別世界の人間

早山 ユウ

プロローグ

 様々な物資が製作される工場地帯。そしてそこで出来た物資を運ぶ為に用いられる高速道路や港。抜け道として使われる峠。そして、そこで働く人々が住む市街地。

 車は、この国で必要不可欠な物だ。様々な舞台で活躍している。便利な移動手段であり、商売道具でもある。

 だが、全く異なる理由で車を走らせている連中もいる。いわゆる走り屋ってやつだ。

 今年、川崎にある短大、「外征大学」に入学した早山 友(はやま ゆう)も、その走り屋の1人であった。

 外征大学は、一般的な四年制大学とほぼ変わらない事が学習出来る理系の大学で、社会デビューを二足先に出来て経験が積める、という、偏差値の高い大学であった。
 俺にとって、そんな社会経験が云々はどうでも良かった。
 外征大にある部活、モータースポーツ部。モータースポーツ部がある四年制大学は、周辺では頭の悪い学校か、おぼっちゃま大学で、とても親がいない一人暮らしの俺の入れる大学ではなかった。生まれ育った大阪には、いくらかそういった大学はあったが、ある理由で、俺は大阪に住む事を拒んでいた。

 今年、外征大学モータースポーツ部に入ったのは15名。しかし10人は二輪で、四輪は5名。先輩でさえも、ただ1人であった。去年の内は、もっと居たらしいのだが、車の維持がキツく、辞めていってしまったのだそうだ。
 二輪は人数が多く強いから、監督もしっかりとついていて、そこそこ人気がある。今年の10名は、例年からは少ないそうだ。逆に、四輪は合計6名の超弱小部。これが四輪専門の部だったらとっくにサークルに格下げだ。監督もついていない。だが居心地が良かった。数少ない部員の他5名も、レベルが高く、切磋琢磨出来るような関係になれそうだった。猛勉強して、外征大学に入学した甲斐があったというものだ。

 部員を紹介したい。
 天野 快(あまの かい)はR34乗り。部員唯一のグリップ主義者で、あらゆる場面で速い。俺の良きライバルだ。
 そしてその彼女の、柴咲 千(しばさき せん)もR34乗り。綺麗な走りで、無駄がない。峠が得意。
 草元 明(くさもと あかり)はS13乗りで、埠頭や工場地帯、市街地が専門。高校からの付き合いだ。
 山田 洸(やまだ こう)はR30乗り。古い車だが、RB26スワップで、昨今のスポーツカーをカマっている。アカリと同じく、ストリートが得意。
 唯一の先輩の坂上 蒼(さかうえ そう)先輩はZ32に乗り、ハイウェイで強い。かなりダイナミックな走らせ方が、ギャラリーを沸かせる。

 外征大学 モータースポーツ部は、2ヶ月後に耐久レースを控えていた。あまりメジャーではないサーキットでの開催であったが、規模がとんでもなく、大学生から期待の星を探すため、ありとあらゆるメーカーが見学に来る。運が良い事に、1チーム6名体制で、外征大学は参加権を満たしていた。レースの形式は、はじめ4人が1時間ずつ走り、最後の2人が2時間ずつ走る、計8時間の耐久レース。上限650馬力の制限で、それ以外は無制限。もちろん8時間、6人の走り方を耐えさせなければならないため、我武者羅にチューニングすればいい、という訳ではない。今日は全員で峠を走った後、駐車場でベース車などを決めるミーティングを開く。

「8時間攻めれて、サーキットに向いてるのは、カイのサンヨンかな?」
 ユウが言った。
「僕ら6人の車から出すなら、それが無難だと思うよ」
 カイがサンヨンを撫でながら言った。
「一応、学校からの予算があるから、一台作る事も出来るけど」
 センが少しむっとして言った。
「正直、俺は新しく作るべきだと思う」
 ソウが提案する。
「…確かに、作れるなら作るべきですかね。」
 ユウが真剣に答える。
「…そうだ。私の通ってる店に、安くて状態が良いS13あるんだけど」
 アカリは思い出した様に言った。
「皆がそれで良いなら、良いと思う」
 カイがセンの方を見て言った。
 コウも頷き、全員了解が出たので、S13を買ってレース車を作る事となった。アカリはすぐに店に電話した。
 『もしもし?お世話になってます、草元です。はい。えぇ、例のS13、まだ残ってますよね?はい、あぁ良かった。部活でレース車両のベース車にしたいんです。はい、車検は要らないです。保険も。そうすると、値段が…』

 アカリが外で電話をかけている間、他5人でさらに細かい話し合いをした。
 どこまでパワーを上げるか。エアロはどうするか。軽量化は。そしてなにより、走順はどうするか。

「1人目は、コウがいいと思う」
 帰ってきたアカリが言った。
「え?俺?」
「始めの1人は、いつも比較的ペースが遅いの。だから集団になりやすい。普段から3台以上でのレースに慣れてるコウがいいと思うの」
「なるほど。アカリは工場周辺ではタイマンばっかりやってるし、峠も高速もタイマンだからな。他が良いなら、俺はトップバッターやらせてもらうよ」
 コウが言った事に、皆首を縦に振った。
「1時間走って、そこでタイヤ交換。2走目はどうするか」
ソウが訊ねる。
 「2人目になると、場合によっては集団がバラけます。バックマーカーも出てくる。速度域も上がってくるから、障害物を高速で避けるのは、普段からストリートを走ってるアカリが無難じゃ?」
 ユウが提案する。
「俺もそう思う」
「オッケー。まかせて」
 アカリも快く賛成した。
「3人目になると、もしかしたら先頭と差が出てる可能性もある。もちろんその逆も。冷静に、しかもダイナミックに走って周りを揺さぶれるソウ先輩が、最適だと思います」
 カイが的確に言った。
「そうだな。了解した」
「ありがとうございます。そして、スパートがかかってくる4人目は、センが良いと思う。走り方も丁寧だから、マシンへのダメージを最小限にラスト4時間に持ってきてくれると思う」
「了解。頑張る」
「そしてだ…」
 皆がカイとユウの方を見ながらため息まじりに呟く。
「ここまでは、ハッキリ言ってなんとなく決まってたんだよねぇ」
センが言う。
「ラスト2人は、どっちを割り当てるか。」
 コウが2人に呼びかけた。
「ラスト4時間は、一気にペースが上がる。まだ僕の方がマシンをいたわって走れる。一番オイシイ所は、ユウに使ってもらって、自分は5人目を走りたい」
 カイが言った。
「お前、それで良いの?」
「あぁ。攻める中でもいたわって走る。だから、ユウは全て使い切ってくれないか?」
「…分かった。任せてくれ。」

 ユウが首を縦に振った瞬間、走順が決まった。
 1走コウ、2走アカリ、3走ソウ、4走セン、5走カイ、6走ユウ。

 それぞれ覚悟を決めて、8時間の耐久レースに臨む。


 その後、着々とレースマシンの方も進められていった。アカリが世話になっていたショップのオーナーが、かなり援助してくれた。しかも、元ラリーストのオーナーは、足回りまで組んでくれた。

「マシンを今日見てきたけど、めちゃくちゃ良い感じだぜ。足回りを組んでくれたんだ。これから先は俺らで作って行こう」
 ショップから帰ってきたユウが言った。
「マシンは完璧だな。後は、僕ら次第だ」
 カイの声を合図に、全員が車に乗り込んだ。

  今夜も、ストリートレーサー達が目を覚まし出した。

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