お狐様と少女

猫田

9

─蜘蛛の街にて─


「…土蜘蛛様!」

一人の少年が土蜘蛛と呼ばれた男の前に片膝をつくと恭しく口を開く。

「報告……九尾の奴がここまで攻め込んできている様子です」

少年の橙の肩ほどの長さの髪を一本で結んでいる鈴の付いた紐がしゃらんと音を立てる。その報告を聞き、主の土蜘蛛は豪華なソファーに座り足を組むと、そちらを見ずにただ、

「ふぅん」

とだけ呟いた。左右にいる傍らの女妖怪にワインをつがせ、ゆっくりと飲み干す。小さく溜息をつき、左右の女妖怪の肩を抱き寄せる。女妖怪は土蜘蛛の胸に身を寄せた。

「それで?その九尾の奴は何匹?」

「一人です」

「そう。…下がって」

少年は無言で頭を深く下げると、その場から一瞬にして居なくなる。少年がいなくなったのを確認すると、土蜘蛛はふむ、と呟く。

「…しつこいな」

憎らしげに呟いたあと、とある人物の名を呼ぶ。

「…はい。お呼びでしょうか、土蜘蛛様」

ひゅん、とその場に現れると片膝をつく。

「計画通りにしたの?」

土蜘蛛は疑い深く相手をじっくりと見つめる。

「はい。土蜘蛛様の仰せのままに」

その人物は胸に手を当て、深く頭を下げる。─それは、蜘蛛の街では『忠誠を誓う』という意味が込められた動き。土蜘蛛はにこりと笑う。

「そう。──期待しているよ、お咲」

「─…お任せ下さい」


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


─蛍の背中に乗り、空を飛び続けて数時間。

「…ん?お、あれじゃないか?」

蛍が目線で示したのは、とても大きな街だった。少し下降して見下ろしてみると、きらびやかな建物が沢山並び、三角屋根の可愛らしい家が沢山たっていた。1番目を引いたのはそれはそれは大きな噴水。見下ろしている状態なのに、大きさがため息が出るほど伝わってくる。
私の蜘蛛の街の印象は、やはり”綺麗”と”可愛い”だった。九尾とは真逆だが、違った良さがある。

「1度下降するぞ。しっかりつかまっとけ」

そう言うと蛍はにぎやかな街の地に向け下降しだした。


─ストン─

「おら、着いたぞ。早く降りろ……って、おい、聞いてるか?」

蛍は大きな建物の影に着地し、私に早く降りるようによびかけるが、返事がない。蛍は背をかがめ、上手く地に私を下ろすと顔をのぞきこんだ。

「おい、どうしたんだよ。どっか打ったか?」

心配そうに聞いてくる蛍の問に私は答えた。

「き…気分が悪いの……酔った、かも…」

数時間もフクロウに乗って飛んだのは初めてだ。私は飛行機すら乗ったことがなく、まず”飛ぶ”ということ自体が初めての経験だった。蛍の上に乗った時だって、胸のドキドキとはじめての経験のワクワクが止まらなかったのだ。私はうまく力が入らず、そのままぐらりと視界が回る。”倒れる!”そう悟るのにあまり時間はかからなかった。

─パシッ─

「おい。しっかりしろ」

いつの間にやら人形(ひとがた)に変身していたのか、蛍がたくましい腕で私をしっかりと受け止めてくれていた。うまく足に力が入らない。くらくらする。頭が痛い。少しだけ吐き気も。

「──…チッ。あまり人前で姿をさらすと九尾の奴ってバレそうだしな……とりあえず、ここで休ませてやる」

その蛍の言葉を聞き、安心したのか私の意識はそこでプツリと途切れた。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


「──…さん、お嬢さん」

誰かの声がする。この声は…尾光じゃない。夜雲さんでもないし、蛍でもない。私の知っている声ではない。

「…あ!目が覚めた?」

目を開くと、目の前に可愛らしい男の子がたっていた。ふわふわのピンクの髪に、丸く青い大きな瞳。青をベースとした可愛らしいセーラー服を着ている。…ただし、下半身はスカートではなく膝くらいの短パンだった。そして私は辺りを見渡してみる。ピンクの雲のようなものがあちこちに浮いており、全体的にピンクのような場所だった。

