龍の子

凄い羽の虫

1話 『兄弟喧嘩』

俺には両親が居ないらしい。

らしいと言うのも幼い頃に両親は事故で亡くなり当時は小学生だった俺にはあまりのショックの大きさに塞ぎ込み軽い記憶障害を起こしてたらしい。今は落ち着きを取り戻し自分が塞ぎ込んでいたことも無かったかのように過ごしている。しかし、残念な事に両親の存在もその温もりも思い出せずにいた。まるでぽっかりと空いた穴のように元々無かったのでは無いか?そんな感情すら湧いて来る。

唯一歳の離れた兄が一人居て幼い頃の自分のお世話をしてくれていた。だが、現在は自分の部屋に引きこもりニートのような生活をしている。

中学校を卒業した後はお金に余裕もなく高校に行く事は叶わなかった。でも、悔しくは無かった。俺には明確な目標がありそれを達成するためには高校に行かないのが一番の近道であった。

「こんな家、さっさと出てってやる!兄貴の面倒なんてもう御免だ!部屋にばっかこもってないで自分の生活費くらい自分で稼げ!!」

俺はキレていた。




中学卒業間近。両親の残した遺産は底を尽きかけ、俺は家のこともあり、働かざるを得なかった。

しかし…

「何であのニートの分まで俺が生活費稼がなきゃいけないんだ!そもそも、もう自立しても良い年頃だろうが!」

兄は動かなかった。いくら呼びかけても部屋から出てこなかった。

もしかしたらくたばってるのでは無いかと部屋に突撃してみたら…怒られた。

生きてたみたいだ。

そして。

「今までお前を育てるために俺も頑張って来たんだよ!飯もお前の分まで買って来てやった!もう良いだろう!治ったんだから俺に関わるな!!」

「なっ!?」

確かに俺を立ち直るまで面倒見てくれたのは兄貴だ。感謝もしてる。しかし、その言い方は何なんだよ!関わるなだと?俺たちは唯一の兄弟だろ…!

「俺は兄貴がこのままじゃ心配でだなっ!」

「うるさいっ!」

「なに!?」

「なんでお前に心配されなくちゃならねぇんだよ!俺一人だったら親父とお袋の遺産でなに不自由なく暮らせていたんだ!お前の世話をするのにどれだけ金がかかったと思ってるんだ!そろそろ休ませろ!!不満があるんならこの家から出てけ!!」

「なっ!!言われなくてもこれから働いて金が溜まったら出てくつもりだ!兄貴こそまだ俺が家にいるうちにまともに仕事を探した方がいいと思うぞっ!!」

そう言って部屋のドアを投げつけるように閉めた。





それから時はたち、兄弟喧嘩から2年たったある日。

現在だ。

細々としたフリーター生活にも慣れてきて、職場である地元のコンビニから廃棄になったお弁当を袋に入れて、家に帰っている途中に事件は起きた。

恐らく、不慮の事故だったのだろう。歩道橋の階段から足を踏み外した老人がゴロゴロと階段に身を打ちあてながら落下してくる。

うわ、これはやばいんじゃないか?

俺は老人の元に駆け寄り。


「だ、大丈夫ですか!?」


老人の体はアザだらけになっており所々出血していた。脆くなっているだろう骨は折れ肉を突き破っており…。

「ひっ!」

心臓の鼓動は止まっていた。

最悪だ。

嫌なものを見た。

身体中から嫌な汗が吹き出て来て思わず周りを見渡してしまう。

周りには誰も居ない。

「きゅ、救急車を呼ばないと!」

近くの公衆電話に駆け込もうとしたその時。老人の体から薄っすら白い靄がゆっくりと抜け出てきていた。

「な、なんだ!?…ま、まさか魂!?」

あまりの出来事に腰を抜かしてその場にとどまっているとその靄は俺の体めがけて突っ込んできた。


そして、体内に入り込んだ。


「うわっ!」

入り込んだ靄は体に溶け込んでいき…。


「体が暖かい。なんだか力が湧いてくるような…。そ、そうだ電話!!」


俺は歩けるようになった体で公衆電話に向かいそのまま救急車を呼んだ。

その場では何事も無く、どうやら俺が殺したんじゃないか?というお咎めもなくそのまま家に帰れた。

「今晩は嫌な夢を見そうだな。気分悪いから兄貴の飯は無しにしてやろう」

とりあえず、家に帰ったら真っ先に眠ろう。なんだかさっきから気だるいし。

そして、次の日。

「いっっっ!?てぇぇぇっ!!!!」

体の節々が痛い。

「あだ、あだだだだだっ!」

やばい気絶しそう…

「あう、あう…」

気絶した。

そして二度寝である。




………ぽーん


ぴんぽーん






ん?

