勇者に惚れた元魔王が嫁になるそうです

c3zoo

次の街へ

 暖かな朝日にが差し込み明るく室内を照らす。今日は次の街に行くため、早くこの街を出なくてはいけない。
 荷物は昨日のうちに準備してあるから問題はないが、荷馬車を借りる必要があるので、朝早くに馬車屋に行く必要があったが、
どうやら寝坊してしまったようだ。

「ルヴィア、起きて、ルヴィア朝だよ」
「ぅん~おはようじゃ旦那様。今日も良い天気じゃな」
「おはようルヴィア。早速で悪いんだけど出発する準備をしてね」
「ん~わかったぞ」

 まだ眠たそうなルヴィアを横目に自分の身支度をする、といっても顔を洗い髪を整え、服を着るだけなんだけどね。
 自分の準備が終わったので、ベッドの縁に座って眠そうに欠伸をしているルヴィアの準備を手伝うことにする。
 朝日を浴びて輝く紫紺の髪を梳いていく。上質の絹のような手触りの髪はずっと触っていたくなる。
 ルヴィアは鼻歌を歌いながら足をパタパタとさせていてとても可愛い。
 
「本当ならもっと時間をかけたいけど、今は急がないといけないから手早く済ますよ」
「旦那様に髪を梳いてもらうのはとても気持ちがいいのぅ、今度ゆっくり梳いてもらうから気にせんでよいのじゃ」
「ありがとうルヴィア」
「礼を言われる覚えはないのじゃ」

 収納の指輪に櫛を収め、ルヴィアの瞳の色と同じ真紅のリボンを取り出す。
 櫛やリボンなど生活に必要な物は昨日のうちに買ってある。
 髪を頭の横で一つに纏めリボンで結ぶ。リボンや櫛を買った店の店員さんが教えてくれた髪型だ。

「初めてにしてはいささか髪の扱いに慣れておるのぅ」
「パーティーのなかに回復魔法が得意な女の子がいたでしょ、彼女の髪を何回か結んだことがあるんだよ」
「我以外にも髪を結んだ奴おったのか、この髪型はその女と同じなのか? 」
「違うよ、この髪型は昨日のお店の店員さんが教えてくれたんだよ」
「なら今すぐにその女と同じ髪型にするのじゃ、我は独占欲が強いからのぅ。その女との記憶を我で上書きしてやるのじゃ」
「わかったよ、でも彼女と同じにしてもルヴィアの方が何倍も可愛いのは揺るがないよ」

 一度束ねた髪を解き、一本の大きな三つ編みにする。顔の左側から胸にかけて流れるように整えて完成だ。

「できたよ、この髪型が彼女にしたのと同じだよ」
「満足なのじゃ、この髪型で旦那様の心におるその女との記憶を今日だけで上書きしてやるのじゃ」

 結び終わった時の弾ける様な笑顔だけで結構上書きされたのだが、口にしない方がいいだろう。
 身支度も終わり荷物を持って女将さんのところに行く。
 今日が最後の日だと伝える為だ。

「女将さん今いいですか? 」
「大丈夫だよ、急にどうしたんだい? 」
「今日中に次の街に行くことにしたので最後の挨拶にと思って」
「そうかい、この時期だとヒノモトかい? 」
「はい、ルヴィアにヒノモトの祭りを見せてあげたいんです」
「なら、ヒノモトにある『狐之社』って宿をしってるかい? 」

 『狐之杜』か、確かあそこは狐人が経営している高級宿だったような

「もしかして二条の城の近くにある宿のことですか? 」
「なんだい、知ってたのかい。あそこに泊まっときな。ほら、この札を向こうの女将に見せるといい」

 そういって女将が取り出したのは手のひらサイズの木でできた札だった。右端に何か文字らしき物が書かれているが読めない。

「そいつがあれば向こうだと色々動きやすくなるよ」
「女将さん、ありがとうございます」
「ありがとうなのじゃ」
「別にいいよ、それはあんた達の結婚式のときに返して貰おうかしらね」
「わかりました、それまで大切に持っておきます」
「旦那様よ、結婚式はいつなのじゃ」
「まだ準備が終わってないからまだしないよ」

 そのまま部屋を引き払い(部屋代はもちろん払った)荷馬車を借りるため馬車屋のところへ向かう。
 
「この時間だと荷馬車はもう無いかもしれないな」
「大丈夫なのか? 」
「最悪ロバ車があれば大丈夫だけど......」

 馬車屋に着いたがやはり人が少ない、これはもうロバ車しかないかな......

「すみませーん、まだ馬車ってありますか? 」
「なんだぁ客か、すまんな。今は暴れ馬と呪いの馬車しかねーぞ」
「暴れ馬に呪いの馬車ですか......それでもいいので見せてください」
「あんちゃん頭大丈夫か」

 頭の心配をしてきたおっちゃんと、最初に店の裏の車庫に行く。中には所狭しといった風に馬車が並んでいる。

「これなんだがな......」

 おっちゃんが指差したのはなんの変哲もない荷馬車だ、しかし禍々しい雰囲気オーラを纏っている......