《あなたは、誰なの?》

口が開けない。でも、私の声はきちんと男の子に届いているようで、男の子は

「僕?僕は”バク”!君に用があって、夢に入らせてもらいました!」

そう言い、無邪気に笑うと私の両手をきゅっと握る。

「あのねあのね!今から僕が言うこと、よく聞いてね!」

《…?─うん》

よく分からないが、何やら重大そうなのでよく聞いておくことにする。

「実はね──…」


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


「……!」

「─やっと目が覚めたか。お前…俺様がどれくらい待っていたと思ってる!」

はっと目が覚める。あれ、先程の夢は…?バクと名乗る男の子の言葉の続きが気になってしょうがない。
”実は”のあとの言葉が…!
…それと、もう一つ気になっていることが。

「ねぇ、蛍…」

「なんだよ」

「私の目が覚めるまでずっと…待っていてくれたの?」

先程の蛍の言葉の、『どのくらい待っていたと思ってる!』という言葉に私は少し驚いていた。
蛍が律義に私が目覚めるまでまっていてくれたとは。
私が何気なく聞いてみると、数秒蛍はフリーズし、後にだんだんと顔が赤くなっていく。

「は、はぁっ!?んなわけないだろ!」

そんな顔で否定されても…って、それより。

「あの。蛍…もしかして頭も撫でてくれていたの?」

「ハッ……!?ち、ちち違う!そんなことするわけが無い!」

本当だろうか。では、今私の頭に乗っている手はなんだろう。そう思いクスクス笑うと蛍はそっぽを向いてしまう。

「それと…──ずっとこうして、膝枕…してくれてたの?」

「!!!」

目線がなんだか上を向いているなと思っていたら、蛍が膝枕をしてくれているからだと先程理解した。蛍は優しいなとしみじみ感じていたら、蛍がわなわなと震えているのに気がついた。

「おっ……この俺様が!そんなベタなマネ、すっ、するわけないだろ!!」

そう言って顔を上げた蛍の顔はリンゴのように真っ赤だった。

「だいたい!こんな人間の女なんか誰が好き好んで…!」

そうは言っているが、頭に乗る手つきは優しく、今でも私を膝から下ろそうとしないのを見て、口は悪いけど本当に優しいなと思い、お礼に頭を撫でてあげた。

「…ありがとう、蛍」

「──!!……蛍様だッ」

そう言うと私を起こし、蛍は私に背を向けてしまった。


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「ターゲット発見」

お咲は建物の陰に隠れ、ターゲットに狙いをつける。手のひらから青白い魂のようなものを出現させた。その魂は、尾光を眠らせた奇蜘蛛の魂。その魂を宿らせたい相手に憑かせることで、奇蜘蛛は相手の心臓部分に侵食し、やがてじわじわと蜘蛛の巣を張っていくのだ。

「攻撃を開始する」

お咲の視線の先。それは──


─ヒュンッ─


お咲が手のひらの奇蜘蛛の魂をターゲットに憑かせようと、息を吹きかけ飛ばそうとしたが、その魂は何者かによって消されてしまった。

「──ッ!?」

ばっとその場から距離を置くお咲。

「…何者だ」

静かに問うが、お咲の数メートル先にいる相手は答えない。ただ、その場に佇んでいるだけだ。

「困るんだ。そんな事をされては、な…」

そう意味深に呟いた相手はにやりと笑う。お咲は目を大きく見開いた。

「な、なぜ…あなたが…」

驚きと焦りで、体が動かない。相手はお咲に向かってすっと手を向けると、

「──……燃え死ね」

そう呟く。すると、お咲の体からものすごい勢いで炎が吹き出す。お咲は断末魔のような悲鳴をあげた。

「ヴッ…アァァ…っ…ああああああああぁぁぁ!!!」

その炎はお咲の魔力や実力では消しきれない。それほど強い魔力の炎だった。やがてお咲の足や手を燃やしていく。立っていられなくなり、お咲は膝から地面に崩れ落ちた。

「…」

相手はその様子をじっと見つめていた。
─冷たく、蔑んだ目付きで。
やがてお咲は”お咲では無くなっていた”。その謎の人物は”お咲だったもの”をぐりぐりと足で踏み潰す。

「やれやれ…にしても、”奇蜘蛛の親”がこんなにも簡単に潰せるとはな。少し期待していたのだが…」

そう言って、しゃがみ込むとお咲だったものにふっと息を吹きかける。すると、粉と化していたモノはさらさらと風に流されていった。
そしてふと、お咲がターゲットとして見つめていた相手を見つめる。

「お咲。もう聞こえていないとは思うが……アイツには手を出さない方がいいぞ」

そう呟き、その場を静かに去った。




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【更新のお知らせ】

12月5日   18時7分
謎の人物がお咲に接触するシーンを変更しました。

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