気絶してたみたいだ。

やけに体が軽いな。さっきの痛みが嘘みたいだ。


ピンポーン


「って、今何時だ?……午後5時だって!?ヤバい!バイト完璧に遅刻だ!!」


ピンポーン


「ん、インターホン、誰だろ?」


そう言えばこの音で目を覚ました気がする。


カメラ越しに相手の顔を見てみるとそこには。顔に大きな傷をつけている強面のおじさんとおじさんとおじさんと…


「いっ!??なんだこの人達!!」


なんか嫌な予感がする!

絶対ドアを開けちゃダメだわ、これ。


『オラァ!居るんだろクソガキィ!出てこいやぁ!』

『大親分殺りやがったのはテメェだって調べついてんだぞ!!』

ん?大親分?殺した?もしかしてあのじいさんか??

いや、それなら俺じゃない!俺は殺してないぞ!

なら、話せばなんとか…。


ガチャリ。


この時なんで話せばわかると思ってしまったんだろうか。全くもって馬鹿だった。


「あ、あのぉ〜。話せばわか…」

「あぁぁん?」

「出てきたぞ!」

「捕まえろ!」

「ちょ!えぇぇぇぇ?!」


本当に馬鹿だった。








今、自分はどこかの事務所に居る。

周りには強面のおじさんやおにいさんたち。

これは終わった。ドラム缶のコンクリ詰めにされて海に沈められちゃう。まだ兄貴の顔面すらぶん殴れてないのに…

「んで、おにいさんは殺ってないって言うんだね?」

「は、はい」

このおじさんは他の人と違ったずっと笑顔だ。一番優しいな。

良かった、やっぱり話せばわか…

「んな嘘通用すると思ってんのかぁぁぁ??おぉぉん??」

「ひっ!」

やっぱ嘘。一番怖いわ。


「そもそもなぁ!オジキが、階段から足を踏み外して死ぬなんてそんなヘマやらかす訳がねぇだろうが!!舐めてんのかクソガキャぁぁ!!」


思っクソ顔面ぶん殴られた。


あれ?思った以上に痛くないな。


「つぅぅ…、なんちゅう硬さしてやがるんだ!このクソガキが!大人しく、どこの組み者か言えば半殺し程度で済まそうと思ったが…。こんな恥晒しちまったらタダじゃおかねぇなぁ!てめぇら!ヤっちまえ!!」

「そりゃ、大人気ないですぜぇ?頭ぁ」

「う、うるせぇ!!こいつをヤっちまえばなんも問題ないわ!」

「へいへい、お前ら手ェ出すなよ!こんなガキ俺一人で十分だ」

あぁ。俺の人生ここで終わりかよ。最悪だクソッタレ!

「おい、そこの。そいつの手縄を解け!なにもできねぇ奴を痛ぶるのは好きじゃねぇんだ。死ぬ前に一発だけ殴らしてやるよ。なに、お前が頭に目をつけられて少しだけ可哀想に思えてきたからな。もちろん、容赦はしないがな」


ちくしょうめ!舐めてやがる。なんなら殴ってやる本気で!くそがっ!


「くそっ!があぁぁァァァァァ!!!」


パコーーーン

「ほぶっ!?」

良い音がなった。俺の、がむしゃらなパンチはおっさんの顎にヒットして部屋中に響く気持ちのいい音が鳴り響いた。

ぐらり

ドサっ

「え?」

「おい!龍!どうした!」

「……死んでる」

ええぇ、マジか。


「この野郎!!大親分だけじゃなく龍さんまで殺りやがったな!!」

「殺せ!このガキを殺せ!!!」

や、ヤバい流石にこの人数はヤバい!!

「ちよ、まっ、おぶっ!?」

タコ殴りにされた。まさにリンチ。

でも不思議と痛くなかった。

もしかして、俺って強いの???

そんなまさか!

試しに目の前の人を思いっきり殴って反撃してみせた。

「や、やめろぉぉ!」

バキィ!!

