朝起きたら女の子になってた。
すけすけになったところ。
「沙雪さんに似てる魚がいますよ」
「人間に似てる魚なんて人面魚以外いなくない?」
「はぁ……先輩はそういう人でしたね」
「呆れられた!」
そんな感じで水族館でのデートが続く中、イルカショーがやるみたいなので会場に向かった。そこには既にたくさんの人で会場が埋まっていた。しかし、前の席は不自然に空いていた。これは、あれだ。
「濡れますね」
「レインコート貸してくれるんだよね?」
「そうなんですか?」
「……調べたりとかしてないんだね」
「してませんよ。本当は麗華もいたのでデートになるとは思っていませんでしたし。だから、ノープランです」
妹の風邪も計算に入れてると思ったが、違ったようなので、その辺りは信頼できそうだ。
「じゃあ、聞いてみようか」
「はい」
私は近くにいたスタッフに尋ねた。どうやら、レインコートは貸してもらえないようだ。だけど、100円で販売されているらしいので購入してから、前の席に座った。
「楽しみですね。沙雪さんがどんな表情するのか見ていますね」
「そこはイルカ見ようね?」
席に座りながらレインコートを着込んだ後、すぐに司会の人の声が拡散されて聞こえてきた。
『お待たせしました〜只今よりイルカショーを開催致します。では、最初は〜長女のニーナちゃんです』
水の中にある柵が開かれてニーナちゃんと呼ばれたイルカが中央まで泳いでくる。
『続きまして、長男のスー君と次男のトイ君です!』
呼ばれたイルカ二匹も中央まで泳いでくる。
『では、挨拶をしてみましょう。まずは長女のニーナちゃん!こ〜んに〜ちわ〜』
「♪〜〜!」
『可愛い挨拶でしたね』
え?ただ、キューキュー言ってるだけで可愛いとは思わなかったけどなぁ……。
『翻訳致します』
なんで今出てきた!?
「さぁ、みんな!私を見てちょうだい!可愛いでしょ!」
誰かさんのせいで台無しだよ……。イルカの言葉が分かっちゃうから居づらいなぁ。
『次は長男のスー君!』
「可愛い子いないか〜?水ぶっかけサービスしちゃうぜ〜?」
ただのおっさんの思考じゃん!お願いだからイルカのイメージを崩してくれるなよ……。
『最後にトイ君!』
「兄さんダメだよ。僕たちのイメージが崩れちゃうから」
まともだなぁ!トイ君、君は気に入ったよ。
『挨拶も終わったところで、早速パフォーマンスをしていただきます。では最初にハイジャンプをして頂きましょう』
「トイ、足手まといになるなよ」
「分かってるよ!」
ざぶんと音を立てて高く飛ぶイルカ。その際に水が跳ねた。
「冷たっ……」
「沙雪さん大丈夫ですか?」
「こっち見なくていいから……イルカ見てください」
でも、結構高く跳んだぞ。かっこいいな。
それからというもののリングを潜るパフォーマンス、トレーナーさんがイルカの背中に乗って早く移動していたり、結構楽しかった。
『それでは最後のパフォーマンスです。イルカさんたち?やっちゃってくださ〜い!』
「おっしゃぁぁぁぁ〜〜!!サービスしちゃうぜ!」
「ちょっと、兄さん。どこ行くの。順に回るんじゃなかった?」
「私より可愛いなんて許せないわ!」
あぁ……なにかの聞き間違いだと嬉しいかな。それと二匹のイルカが真っ先にこっちに向かってくるんだけど……。
「くらえ!」
「水浸しになって恥かいちゃえ!」
間違いじゃなかった!
それに気づいた時にはイルカ二匹の水攻撃が炸裂している頃だった。
「きゃっ、冷たい。ちょっと、待って。プール入ってるんじゃないんだから、うぶっ……」
「……」
花凛さん?あなたも水掛かってますけど、無視なんですか?
「お嬢ちゃん可愛いね。レインコートの隙間からもっと水飛ばしてすけすけにしてあげる」
え?今のイルカじゃなくて、トレーナーさんが言ってたんだが?犯罪だよ!って、思ってるそばから、水鉄砲で容赦なく水を掛けるな!
「ちょっ、水が入ってきた……」
レインコートの隙間から水が入ってきて、シャツが濡れ始めた。カーディガンを着ていなければとっくにアウトだったかもしれない。
『おおっと!なんていうことでしょう。イルカ二匹の攻撃にトレーナーさんによる攻撃でトリプルパンチだぁぁ!』
そこ、解説するところなのか!
「おぉ、嬢ちゃんいい下着着けてるね。可愛いじゃねぇか」
「え?本当じゃん。止めてくれ……」
水を浴び過ぎてシャツがびしょ濡れになってキャミソールが露わになっていた。透け防止で着ているキャミソールもびしょ濡れになってしまったら、ブラも見えてきちゃうからこれ以上はダメだ。それに、スー君のイルカの声が完全におっさんの声で聞こえてくるから本当に厭らしいわ。それとトレーナーさん。あんたはクビだ。
腕を抱えてこれ以上濡れないような格好をすると、隣にいた花凛が動いた。
「もっとだ!もっと……」
「あなたたち?今すぐ止めないと、人生潰すぞ……」
「「「ひぃぃぃ」」」
ゆらりと立ち上がった花凛は恐ろしく冷たい眼差しでイルカ二匹とトレーナーさんを睨みつける。
イルカ二匹は完全にびびったようでペコペコとその場で頭を下げる。それを観客は謝る演技だと思い拍手をする。
「私じゃないでしょ?」
「「は、はい!」」
「それと、トレーナーさん?あなたはクビね。それは覆らないわ」
その言葉にトレーナーさんはその場でへこたれた。人生潰すと脅しておいて本当に潰す辺り、完全に切れているみたいだ。御愁傷様です。
「沙雪さん、着替えの服を買いに行きましょう」
「うん。いこう」
そういう私も今の花凛には逆らえない。びしょ濡れになった服を着替えたいからね……。
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