朝起きたら女の子になってた。

スライム3世

地味っ子とのデート



私が女の子として生きていくと決めた数日後の休日。

家から近い最寄駅にある待ち合わせ広場にて、ある人を待っていた。因みに今日のコーデは水色のストライプシャツに白色のプリーツスカート。上着は肌色の生地が薄めなロングカーディガン。9月中旬頃はまだ暑いので涼しげな格好である。スカートにはポケットが付いてないので、カーディガンで補っているのもある。我ながら可愛くできたものだ。

「まだか〜」

人を待っていると、複数の視線を感じる。これは私が女の子になってから、少しは感じていたものだ。でも、女の子として生きていくと決めた日からは、それがより顕著になった。

こんな偽物なんかより、可愛い人なんてそこら辺にいるのになぁ……

そう思っていた矢先、私を呼ぶ声が聞こえた。

「ごめんなさい。待ちました?」

声が聞こえた方に視線を向けると、明らかにレベルが違う、美人な方がおられました。って、相手はあの……

「待ったぞ、地味っ子」

麗華の姉でもあり、地味っ子でもあった後輩の花凛なのだから。


**********


「夢みたいです。沙雪さんとこうして遊べるなんて」

微笑んでくる花凛は恐ろしく可愛い。これが美人の特権というものなのだろうか?ちょっと悔しい。でも、この可愛さは私の為に磨いてきたと知っているから何とも言えない。そして、私と花凛は身長差があるので周りからは友人ではなく別の関係に見えるのではないだろうか?まぁ、それよりも……。

「よく、話す相手によって口調が変わるよな」

さっきナンパに話し掛けられたのだが、ゴミを見る様な目で『気持ち悪い。どこかに消えなさい』と言って底冷えする目付きをして追い払ってくれた。本当、あの地味っ子だとは思えない変わり様だ……。

「そんなの当たり前じゃないですか。デートの時間を邪魔されるなんて許せません。それと、沙雪さんが下卑た目で見られるのは堪らないです」
「そうですか……」

さっきまでは私一人で待っていたから話し掛けられなかった。いや、違う。話せなかった。自分で思っちゃうのもあれだが、小学生高学年ほどの体型の人を相手にその様な目で話し掛けたらロリコンだし、周囲の人に通報されてブタ箱行きである。あ、なんか悲しくなってきた……。

「それに、私がこの様な口調で沙雪さんと接しているのは、可愛く見て貰いたいからです」
「あ、うん」
「沙雪さんも女の子になって分かったと思いますが、意識して欲しい人には自分の可愛いところを見て欲しいって思いませんか?」
「まぁ、少しは思わなくもない。そして、それを本人の目の前で言える地味っ子には感服だな」
「そうですか?ありがとうございます」
「いや、褒めてないんだけど……」

今日の地味っ子はグイグイくるな……。まぁ、そんな感じで少々不安なデートが始まった。

「あの、沙雪さん?て、手を握ってもいいですか?」
「う、うん」

急にしおらしくなった花凛にドキッとしながらも、私は手を花凛に差し出した。


**********


私が花凛に手を差し出すと、絡め取られる様に恋人繋ぎをされて電車で移動する。その間、一度も恋人繋ぎを解除してくれなかったから、手汗がやばかった。それに加えて身長差があるので、周りからは姉妹みたいに見られているのだろうか?

「着きましたよ」
「水族館か……」

前は何年前に行ったかな。結構前だから、覚えてないな。そんな事を考えながらチケットを買うためにチケットカウンターへと赴く。

「いらっしゃいませ。大人1名と子供1名ですね」
「はい」
「違うだろ!」
「元気ですね」
「そうですよね」
「……」

結局、私は子供料金で入場してしまった。これも地味っ子が訂正しないからだ。

「疑われても知らないからな」
「え?でも、今の沙雪さん小学……中学生ほどの体型ですから、どのみち子供料金ですよね?」
「……」
「それに他の人が知らなくても私は知っています。沙雪さんは私の先輩で初恋の人なんですから」
「ブフッ! いくらなんでも直球過ぎるだろ」
「事実ですから。それにこの気持ちは隠したくないんです」
「そ、そうですか」
「はい。ラノベみたいにいちゃいちゃしたいです」

すいません。この人地味っ子ですよね? 初登場時とえらくキャラが違うんですけど?こんな頭の中がハートだらけの人、知り合いにいた覚えがないんだけど?それに、美人な人がこのような言葉を使っているんですけど大丈夫ですか?

その様な言葉が私の脳内で飛び交っているのを知らずに、花凛は私の手を両手で取って包み込んでくる。

「沙雪さん、私とお付き合いして下さい」
「デートして初っ端から告白する人なんていると思います?」
「ここにいます。それにデートの初めから告白して承諾が貰えれば、その後は緊張などしなくて済みます。堂々といちゃいちゃできます」
「その心は?」
「どちらも緊張します」
「結局、緊張するのか!」
「当たり前じゃないですか!……私は先輩に救われました。1人だった私に、誰にも話し掛けられたくないと思っていた頃の私に無理に話し掛けてきました。最初の頃は嫌でしたけれど、段々と先輩と話すのを楽しみにしていた私がいました。先輩と図書委員の仕事を楽しみにしていた私がいました」

そこで花凛は一度区切ると、私を見て笑った。

「私は男性が大嫌いです。その存在のせいで私は友達と関係を切ることになりました。それは今でも変わりません。でも、先輩は違います。私が唯一、心許せる男性でした。ですが、沙耶さんの件が起きてから先輩とは会えませんでした。私はそれが辛かった。でも、何か困っている事があるのなら力になりたいって思っていました。だから、私は先輩の隣に立つことができる、釣り合う人になる為にここまで頑張ってきたんです。それが振られたらどうです?一瞬で崩れ去るんです。何の為に頑張ってきたんだろうって。そんなの怖いです」

私は思った。釣り合うって言葉が間違ってるんじゃないのかと。こんなに私の為に思い尽くしてくれる人がいるのかと。それと同時に、男だった時の私を含めて思ってくれる人がいるのかと。だから私は……。

「分かった。その告白を受ける。でも、」
「沙雪さん!」
「ちょっ……」

花凛は私の手を引き寄せて腰に手を回して抱きしめてきた。そのせいで花凛の胸の中に顔が吸い込まれた。それに加えて、花凛の今日のコーデは胸元を強調しているドレスっぽい服装なので谷間がダイレクトに私の頬を挟んでくる。それに、花凛の胸は妹である麗華を軽く凌いでいる。これは柔らか過ぎる……。

「大好きです。こちらで式の準備等は用意します。沙雪さんに似合う最高に可愛いウエディングドレスを仕立てるので一緒に幸せになりましょうね」

可愛いウエディングドレスか……。フリルが沢山あしらわれているのかな?花柄でとっても綺麗なドレスなんだろうな〜。ちょっと、いやかなり着てみたいかも……。って、違う!確かに着てみたい気持ちはあるけど、そうじゃない!

私は花凛のお胸様から脱出を図る。

「地味っ子、その告白は受けると言ったけど、お試しという意味だ。いきなり交際って……」
「いきなりじゃないですよ?沙雪さんと再会した時にも言いましたよ?でも、そうですね。まずは沙雪さんには私の事を知って欲しいです。だから、今日は楽しいデートにしましょうね」
「そうだね……」

そうして、私は花凛に再度恋人繋ぎをされてリードされる様に移動を開始した。

そういえば私、どうして地味っ子とデートしてるんだっけ?私は事の経緯を思い出してみることにした。

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