勇者に惚れた元魔王が嫁になるそうです

c3zoo

名物?料理と浴衣

荷物をおいて(重要なものは収納の指輪に入れているから少ないが)城下町に出る。
『狐之杜』では朝と夜はご飯が出るが、昼は出ないのでどこかで食べることになった。

「ルヴィア何か食べてみたい物あった?」
「そうじゃのぅ...お、アレはなんじゃ」

そう言って指差したのは『お好み焼き』と書かれた暖簾だった。
お好み焼きは食べたことがなかったな。
ちょうど昼どきだったので、少し並んだが無事に入ることができた。

「鉄板料理なんだな」

店内に入ると大きな鉄板が各机に置かれていた。
鉄板の上には丸いものが、食欲が増す良い匂いを放っていた。

「お客様は何名ですか?」
「二人です」
「二名様ご案内~」
「「「らっしゃいませ!」」」

カウンターに案内された。
どうやら目の前で焼いてくれるみたいだ。
メニューには『そば』『うどん』『シングル』『ダブル』の文字だけだった。
なにこれ、メニュー少なっ!

「あの、これは?」
「うちはそばかうどんしかないんでな、どっちか選んでくれ」
「じゃあ、そばで。ルヴィアはどっちにする?」
「ふむ、なら・・うどんじゃ」
「シングルにしますか?それともダブルですか?」

シングル?ダブル?なにそれ?
目をパチパチさせていると、店員が説明をしてくれた。

「えーとそばとうどんの数ですよ。シングルが一つでダブルが二つです」
「んーじゃダブルで」
「我はシングルじゃ」
「そばダブル、うどんはいりまーす」
「「「了解しやしたー」」」

すると、鉄板の上に白い液体を円状に流していく。
焦げ目がついた頃に、丼一杯のもやしとキャベツの千切りをのせた。
更にうえから天かすといか天をのせ、ふたをするように豚肉を広げて乗せた。
キャベツがしんなりすると、最初の白い液体を少しかけヘラで引っくり返した!
中の具が周りに飛び出ることなく、綺麗に引っくり返されたので思わず拍手してしまった...店員はヘラでポーズをとっていた。
横で焼かれていた焼きそばの上に乗せ形を整え、隣で卵を丸く広げて固まらない内に上に乗せまた引っくり返した。
キラキラと光っている卵の上から、ドロッとした黒い液体をかけ、青海苔とマヨネーズ、削り節をかけて完成かな?

「そばダブルお待ちどうさま!」
「うどんシングルも焼きあがったぜ!」

鉄板の上を流れるようにして目の前にやってきた。
良い匂いが鼻腔を刺激して、自然と涎があふれてくる。
フォークが見当たらないのでキョロキョロしていると『ここじゃヘラで食べるんだよ』と言われた。
言われたとおりヘラを使って、小さく切り分けて口に運ぶ。
鉄板で熱せられて、熱々になったお好み焼きが口の中を焼いていく。

「「あっつ!あっっつい!」」

二人同時に水を飲む。鉄板で食べるのだから熱いのは当たり前だ。
今度はフーフーと息を吹き、冷ましてから食べる。

「美味い!」
「おいしいのじゃ!」

そばとキャベツ、もやしのボリュームが凄い。見た目以上にあるな、押しつぶされているんだ。
上にかかっている黒い液体もヘラを進める速度をあげている。

「すみません、この上にかかってる黒いのってなんですか?」
「これはソースってものです。この店で使ってるのは、お好み焼き用に創った『お好みソース』なんですけどね」
「『お好みソース』...旦那様よ作れぬか?」

ルヴィアよ、ほっぺにソースを付けて上目使いでお願いしても無理です。
ソースを作れるほど料理は出来ません、精々お酒をブレンドするぐらいです。

「ソースなら売ってるのがあるよ」
「買ってもいいかの?」
「もちろん」
「会計のときにお渡ししますね」

それからは黙々とお好み焼きを食べ進めた。
途中ルヴィアが『旦那様、そばも食べてみたいのじゃ』と言ってきたのであーんした。
周りの客が、戦場かと思うレベルの殺気を放ってきてびっくりした。
その後『旦那様、うどんも食べてみるのじゃ』とヘラを差し出されたので、恥ずかしかった。
もちろん、アーンで食べたが周りの客が泣き崩れたり、額を鉄板に押し付けるヤバイ奴が出てきた。

「旦那様、ほっぺにソースがついてるのじゃ」
「え、どこ?」
「そっちじゃ、もっと上じゃ」
「どう?取れた?」
「取れておらんのぅ、我が拭いてやるから目を瞑っておるが良い」

言われたとおりに目を瞑る。
あれ?ソースを拭くだけなのに目閉じる必要ないんじゃ...

