勇者に惚れた元魔王が嫁になるそうです

c3zoo

過去

「のうアレクよ、お主はあの後どうなったのじゃ」

 わたあめを片手にルヴィアは死んだ後のことを聞いてきた。

「あーっとそんなに聞きたいか? 」
「言いたくないならそれでいいのじゃが、気になってな」

 あの戦いから5年の間にあった事は誰にも話す予定は無かったし、話すつもりも無かった。だけどルヴィアになら話せそうな気がした。

「いいよ、少し長くなるからどこか店に入ってから話すよ」

 それから少し歩いた所にあるカフェに入った。珈琲を2人分頼み、なるべく人がいない奥の席に座った。話しを聞かれないように念のため収納の指輪から出した遮音の効果があるマジックアイテムを取り出す。

「それじゃ話そうか、まず戦いの後からだね」


 魔王ルヴィアを倒した後、魔王が最後まで握っていた赤い宝玉の嵌った杖を持ち自らを勇者に育てた王国に帰ろうとした。
 しかし彼はふと思ってしまった。もし、このまま王国に帰ったところで何ができる。魔王を倒した勇者として祭り上げられ、政治の道具として使われて、一生を終えるのだろうと。そんな人生は嫌だ。
 魔王を倒した事で救った世界を見たいし、なによりだた外の世界を見たいと願っていた魔王に見せたかった。


 そうして彼は決めた。共に戦った仲間に会う事も無くひっそりとその場を後にした。

 それから彼は近くの街に立ち寄った。彼は勇者の時は頭まで覆う全身鎧を着用していたため、勇者とばれる事は無く街に入れた。

 その街は魔王城の近くという事もあり度々たびたび襲撃を受けていた。しかし、ぱったりと襲撃がなくなった事で少しだけだが活気を取り戻している。


 街に来てから2ヶ月が過ぎた。ついに王国から使者がきた。俺のことがばれたのかと思ったがどうやら違うようだ。使者は街の広場に来ると「魔王は死んだぞ!世界は勇者様が救ったんだ!勇者様バンザーイ! 」と叫んだ。

 数秒の間が空いた後、街が喝采に飲まれた。抱きあって涙を流す者、両手を突き上げて喜びを表す者、酒を掛け合う者、それぞれが喜んでいた。

 しかし彼はそっと部屋の窓を閉め、荷作りを始めた。明日の早朝この街を出るために。

「しかし、勇者様はご自身の命と引き換えにこの世界をお救いになられたのだ。勇者様に御冥福を捧げよう! 」

 その言葉を聞いた街の人々は膝をついて涙を流した。


 次の日の早朝、彼は街を出て街道を歩いていた。その背に街の喝采を受けながら。

 それから4年と半年、世界各地を転々としながらこの街に着いてルヴィアと出会った。


「こんな感じかな、4年間は色んな街を見て回ったよ」
「そうか、でも自分が死んだ事になってよかったのか? 」

 アレクは少し考える素振りをして口を開いた。

「うん、これで良かったんだよ。俺が生きていたら今頃は人形みたいになってただろうからね」

 勇者時代にはつらい事の方が沢山あった、魔王軍の中にもいい奴はいた。立場が違えば親友と言える中になったであろう奴もいた、けどその全てを敵というだけで切り捨てた。

 世界の為と心を殺して生きてきた、そのせいか自分を育てるだけ育てて何もせずに自分に丸投げした貴族達に忠誠心なんてものは無かった。

「アレクが良いと言うなら良いのだろうが、なんか複雑な気分じゃな」
「これで良かったんだよ、ルヴィアが心配しなくて良いんだよ」

 重くなってしまった空気を払うように珈琲を飲み干し立ち上がる。

「ルヴィア、まだ見せたい所が沢山あるんだ。世界はとても広いんだから早くしないと見れなくなっちゃうよ」

 ルヴィアの手をとり立ち上がらせると、両手を広げて世界がどれだけ広いかを表す。

「ふっ、ふふ、なら急がねばならないな。もちろん世界の隅々まで見に行くぞ! アレクよ案内するのだ、我よりも先に見て来たのだろう? 」
「あぁ、任せてくれよ世界はこんなに広いんだって言わせてやるよ」

 アレクはルヴィアの手を握り外に出た。その顔はどこか憑き物が落ちたように晴はれ晴ばれとしていた。

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