世界を渡る私のストーリー
山と海の悲哀4
いつも通り、月明かりが照らす夜の海辺に俺が歩いて向かう。
何度目の取引か忘れてしまったが、おそらくそれほどの回数なのだろう。
波打ち際まで辿り着くとそこには既にエリーがおり、彼女は海に足をつけながら月を見ていた。その横顔は見慣れていたが、エリーの瞳は月明かりで反射し、彼女の瞳は遠目でも分かるくらい違っていた。
まるで何かを覚悟したかのような、そんな面持ちだ。
いつもとは違うエリーに、俺には何故か声を掛けるのをためらったが、その前にエリーが俺に気づいて話しかけてきた。
「おじさん、こんばんは」
「おう、こんばんは」
「今日の分のお宝そこに置いておいたよ。ちょっと汚れているけど磨けば何とかなりそうなものだと思う」
「そりゃ困ったな、その手間がいらないようなものがもうないってことだしな」
「このあたりのお宝は全部掬ったし、もうここじゃダメかもね」
彼女が笑いながらそう言って汚れた銀貨や銅貨、錆びてしまった宝剣を差し出す。
俺はそれらを手にとってどれほどの値打ちで売れるか鑑定しようとして屈んだ。
しかし、俺がそれらの宝を手に取って鑑定する前に、エリーは俺の首に両手を回して顔を近づけた。
そして…僅かな時間の間俺とエリーは互いの唇を合わせた。
いきなりの事で頭の中が真っ白になるが、俺はエリーの身体を突き放すようにして離れた。
「な、な…!!」
動揺する俺に、エリーは熱にうなされたかのように紅潮した顔で言った。
「おじさん、私おじさんのことが好きなの…」
「何を…」
「私ってばいつも誰かのためになる事をしようとして、いつも失敗していた。国からも追い出されて、人間からも追いかけられて、…でもおじさんは違うよ」
エリーは瞳を濡らしながら俺に言う。
「おじさんだけが私を認めてくれた、こんな関係でも、私の為に居場所をくれた。私が信じられるのはこの大きな海でも魚たちじゃない、おじさんただ一人なの」
「…エリー、お前」
「ここにはもうお宝が無いんだし、一緒に違う場所に移って今度は違うお宝で生計を立てて一緒に生活しよ?私はおじさんがどこかへ行くって言っても絶対に着いて行くよ。たとえ陸地でも、私は絶対に着いて行く。それぐらい本気なの」
そう言ってエリーは俺に這い寄ってきた。
月に照らされたその表情には彼女なりの覚悟も窺えた。
それほど本気なのだということも。
俺はエリーの俺に対する好意に驚いていた。でも、それでも。
俺は彼女が伸ばしてきた手を、払いのけた。
エリーは俺が行ったその拒絶に表情を硬め、目だけで俺の顔を見た。
「……ダメだ、俺とお前はそんな関係にはなれない。お前はまだ子供だ、俺はお前に対してそういう気持ちは持たない」
「…なんで?おじさんだって私のこと好きでしょ!」
「違う、俺はお前を対等な関係の仲だと思っている。そう思っているのはお前だけだ」
「…」
そう言うとエリーの頬から赤みが消え、そのまま瞳から涙をツーッ、と流した。
俺は初めて見るエリーの泣く顔に、心が痛んだ。
でも、これで良いんだ。
いつも一緒にいたから、一緒に言葉を交わしていたからそういう勘違いが生まれたんだ。
俺は人間、エリーは魚の尾をした人魚。
童話『人魚姫』でも、人間と人魚が結ばれることなど無い。
例え、俺がそういった枠組みから外れた人間だとしても、互いに生きる場所が違うのにそんな恋が成就することなどない。
定められているわけでもない、別にそういう設定などない。
それでも俺は彼女と一緒にはなれない。
親子のような関係だと俺が思っていたからだ。
だからこそ、この好意は断らないといけなかった。
何度目の取引か忘れてしまったが、おそらくそれほどの回数なのだろう。
波打ち際まで辿り着くとそこには既にエリーがおり、彼女は海に足をつけながら月を見ていた。その横顔は見慣れていたが、エリーの瞳は月明かりで反射し、彼女の瞳は遠目でも分かるくらい違っていた。
まるで何かを覚悟したかのような、そんな面持ちだ。
いつもとは違うエリーに、俺には何故か声を掛けるのをためらったが、その前にエリーが俺に気づいて話しかけてきた。
「おじさん、こんばんは」
「おう、こんばんは」
「今日の分のお宝そこに置いておいたよ。ちょっと汚れているけど磨けば何とかなりそうなものだと思う」
「そりゃ困ったな、その手間がいらないようなものがもうないってことだしな」
「このあたりのお宝は全部掬ったし、もうここじゃダメかもね」
彼女が笑いながらそう言って汚れた銀貨や銅貨、錆びてしまった宝剣を差し出す。
俺はそれらを手にとってどれほどの値打ちで売れるか鑑定しようとして屈んだ。
しかし、俺がそれらの宝を手に取って鑑定する前に、エリーは俺の首に両手を回して顔を近づけた。
そして…僅かな時間の間俺とエリーは互いの唇を合わせた。
いきなりの事で頭の中が真っ白になるが、俺はエリーの身体を突き放すようにして離れた。
「な、な…!!」
動揺する俺に、エリーは熱にうなされたかのように紅潮した顔で言った。
「おじさん、私おじさんのことが好きなの…」
「何を…」
「私ってばいつも誰かのためになる事をしようとして、いつも失敗していた。国からも追い出されて、人間からも追いかけられて、…でもおじさんは違うよ」
エリーは瞳を濡らしながら俺に言う。
「おじさんだけが私を認めてくれた、こんな関係でも、私の為に居場所をくれた。私が信じられるのはこの大きな海でも魚たちじゃない、おじさんただ一人なの」
「…エリー、お前」
「ここにはもうお宝が無いんだし、一緒に違う場所に移って今度は違うお宝で生計を立てて一緒に生活しよ?私はおじさんがどこかへ行くって言っても絶対に着いて行くよ。たとえ陸地でも、私は絶対に着いて行く。それぐらい本気なの」
そう言ってエリーは俺に這い寄ってきた。
月に照らされたその表情には彼女なりの覚悟も窺えた。
それほど本気なのだということも。
俺はエリーの俺に対する好意に驚いていた。でも、それでも。
俺は彼女が伸ばしてきた手を、払いのけた。
エリーは俺が行ったその拒絶に表情を硬め、目だけで俺の顔を見た。
「……ダメだ、俺とお前はそんな関係にはなれない。お前はまだ子供だ、俺はお前に対してそういう気持ちは持たない」
「…なんで?おじさんだって私のこと好きでしょ!」
「違う、俺はお前を対等な関係の仲だと思っている。そう思っているのはお前だけだ」
「…」
そう言うとエリーの頬から赤みが消え、そのまま瞳から涙をツーッ、と流した。
俺は初めて見るエリーの泣く顔に、心が痛んだ。
でも、これで良いんだ。
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