龍の子

凄い羽の虫

17話 『目をつけられた二人』

あれは幼馴染の「響  美雲」といつもの様に一限だけ遅刻して学校へと向かった朝の出来事だった。

幼馴染とは言ってもいつから一緒に居たのか、一番古い記憶を辿っても思い出せないが。

俺、「坐古  宗一郎」は恒例通り、朝の9:30に起床。

「おはよー、ざこくん!朝ごはんできてるよー」

「…なんで居んだよ。…美雲まで、遅刻だぞ?」

朝の9:30。普通の高校生はとっくに家を出てちょうど、一時限目の授業の真っ最中といったところだろう。

「いーの、私はざこくんといつも一緒だよ!」

「……勝手にしろ」

「うん!」

毎日、一緒に遅刻してくれる美雲の事は、正直言って嫌いじゃない。

少しめんどくさい所があるが、可愛い所もある。

「美雲はさ、なんで俺といつも一緒に居てくれるんだ?」

「何で?ざこくんは私と一緒に居るのは嫌?」

「嫌じゃない、むしろ、…いつもありがとう」

「何さ?何か、照れるな。私はざこくんがよぼよぼのおじいちゃんになっても一緒に居るつもりだよ?……って、トイレ行っちゃった」

バタン

…っ、なんなの、あいつ。バカなんじゃないの?

おじいちゃんになっても一緒に居るって、…そう言う事だよな?

顔がカーッと赤くなるのを感じた。


……


…っと、こんな時間か。流石に遅刻の度がすぎちまう。

「美雲!そろそろ出ないと!」

「ほーい」










はぁ、そろそろ、俺も早く起きる努力でもしてみるかな…

このまんまだと俺だけならまだしも、美雲まで単位を落としてしまうのは何だか申し訳ない。

まぁ、先に行けよって話なんだが、それはもう既に何回も言っているんだが、聞かねぇんなだよな。

今も、俺の腕にくっ付いて昨日放送していたアニメ映画の話をしている。

「でねー!私もざこくんとあんな世界に行けたらもっともっと、自由になれると思うの!」

確かに気楽で良いかな?

自然と生き物と剣と魔法にあふれた自由な世界。

森に佇む一軒の家で美雲と二人きり、ゆっくりと過ごす。

そんな妄想を浮かべてる最中、目の前に柄の悪い不良男が一人。

「はっ、朝から見せつけてくれるじゃねぇかぁ?あぁん?『ザコ 宗一郎』君よぉ?この前はうちの後輩達を可愛がっ!?」

ドカッ!!バキッ!

「邪魔くせぇな、あとイントネーションが違うぞ雑魚が」

邪魔者にはボディブローをくれてやろう。

「ほぶぅぅ!?」

全く、朝っぱらからめんどくせぇことが起こりやがる…

「あーあ、ざこくんの事をザコって言うからそんな目に会うんだぞー!べー!」

「余計な事言うなって、行くぞ美雲」

「ほいほーい!」

まぁ、めんどくさい学校に行く前に少しだけストレスが発散出来たと考えたらちょっとはマシかな?

「…クソっ!バカにしやがって!!このままで終わると思うなよ!!お前も、その生意気な女も後悔しても、もう遅いぞ!!…使ってやる!!こいつを!使ってやるぞ!!」

男が取り出したのは、黒くて丸い。

なんだ?あれは??

「へへへ、こいつはなぁ!すげぇんだよ!!これさえあれば俺もあの、化けもんみたいに強くなれる筈だ!!」

そのまま口元まで持っていき。

ゴクリ

!?

飲んだ??

あんな得体の知れない物体を??

「アァアァァォァァァオオオオォォォォ!!」

え、エゲツない声だな。

てか、あいつ、筋肉がバカみたいに膨らんでやがる!

「うへぇ、気持ち悪〜」

全く、映画の世界じゃないんだから、いきなり目の前の奴が変身するなんて常軌を逸してるな…。

確かに、こんなのに襲われた日には、後悔せざるを得ないな…。

「美雲!流石に逃げるぞ!!」

「う、うん!キモいもんね!」

そこかよ!とツッコミを入れそうになったが、そこは我慢。

いざ、その場から離れようとした瞬間、視線の隅に小学生高学年くらいの子供がいる事に気付いた。

「おい!ガキ!!お前も逃げろ!!お前も殺されるぞ!!」

子供は首を傾げ、こちらに向かって不思議そうに話しかけた。

「どうしてだい?お兄さん。こんなに、面白いことが起きてるのに、見逃すなんてどこかの馬鹿な神様のする事だよ?」

何を言ってるんだ、このガキ!?