「この馬車にかかってる呪いって、もしかして『魔力喰い』の呪いですか? 」
「よくわかったな、そうだぜ『魔力喰い』の呪いだ。あんちゃんは魔法使いか? 」
「いえ違いますが......」
「ならこの馬車はやめときな。魔力がないと生命力を喰われて死ぬぞ」

 馬車には呪いがかかっていたがこの程度の呪いなら呪い除けのアイテムを山ほど持っているので問題ではない。
 ただ、『魔力喰い』と別にかかっている呪いのほうが面倒だ。
 『リア充は爆発しろ』この訳のわからない呪いの方が呪い除けのアイテムでも解呪できる気がしない。
 しかもこの呪いはある条件に当てはまる者にしか見えないらしい。いったいなんだ?
 悩んでいるとルヴィアがちょいちょいとズボンを引っ張ってきた。
 耳を貸せってことかな?

「旦那様よ、この馬車にするのじゃ」
「え、でも大丈夫? 」
「そうだぜ、俺も自分が売った馬車で死人が出るのなんてゴメンだぜ」
「それは大丈夫じゃ、我が解呪できるのじゃ」
「アイテムでも解呪できそうにないのがあるけどそれも? 」
「問題ないのじゃ」

 ルヴィアが大丈夫って言うぐらいだし本当に大丈夫なんだろう。
最初は馬車を借りる予定だったけど買った方が良いかもしれないな。
幌に付いてた値札をちらっと見たけど他の馬車よりも安い。呪いが掛かってるせいだろうか?

「じゃあ、おっちゃんこの馬車ください」
「おいおい正気かよ、ロバ車にしとくか明日借りに来たほうが良いぜ」
「我が解呪するから問題ないのじゃ」
「この嬢ちゃんがか、嘘だろ」
「我の力をみるのじゃ」

 収納の指輪から魔王の時のルヴィアが使っていた杖を取り出して渡す。
 ルヴィアは杖を手に取ると解呪の呪文を紡ぎだす。

『我は魔を統べる王なり、呪いの理は砕け散り、我らが為に仕えよ』
『デスペル』

 ルヴィアさんや、もう魔王じゃないのに『魔を統べる王』って言っちゃだめでしょう。
 
「ほれ、ちゃんと解呪できたじゃろう」
「嬢ちゃんすげーな、こんなにちっせーのにもう魔法が使えるのか」
「小さいは余計じゃ」

 ルヴィアの解呪で二つあった呪いは解けた。意味が分からなかった『リア充爆発しろ』も問題なく解けている。

「んじゃ次は暴れ馬だな、嬢ちゃんなら多分馬も落ち着かせれるだろう」
「ルヴィア、できそう? 」
「わからぬ相性次第じゃな」

 車庫からほど近い場所に馬小屋があった。近くに来ても暴れているような音は聞こえてこない。

「こいつが問題の馬だ、普段はおとなしいんだが馬車を引かせようとしたら暴れやがるんだ」
「そうなんですか、過去に何かあったとか? 」
「いや、特にはなかったはずなんだが」
「この馬はあれじゃ、最初にあの呪いの馬車を引かされたからトラウマになってるようじゃ」
「あー確かに最初に引いたかもしれんな」

 『魔力喰い』は魔力がないと生命力を喰われるから確かにトラウマになるな。

「トラウマなら克服しないとだめじゃのぅ」
「克服ってもう一度馬車に繋ぐの? 」
「そうじゃな、それしかないじゃろう」
「んじゃ準備するから待ってろ」

 そう言うとおっちゃんは馬車を中庭らしき場所に運んで、馬を外に出した。

「ほら、もう大丈夫だぞ~この馬車は安全な馬車になったからな~」

 おっちゃんが猫なで声で馬に話かけながら馬を馬車の元へと誘導しており、馬は怯えながらだが一歩ずつ前へ進んでいる。
 だがあと一歩のところで止まってしまった。この一歩を踏み出せればトラウマは克服できるはずなんだが......

「我に任せてみるのじゃ」

 そう言うとルヴィアは馬の隣に立ち声をかけだした。

「お主もあの馬車が安全だということは分かっておるのじゃろぅ、なに安心するのじゃお主をこれ以上痛めつけようなんて思って
はおらぬ。ただお主の心に刺さっておるトゲを抜く手助けをしたいのじゃ」

 優しく声をかけながら馬の首元を撫でて安心させようとしてる姿はまるで聖母のように見えた。
 そのおかげか馬は最後の一歩を踏み出せた。馬車にはおっちゃんが繋いだ。

「そうじゃ、なにも怖くなかったじゃろう。いい子じゃな」
「これでトラウマは克服できたんだね」
「嬢ちゃんありがとよ、こいつはな次に馬車を引けなかったら殺されるとこだったんだ」
「そんな事情が.......でもこれで殺されずに済みますね」
「こやつはもう大丈夫なのじゃ」
「おう、本当にありがとな。なにかお礼をしたいんだが......そうだ! 」

