世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

ある神話の世界4

「とにかく未来の世界にペルノマリアがいるんだ、おそらくあの人間達の力で何とかなるのであろうよ」

デザルマハザルが私にそう言うと、彼女達に顔を向ける。

「人間達よ、まずは手早く自己紹介をしようか。我輩はデザルマハザル、この世界の竜ではないが、ここにいる女神ペルノマリアに呼ばれこの戦いに参加したものだ。今はこの国の兵士たちの指揮を行なっている」

神竜デザルマハザルは彼女達に自己紹介をし、頭を下げる。

「えーっと、私はツヅリです。世界を渡る旅をしています。何か困ったことがあればすぐに聞きますのでよろしくお願いします」

「私はミレーナ…です。天使と人間のハーフで、大抵の敵は殺せます。女神様と神竜様の足を引っ張らぬように善処していく所存です」

「リアンです。あなた達神様の類は大嫌いですが、あの人を探すためにもさっさと闇とやらを殺しにいきたいです。というか、早く行きたいんですが」

順番に黒髪、長い髪の半天使、茶髪の少女といった順に自己紹介をする。
デザルマハザルは彼らの自己紹介を聞き、特に茶髪の少女の敵意が何故か激しいので、極力口を挟むことなく彼らに言う。

「さっきペルノマリア…此奴ではない未来のペルノマリアが言った通り、この世界は我輩でも拭えぬ闇が大地を覆い、最後の砦であるここも時間が残っておらぬ。闇は刻一刻とこの国をも蝕み始めている。事は一刻も争う事態だ。お主ら3人の力を借りてどうにかあの闇を封じたいが、我輩達にはどうすれば良いかわからぬ。何か良い知恵はないか?」

「策ね…うーん、どうしたらいいかな…」

黒髪、ツヅリが考え込む。
それに習ってミレーナもリアンも考え込む。
本来なら私とデザルマハザルが考えなければならないので、恥ずかしい限りだ。
デザルマハザルも同じように思っているだろうに。

「とにかく、壁の外にいるって言う魔獣にどんな攻撃が有効なのか確かめてからにしようか」

「そうだな、策はその後に考えようか」

「ですね」

3人はそう言うと集まり、ミレーナに2人がしがみつく形になる。
バサリと、翼を広げるミレーナを見て彼らが何をしでかすかすぐに察した。

「ま、待って…!」

「おいお主らまさか…!」

私とデザルマハザルの制止も無視して、ミレーナは半分天使にしては早すぎる速度で空に向かった。
そしてそのまま壁の外へと出てしまう。

「…えーと、これってまずいですよね?」

「むぅ!急いで追い掛けねば!!」

デザルマハザルも立派な翼をはためかせ大きな巨躯を浮かし、そのままゴォっと音を立てて彼らを追う。

「大丈夫かしら…」

何も出来ない私は、1人彼らの帰りを待つ。


あれから1時間が経った。
壁の外からミレーナが2人を抱えて飛んできて私の前に降り立つ。
ツヅリとミレーナには傷などもなく、さっきと同じ綺麗な服装のままだ。特に変わった様子もなく、笑顔で私の前に立つ。
しかし、リアンという少女は全身血塗れだった。

「ど、何処かお怪我を!?重傷ですか!?」

「あぁ…あまり気にしないで下さい。これは全部魔獣の体液で、リアンに怪我はないから安心してください」

ミレーナが丁寧に、むしろ女神である私を敬うかのように話す。
確かにリアンは両の足で立ち、腕も二本ともついている。少し暗い顔なのは怪我を負ったからではなく、不機嫌なだけのようだった。

「お怪我がなくて安心しました…それでデザルマハザルは?」

「今外に人を出して色々と対策講じているよ。結構片付けたから」

「片付けた?まさか…」

「はい、ツヅリが殆どやりましたが、すぐ近くの壁に蔓延っていた魔獣の討伐が完了しました。今デザルマハザル様が奪還した土地に聖域魔法をかけています。効くかどうか分からないと言っていましたが、この調子で闇のところまで攻め入ろうとのことです」

ミレーナの報告を聞き、私は彼女達をもう一度みまわす。
彼女達は人間で、神聖と言ったものを持っているのはミレーナだけだ。
それでも、どうやっても倒せなかった魔獣達を倒した。
どうやったか見ていなかったが分からなかったが、それでも私には一つの希望のように思えた。
ツーっと頰に何かが流れる。
それは私の目から流れている。
涙だ。
嬉しくてなのか、神様なのに涙を流して泣いてしまう。
手で拭うが、それでも溢れてしまう。
ずっと何も出来なかった私にはそんな権利なんてないのに。

「す、すいません…すぐに泣き止みますから、ごめんなさい、神様なのに、ここまで情けないとは…」

顔を背けて、私は止まらない涙を止めようと必死に目を瞑る。
でも、そんな私の肩にツヅリさんは手を置いてきた。
振り返る私に彼女は言う。

「ペルノマリアさん、私はこの世界をついでで救います。この世界のことや未来のあなたとかいろんな事情を無視して助けます。それが大魔王の約束ですからね」

「…えぇ」

「だからこそ、もっと気楽にいきましょう。こんな素晴らしい世界を闇なんかに滅ぼさないためにも」

彼女は腕を広げる。

「ペルノマリアさんは気付いてます?ここはどの世界よりも優しいって事に」

「優しいですか…?」

「はい、だって色んな種族がいるのにいがみ合う事なく協力し合っているんですよ。私が渡ってきた世界のほとんどは憎しみあって殺しあってるんですから」

それは知っている。
他の世界では種族同士の争いがどうしても起きてしまう。
この世界も闇が生まれる前はそうだ、お互いに壁を作って理解し合うのを拒んでいた。
姿形で判別したりするのが種族というものだ。
私も互いに協力しあって繁栄して欲しいと思っている。
だが、それはどの神でも解決出来ないし、人々に委ねなければならない問題だった。
皮肉にもそれは共通の敵を作る事によって解決してしまった。そう、今はいいが共通の敵が消えたら彼らは互いに憎しみ合うだろう。

「そんな事ない、この世界も前は憎しみあってばかりいたんだから…」

でも、ツヅリは。

「それが正しいんです、だからこそです。今この国いる彼らが今後も手を取り合って世界を良くすすかもしれない、その未来があるからペルノマリアさんがいた。未来のペルノマリアさんは過去の自分にこの世界を守るように託したんです。きっと未来もここにいる人たちのように協力し合っているはずです」

「そのようなものでしょうか?」

「そのようなものですよ、女神が今を生きる人々を信じなかったら何を信じるんですか?」

「…」

「世の中の理なんていくつも体験した私からのアドバイスです。あなたの信じる考えを信じてください」

ツヅリは言い終わると私の顔を見てにこりと笑う。
その顔にはなんの嘘偽りがない。
私は涙を拭って彼女に答える。

「…ありがとうツヅリ、私頑張るわ!」

私は力強く言うと、デザルマハザルがいる壁の方に向かって歩く。
私でも神様で、それもこの世界の管理を任されたものだ。
魔獣に神聖が効かずとも、それなりの結界を作っておくことが出来るだろう。
私はただ後ろで怯えるだけの私ではない。

前に向かうとこの時決めた。

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