「まぁ、理解出来なくても良いさ。結局、君達も見てしまった以上はそれ相応の処置を下すつもりだからさ。…それにしても、この僕からあの薬を盗むなんて、大した勇気だ。それでいて、勇者になり得る存在ではないなんて。この世界は残酷だよね?」

!?

なんだ?薬を飲んだ男がだんだんと丸く、大きくなっていく。

「イヤダ!ゴンナ!ヅモリジャナカッタ!!ダズゲデェェェェ!!」

「おいおい!まさかこのまんま膨らんで……」

「そう!バーーーーンって、破裂するんだぜ?それが、結構面白いんだ!」

こいつ、ただの気味の悪いガキだと思ってたら…

「ざこくん!その子!!人間じゃない、さっさと逃げよう!」

は?美雲??何言って…

「お姉さんひどいなぁ、こんなにか弱そうな男の子に向かって人外扱いだなんて!僕、泣いちゃいそうだよ…しくしく」

…あざとい。

「バカを言わないで…。こんなに、重くて黒くて臭い匂い。人間じゃありえない!」

美雲は昔から悪いことが起こる前には『私、そういうの匂いでわかるの』。なんて言ってた。

実際に、それに助けられた事も沢山ある。

しかし、こんなにも美雲が動揺しているところを俺は過去に見た事が無い。

こんな、美雲。見た事ない…

「匂い?…匂いかぁ、そっか。僕、全く気にした事なかったよ!まさか、匂いで見分けられるなんて思ってもみなかったなぁ。だって、鼻の良い獣人でさえ僕が〇〇〇だって気づかなかったんだぜ?こっちの世界にはまだまだ知らないことがあるんだなぁ。流石、勇者が産まれる世界なだけはあるね。うんうん、ところで…」

男の子が、まるで獲物を見つけた時の獣の様な鋭い眼差しで美雲を睨む。

「い…や……!」

美雲が体を小刻みに震えさせながら首を左右に振る。

「僕の正体をただの人間が見破れる筈がないのさ。そういう決まりだからね。しかし、小娘。お前はたかが匂いが違うと言うだけで僕が人間じゃないと断言した。一体どんな匂いなんだろうか??気になる、僕の知らない事…知らない能力……たべたい…オイシソウ」

「ひっ!」

「美雲っ!!」

とっさに、美雲の前に立ち、ゆっくりと近づいて来る男の子と対面する。

そして

「それ以上、美雲に近づくんじゃねぇ!!」

無意識に男の子を殴りつける。

バギン!!

「ぐっ!?」

思い切り殴りつけた拳が弾かれる。

なんだ!?目の前に、何か壁みたいなのが…

「無駄さ!君みたいな人間が〇〇〇の僕にたかが拳一つで敵うはずがっ…?」

なんだ?動きが止まった?

「ふふふ、なんでぇ???なんで、血が出てるんだい??届くはずがない拳が、僕に傷を付けたと言うのか??面白いっ!!何なんだ、君たちはっ!とってもワクワクするよ!」

つーっ、と男の子の唇から血が流れ落ちる。それと同時に狂気に満ちた笑い声を発する男の子。

何だこいつ、ますます気持ち悪い。

「ダダッぁ!ダズゲでぇ!グルジィ!!グルジィ!!!ジンジャウ!!ホンドウにジンジャウぅぅぅぅ!!」

!?

やべぇ!こいつ、もうこんなに膨らんでる!!このままじゃ、本当に目の前で人間が爆発する所を目撃してしまう!

「ん、あー。まだ、破裂してなかったんだ。もういいよ、飽きたからさっさと、死んじまえ」

男の子が、膨張した柄の悪い男に向かって黒くて速い、光の様な物を撃ち込んだ。

シュッ!

