男を一撃で……一瞬にして倒してしまった。
 そんな彼に『おてんば姫』として知られる、リリーが興味を抱かない訳がない。
 むしろ、声をかけないことの方が不自然と言える。
 「す、凄いのよ! なんか……こう……凄かったのよ!!」
 僅かに頰を蒸気させて、興奮冷めやらぬといった様相ではしゃぐリリー。きっと語彙力が足りないのはそのせいだと信じたい。
 因みに「~なのよ」というのはリリーの口癖である。
 
 「さて、そろそろ師匠のところに戻らないと」
 そんな彼女を無視して少年は足早にその場を離れようとする。
 しかし、それを許すまいと少年の上着の裾をむんずと掴む。
 それでも少年は尚も無視して逃れようとする。
 「…………師匠のところに戻……」
 「さっきのはなんだったの? 教えて欲しいのよ!」
 「………………ししょ……」
 「答えてくれるまで離さないのよ!」
 緋色の瞳を爛々と輝かせ、楽しそうに微笑む。
 その笑顔はいたずらっ子の様な無邪気さと、何が何でも逃がさないと決意を込めた邪悪さがあった。
 「あー、もう! しつこい! 意図的に無視してたっていうのに……」
 それに根負けした少年が振り向き、リリーと正面から目が合う。
 少年の瞳は濁った灰色をしていた。
 「え……まさか、無属性!?」
 
 リリーは心底驚いた様な表情をする。
 それを見て少年は、「だから嫌だったんだ……」と何処か投げやり気味に呟く。
 属性というのは、この世界の主エネルギーとされる『魔力』を『魔道士』といった特別な力を持つ人々が、『魔法』という奇跡を起こす際に用いられる特性のことである。
 その種類は無属性を含めて、「火」「水」「土」「風」「雷」「草」「闇」「光」の九種類。
 例外を除き原則として、この世界に住む『魔道士』は一人一つの属性を持っており、必ず瞳の色と関係している。
 例としてあげるならば、赤系統の色は「火属性」、青系統の色は「水属性」といった形。
 そして、そんな属性の中でも一際異彩を放つのが、リリーも思わず驚いしまった無属性。
 世間一般では、ハズレだの一生負け犬確定だの言われており、扱える魔法も自身の身体強化一つだけだとされている。
 その為、一般人とも魔道士ともどちらとも言い難く、なおかつ彼らの特徴である灰色の瞳から「半端者」と揶揄されていた。
 少年が頑なに無視を貫こうとしたのはこんな背景があったからだ。
 だから、リリーが次にこんな言葉を掛けてくれるとは全く予想だにしていなかった。
 「カッコイイのよ」
 「…………え?」
 少年はリリーの発言に一拍遅れて間抜けな声を発する。
 頭で何度も反復するうちに、だんだんと言葉の意味を理解していき、気がつくと顔が熱くなっていた。
 「な……」
 なんで? どこが? 畳み掛ける様に、少年が質問に質問を重ねようとした所で「アキラー。生きてるかー」といった何処か能天気な女性の声が聞こえた。
 「あ、師匠のところに戻らないと」
 少し名残惜しそうにしながらも、リリーの手を振りほどき声のした方角へ向かおうとする少年。
 「ねぇ! あなたの名前は何て言うの?」
 「アキラ……アキラ・クラウド。無属性の魔道士だ」
 アキラは首だけをリリーの方へ向け、そう名乗ると来た時と同じく、瞬きをした一瞬のうちに何処かへと消えてしまった。
 そして、それから約一ヶ月間。
 リリーが城を抜け出しては王都を探し回ったが、遂にアキラを見つけ出すことは叶わなかった。
 それから五年後のペルセウス魔法学院の入学試験。
 二人は幸か不幸か再び顔を合わせることとなる。
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