「うぎゃぁ!」

パンチで骨が砕ける音が聞こえた。

嘘だろ!?

……でも好都合だ、これなら逃げれる!!

「ぶ、ぶん殴られたくなかったらみ、道をあけろぉ!」

声はまだ震えてた。

「…どけお前ら。おい、餓鬼こっちはもう二人も殺られてんだ。容赦する必要はねぇよな?」

チャキッ

あ、それはマズイ!それは流石に死に……

バンッ!!

「うぐぁっ!」

あ、痛い。

脳天を貫いた一発。

血が垂れ流れてくるのがわかる。

頭が熱い。

「うぅ…」

「まだ生きてんのか!?化け物め!!」

バンッ!!

心臓に一発。

苦しい。これは、死ぬ。

熱い。痛い。

頭がボケーっとする。

…意識が、遠のく…。








弟が帰って来ない。

もう何日経っただろうか。

たった一人の家族が消えた。

最後に弟と話したのはいつだったっけ?確か、口喧嘩してたんだっけな。あの時は酷いことを沢山言ったっけな。兄として情けない事を沢山言ったっけな。

俺は、両親を殺したやつをネットを使ってずっと探していた。でも、それは弟には言えない事だ。

だって両親が残してくれた金を勝手に使ってネットで解析を依頼してたのだから。

それを俺は。弟の子守のせいにした。

あぁ、心配してくれてたのに。

むしゃくしゃしていたんだ。両親の仇が見つからなくて。しかも、どうやって殺されたのかもわからない。謎が多いのだ、両親の死は。

しかし、今は少しだけ休憩だ。

弟の帰りを待とう…。

ピローン♪

ん?メールか。

『リンドウ君。君の両親の死について、新たに入手した情報がある。それは一緒に添付されている動画だ。この動画は君の両親が殺された駐車場に当時、停まっていた車の持ち主がたまたま、この掲示板を拝見してピンときたようでね。ドライブレコーダーの中身をあさって、それらしいものを私に送ってきてくれたものだ。まぁ、まずは動画を見てほしい』

っ!?

動画だと!?一体何が映っていると言うんだ?

俺は近くに置いてあるヘッドフォンを引っ張り出し、急いでPCに差し込んだ。

再生。

ここは、親父達が殺された駐車場だ。

そして、そこに親父とお袋が現れた。二人、いや三人仲良く歩いている。

三人だと!?

二人の間に一人、年は7歳くらいの子が親父とお袋の手を繋いで歩いてる。

一体誰だ?この子は…?

弟ではない。近所にもこんな子供はみたことがない。一体だれなんだ??

親父とお袋、そして謎の子供が撮影場所から向かいにある、昔。俺もよく乗っていたことのある見慣れた車の前までやってきた。

そして、謎の子供が。

カメラの近くに。

やってきて。

なんだ?

カメラに気づいてるのか?

『あーあ、弟君も死んじゃったね!でも、殺したのは僕じゃないよ?』

っ!?

背筋に悪寒が走り!思わず後ろを振り向いた。

誰もいない…。

妙に声がリアルだった。

いや、それより弟も死んだ?

どう言うことだ?

この動画はもう、数年も前に撮影されたはずのドライブレコーダーだ。

意味がわからない。

両親はこの子に殺されたのだろうか?

だとしたら一体なぜ?

ピローン♪

また、メールだ。

『偽物の弟も死んじゃったね!これで、お兄ちゃんはひとりぼっち。でも、大丈夫。これで私たちはまた、一緒だよ!お兄ちゃんとの探偵ごっこは楽しかったなぁ。そうそう、今世は何があっても絶対に逃がさないから。お兄ちゃんの住んでる場所も好きな物も、ぜ〜んぶ知ってるんだからね?どこに言っても無駄だよ?私のお兄ちゃん♡』

なんだ!?このメールは??

気持ち悪い。イタズラか?

差出人は、いつもの協力者だ。

まさか、最初からグルだったのか?こいつら。

ぴんぽーん

ぴんぽーん

インターホンが鳴ってる。


…なんだか嫌な予感がする。








どうも作者です。


なっが。

友人からは「言葉を簡潔にまとめられない奴は馬鹿だと」よく言われます。

0話なのに主人公異世界行かないんかい!って話でしたね。

0話スタートなのに1話がまだ出来てないという。

次からは異世界編です。


後半の兄貴の部分大幅に改変しました。

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