そう思ったときには、唇に甘いソースの味がするものが押し付けられていた。
目を開くとルヴィアが目の前にいた、目の前でも唇が触れ合っているぐらい近いのだが。
一瞬の出来事が体感だと、永遠のように感じられた。

「る、ルヴィア、何を」
「ふふっ、ちょっとした悪戯じゃ」

ちょっとどころじゃない、周りを見るんだルヴィアよ。
今までヘラで食べてた周りの客が、急にナイフで食べ始めたからね。
目とかもギラギラと輝きだしてるから。

「こういうのは嫌じゃったかの?」
「....嫌じゃないけど、その、場所を考えようか?」

.....殺気が増した王国の騎士よりも良い殺気を放ってるな。
そこらへんのモンスターなら蹴散らせるだろう。
いかん、殺気が強すぎて現実逃避をしてしまった、危ない危ない。

「そろそろ鉄板が、ナイフで切れそうなんでお会計いいですか?」
「あ、はいお願いします」

助かった、銀貨二枚と銅貨三枚を渡して店を出た。
ソースもちゃんと貰っている。

店を出て街を歩く。
ヒノモトでは着物や浴衣、甚平といった、和服と呼ばれる特殊な服がある。
今は祭りの期間なので、浴衣を着ている人が多い。
なので、ルヴィアに着てもらうためにある《・・》店に向かう。

「旦那様、この店はなんじゃ?」
「百聞は一見にしかずってね」
「いらっしゃいませ~」

店には色とりどりの着物がかけられていた。
この店は『ヒノモト』。浴衣や着物、甚平を取り扱っている店だ。
店員も全員が着物を着ていて、オーニオの店よりも華やかに見えた。

「着付けお願いできますか?」
「レンタルですか?買取りですか?」
「買取りです」
「分かりました、私どもにお任せください」

ルヴィアが奥の部屋で着付けをしている間に、店に置いてあった祭りのパンフレットを読む。
花火のルーツや、今回はどこの玉屋が作ったかが書いてあった。

花火は昔からあったが、元々は飛行型魔獣を街に寄せ付けないためのものだった。
だが平和になってからは観光が出来るようになり、花火を観光向けに改良したそうだ。
その花火や和服が商人達にハマり、有数の観光地になった。

「旦那様、どうじゃ?」

店員に連れられて出てきたルヴィアが輝いて見えた。
最初に会ったときに着ていたワンピースと同じ、白地の浴衣に蝶と花があしらわれた浴衣だった。
店員によると、浴衣の模様には意味があるそうだ。

蝶の模様には、蛹から蝶に羽化する様子から「復活、変化」「不老不死」を。
恋愛面では「ずっと続く」と願いがこめられている。
花はヒノモトの近くに咲く撫子という花で、「優雅、美しさ、笑顔」の意味があるそうだ。

「どうじゃ可愛かろう?」
「うん、とっても可愛いよ」
「浴衣は奥様がお選びになられましたよ」

丈も袖もぴったりで、色も意味もルヴィアに合っている。
まるでルヴィアに合わせて仕立てたかの様な浴衣だ。

「永続状態をつけているので、汚れを気にせずに着用できます」
「ありがとうございます。それで、いくらぐらいですかね?」
「下駄や帯、髪飾りも含めて金貨十七枚と銀貨八枚です」
「んじゃこれでお願いします」

ちょうど支払って、更に可愛くなったルヴィアを連れて店を出た。
カランコロンと澄んだ音を響かせて、手を繋いで歩く。
祭りは夜からが本番だ。

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