世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

山と海の悲哀7


その後の俺は、暴れに暴れた。
こんなことを想定して持参していたこの世界の肉切り包丁を力強く持ち、まず競売上の前にいた有象無象、女も子供も、果ては貴族らしき奴らを数人斬り殺した。
悲鳴とうめき声で市場はパニックを起こした。

小狡そうな男は、俺が見たときには急いでエリーの身体を部下たちに運ぶように指示していた。
俺はその行動に再び怒りが込みあがると、檀上まで一回の跳躍で上がるとそこで背を向けていた小狡そうな男に向けて包丁を振り下ろす。
男は俺に気が付いて振り向くが時すでに遅く、その頭部を真っ二つにされる。
血をドバドバと流しい、いまだに立っている男を払い、今度はエリーの身体を丁寧に、頑丈そうな箱をもって運ぼうとしている男ども、8人ほどを同じように全員殺した。

悲鳴が続く、遠くへ逃げる足音とこちらへ向かってくる金属の具足の音。
俺はそれを両の耳で聞きながら、箱から落ちて転がる皮を剥がれされた顔、エリーの頭部を拾った。
足元には多くの人間の血が流れている。
俺の身体は返り血で濡れている。

さっき殺した、女子供も壇上の下で倒れている。
俺はそれを見たときには、激しい後悔と裏切りに気が付く。
この光景は、エリーが嫌いなものだ。
人間と分かり合える、エリーは最初に会った時もそう言っていた。
その彼女と一緒に6年もいた俺が、こんな凄惨な事をしでかしてしまった。
でも、俺はそれでも許せなかった。
こんな、いたいけな少女を、殺してまで利用するこの世界の人間に。
そして、何もできなかったこんな俺を。

俺を捕縛するために騎士たちが囲む。
俺は、仕方なしに、肉切り包丁を投げるように捨て、エリーの頭部を優しく置いた。
騎士たちは俺が武器を置いたのと同時に、俺の身体を地面に押し付けた。
これで良い、これで良いんだ。
俺は再びエリーに出会え、そして別れた。
望んでいたものでもなく、最悪の別れでしかないが、俺はもうどうにでもなれと思っていた。
でも、アレを見てすぐにそんな考えはなくなる。

「いやー超痛かったわ…」

俺はそれを聞いた時、押さえつける騎士たちの重みを一瞬忘れた。
汚らしい声、それは聞き覚えのある声だった。
視線を動かすと、先ほど頭部を真っ二つにした小狡そうな男が歩いてこちらへ向かってきていた。その頭にはさっきまでの傷が無かった。無傷なのだ。
有り得ない、さっきので確実に死んでいるはずだ。
俺がそう思いながら、青い顔を見上げるように小狡そうな男に向けると、小狡そうな男は見下すように俺を見てから俺の顔めがけて蹴り始める。

「ぎゃははは!さっきも言ったけど俺はもう不老不死なんだよ!!親分も下っ端どもも全員!!全員なぁ!!そこに転がってるあいつらもそろそろ起き上がるぜぇ!!」

笑いながら、俺の顔を蹴る。
しばらくして、他の下っ端たちも起き上がると俺の元へと向かう。

「テメェよくもやってくれたな」
「ただじゃ殺さねぇぞ」
そう言うと小狡そうな男と共に俺の顔を蹴り始めた。
総勢9人に顔を蹴られる俺。
何故か騎士たちはそれをただじっと見ている。それどころか笑っていた。
しばらくして蹴るのに飽きたのか、男どもは俺に唾を吐いて蹴るのをやめた。
そうして、俺は意識があるのかないのか分からないまま騎士たちに無理やり立たされ、どこかへと連れていかれる。

「エリー…」

俺がいまだに置かれる頭部へ向けてなのか、彼女の名をつぶやいていた。
それを聞いたのか、小狡そうな男は笑いながら俺に言った。

「ぎゃははは!その人魚が言ってたおじさんてのはテメエか!血を抜くときも殺す前にも泣きながらおじさんおじさん言ってたけど、まさかこんなおっさんが助けてくれるのを待ってたのかよ!バカな人魚だぜ!!」

小狡そうな男がそう言うと、部下の男たちも思い出したのか笑いだす。
俺はそれを聞いた時には騎士たちの拘束を解いて、小狡そうな男の上に馬乗りになってボコボコになるまでぶん殴ってやった。
何十人もの騎士たちが止めようとするが、それでも俺は止まらなかった。
意識を失ったのか、小狡そうな男は傷が治っているのに起き上がってこなかった。俺はそれを見届けてから、まるで糸が切れたかのようにその場に倒れてしまった。

俺が再び目を覚ました場所は牢屋の中だった。
腕と足には鎖が付いており、壁に付けられていた。

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