朝起きたら女の子になってた。
紗香の過去1
紗香がいつもの紗香じゃない。
それに気付いたのは私のことをお姉さんと呼んだ時だ。それに何だか中身が幼い。これはもう間違いなく幼稚園とか低学年の頃の紗香だ。遊んであげてたから何となく分かる。だからこそ、聞いてみたいことがあった。
「紗香、お兄ちゃんってどんな人なの?」
自分が一番分かっているが、幼い紗香に聞いてみたくなった。だが、紗香は私の手をぎゅっと握って今にも泣き出しそうな表情になった。
「うぅ……」
「え……」
そんな表情をされたら流石に聞き出そうという気持ちは無くなる。
「や、やっぱり聞くのは止めとく」
「うん……」
なんか空気が悪くなった……。
私の話題を聞こうとすることにこんな悲しそうな表情をされるとは想定外だ。ちょっと悲しい。
********
それからお互い無言のまま、遊園地の中を歩いていると、紗香がとある乗り物に目を向けた。私もその乗り物に目をやると懐かしい動物が目に入った。
「乗る?」
「恥ずかしいからいい……」
その動物と言う名のパンダカーを拒んだ紗香。だが、少し経つと再びパンダカーに視線をチラチラと向けた。
まぁ、中身がアレだからな……。ここは私が恥をかくとしよう。
「あれ乗りたいな~」
大袈裟に言ってみると、紗香はビクッと震えた。そして、次第に仕方ないと言わんばかりのオーラを出して、私の手を引っ張ってパンダカーの方に連れて行く。近くで見ると長年使われていることが分かり、毛並みが黄ばんでいる。このパンダカーで一体いくら稼いだのか気になるくらいだ。
一回200円……。女性の服より遥かに安いな……。自分のお金で買ったことないけど。
私は財布からお金を取り出すと、紗香を先に座らせて後ろから私が乗る。
「はい」
「ありがとう!」
200円を渡しただけでも紗香はとっても喜んだ。嬉々としてパンダカーにお金を入れて赤いボタンを押す。すると、のそのそとパンダカーは動き出した。
「ふふ、遅い遅~い! あははは」
バンバンと足でパンダカーの横腹を蹴る。乗り物とは言え、痛そうだ。
それからというもののグルグルとハンドルを回してジグザグ走行したり、メリーゴーランドを一周する。そんな一部始終を後ろから見ている私はというと……。
「あぁ……懐かしいなぁ……うぅ……」
人に見られている恥ずかしさと、純粋な心で楽しんでいる紗香を見て、懐かしさを感じるという二重の思いに駆られていた。
********
「あぁ~楽しかったぁ」
「そうだね……」
パンダカーに乗った後だというのに、私の腕の中にはたくさんのお菓子が詰められている袋、お菓子袋があった。このお菓子袋は当然、買ってなどいない。そう、貰ったのだ。とっても納得できない理由で。
なんでも、周りからは恥ずかしがり屋な妹ーー私に気を使って、姉ーー紗香がテンションを上げて恥ずかしさを紛らわせようとしている様に見えていたらしい。らしいと言ってもコソコソと聞こえてたから確実なのだが……。まぁ、周囲にいた人はその応援をしたかったらしく、その気持ちがお菓子となって現れた。
「いっぱいお菓子もらったね」
「あげるよ……」
「もらう!」
私から袋ごと回収すると、ごそごそと袋の中身を漁り始めた。その姿を見ていると、遠い昔に見た幼い頃の紗香を思い出した。
その頃の私は生意気なお姉ちゃんのお節介のストレス解消の捌け口を探していた気がする。その訳もあり、小さくて可愛い紗香をたくさん甘やかしていたのを覚えている。そのおかげもあってか、何をするにしても私の側にいるようになった。お風呂に入ってる時も寝る時も所構わず、紗香の方からやってきて『お兄ちゃん好き!』と抱きついて言ってくるのだ。その時の私の表情は凄いニヤけていたと思う。
そして、一番記憶に残っているのは幼稚園の運動会だ。種目は借り物競走で紗香はお題として『好きな人』と書かれた紙を見て周囲を見回していた。それを偶然、隣でお題を見ていた男の子がいて期待する目を向けていたのを覚えている。多分、あの子は紗香のことが気になっていたのだろう。真相はどうか知らないけど。
それでその時は確か、私と目が合うと『好きな人』と書かれている紙を広げて、一直線に駆け寄ってきたのを覚えている。でも、父さんが私の目の前にいたから、勘違いして腕を広げて迎え入れる準備をしていた。だけど、それを躱して私の手を引っ張って走らされた記憶がある。その時の父さんの顔は忘れられずにいる。
「あぁ、懐かしい……」
「ふふっ」
私の反応を見て紗香が微笑んだ。
「何かおかしい?」
「違うの。反応がお兄ちゃんみたいだなって思ったの。そんな訳ないのにね……」
「あ、当たり前だよ」
まさか、正解を当てられるとは思っておらず声が裏返りそうになった。でも、気になる。私の話になると悲しそうな表情をすることに。
だけど、その回答はすぐに本人から知らされることになった。
「お兄ちゃんはね、絶賛引きこもり中なの……」
「そうなんだ……」
それを聞いて私は納得してしまった。この引きこもり生活は私の黒歴史の一つだから。
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