プスりっ。

「あ、オガアサン!ゴメンナザッ……!!!」

破裂した。

それは、パァンなんて、風船の割れる様な音では無く。

グチャっと腐った果実を落とした時の様な音。

飛び散った内臓や、まだ温かい血が辺り一帯に飛び散り。ベチャベチャと音を立てている。

「当然さ。僕から物を盗むなんて、例え神でも同じ目に合わしてやる。……安心してよ。君達にはこいつみたいな事はしないさ。メインデッシュは最後まで取っておきたいタイプなんだ。特に僕に血を流させた君にはとっても興味がある。後世の為にもっともっと、強くなってからいただくとするよ!」

何か言っているが、何言ってるのか、全く頭に入ってこない。真っ白だ。

美雲は…、震えはすでに収まっているが、只々目の前の出来事に涙を流している。

「つまり、君達にはさっさと強くなって、僕にこの先弱点になるような事がないように糧になって欲しいわけさ!でも、このままこの世界にいるようじゃ雑魚のまんまでしょ??だから、僕の産まれたあの憎たらしくも伸び伸びとしたゆっくりな世界で強くなって欲しいのさ!食べ頃になったら迎えに行くから、今は安心して行って来るといいよ!」

なんだか、話が勝手に進んでる。逆らう気も起きない。

食べ…頃??

喰われるのか?

「あ、そうそう。奴らに見つかるとめんどくさいから最初は人目につかないところに送るけど、死んじゃ嫌だから君達には僕の加護をあげるよ」

加護??結局、最後に喰われるんだろ?

「あとは…、うーん。これも持ってく??」

!?

「ふざけてるのか!!これってさっき破裂したやつが飲み込んだ丸薬じゃねぇか!」

「なんだい?いきなり、元気になったじゃないか。そうさ、これは適正の無い者がこれを飲み込んだら暴発するが、適正のある者が飲み込んだ時にはとても強力な力を得られるんだぜ?まぁ、所詮知能の低い獣くらいしか圧倒は出来ないだろうけど」

「……俺らはこれから、どこに連れてかれるんだ?」

「??言っただろ?僕が産まれた、自然と生き物と剣と魔法に溢れた、憎っくきも自由な素晴らしい世界さ!」

美雲、そこで目を輝かせるな。さっきまで震えてたのが嘘みたいだ…。

「ちなみに、拒否権は…」

「無い」

まぁ、このままいつも通り学校に行ってもつまらなかったし、行ってみても…

「で、でも。……喰うんだろ?」

「うん、君たちが強くなったら食べるよ。そりゃあもう、容赦無く。でも、それまでは手は出さない。それは約束するぜ?100年でも1000年でも待ってやるよ」

「1000年って!それじゃあざこくんはおじいちゃんになってよぼよぼになっちゃうよ??それ以前に生きてるかも不明だよ!!」

おい、なんで俺だけおじいちゃんになってるんだ?

「そこは大丈夫さ。その為の僕の加護さ。まぁ、加護の内容はざっくり言うと不老不死さ!喜ぶといい!強くなるまでゆっくりとあの、くだらなくも美しい世界を堪能させてあげるよ!」

不老不死、か美雲と一緒に、1000年間……

「おや?『宗一郎』君?何だか顔が赤いぞ?」

「っ??なんで、俺の名前を!?」

「あー!下の名前、美雲以外に呼んじゃだめ!!」

美雲、お前は下の名前で呼んでないだろ…。

「ふふふ、何だか二人とも元気が出てきたようだね。これから僕に食べられると言うのに。まぁ、何千年掛かるかは僕にもわからないがね、っと。さて、そろそろ君達には向こうの世界に行ってもらう。そろそろ、奴らが休憩する時間だ」

「奴ら?」

「秘密だ、さぁ。この紙を持って、僕の後ろにある穴に飛び込むんだ!」

い、いつの間に穴が…。

これに、飛び込むのは少し勇気が必要そうだ。

「遅い!!」

ドン

「うおっ!?おぉぉぉぁぁぁぁ!!」

「ざこくん!?」

「美雲ちゃんも!!」

ドン

「へ?いやぁぁぁぁぁぁあ!!」






二人を無理やり穴に落とした男の子は空を見上げ一息つく。

「間に合ったかな?……ふぅ、今日は思わぬ収穫だったなぁ。『坐古  宗一郎』君に『響 美雲』ちゃん。ふふふ、向こうの世界にどっぷりと浸かって、強く、美味しくなると良いな」













蒸しです。

前回、最後に出てきた二人のお話です。

ここから、少しだけ、回想シーンと言うか跡追いと言うか、二人を追っかけた話になります。


あと、新生活始まりました。初仕事、覚えることいっぱいで死にそう!

俺も異世界行って可愛い女の子と知り合いたいぜ!!

眺めるだけでも!!良いんで!!神様お願い!

あと、この男の子はコノシャと関係が…あるかも??



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