 おっちゃんは数秒悩んだ後にポンと手を叩いた。何か思いついたらしい。

「なぁ、あんちゃん達はどこまで旅するんだ? 」
「えっと、ヒノモトとか他にも色々なところを回ろうと思ってます」
「あんちゃんどうせ馬車を買う予定だったんだろ? 」
「え、ええ、まぁそうですが」
「ならちょうどいい、最近な新しい発明があってなサスペンションってもんなんだがな、これがまたスゲーんだよ」

 おっちゃんはそれから十分間サスペンションについて語った。
 なんでも馬が全力で走っても中に衝撃が伝わらないとか、悪路を走っても従来の馬車よりも格段に乗り心地が良いらしい。
 なんかサスペンションの仕組みまで話そうとしてきたので本題に戻ってもらった。

「わりぃわりぃ、ちょっと熱くなっちまったな」
「いえ、それでサスペンションをどうするんですか? 」
「ああウチにも何本かサスペンションがあってな、それを元呪いの馬車につけさせてもらおう。もちろん代金はいらねぇ」
「いいんですか? 最近発明されたそうですから高いと思うんですが」
「お礼だからいいんだよ、受け取ってくれ」
「では、ありがたくいただきます」 
「ありがとうじゃ」

 そう言うとおっちゃんは満足そうに笑っていた。

「んじゃちょっと待っててくれ、すぐに取り掛かる」

 おっちゃんは足早に店舗に引っ込むと、鉄製のぐるぐるしたなにかを四本小脇に抱えて戻ってきた。
 恐らくあれがサスペンションなんだと思う。四本ということは車輪の本数分かな?
 それから三十分ほどでサスペンションの取り付けは終わった、他の店員さんも総動員で作業してたのですぐに終わったのだ。
 その間ルヴィアは馬と遊んでいてその光景は時間を忘れてしまうほどだった。

「よし、これでいいだろう」
「本当にありがとうございます」
「のぅ旦那様よそろそろ昼時なんじゃが......」
「あ、そ、そうだね......おっちゃんそろそろ行くね」
「おう、今の時期にヒノモトに行くってことは祭りを見に行くんだな」
「ええルヴィアに見せてあげたいんですよ」

 するとおっちゃんが急に首をかしげて何か考えているような顔になった。なにかあったのだろうか。

「なぁ嬢ちゃんいまあんちゃんのこと『旦那様』って呼んだか? 」
「そうじゃが......どうかしたかのぅ」
「あ、あーもしかしてあんちゃんって貴族か! そうだよな! 」
「なにを言っておるのじゃ、旦那様は貴族ではないぞ」
「え、えーとルヴィアは、その、こ、婚約者です」
「よし、あんちゃん牢屋に入ろうか」

 女将さんより酷い! 確かに他の人が、見た目子供なルヴィアが婚約者って言ったら自分もそんな反応すると思うけどさー
 早くルヴィアに大きくなってもらいたい。きっとルヴィアなら綺麗な人になるだろうからね。

「旦那様を悪く言うでない、我は五年前から旦那様のことを好いておったのじゃ。別にいいであろう」
「あんちゃんどこまでヤったんだ」
「い、いや、その」
「旦那様とのキスはとても心地よいものじゃぞ、一緒に寝るのも好きじゃがのぅ」
「............ロリコン」

 何かが砕ける音がした、今まではっきりと言われてないから余計に心に響いた言葉だった。

「いいんだよ、ルヴィアが可愛いから何でも許されるんだよ! ルヴィアがちっさくて何が悪いんだよ! 」
「旦那様が壊れたのぅ、まぁいつかはこうなるう運命じゃったし、しょうがないかのぅ」
「わ、わりぃあんちゃん言いすぎたな」
「別にいいですよ、ルヴィアはまだ成長しますしね」
「何を言っておるのじゃ旦那様、我はこれ以上成長せんぞ」
「......え、ほ、ほんとに? 」
「うむ、だってこの身体は旦那様の想いが形になったものじゃしのぅ」

 聞きたくない事実だった。それじゃ一生ロリコン扱い決定じゃないか............

「落ち込んでる暇はないのじゃ、早く馬車に乗るのじゃ」
「あんちゃん荷台に干草をつめた木箱を積んであるからな他の荷物と混じらんようにしろよ」
「あ、ありがとうございます。それと馬車代っていくらですかね? 」
「ん? あぁ、全部合わせて銀貨五枚だな」
「それじゃあ安くないですか? 」
「んにゃ、元々呪いが付いてたから馬車は他よりもずっと安かったし、何より馬も助けてくれたからな。」
「わかりました、では銀貨五枚ですね」
「おぅ、あんちゃん達の結婚式楽しみにしてるぜ」
「ええ、楽しみにしていてください」

 そう言って握手を交わし馬車に乗る。御者台にはルヴィアが座っていた操縦できるのかと聞いたら座っただけだらしい。
 ルヴィアの隣に座り手綱を握る目指すは祭りの街ヒノモトだ!
 

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