朝起きたら女の子になってた。
好きと言う気持ち
「うぐぐぐ……」
「やりすぎました。反省しています」
棒読みで言ってくる花凛にちょっとむかっときた。
「可愛いですよ」
「ありがとうございました」
魔王様とか言われた後は、黒のロングワンピースを試着させれた。その間に花凛がワンピース代を払ってしまったので、このワンピースを着るしか選択肢がなくなってしまった。
濡れてしまっていたシャツとスカートは紙袋に入れて、ロングカーディガンは薄めだったので乾きが早かったから、そのまま着用した。
「怒ってますね」
「怒ってるんだよ!過去の産物を弄りやがって」
「まぁ、奢ってあげましたのでチャラですね」
「酷い人だ!」
「あ、沙雪さん、そのワンピース、私とお揃いですね」
「ちゃっかり同じの買って着てるし……」
私はぷんぷん怒りながら洋服店を出て、先を歩いて行くと花凛が手を握ってきた。
「え?」
「迷子になりますから」
「……」
私は腕を捻じ曲げて花凛の手を離すと、無言で歩きだす。
が、しつこく花凛は手を繋いでくる。
「なんでしょうか?」
「手を繋ぎたいです……」
「う、うん……」
おかしい……。
あの時から、花凛に助けられた時から何かがおかしい……。
花凛の本心?からの言葉を聞いてしまった私は何だか恥ずかしい思いを抱いた。先程まで嫌なことをされていた筈なのに花凛だからと思うと許せてしまう。
「次はどこに行きましょうか?水族館に戻る気もないですし、どこかで遊びたいですね……って、沙雪さん?」
「……お試しだから違う」
「何が違うのですか?」
「あ、いや、なんでもないよ」
「それでですね。これから……」
「ゲームセンターに行こう。うん、そうしよう」
「あ、沙雪さん、待ってください!」
花凛の手を離していそいそと先を急ぐ。
手を握っていたのはほんの数十秒の間なのに恥ずかしさで一杯一杯だった。私は早鐘を打つ心臓を無視する。無視したい。
だけど……。
なんなのこれ……?
無視しているのに早く脈を打つ心臓がうるさい。花凛を直接見ることができない……。
私は初めて感じるこの気持ちに名前を付けられないでいた。
********
「おりゃぁぁぁぁ!」
「やぁぁぁぁぁぁ!」
ドンドンと何かを叩く音が鳴り響く。
「はぁはぁ……てりゃぁぁぁぁぁ!」
最後の一撃とばかりに大振りをかまして、パンチングマシーンをぶん殴った。
「はぁ、すっきりした」
「沙雪さん……そんなにストレス溜まってたのですか?」
「そういうことになるな」
そこで改めて花凛を見るが、先程のような気持ちにはならなかった。どうやら、治ったみたいだ。因みに力が弱かった為か1戦目のステージでゲームオーバーだった。
その為、殴ってはお金を入れ、殴ってはお金を入れ……と無駄遣いをしてしまったが、問題ない。
「あ、懐かしいです。このアニメキャラ」
パタパタと手で仰いで椅子に座り、涼んでいる間に花凛が一人でフィギュアの景品が設置してあるUFOキャッチャーの方に向かっていった。
「最近は続編のアニメが多いからなぁ」
好きなライトノベルがアニメ化したら嬉しい気持ちになるし、続編が出たらどんな物ができるのか気になる。制作会社が変わったら大丈夫かと心配になる。何もかも懐かしい……。まぁ、今も見てるけど。
私がアニメのことに想いを馳せていると、隣の席に小学生ほどの男の子が座ってきた。私がチラ見するとその男の子は目を逸らす。頬が赤くなっていた。
青春だ……。
気になる女の子を学校外で見つけた時に追いかけたくなるようなやつだ。まぁ、実際追いかけていいのは小学生までだ。それ以上になったら犯罪者扱いになり兼ねない。辛いな……。
「あ、あの!」
「ん?」
話しかけてきた。
これは結構、勇気がいる行動……。
「ど、どこの小学校に通っていますか?」
「……」
私は徐に立ち上がると再度、パンチングマシーンにお金を入れる。
「小学生じゃねぇぇぇぇ!」
「ひぃぃぃ」
怨嗟の言葉を吐き捨てながらぶん殴った。すると、今回は結果がよくて1戦目を突破できた。
********
「沙雪さん、このフィギュア取ってください」
私の怒声を聞いて小学生が撤退した後、花凛の元に向かってみると、指をフィギュアに向けてそう言ってきた。
「この主人公かっこいいですよね。自分の身を顧みずにヒロインを助けるところが。でも、ヒロインの方が問題で素直になればいいのに主人公の前では威張ったりしちゃって、主人公もそれを真に受けちゃって……。でも、なんだかんだ言っても主人公はヒロインを助けて、その行動にヒロインも少しずつ心を開くようになっていって……。けど、ある時ヒロインがやられそうなった時に主人公が身を呈した結果、主人公が亡くなって、ヒロインはそれを受け止められなくて死者蘇生を開始して……」
「ちょっ、ストップ」
「はい、なんでしょうか?」
「壮大な物語過ぎ……」
「すいません、長過ぎでしたね」
それもあったが、花凛が主人公の話をしてた時に憧れるような顔をして言ってたから、少し不満だった。
「あ、やっぱり取らなくていいです」
「いいの?」
「はい。沙雪さんが不満そうにしてましたから」
「してない」
「それに、フィギュアより沙雪さんの気持ちの方が大事ですから」
「っ!」
私は瞬時に花凛から目を逸らした。そして、顔が瞬時に熱くなったのを感じた。次いで、心臓が早鐘を再び打ち始める。
まただ……。
なんで、こんな気持ちになるの?
でも、なんでこんなに辛いの……?
「沙雪さん?」
「!?」
今の姿を花凛に見られたくない。見せたくない。そう思い始めたら自然と私は花凛から離れ……。
「沙雪」
「あ……」
手を掴まれて近くにあったプリクラ機の中に連れて行かれると、花凛は私を包み込むように引き寄せた。この行動にも驚いてるけど、私のことを沙雪と呼び捨てにしてきたことにドキッときた。
「とても辛いですよね?」
なんで知って……。
「私も感じたことがありましたから。高校生の時に」
「な、なんのことだか……」
「沙雪、私はあなたが好きです」
「いや……」
言わないで。それ以上は……。
「私と恋人になって頂けませんか?」
「……」
耐えられそうにない……。
「……よろしくお願いします」
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